もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第200話 「黒星の者」

「う、うう…私は”吉弔”という者…地上に住む…博麗霊夢という者の助けを…」

 

吉弔というらしい女は掠れたような声でそう呟いた。

それを聞いた時、シロナは衝撃を受けた。この人は今、自分の母親の名前、博麗霊夢と言ったか?それに、助けが欲しいだって?

 

「シロナ…」

 

とその時、勇儀が後ろからシロナに呼びかけた。その顔は普段の自信に満ちた顔ではなく、何かに怯えて不安に駆られているような表情だった。

 

「ちょっと不味いことになったかもしれん…そいつを連れて私のうちへ行こう」

 

 

 

シロナ達は吉弔の傷を手当てをしてやり、落ち着いたところで話を聞くことにした。

 

「どうもありがとう…私の名前は吉弔八千慧…畜生界という場所にある組織のリーダーです。地上に博麗霊夢という名のとても強い人間が住んでいるはずなのですが…」

 

八千慧はそう言った。

 

「なぁ、お前さん…申し訳ないがな、霊夢は5年以上も昔に死んじまってるんだ」

 

「…そうですか」

 

八千慧は少し残念そうにそう言うと、話を続ける。

 

「畜生界という場所は知っていますか?」

 

「もちろん知ってるさ…地獄行きすら生温いとされるあの世のゴミみたいな連中が蔓延ってて、落とされた人間の魂を奴隷としていいように使ってる、その名の通り畜生どもの巣窟だろ」

 

勇儀がそう返答した。

 

「ひどい言われようですが、まあいいでしょう…その畜生界にはそこを牛耳る3つの勢力が存在し、それぞれが拮抗してバランスを保っています。私はその勢力のひとつ、鬼傑組の組長でもあります。そして、我々三勢力の首領…この私、吉弔と勁牙組の”驪駒”、強欲同盟の”饕餮”は畜生界の地中から出土したパワーストーンを3つに分割し、それを持つことでそれぞれの組織は絶大な力を維持していました」

 

それを聞いた勇儀と萃香が何かに気付いたようにハッとして顔を見合わせたが、八千慧の話を続けて聞く。

 

「ですが、最近の事です…饕餮の持っていたパワーストーンが突然目覚め、私と驪駒のもつ残りふたつを狙ってきたのです。私の鬼傑組と驪駒の頸牙組も必死に戦いましたが、驪駒のパワーストーンも奪われ、残ったのは私のストーンだけ…。ですが、まだパワーが完全ではないヤツはそこから動けず分身を作って私を追うのが限界。今も畜生界では饕餮と驪駒がヤツと戦っているでしょう。ですが、私でもあの二匹でもヤツには歯が立たない…そこで、その時とても強いと感じた博麗霊夢に助けを求めたのですが…」

 

「なるほど…自分らの不注意で、とんでもない力を持つ石の3つのうち2つが合体しちまって手に負えなくなったと…だから地上の助けが借りたいと…」

 

勇儀はそう呟いた。

 

「お前さん、その石がどういうもんだか…分かって持ってたのかい?」

 

萃香が続けざまに言う。

 

「お前らがパワーストーンだというそれはな…600年くらい昔にこの幻想郷へ現れて暴虐の限りを尽くした悪どい野郎が、力を失って変化した石ころだ」

 

「今思い出しても、情けないが震えがくるようだよ…」

 

「時にシロナよ、何故我々のような鬼が、幻想郷や妖怪の山を捨てて地底に移り住んだのかは知っているか?」

 

「ええっと…確か、面白半分に鬼を討伐するような人間に嫌気がさして…」

 

「その通りだ、確かにその理由で正しい。しかしな、我々が地底へ移り住んだ目的はもうひとつ存在するのだ」

 

 

600年も前、幻想郷を突如としてとんでもなく邪悪な怪物が襲った。ヤツは黒い球体の姿に青い星型の模様が描かれた姿をしていたので、我々はヤツを「黒星の者」と呼んだ。

黒星の者は、一説によれば人間たちが石と火を使って狩りをしていたような時代に呪術で造り上げられた兵器であるらしく、黒い炎を吐き、身も凍るような邪気を放ち、戦った者の力と技を吸収して際限なく強くなり続けるという恐ろしい能力を持っていた。

黒星の者は強力で、私たち鬼や山の妖怪は力を合わせてヤツと闘い続けた。そして7日間にも続いた激戦の末、妖怪たちはなんとか黒星の者を無力化し、地底のさらに地中深くへ封じることに成功した…。

 

 

「黒星の者が封じられている地底世界に住まう事で、監視と共にヤツが目覚めるのを防ごうとしたんだ」

 

「封じた…?ってことは、倒すことはできなかったの?」

 

シロナがそう聞いた。

 

「ああ、なにせ黒星の者は正真正銘の不死身なんだ。どうやっても殺せない。だが、唯一ヤツの力を削ぐことができる弱点が存在した。それが酒さ、ヤツはアルコール成分に異常に弱く、酒気を浴びただけで行動が不能になる」

 

「じゃあ、それが長い年月の果てにその畜生界って場所に流れ着いて、吉弔さん達が見つけたってわけ?」

 

「おそらくそうだろうな…この地底世界は旧地獄とも呼ばれ、新地獄ともどこかで繋がっているかもしれない。その新地獄に隣接する畜生界にもいつの間にか流れた可能性はある」

 

「ところで勇儀、確かにこの私、伊吹萃香もあの時は戦った。だがその結末は知らないんだ、戦いの途中で再起不能になっちまったからな」

 

「巨大な石でできた酒樽を”超神酒”と呼ばれる酒で満たし、その中にヤツを沈めたんだ。そしたらヤツは石ころみたいに小さくなって、以後ピクリとも動かなくなったんだ」

 

「超神酒って、前に父ちゃんと勇儀が話してたやつだよね?確か、五行山って場所で作れるっていう…」

 

「その通り。あの酒は当時の私と仲間の鬼たち3人ほどで作ったんだ。私以外の二人は最終決戦の時に死んじまったがな…。だがもう今は超神酒を作ることはできない。だから、何とかしてヤツが畜生界から出てしまう前に倒してしまわなければならない!」

 

「黒星の者は長年封じられた怒りでさらに力が増していることだろう…心しなくては」

 

「そういう事ならさっさと行きましょうか、畜生界へ!」

 

シロナと勇儀は立ち上がり、でかける準備を始める。しかし、その様子を見ていた八千慧が口をはさんだ。

 

「失礼ですが、貴方たちにあのパワーストーン…いえ、黒星の者をどうにかできるとは思えません。もちろん私でもそうですが…やはり、あの時の霊夢という巫女ほどのパワーが無ければ」

 

「はっはっは!安心しなよ、何せあのシロナは霊夢の子供だからな。もしかすれば、シロナだったらやってくれるかもしれん」

 

「面白そうだナ…どおれ、いっちょワタシも行ってみるカ」

 

と、スカーも名乗りを上げる。

 

「私はここで吉弔の様子を見てるよ。だが手が欲しいならいつでも呼んどくれ、600年前の借りを返したいのは私も同じだからね」

 

「畜生界へ行くのであれば、ここを北へ向かいなさい。そうすれば私が通って来た、黒星の者によって開けられた畜生界とここを繋ぐ出入り口があるはずです」

 

萃香と吉弔はこの勇儀の屋敷に残り、シロナとスカー、そして勇儀は、復活した強大な古代の生物兵器、「黒星の者」を倒すためにさっそく畜生界へと乗り込もうとするのだった。

 

 

 

「見えた、あれが吉弔さんの言っていた畜生界への入り口ね!?」

 

シロナたちは地底世界の北の果てに、何もない空間に集まった黒い雷が重なっているような穴を発見した。3人はさっそくそこへ近寄り、中へ入ろうとする。

 

「…あれ…なんか変だぞ…」

 

しかし、勇儀はぼそりとそう呟いた。自分は穴の方へ向かって飛んでいるのに、ちっとも前へ進んで行かない。それどころか、自分は少しずつ後ろへ下がっている!

 

「うわあああああ!!」

 

「オ、オマエらどうしたんダ!?」

 

勇儀だけでなくシロナにもそれは訪れており、ふたりは背後から引き寄せられる力に負けてその方向へ飛ばされてしまう。そして、どうやらそれは岩の絶壁の下にある、注連縄が巻かれた巨大な岩から発せられている引力のようだった。

勇儀はその岩壁に引き寄せられるがまま激突し、シロナも同様に岩にめり込んでしまう。

 

「な、なによこれ…」

 

引力は強力で、どんなに離れようと力を込めても腕を上げる事すらできない。

 

「これはまさか…『地獄の門』とやらか…!」

 

勇儀がそう言った。

 

「地獄の門…?」

 

「ここは旧地獄…新たに造られた現在の地獄とどこかで繋がっているのではという噂があったが…こんな場所にその地獄へと続く門があったとはな…。聞く話では命あるものを絶対に抗えない引力で吸い込み、地獄へと送り込んで死者へと変えちまうんだと…この大岩は誰かがその門を封じるために置いたんだな」

 

よく見ると、この岩壁や、岩の近くの地面には吸い込まれまいと必死の抵抗をした妖怪の爪跡が深く残されている。

 

「命ある者…ってことは、スカーが全く影響を受けていないのは当然ね…」

 

地獄の門の引力に成す術もなかったシロナと勇儀だが、全身が無機物で構成される人造人間であるスカーだけは全く地獄の門の影響がかかっていない様子だ。

 

「…チッ、面倒クセェな…オラッ!」

 

スカーは手に持っていた左腕を投げて岩に突き刺し、額から発生させた特大の電撃をその左腕に向けて落として見せた。すると、左腕に帯びた電気は波紋状に広がっていく。

 

「お、おお?」

 

すると、シロナと勇儀の体を縛っていた引力が弱まっていく。

 

「ワタシの電磁波で一時的に引力をかき消しタ!今のうちに行くヨ!」

 

スカーはシロナと勇儀を片手で掴んで抱えると、さっき見えた畜生界への入口へ向けて猛スピードで飛んでいく。岩に刺さったままの左腕は独りでに動いて抜けると、スカーに追いついてその背中におさまる。

…想定外の一難もあったが、3人は黒星の者が復活したという畜生界へと乗り込むことに成功したのだった。

 

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