もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第205話 「威波離」

「では最初のキヨヒロが霊力を作って送り出すので、身体が弱いと思う方はキヨヒロの方へ、強い方は最後尾の私の方へ!」

 

シロナはそう言いながら妖怪たちを誘導し、どんどんと列を作っていく。霊力を備えているキヨヒロを先頭に、最後尾のシロナまで100メートル近くに及ぶ長蛇の列が組まれている。

キヨヒロの次に魔理沙が並び、シロナの前に勇儀と萃香が配置され、その全員が互いに手を繋いでいる。

 

「手が離れたらお終いです、しっかりと握っていてちょうだい。じゃあキヨヒロ、はじめて!」

 

「ああ、わかったぜ…」

 

キヨヒロがそう言うと、彼は体内の霊力を魔理沙の方へ送り出す。

 

「おっ…!」

 

「何かが体ん中を通っていく…」

 

「き、きた…!」

 

霊力は列を作る妖怪たちの体内を通過し、最後のシロナへとたどり着き、じわじわとその力がシロナに溜めこまれていく。

 

「よおし、イイ感じイイ感じ…!」

 

 

 

その頃、キヨヒロに諭された靄子であったが、路地裏の隅に座り込みながら、妖怪たちが『威波離』を開始した声を聴いていた。

 

(こわい…こわい…こわい…!)

 

あんなことしたって、どうせ皆殺されるんだ…あの黒星の者という恐ろしい存在によって…。

なんでなのよ…なんで何もしていないのに、私だけ…。

 

──わかんねぇのさ。いろんな不幸がなして自分におこるのかなんて、誰にもわからんのよ。

 

──でも、僕はちゃあんと自分ってもんを好きになれたぜ。

 

「いい…なぁ…」

 

(いいなぁ…)

 

靄子の服の袖に、ポツポツと涙の染みが広がっていく。

 

 

 

「あっちじゃ始まったみたいだナ」

 

「そのようですね」

 

スカーとケミカルロマンスは、吉弔の姿に変じた黒星の者の吐く火炎をかいくぐりながらそう言った。彼女らが今戦っている場所は旧都を離れた荒野で、この先をずっと行けば地獄の門があった場所がある。

 

「んじゃやるヨ!ヤツをシロナと地獄の門の直線状へ吹っ飛ばしてやる!!」

 

「言われなくてもやってやります、キヨヒロのために!」

 

向かってくるふたりを黒星の者は迎え撃つ。地面に手を突き、そこにあった巨大な岩石を持ち上げて宙へ投げる。そして口からエネルギー弾を飛ばして岩石に当ててそれを砕き、破片を雹のように降らせる。

 

「うおおおッ、あっチ!」

 

黒く燃えるアツアツの石に触れたスカーの体から煙が上がり、少し焦げた。その一瞬に気を取られた瞬間、スカーの目の前に黒星の者が放った大きな腕によるパンチが迫る。しかし、それをケミカルロマンスが割って入り、拳に拳をぶつけて受け止めた。

そこから輪っかのような衝撃波が広がり、両者は反発してそれぞれ逆の方向に後ずさる。

 

「喰らいナ…!!」

 

スカーは黒星の者へ向かって特大の電撃を放ち、その態勢を大きく崩させた。そして、今度はその懐へもぐりこみ、手に持った左腕を思いきり振るって雷を纏わせた打撃を喰らわせた。

 

「ガオ…オオオオッ…!!」

 

黒星の者の巨体が浮き上がり、大きく後退していく。その時、丁度シロナが放とうとしている威波離と地獄の門を結ぶ線の間に、黒星の者は押しのけられた。

 

「今だアアアアアアッ!!」

 

ケミカルロマンスは猛烈な勢いで周囲の地面を殴りまくり、巨大な柱のような結晶を無数に出現させ、黒星の者の周囲を囲う檻のように組み合わせてしまう。

 

「よっしゃあア、今だシロナ!やれェ!!」

 

スカーは空に向かって一筋の稲妻を光らせた。

 

 

「上がった!合図だ!」

 

「よおおおし、霊力も十分に溜まったよ!」

 

シロナは胸の前へ向けた両掌に、赤い霊力の渦を作り出してどんどんと大きくしていく。それと対応して列を作る妖怪たちの体内を巡る霊力も強くなり、顔に苦悶の色が浮かぶようになる。

 

 

…しかし、黒星の者は笑った。

 

「ヤハリ…オマエタチデハ…我ニハ勝テヌ!!」

 

次の瞬間、黒星の者は全身から赤黒い雷を四方八方へ向けて放出した。周囲の結晶の柱を砕き、雷が着弾した箇所からは黒い結晶の柱が伸び始めた。

 

「コイツ…まさか、ワタシらの能力を自分の物にしたのかヨ…!!」

 

…その間にも、結晶の檻を破壊した黒星の者は威波離の軌道上から離れてしまう。全身から雷を放ち結晶を発生させながら、口からは特大の火炎を吐き出しながら、怒りをむき出しにしてスカーとケミカルロマンスに向かう。

 

「ダメです、手が付けられない!」

 

「チイイイイィ…!!」

 

だが、その時だった。スカーたちの背後から何か緑色の巨大な何かが現れ、暴走する黒星の者に体当たりを仕掛けた。黒星の者は咄嗟の出来事に対応できず、ずるずると後ろへ下がっていく。

 

「アイツは…吉弔か!」

 

幻獣の姿へ変身した八千慧が黒星の者に突撃していたのだ。雷に焼かれ結晶に貫かれようとも、口から炎を吐きながら全力で黒星の者とぶつかり合う。

 

 

黒星の者が発した雷は離れた場所の旧都にまで落ちてきていた。そのうちの何発かは、最悪な事に威波離を放とうとしている妖怪の列のすぐ近くにぶつかったのだ。

 

「うわあっ!!」

 

赤黒い落雷は地面を捲り上げ、強烈な光と風を発する。妖怪たちの列は揺らいで崩れてしまい、破壊された建物の尖った木の残骸がシロナの足に深く突き刺さった。

 

「ぐう…!」

 

「しまった…!」

 

衝撃によって数人の妖怪が吹き飛ばされ、そこで列が途切れた。シロナに送られていた威波離を放つための霊力も供給を断たれ、みるみる小さくなってしまう。

 

「萃香、勇儀!手を伸ばして!」

 

萃香と勇儀が何とかして列を補強し腕を伸ばすが、シロナの手には届かない。

 

「ダメだ…!どうしてもあとひとり分…足りない…!!」

 

「誰か…誰か頼む!!」

 

ガシ…

 

しかし、間に割り込んだ誰かがシロナの手を握り、勇儀の腕を掴んだ。靄子だった。

その瞬間、靄子の体内を膨大な霊力が流れ出し、ついに威波離は完成された!

 

「よっしゃあああ、いくわよ!博麗降魔捨法…『威波離』ィ!!」

 

シロナは両手に溜めていた霊力の塊を柱状にして一気に解き放った。

一直線に飛んでいく威波離は見事黒星の者に命中し、それを地獄の門へ向けて押していく。本来ならば威波離は優に敵を呑み込んで消し去るか、敵を貫けるほどの威力を持っているのだが、外部からの衝撃を全て跳ね返す能力を持つ黒星の者だからこそ、身体を貫通せずに押されてしまうのだ。

 

「ウ…オオオオオオ…!!コノヨウナ、クダラヌモノタチニ…コノ黒星ノ者ト呼バルル我ガ…!」

 

やがて引きずられるようにして移動していく黒星の者は、地獄の門を封じている巨大な注連縄の巻かれた岩石に背中が激突した。その衝撃で岩は粉々に崩れ、解放された地獄の門から生者を吸い込もうとする風が吹く。

 

「ガアア…!!」

 

黒星の者は両手足の爪を地面と岩壁に食い込ませ、吸い込まれまいと踏ん張る。しかし、鋭く強靭すぎる吉弔の爪はもがけばもがくほど門の穴の縁を崩してしまい、穴は広がってしまう。

その抵抗も虚しく、黒星の者は地獄の門に跡形もなく吸い込まれた。その瞬間、門があった岩壁が崩壊し、土と岩が地獄の門の穴を完全にふさぐと、黒星の者との戦いは終結した。死ぬまでもなく直接地獄へと送られ閉じ込められた黒星の者がこの先どうなったのかは、誰にもわからない…。

 

 

無事に作戦が成功したと伝えられた妖怪たちは、その場で轟音のような歓声を上げた。長年にわたって恐怖を植え続けた黒星の者がついに地獄へ送られた、その奇跡と感動に打ち震えている。

 

「はは、ボロボロじゃない…靄子さん、だっけ?」

 

シロナはひとり呆然としている靄子にそう話しかけた。その服は全体的に破れたり焦げたりしてボロボロだった。無理もない、霊力が最も強く流れる場所へひとりで入ったのだ。

 

「貴方こそ…」

 

「あ、ほんとだ!ふふふふ…」

 

ふたりは少しだけ笑い合った。

 

「ね、こうやってよ」

 

シロナが手を上げると、靄子も真似して手を上げる。シロナはそんな靄子の手を叩き、ハイタッチを交わす。

 

「やったわよね、私たち!いぇい!」

 

──やったわよね、私たち!いぇい!…

 

ありが…とう、みんな…。私はやっと、ようやく…

 

「自分が好きになれそうです…!」

 

 

 

─────────

 

 

「もう帰っちまうのかい?もう少しゆっくりしてけばいいのに」

 

地上へ帰る日がやって来たシロナ達に、勇儀はそう言葉をかける。

 

「ふふふ、本当はそうしたいけど、私がこっちにいる間にどうやら仕事の依頼が溜まっちゃってるらしいのよ。また来るね」

 

旧都を後にしようとするシロナとスカー、魔理沙とキヨヒロの見送りにはあの時戦いに参加した数多くの妖怪たちが見えていた。その中にはあの靄子の姿もあった。

 

「しかし、キヨヒロとやら!お前は若いのになかなか骨のあるいい男だったぞ」

 

萃香がそう言うと、キヨヒロはフッと小さく笑いながらシロナのあとをついていく。

 

「別に私についてこなくてもいいのよ?貴方を自由にするって言う条件で協力してもらったんだから」

 

「いや、いいのさ。僕にとってここは妖怪臭すぎるし、何より僕の居場所はあの石と鉄の部屋だけだ」

 

その時、誰かがタッタッと走りながらキヨヒロに近づいていった。

キヨヒロがそれに気付いて振り向いた瞬間、靄子がキヨヒロの唇にキスをした。

 

「そんなことはないです…いつでも、待ってますから…」

 

「お…」

 

赤くなるキヨヒロを見て、シロナが指をさして冷やかしの声をかける。

 

「ヒュー!よかったじゃんキヨヒロー!」

 

「どうかしましたかキヨヒロ、心拍数とアドレナリンが急上昇しています。何か妖怪と戦いましたか?」

 

ケミカルロマンスまでもが姿を現してそう言った。

 

「う、うっせ───!!」

 

 

 

 

かくして、眠りから目覚めた黒星の者による危機を脱したシロナ達。地底世界から地上へと抜けだした彼女らは、これからも次なる敵と戦い続けるだろう。

 

…きっと、その命が尽きるまで…

 

 

 

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