もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第212話 「スカーレットの呪い」

「兄さん…兄さん…ヴラド兄さん!」

 

「ん…ふあ~ぁ…なんだいゴルゴン」

 

城の庭にある木の根元で横たわって眠る兄の肩を揺らしながら、ゴルゴンはそう呼びかけた。目を覚ましたヴラドは眠い目をこすりながら上半身を起こした。

ヴラドはペペロン女王の息子であり長男で、いずれは女王に変わって国王となる男だ。ペペロン女王の子供たちは、ペペロン女王がヴァンパイア王国を創った時の年齢よりも歳上の外見へ成長することができない。これは国の礎たる女王を越えてはいけないからだ。ゴルゴンもその例にもれず、人間でいうところの15歳ほどの少女の姿で成長が止まってしまっている。しかし、この長男のヴラドだけは限りなく王国建国時のペペロン女王に近い姿を留めており、人間でいえば二十歳前後に見えるだろう。

 

「なんだいじゃない。母上がお呼びだ」

 

「そうかい、んじゃあ僕がここにいたって事は黙っててくれよ」

 

ブラドはそう言うと王室がある塔とは別の方向へ歩き出す。

 

「…また、スカーレット家の娘に会いに行くのか」

 

だが、そう言われたヴラドは足を止める。

 

「いけないのかい?」

 

「あまりよくはないはずだ。兄さんには近々、妃候補の何名かの女性と顔を合わせる予定だろう。どの者も由緒正しき家の令嬢で、純血のヴァンパイア…」

 

「関係ないね。いいとこ出のお嬢様だとか、血が濃いだとか…それにみんな知らない娘だ、そんな者に僕の一生を任せられるもんか」

 

「兄さん…」

 

 

 

「なんですって?スカーレットの娘が、ヴラドとの子供を身ごもった?」

 

王室にて仕事をしていたペペロン女王は、驚いた様子でそう言った。

 

「ヴラドは前々からあの娘とは仲が良かったからですね…本人たちはどうすると?」

 

「このまま、婚約を結びたいと…」

 

と、ゴルゴンは言った。

 

「それは困りますね…王位を継承するヴラドには純血のヴァンパイアとの子供を作ってもらわなければなりません。彼とスカーレットの娘には気の毒ですが、彼は別の者と婚約して貰わなければなりません」

 

「だったら、スカーレットはどうなるんだよ?」

 

「…ヴラド」

 

ヴラドは部屋のドアからひょっこりと姿を現した。ペペロン女王とゴルゴンの会話を全部聞いていたらしい。

彼はゆっくりと歩み寄り、ゴルゴンを強引に押しのけて女王に詰め寄った。

 

「別にどうにもなりません。ただ、貴方との今後一切の接触は禁じますが」

 

「子供は…!お腹の中の子供はどうなるんだ?まさか、あの娘ひとりで育てさせろっていうのか?」

 

「そうなります」

 

「ッ…!そんなことさせられるか!オレの子供だぞ!」

 

「知っています。ですが、貴方がいけないのですよ…貴方が勝手に、雑種の娘などと関係を持つから…」

 

「…今、何て言った?」

 

女王は、しまったと言うようにヴラドを顔を見上げた。

 

「あの娘がどれだけ人間の血が入ってようが、関係ないだろ!!何が雑種だ…そんな事、関係ねぇだろうがァ~~!!」

 

ヴラドは拳を振り上げ、ペペロン女王に殴りかかった。

しかし、次の瞬間にヴラドの体は宙を舞い、床にたたきつけられた。何事かと思いながらすぐに起き上がろうとするが、強力な力で後ろから組み伏せられて動けない。

 

「ゴ、ゴルゴン…離せ…!離さないとお前も…」

 

「無理だ。これまで大した鍛錬もしてこなかった兄さんでは私には絶対に勝てない」

 

「ク…クソ…」

 

…それから、ヴラドがスカーレットの娘と共に王国から消えるまで、三日とかからなかった。

 

 

 

───────

────

──

 

「さぁ、早く家の中に戻ろうジェーン。体に障るぞ…────とレミリアもご飯を食べよう」

 

「そうね、あなた…」

 

ヴラドは穏やかな丘の上に立つ家の庭で、幼いレミリアを抱いた妻のジェーンにそう言った。ヴラドは王国を出てから、王家の名前であるツェペシュ姓を捨て、ジェーンのスカーレット姓を名乗っている。

 

「お父さん、お帰りなさ…」

 

部屋でひとりで遊んでいた────は、持っていたおもちゃを置いて両親にかけよる。しかし、父と母は────に少しも目をくれずにレミリアを食卓の席に座らせる。

一家は食事を始める。────は不慣れな様子ではあるがスプーンを使ってスープを飲み、レミリアは母のジェーンに食べさせてもらっている。それを見ていた────は、ふと口の中に嫌いな食感と風味が漂ってきたのを感じた。────の苦手な野菜が入っていたのだ。

これを別の皿に避けて残してしまおうかと葛藤していると、スープを食べさせてもらっていたレミリアがぐずり出した。

 

「おや、レミリアはこれが嫌いらしい。仕方がないから僕が食べてあげよう」

 

それを見た────も、嫌いな野菜を別の皿に移そうとした。

 

「こら!お前はもうお姉ちゃんなんだから食べなくちゃだめだろ」

 

「…はい、ごめんなさい…」

 

 

別の日、────がお気に入りの人形のおもちゃで遊んでいると、まだ立てるようになったばかりのレミリアが横から近寄って来た。────のおもちゃに興味を持ち、持ち去ろうとする。

 

「だ、だめ!それは私のだから…」

 

ほんのちょっと強めに言葉を発しただけで、レミリアは顔を梅干しのようにしわくちゃにして大声で泣き出した。

それを聞きつけた両親が慌ててやってきて、────の頬を叩いた。

 

「あなたはお姉ちゃんなんだから、少しくらいレミリアに遊ばせてやらなきゃだめじゃないの!」

 

「泣かなくていいんだよ、レミリア…ほら、お姉ちゃんが貸してくれるって」

 

────がいいよと言う前に父は人形をレミリアに手渡した。レミリアは満足そうに泣き止むと、両親は再び別の部屋へ行ってしまう。その瞬間、レミリアはその人形を力いっぱい机に叩いて、頭部をもいで壊してしまった。

 

「わ、私のなのに…」

 

今のレミリア同様に両親からの愛を受け、大切に…言い方を変えれば甘やかされてこれまでの100年余りの時を生きてきた────の溜まった負の念が爆発するのは、時間の問題だった。

 

 

「────!!何故こんな事をする!?それを置いてこっちに来るんだ!」

 

ヴラドは泣きわめくレミリアを匿うように抱きながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる────に対してそう言った。────の全身は血に濡れており、その手には同じく血みどろの大きな斧が握られていた。

────の後ろに見える家の開け放たれたドアの向こうにはもう動かないジェーンが倒れている。

 

「お父さんが、それを言うのか?」

 

「な、なに…!?」

 

「分からないなら、死んでもいいよ…私は、好きな物を食べて、好きなもので遊んで生きるから…」

 

「ま、待っ──!!」

 

ザクッ

 

その時、────の背中に包丁が突き刺さった。ヴラドはそれが飛んできた方向を見ると、そこには辛うじて立ち上がっていたジェーンの姿があった。その時の体勢からして、力を振り絞って包丁を投げたのだろう。

胸を貫かれた────は驚いてその場で千鳥足になってフラフラと歩き出す。ヴラドはジェーンがどうしても心配になり、────の真横を通って彼女の元へ急いだ。しかし、────の振るった斧が肩に深く突き刺さった。

 

「う…ぐう…!!」

 

しかし、それにも構わずに走り、息もわずかなジェーンを抱きとめた。

 

「あなた…」

 

「もう大丈夫だよ、ジェーン…。私も、これで死ぬ…だが、残されたレミリアをひとりにするわけにはいかない」

 

ヴラドとジェーンは手を握り合うと、その手と手の間に静電気のように迸る魔力が立ち込めていく。

 

「僕たちの最期の魔力で呪いをかける…あの狂気の娘が、私たちの愛するレミリアに二度と関われなくなる呪いだ」

 

────の足元に紋章のような光の筋が現れ、その光は────の身体の周りに絡みついていく。それとは逆に両親の体は魔力を失って渇いていくかのようにしぼんでいく。

 

「だが、レミリアをひとりぼっちで寂しい思いをさせるわけにはいかない…家族を、妹をひとり残そう…」

 

「うわああああああああ!!」

 

自分の名前すら失い、レミリアを初めとしたスカーレットの名を冠する吸血鬼と二度と会い交える事ができないように呪いをかけられたスカーレットは、一瞬にしてこの世界のどこかへと強制的に移動させられてしまった。

…そこには、まだ幼いレミリアだけが残された。レミリアは半壊した家の中でいなくなった両親を探す。しかし、いくら瓦礫を退かしても両親は見つからない。

 

「かくれんぼしてるの…?…あ…」

 

だが、その時発見した。両親がいつも眠っていたベッドの上に、白いシーツに体をくるまれた赤ん坊が置かれているのを。

 

──その子の名前はフランドール。お前が寂しくないように、その子を私たちだと思って…ヴラド、ジェーン・スカーレット。

 

 

 

 

 

「チィイイイイ!!」

 

「ハハハハハハハ…!」

 

緑色の雷で創った巨大な斧、「ライエムドアクス」を手にしてペペロン女王に挑みかかるスカーレット。斧を振るって女王をぶった切ろうと攻撃するが、女王は容易に一撃を受け止め、躱す。たとえ、少しだけ斧の切っ先を掠らせることで女王の体を切り裂こうとも、瞬時にその傷は回復されて元通りになってしまう。

スカーレットはスタミナの消耗も感じてきたが、女王は未だ無尽蔵の体力により少しも消耗していない。

 

「…!しまっ…!」

 

ほんの一瞬、スカーレットの集中力が途切れた隙を狙ったペペロン女王の一撃がスカーレットに命中した。スカーレットは吹っ飛んで壁に叩きつけられる。

 

「あはははは!いいわよ化け物!その調子で他の連中もやっつけなさい!」

 

「グガガ…!」

 

ペペロン女王は針のような牙を剥き出しながらレミリア達に向き直る。

 

「やるしかないわね…!『アグニシャイン』!!」

 

パチュリーがレミリアを庇おうと、前方に出現させた魔法陣から特大の火柱を放出した。女王の体にその炎がもろに直撃するが、女王は両目から念力を衝撃波にして撃ち、パチュリーの魔法の炎をはじき返した。

 

「無駄よ!やりなさい女王!」

 

オートがそう言うと、ペペロン女王は一瞬にしてパチュリーとの距離を詰め、彼女を蹴り飛ばそうと足を後ろへ振り上げた。

パチュリーもまずい、と思ったが常軌を逸した女王のスピードを前にして頭では避けようと思っていても、体が反応できなかった。

しかしその時、レミリアが咄嗟にペペロン女王の足を抱きつくようにして抑えこんだ。

 

「レミリア…!」

 

が、それも空しく、パチュリーは間一髪でその場から逃れられたものの、レミリアは前へ出される女王の足にしがみついたまま空中へ放り上げられ、虫けらのように平手ではらわれた。

飛ばされたレミリアは魔理沙の上に覆いかぶさり、何とかダメージは免れた。

 

「いてて…」

 

「わ、悪いわね…。あの女王、戦い始めた時よりも強くなってる…!ゴルゴンの言った順応能力が積み重なっているのか…」

 

「さーて、もう歯向かってくるお馬鹿さんはいないのかしら?」

 

オートは周囲を見渡しながらそう言った。レミリアたちも皆ダウンしており、ゴルゴンたちも女王から受けたダメージが蓄積されて立つこともできない状態だった。

 

「だったらペペロン女王、こいつらにトドメを刺してやりなさい」

 

女王は命令を受け、するどい爪を伸ばした腕を振り上げる。

 

「…ちょっと待ちなさい。…誰か、ここに近づいてきてるわね」

 

何かがやってくる気配を敏感に感じ取ったドクターオートは、ペペロン女王の攻撃をその場で止めさせた。

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