もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第208話 「キングクリムゾン」

「うう…」

 

魔理沙は、白いベッドの上で目を覚ました。ガバッと起き上がって辺りを見渡すと、ここはどうやら病室のような部屋の中だった。横にもベッドが連なって置かれているが、レミリアやパチュリー、咲夜は床に座ってまとまっていた。

 

「やっと目を覚ましたようね」

 

レミリアが魔理沙を見てからかうようにそう言った。

 

「ああ…良い目覚めだ」

 

魔理沙は皮肉を返すように言うと、ベッドから降りてレミリアたちのそばに座る。

 

「ここはどこだ?」

 

「さぁ?さっき私たちを連れ去った奴らは、『ヴァンパイア王国』とか言ってたから…」

 

と、パチュリー。

 

「ヴァンパイアと言えば吸血鬼…といえばレミリアだが…」

 

「残念だけれど、私は何も知らないわ。ヴァンパイア王国なんて初耳だし、行った事もないわ。私は生まれてこのかた紅魔館で育ってるのよ」

 

ガチャリ…

 

その時、部屋のドアが開いた。全員が警戒しながらふりかえると、そこに立っていたのは白衣を纏った女医…であった。パーマをかけたようなボサボサの茶色い髪の毛に、眼鏡をかけていて、その奥の青い瞳がまるで鷹や鷲を思わせるようにこちらを見ていた。

 

「あら…ごめんなさいね、ゴルゴンさんに言われて様子を見に来たのですけれど…」

 

だが、すぐに人のよさそうな表情でニコッと笑った。

 

「誰だ、お前は?」

 

「私はこのヴァンパイア王国で医者と研究者を兼任している人間です。皆は私をDr.オートと呼びますわ」

 

ドクター・オートと名乗ったその女医。

 

「なぁお前さん、ところでヴァンパイア王国ってのはこの場所の事か?」

 

魔理沙がそう疑問を切り出した。これは魔理沙だけではなく、パチュリーと咲夜、そしてレミリアでさえも気になっていた疑問だった。

 

「ええ、そうです。ここはヴァンパイア王国…その名の通り、吸血鬼たちが暮らす吸血鬼のための国です。本来ここは特殊な結界のような役割を持つ赤い霧で覆われていて、人間に知られてはいません」

 

「初耳ね…吸血鬼が暮らす国があったなんて。私の両親はそんなこと一度も話さなかったし」

 

レミリアでさえもヴァンパイア王国の存在は知らなかった。

 

「お前さんは何故人間なのにこの王国にいるんだ?」

 

と、魔理沙がオートに質問した。

 

「それは単純な事ですよ、このヴァンパイア王国では医学が発達途上なのですよ。建築業やコンピュータ科学等は人間の国と同様に成長しておりますが、何せヴァンパイアは大抵の病や怪我などは自分で治癒できますからね。ですが想定外の病や未知の奇病などにかかった場合はどうしても人間の医者の手が必要なのです。なので、ここには私のように暮らしている人間も多くいるんですよ」

 

「そうなのか…」

 

その時、どこかからか低い女性の声が轟いた。魔理沙たちは周囲を見渡すが、声は四方八方から響いているようにも聞こえている。

 

「キサマ、用が済んだなら早く下がれ」

 

そう声が聞こえると、壁の一部が紫色の靄に包まれて歪んだ。するとそこからヌッと人影が現れる。

その姿は先ほど紅魔館を襲撃し、彼女らを連れ去ったゴルゴン・ツェペシュという吸血鬼本人であった。闇のような黒髪をなびかせ、紫色の水晶のような瞳が彼女らを見据える。

 

「これは申し訳ありません…」

 

オートはそう言いながら頭を下げるが、ゴルゴンはツカツカと靴の音を鳴らしながらズイッと近寄る。そして自分の手を舐めて唾液を付けるとその手でオートの顔を撫でくった。

 

「出ていけ。キサマに頼んだことはこの者らの様子を見てくることだ、会話を許した覚えはない」

 

オートはちょっとムッとした顔をするが、すぐにそそくさと部屋を出た。

 

「ヤな奴だな、お前」

 

魔理沙がそう声を漏らすが、ゴルゴンはそれを無視して振り返る。

 

「目覚めのようだな。首もくっついてくれてよかったじゃないか、レミリア・スカーレット」

 

「何故私たちをここへ連れてきたのか、理由を言いなさい…ゴルゴン・ツェペシュとやら」

 

レミリアは立ち上がり、頭一つ分ほど背の高いゴルゴンとにらみ合う。

 

「レミリアよ…キサマはあまり父親に似てないな…やはりあの女との子供か」

 

「何ですって?」

 

「だが!悪いが理由をまだ言う訳には行かない!私の配下と試合を行い、力を示して見せろ!!」

 

ゴルゴンはそう高らかに叫びながら指をパチンと鳴らした。するとその瞬間、その場にいた全員の視界が揺らぎ、一瞬だけ全ての五感が消え去ったような感覚に陥った。

だがすぐに気が付くと、自分らがいる場所はさきほどまでの病室のような部屋ではなく、まるで古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる周囲を観客席付きの壁に囲まれたすり鉢型の空間だった。空には夜のとばりが降りていて、満天の星空と赤い霧の影響で真紅に染まった満月が輝いていた。

 

「ここは…?」

 

「ここは王国にある闘技場!」

 

ゴルゴンが巨大な翼で羽ばたきながら闘技場の塔の頂上に降り立った。

 

「我が信頼する部下ふたりが超能力でキサマらをここへ移動させた」

 

彼女の両隣には、先ほど紅魔館を襲撃してきた執事の男と金髪のメイドが静かに浮かんでこちらを見下ろしていた。

 

「このふたりとキサマらのうちふたりが順番に戦い、力を示すがいい」

 

「なぜそんなことをせにゃいけないんだ!」

 

魔理沙がそう反抗の声を荒げた瞬間、自分の被っていた帽子のツバにいつに間にかナイフが突き刺さっていた。魔理沙は驚いて上を見上げたその時…

 

ブ…ン…

 

ゴルゴンに仕える金髪のメイドが目の前に突然現れた。

 

「初めまして、私はゴルゴン様に御付きのサーモスという者…私は貴女に試合を申し出ますわ」

 

今、ほとんど戦闘能力を持たない魔理沙は参ったな…とでもいうように唇をかみしめた。しかしその瞬間、1本のナイフがサーモスの頭へと素早く飛んできた。が、サーモスはそれを指でつまむようにして掴み、その方向を見た。

 

「いいえ。貴女の相手はこの私、十六夜咲夜が務めさせていただきます」

 

サーモスは薄く笑いながらも、指先だけでナイフをパキンとへし折った。

 

「では、私の相手は君かな、魔女の貴女」

 

タキシードの男はパチュリーに対してそう言った。

 

「自己紹介しよう…私はツーナス。あそこにいるサーモスと共に、父娘でゴルゴン様に仕えている者」

 

「なによ…やるっていうの?」

 

「もちろん」

 

ツーナスはそう言った瞬間、不意打ちの如くパチュリーは空中に展開した魔法陣から特大の火柱を放った。それはツーナスに命中し、そのまま彼を呑み込んで遥か彼方まで筋のように伸びていった。

 

「私は、娘のような能力や貴女のような魔法の類は使えない…だからこそ私は己の肉体を武器に戦う!」

 

炎が過ぎ去った後、上半身の服は焼けてなくなってしまい素肌が露わになったツーナスが何事もなかったかのように立っていた。今まで小太りに見えていたが、実際それは分厚い筋肉の鎧であった。

 

「極限にまで鍛え上げたパワーは魔法にも勝るという事をお見せしましょう」

 

そして、残されたレミリアは親玉であるゴルゴンと対峙していた。ゴルゴンは依然変わらない圧倒的な妖気を煙のように纏いながらレミリアに近寄る。

 

「さて、残った我々も始めようか。キサマを仲間はずれにはさせん」

 

「…そろそろ教えてはくれないかしら?何の為に私をここへ連れてきた?何故両親の事を知っている?」

 

「それも、私に勝てば教えてやる」

 

「やるしかないようね…」

 

レミリアは手に紫色の光の槍を作り出し、ゴルゴンへ向けて構える。

 

 

一方、戦闘を開始した咲夜とサーモスは両手に持ったナイフとナイフ同士をぶつけ、じりじりと鍔迫り合いを繰り広げていた。しかし、単純な力比べはサーモスの方が強く、咲夜は彼女に上からナイフを突き立てられて潰れてしまう寸前だった。

 

「どうしたの?アナタも吸血鬼に仕える人間だというなら、もっと張り合いを見せなさいな」

 

「くっ…!」

 

ナイフがガリガリと削れる音を立て、どんなに咲夜が力を出そうと上から押し込んでくるサーモスのパワーを押し返すことができないでいた。

 

(やむを得ない…こうなれば時間を操って抜け出す!)

 

カチ…

 

その時、突然周囲が無音になり、動きが止まった。相手をしていたサーモスや、周囲に居たパチュリーやツーナス、レミリアやゴルゴンたちでさえも動きがピタリと静止していた。

 

「危なかった…。しかし、こうするしかない」

 

咲夜は服の内側やスカートの中に忍ばせていたナイフを十本ほど取り出し、それをサーモスに向かって投げつけた。ナイフたちはサーモスの顔と首、胸に刺さる寸前の位置で止まった。

 

「あのまま組み合っていたら私がやられていた」

 

咲夜は自身が所持している懐中時計を確認したあと、指をパチンと鳴らすと、周囲は再び動き出す。サーモスに刺さる手前で停止していたナイフも、だ。しかし、サーモスの目は咲夜が時間の停止を解除する前からずっと咲夜を見ていた。

 

ブ…ン…

 

「…なっ!?」

 

一瞬だけ、咲夜は何かがプツンと途切れたような違和感を感じた。そして、サーモスは両手に握ったナイフを咲夜の胸と首に突き立てていたのだ。

咲夜は間一髪、しゃがんで回避しようとするがナイフの切っ先が肩から腕へと背中にかけて流れた。服ごと切り裂かれた箇所から血が流れだし、咲夜は前転をして距離を取る。

 

「よく避けたな…お互いに時間に干渉する能力を持っているからか、若干の違和感で気付くことができるらしい」

 

「なんですって…?」

 

咲夜は先ほどまでサーモスがいた場所を見ると、自分が投げた10本のナイフは全て刃がおられた状態でその場の地面の上に落ちていた。

 

「これは恐らくだが…咲夜、アナタの能力は『時間を加減速させる能力』…かしら?」

 

咲夜は能力を看破されても顔色一つ変えない。

 

「アナタが能力を使用し、解除する直前…私は突然自分の目の前に無数のナイフが迫ってきたことに驚いた。一瞬、もしや時間を止めているのではないかと思ったけど、それは違う…何故なら私にはナイフが『動いて』、『迫った』ように見えたからだ。止めているのならば、私が気付ける道理はない」

 

「ご名答。貴方の仰る通り、私の能力は時間の加減速です。ですが、私も貴方の能力に気が付きました」

 

「ほう…?」

 

「私も、貴方は時間を停めて私に接近し、ナイフを向けたのかと思いました。ですが、それは違う…。私が能力を解除してから貴方が私に近づいてナイフで攻撃し、私がそれを避けて離れるまで1秒もかかっていない。だけれど、私が貴方に放ったナイフは全てが折られて既に地面に落ちていた。ナイフが貴方を狙って静止した位置からこの硬い石の地面に落ちれば、このような音がする」

 

カーン…

 

咲夜は実際にナイフを地面に落として見せた。

 

「これが10本もあれば、いつも自分が愛用しているナイフだ…音に気付かないわけがない。でも音はしなかった」

 

「…だから、どうした?」

 

「いえいえ…私が能力を解除する直前、私は時計を見た。そしてその後貴方が私に近づいた時、時計は既に10数秒経っていた。ですから、ただ貴方の能力はもしかしたら『時間を消し飛ばす』能力なのかしら…と思ってね」

 

「…正解だ。私は時間を最大で10秒間、消し飛ばすことができる」

 

ブン…

 

「このようにな」

 

瞬間的に移動したようにも見えるサーモスは咲夜の足元にナイフを突き刺した。咲夜は反撃としてナイフの束を投げ飛ばす。

 

「ぐっ…!ならば私も…!」

 

咲夜も負けじと能力を発動し、極限にまで減速した時間を作り出した。追撃を行おうとしていたサーモスは咲夜から見れば物凄くゆっくり、ひいては止まっているように見え、咲夜はこの間に態勢を整えようとした。

 

「そうはさせないよ、十六夜咲夜」

 

「え?」

 

なんと、サーモスは咲夜が操っている時間の中で自在に動いているのだ。

 

「そんな…!」

 

「あはははは!どうやら私はアナタが操作している時間の中に入門できるようだ!そして私は、アナタが命乞いをする暇も与えない!!」

 

ブン…!

 

サーモスは『時間を消し飛ばす』能力を発動し、飛ばしている時の中で自在に動く。それは同時に咲夜が発動していた『時間の減速』を強制解除することと同じで、サーモスが能力を使っている間は咲夜の意識は無く、既に決められたこれから起こる運命の動きを行っているに過ぎない。

 

「ふふふ…アナタが私の消し去った時の中へ入門してくるにはまだまだ時間がいるようだな…これも単純な精神力が未熟なゆえか」

 

サーモスは自分で噛み切った指から流れる血を飛ばし、咲夜の目にかける。咲夜はそれを認識できるはずもなく、次の攻撃の構えへと移った。

 

「なるほど…次のアナタの動きは分かった。再び時間を認識できるようになった瞬間が…最後よ!」

 

「あなたのね」

 

「ぐ…ッ!?」

 

能力を解除した瞬間、咲夜のその声が聞こえると同時に、サーモスの胸に痛みが走った。何か冷たいものが胸に当たっている感触がし、その直後に熱さが込み上げる。

 

「な、なんですってェ…!」

 

サーモスが自分の胸元を見ると、なんと昨夜のナイフが3本も胸に根元まで突き刺さっていた。血が垂れて地面に溜まってゆく。

 

「時間を消し飛ばす…その時の中を自由に動けるという能力…。しかし、その中では貴方は他人に触れることができない。違うかしら?」

 

「…!」

 

サーモスは図星を突かれたように顔をしかめる。

 

「もしも触れる事が出来たら、とっくに消した時間の中で私に攻撃を加えているはずでしょう?貴方が私に攻撃を仕掛けてくるのは毎回時間を消し飛ばした後にすぐでしたもの。だから私は、一度ナイフを投げてから時間を減速した…貴方に気付かれないようにゆっくりと、貴方の体内と重なる位置に飛ぶように」

 

「そ、そうか…!そのタイミングで私が能力を解除したから…!ナイフは私の体内へ埋め込まれたのか…!アナタはそこまで計算していたとでも…いうのか…」

 

「計算?していませんわ、そんなこと…これは全て運命。私は運に任せただけですわ」

 

「信じ…られない…」

 

サーモスはゆっくりとその場に倒れ込み、気絶し、そのまま動かなくなった。

 

 

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