もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第214話 「王の器」

「ゲゲ…ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…!!」

 

ペペロン女王は笑いながら足を退かす。そして滅茶苦茶になったシロナを拾い上げ、それをレミリアや魔理沙たちの方へ投げ捨てる。

 

「ひ、ひでぇ…」

 

魔理沙はすぐにシロナに駆け寄る。

 

「…死んだな。そうなっては生きてはいないだろう」

 

ゴルゴンも残念そうにそう言った。魔理沙は眼に涙を溜めながら、既に脈も息もないシロナを抱きしめた。あまりにも呆気なさすぎる。幻想郷では数多の妖怪を倒し、人間を救ってきたシロナがこうもあっさりと破れてしまうとは…

 

「…ちょっと待って」

 

同じくシロナの身体に触れていたパチュリーも、かすれた声でそう言った。

 

「まだシロナは生きてるわよ!」

 

「え…?」

 

「まだほんの少しだけ生命エネルギーが残ってる…そしてそれは尽きかけじゃなくてもっと増えようと、生きようともがいてる動きなのよ!!」

 

「本当か…!だ、だったら…」

 

「ええ、やることはひとつよ、魔理沙…!この子を、死なせたくない!」

 

パチュリーと魔理沙はシロナを抱きかかえ、議事堂を後にしようとする。

それを見ていたゴルゴンは、パチュリーらの前に素早く回り、通せんぼをする。

 

「な、なんだよ!邪魔するのか?」

 

魔理沙がそう言うが、その時、なんとゴルゴンは自分の右腕を自分で斬りおとし、魔理沙に文字通り”手渡し”た。

 

「ひ、ひえええっ、何してんだお前…ッ!」

 

「その子の治療に使うといい。我が吸血鬼の血があれば生存の確率はぐっと高まるだろう」

 

「でも、あなたは…?」

 

「心配ない、吸血鬼は不死身だ…すぐに生えてくる。それとこの者にも手当てが必要だろう?」

 

ゴルゴンは全身にナイフが突き刺さったまま気を失っていた咲夜を魔理沙に背負わせた。

 

「さぁ、医療棟の手術台へ急げ!」

 

「ありがとう!」

 

魔理沙たちを見送ったゴルゴンは気を取り直し、女王の元へ戻る。女王はなおも狂ったように笑い続け、誰もがその狂気に圧されて手を出せないでいた。

 

「女王は真の力を隠していたようだ…どうやらあのシロナという子の接近をかなり早い段階で察知していたらしい」

 

「真の力って…今まででも十分すぎる魔力だったのに…」

 

と、レミリアが言った。

 

「いくらドクターオートの操り人形になろうとも、女王の計略高さと戦闘の才能はそのままらしいな…」

 

「んじゃあどうやってヤツを倒すんだよ?」

 

復活したスカーレットがそう言った。

 

「…方法はある。スカーレット、そしてレミリアとフランドール…君たちがいればな」

 

「私たちが…」

 

「いれば?」

 

「そうだ。スカーレット、貴方はこの王国…いや、全世界に存在する吸血鬼の中で最も王に相応しいヴァンパイアだ。この私よりもな…。本来王位を継承するはずだったヴラド兄さんの長女だから…その王の器に足りるスカーレットであれば、姉妹のレミリアとフランドールを取り込むことで真の王へと覚醒し、ペペロン女王を上回るパワーを手に入れられるだろう」

 

「何ですって…?それは本当なの?」

 

「この状態で嘘をつくものか…。本来であればヴラド兄さんが王位を継承する際には、私を含めた兄妹たちを吸収する手はずだったのだ」

 

「確かに、私は昔から潜在的に『レミリアを吸収できればより強く進化できる』という事は意識にあった…しかしな、私は両親の呪いの所為でレミリアやフランドールとは絶対に融合できんのだよ」

 

そう言いながら、スカーレットは服の裾を捲って未だに大きな風穴がぽっかりと空いている腹を見せた。

 

「…なんだと?」

 

十年以上前、スカーレットが初めて紅魔館に攻め入った際、カカロットに追いつめられたスカーレットはレミリアを吸収し同化することでパワーアップしようとした。しかし、「二度とスカーレット家の吸血鬼と相容れる事はできない」という両親の呪いの所為で吸収は失敗し、その隙を突かれて敗北したのだ。

 

「残念だけど、その案は不採用ね」

 

「…いいや、不採用と決め込むのは早い。ペペロン女王の血を飲むのだ」

 

「ペペロン女王の血を…?」

 

「そうだ。我々ヴァンパイアは、魔獣化したチスイコウモリがペペロン女王の血を飲んだことによって生まれた種族であるとされている。つまり、我々にはペペロン女王の血液を好む原始の本能が存在し、その血は吸血鬼にとって非常に有益なものであるはずだ。それも、女王より格下の者が課した呪い程度であれば楽に打ち消してしまえる程にな…」

 

「だがどうやって女王の血を吸うんだよ?女王を倒したいのに、そのためにゃ女王の血が必要ってのはおかしくないか?」

 

「例えば、あの女王の左腕を見ろ。手首から先が無いだろう。では、その手の部分はどこにある?」

 

「あ!まだ十字架の台に置いてあるんだ!」

 

「その通り。どうにかしてそれを手に入れることができれば…」

 

 

 

一方その頃、城の医務等、その手術室へ訪れた魔理沙とパチュリー。台へシロナを乗せ、隣の台にも咲夜を寝かせる。

 

「咲夜はナイフの摘出と止血…痛み止めを打っておけばよし。問題はシロナよ…ほとんどの内臓が破裂、全身複雑骨折に失血状態では、いくら辛うじて生きているとはいえ普通の手術なんかじゃ何もできないわ…。私の魔力を生命エネルギーとして与え、治癒させるしかない…」

 

「それじゃあお前のエネルギーが無くなっちまうだろ…」

 

「別に平気よ、人の子ひとりを蘇生させるのに必要な魔力なんてたかが知れてるわ。それに、全てが終わった時にシロナにはかっこいい武勇伝を語れるじゃない?」

 

「パチュリー…。よっし、この魔理沙様も手伝ってやる!」

 

 

 

「あはははは、やはりすごいわねペペロン女王!アンタは無敵のヴァンパイアよ!これなら私の野望も簡単に叶えられるわ!」

 

オートは女王がシロナを倒す際に発揮した圧倒的なパワーに酔いしれていた。だが、その興奮も再び目の前に立ちはだかるゴルゴンによって消された。

 

「お前の野望とはなんだ?」

 

ゴルゴンが不敵な笑みを浮かべながらオートにそう問いかける。

 

「はぁ?誰が教えるもんですか」

 

「いいではないか…どうせ私もじきに殺される。あの世への土産に話してくれてもいいんじゃないか?これでも10年間共にやってきた仲じゃないか」

 

(オートと女王の注意を何とかして引き付ける…その間にスカーレットは女王の背後の十字架に置いてある手首の血を吸うのだ)

 

「…ふん、まあいいわ。私の野望…それはね、『レッドリボン軍の復活』よ」

 

「レッドリ…何だって?」

 

「レッドリボン軍よ。私はその軍の研究員だったの。でも、もう15年ちかく前になるかしら…ピッコロ大魔王によってレッドリボン軍は壊滅させられてしまった…当然私以外の関係者も全員死んだわ。生き残った私はどうすれば軍を再興できるか考えた…その時に、ヴァンパイア王国の存在、そしてペペロン女王の存在を知ったのよ。王国にいた前代の医師団は不慮の事故を装って殺害し、代わりに私が入れるように工作したわ。その後はご存知の通りよ、最強のヴァンパイアたるペペロン女王を洗脳して意のままに操る事が出来れば、ヴァンパイア王国を拠点に新たなる新生レッドリボン軍を結成できる!改造を施した吸血鬼を含めた最強の軍隊がね」

 

「ふん、愚か者の考える事だな…だがおかしくはないか?何故お前は…」

 

(もっとだ、もっとこいつから話を引き出して時間を稼ぐ…!)

 

そして、その背後では完全に気配を消したスカーレットが忍び足でペペロン女王が封印されていた十字架の台にたどり着いていた。その上を覗き込むと、確かに左腕が拘束されていた場所に、手首から先が置き去りにされていた。

 

(くっ、なんでこの私がこんなコソドロみたいな真似を…!しかし、これの血を飲まなければあの女王を倒すことはできない…)

 

スカーレットは手首を持ち上げ、いざ噛みつこうと牙を出した。しかしその時、手首だけが勝手に動き出し、スカーレットの首を絞め上げた。

 

(ぐ…コイツ…!)

 

ペペロン女王は話すのに夢中なオートに従うふりをして、眼だけは確かにスカーレットの方を向いていた。

それに気付いたスカーレットは心の中で歯を噛み締めた。

 

(恐るべきペペロン女王…手首だけになろうともなんという執念だ)

 

だが、スカーレットは手首の指を何とかこじ開け、それに噛みつくことに成功した。プツリと皮膚を破って女王の血液がスカーレットの口内にあふれ出し、それをすぐさま呑み込んだ。その瞬間、スカーレットの脳内に新鮮な言葉がなだれ込んでくる。それは微かな囁き声のように頭に響いていたが、だんだんとハッキリと聞こえてくるようになる。

 

 

 

(この子の名前はもう決めてるんだ)

 

(へぇ、ヴラドが考えたのならきっといい名前に違いないわ、教えてちょうだい)

 

(うん。この子の名前はサンドラ、サンドラ・スカーレットだ。僕たちの愛しい娘…)

 

 

 

「そうだ…そうだった。思い出したぞ…私の名前はサンドラだ…サンドラ・スカーレット。それが私が取り戻した名前だ」

 

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