「どうして魔理沙の髪は金色なの?」
シロナは夕食を食べている最中、ふと魔理沙にそう問いかけた。魔理沙は食事の手を止めて自分の髪に触りながら答える。
「…遥か大昔、私たちを造った神のような存在がいたそうな。ソイツは考えた…色んな見た目の奴がいた方が面白いってな。髪が黒い奴、黄色い奴。肌の色が黒い奴、白い奴…という具合にだな」
「え?そうなの?」
「それは冗談だ。真面目に話すと、魔法使いってのはランクに応じて髪の色が違うんだよ。まず魔法の素質が開花して赤髪、初めてれっきとした魔法使いとなって金髪、そして人間を辞めた本物の魔女になると紫色になる」
「へぇ~!」
「パチュリーを見てみろ、日常生活のほとんどを魔法に頼ってるような魔女だから髪の毛があんなに紫なんだ。聖白蓮ていうのが命蓮寺にいるだろ?アイツだって半分は人間じゃない魔女ってことだ」
「私も金髪になってみたいな~!金髪の魔法使いにも憧れちゃうな~」
「なんでだ?髪が紫のほうがより強い魔法使いって事なんだぞ?」
「だって魔理沙と同じだもん!魔理沙みたいな綺麗な金髪ってステキでしょ?」
「…ふふふっ、ああそうだな…。でもよ、お前のお父さんも最後には金髪になったらしいぞ」
「ほんと?」
「さぁてな、聞いた話ではな…」
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「フランちゃん、ここはどこなの?」
要石によって飛行し、レミリア達を攫ったゴルゴンの気配を追ってヴァンパイア王国までやってきたシロナとフランドール。フランドールの能力を借りれば、王国を外界と分断している結界もくぐることができた。
頭上には赤い霧によって真っ赤に見える巨大な満月と、眼下には高い建物が立ち並ぶ広大な城下町が展開されていた。
「分かんない…!でも、ここまで沢山の吸血鬼の”目”は見た事ない…」
フランドールは生まれて初めて感じる大量の同族の気配に興奮し、同時に怯えてもいた。
「そう…じゃああの大きな城が怪しいわね!レミリアさんたちを攫ったヤツの気はあそこから感じる!」
(でも、それ以外に感じるこのどデカい気は一体…?」
「お姉ちゃん、危ない!!」
その時、考え事をしていたシロナの目の前に魔力の光弾が飛んできた。シロナは要石を急停止させて何とかかわし、それを放ったと思われる数人の集団へ目を向けた。
「なによ、貴方たち…」
その集団はひとりひとりが背中に巨大なコウモリのような翼を持って空を飛び、血走った眼を闇夜に輝かせて白い牙を剥き出している。
「もしかして…吸血鬼の人ですか?だったらよかった、この場所についていろいろと聞きたいんですが…」
「シャアアアアア!!」
シロナがそう言いかけた瞬間、目の前の吸血鬼たちは一斉にシロナ達に襲い掛かった。シロナは彼らが自分らに対して敵意を持っていると判断した瞬間、襲い掛かる吸血鬼を順番に殴り飛ばした。
口から血を吐きながら吹っ飛ばされる吸血鬼だが、みるみるうちにその傷を回復し、余裕の笑みを浮かべてシロナを見据えた。
「うそ…」
そして、狼狽えるシロナにもう一度攻撃を仕掛ける。
ゴロゴロ… ビシャッ
「ギャアアアアアアア…!!」
しかし、その時だった。突然空から一筋の光が走って来たかと思うと、それは吸血鬼たちに命中した。落雷が直撃した敵たちは全身が黒こげになってしまう。
「…スカー!ついてきてたの!?」
「あったり前だロ?お前が慌ててどこかに行くから、ワタシに殺されるのを恐ろしがって逃げたんじゃないのかと思ってヨ」
スカーは何もない空間からスーッとその姿を現す。
雷撃を受けた吸血鬼たちは早くもその傷をいやしており、今度はスカーに敵意を向けて唸りながらじりじりと迫ってくる。
「シロナ、オマエは魔理沙や他の連中を助けに来たんだよナ?だったら今のうちに急げヨ!!」
「うん…ありがとうスカー!いくよフランちゃん!」
「…ちょっと待ちなさい。…誰か、ここに近づいてきてるわね」
何かがやってくる気配を敏感に感じ取ったドクターオートは、ペペロン女王の攻撃をその場で止めさせた。
女王は腕を振り下ろす途中の体勢のままピタリと静止する。もう体力を使い果たしてしまったゴルゴンやレミリアたちは、何故オートが女王の攻撃を止めたのか疑問に思う。
「なんで止めた…?」
「今、誰かがここに近づいてきてるって言ってたわ…」
オートは耳をすますと、かすかに聞こえていた何かがぶつかるような音がだんだんと接近してきているのに気が付いた。そしてその次の瞬間、今彼女らがいた議事堂の壁が突破され、何か小さな人影が踵を床に凄まじい勢いでこすりながらやって来て停止した。その姿を見た魔理沙やパチュリーはホッとしたような安堵の顔を浮かべる。
「シロナ!!」
「お待たせみんな…助けに来たよ。敵は誰?」
「よく来てくれたなシロナ!お前がいれば、あんなヤツら簡単に倒せるよな?」
魔理沙はそう言いながらペペロン女王とドクターオートを指差した。
「ええ、もちろん。何せ今の私は…すっごい怒ってるんだから」
シロナは腰に巻いたサイヤ人の尻尾を解き、激しく揺らしながら女王とオートの方へ向かってゆっくりと歩き出す。
「お姉さま!」
「フラン!あなたまでここに来たの?」
レミリアに駆け寄って来たフランを見て、レミリアがそう言った。ふたりはひしと抱きしめ合う。
「そうだよ、シロナちゃんと一緒にみんなを助けに来たのよ」
「おいレミリア…その子は誰だ?」
と、フランを初めて見たゴルゴンは立ち上がりながらそう尋ねた。その目にはフランの持つ色とりどりの結晶が吊るされたような翼が大きく映る。
「言ってなかったわね、この子は私の妹よ」
「妹…」
ゴルゴンは壁に叩きつけられたまま気を失っているスカーレットとレミリア、そしてフランを順番に見渡した。そして、その後にペペロン女王に戦いを挑もうとしているシロナを見る。
「あの者ではだめだ…女王が相手では3秒が限界だろう」
ゴルゴンはそう言うが、シロナの闘志は消えない。
「いつまでボケっとしてるの!はやくあのガキを倒しなさい!」
オートのその命令を受けた女王は再び動き出し、不気味に笑みを浮かべながらシロナに目を向ける。ビキビキと音を鳴らしながら手の爪を強張らせ、背中の翼を目いっぱいに広げる。
「やれ!化け物!!」
「ゴアアアアアア!!」
女王は叫びながら思い切り腕をシロナに向けて振り下ろした。
「終わった…」
そう言いながら一撃で戦いが決まる様子を想像し目を背けるゴルゴンだが、いつまでたってもシロナを叩き潰す音は聞こえてこない。目を開けて様子を見ると、なんとシロナは女王の一撃を両手で受け止めていた。ゴルゴンにとって信じられるはずが無かった。吸血鬼ではない種族のあんな子供が、女王に比べれば小さすぎる体であの攻撃を止めるなど…
「言わなかった?私は今…チョー怒ってんのよ!!」
シロナの黒髪が静電気を帯びたように逆立ち、全身にほんのりと赤いオーラを纏い、その瞳は黄色く変色する。そして次の瞬間、シロナは思い切り跳躍し、そのまま女王の顔面に渾身の頭突きを喰らわせた。
「ピギャアアアアアア…!!」
女王は甲高い悲鳴を上げながら両手で顔を覆い、よろよろと後ろへ下がる。だが、指と指との隙間から、シロナが自分の顔の前に飛び上がって拳を振りかぶっているのを見ると、慌てて反撃のパンチを放つ。
しかし、シロナはそれを避けつつその腕を掴み、蹴りを女王の顔面にヒットさせた。
「ギイイイイ…!!」
女王も負けじと蹴りを繰り出す。今度はそれを喰らってしまうシロナだが、上手く受け身を取りながら床に着地し、再び女王へと挑みかかる。両者は熾烈な肉弾による攻防戦を繰り広げ始めた。
「な、なんでだ…何故、あのような子供がペペロン女王と渡り合えるのだ?」
ゴルゴンは目の前で行われている戦闘を見ながらそう呟いた。
「アイツはな、シロナだ…サイヤ人のカカロットと、博麗の巫女の霊夢の子供だからだよ」
と、魔理沙が返した。
シロナのパンチが女王の鳩尾に深くめり込み、女王は唾を吐き出しながら腹を押さえてその場でうずくまる。
「アガガガ…」
「どうしたのよペペロン女王!立ちなさい、立って戦いなさい!」
しかし、女王は苦しんだまま動かない。
「やっちまえシロナ───ッ!!」
「ウラウラウラウラウラ…」
シロナは女王に対して必殺の拳の連打を撃ち込む。
…だが、不意にパンチが女王まで届かなくなった。その代わりに吹き出す血液が女王の顔に大量にかかり、女王は長い舌を伸ばしてその血を舐めとる。
「…え?」
シロナは血の流れる元まで目で辿る。すると、自分の右腕の肘から先が無くなっていた。
何が起こったのか、理解できなかった。次の瞬間には女王の大きな手がシロナの頭部を掴んでおり、そのまま空中へ放り投げられたシロナは強力な力で床まで叩きつけられた。何が何だかわからないまま、さらに女王は足を振り上げ、シロナの体を一思いに踏み潰した。
静まり返った議事堂に響くバキッという音、女王の足の下から流れてくる血。そして…女王の口の端からぶら下がるシロナの右腕。
「うそ…だろ…」
皆が絶望する中、女王は見せつけるかのように咥えた腕を口に流し込み、コリコリと音を立て乍ら咀嚼するとそれを呑み込み、真っ赤に汚した口を大きく開いて正しく悪魔のような笑い声を放つ。
「ゲゲ…ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…!!」
──博麗の巫女、到着す…