「そうだ…そうだった。思い出したぞ…私の名前はサンドラだ…サンドラ・スカーレット。それが私につけられた本当の名前だ」
原初のヴァンパイアであるペペロン女王の血液を摂取したスカーレットはかつて両親にかけられた呪いを解くことに成功し、自分の本当の名前…サンドラという本名を思い出す事が出来た。
「何か分からないけど、すごく清々しい気分だ!」
サンドラはそのままとてつもないスピードで飛行し、突っ立っていたペペロン女王の足に体当たりを仕掛けた。
「…!?」
女王の両足の膝から下が消し飛ばされ、ガクンとその場に倒れ込む。オートは何が起こったのか把握すると、自分がゴルゴンの時間稼ぎにまんまとハマってしまたことに気付いて怒りの表情を浮かべ、ペペロン女王に慌てて命令する。
「は、はやく治しなさい!不死身のヴァンパイアなんでしょ!?」
「ググ…」
女王の足が蒸気を吹きながら徐々に元に戻っていく。そのまま通過していったサンドラはレミリアたちのそばに一瞬で接近し、その手を掴んだ。
「スカーレット!女王の血を飲めたのね!」
「サンドラだ、私の名前はサンドラ」
「そ、そういえばそんな名前だったような…」
「はやくレミリアとフランドールと融合しろ!女王の足が回復する前に!」
「ああ…いくぞふたりとも」
「やってちょうだい」
サンドラはレミリアとフランの頭を掴み、自分の胸に押し付ける。するとふたりの皮膚がサンドラと融合してくっつき、埋まっていくようにしてその身体の中に取り込まれていく。
「よし、良い感じだぞ!ちなみにだが、一度融合したら二度と元には戻れないからな!」
だがその時、ゴルゴンが土壇場でそう言った。
「ええ!?それを早く言ってちょうだいよ…」
「もう戻せん、覚悟を決めろ!」
そう、一度サンドラに吸収されてしまえばふたり揃って二度と分離することはできない。その事実を告げられて動揺するレミリアとフランだったが、しぶしぶその全身をサンドラの体内へ取り込まれていった。
ふたりを完全に取り込み終えると、サンドラに変化が訪れる。ふたりを吸収し終えたとたん、とてつもなく大きな妖力がその身に湧き上がり、同時に背中から生える翼が増え、サンドラ自身の持つボロ布のように破れた皮膚を纏った骨だけの翼に加え、レミリアの持つコウモリの翼、フランの持つ七色の水晶が吊るされたような棒状の翼の計6枚の翼となった。
「治ったわね!?だったらはやく奴らを殺しなさい!」
「ギガアアアアアア!!」
ペペロン女王は再び生えそろった足で踏み出し、前方のゴルゴンに向かって殴りかかる。それを避けようとするゴルゴンだったが、ペペロン女王は攻撃を止めて横に顔を向けた。その先には、新たな力を手に入れたサンドラが近寄ってきていたのだ。
「よう」
サンドラが挑発的な表情でそう呟くと、ペペロン女王は牙を剥き出して唸る。
「今度の私は一味違うのさ。今度はこっちが叩きのめしてやるよ」
ペペロン女王は、超高速で移動しながら生意気な口を叩くサンドラを殺そうと大口を開けて噛みつこうと襲い掛かった。サンドラは両腕を伸ばして女王の顎を掴んで固定し、ぐんぐんと押し返していく。
「くっくっく…どうした?お前の力はそんなものなのか?」
サンドラは女王の顎を腕力でもって引きちぎって見せた。下顎が無くなった女王は悶絶の悲鳴を上げ、後ろへ下がる。
「な、何やってるのよ化け物!アンタは伝説の最強ヴァンパイアでしょ!その程度で痛がってんじゃないわよ…はやくソイツを殺しなさい!」
「ウガアアアアア…!」
女王は顎を再生させながら再びサンドラに襲い掛かる。が、サンドラは繰り出される女王の両手を躱し、その胸に腕を深く突き刺した。鋭い爪を伸ばした指先は女王の心臓にまで達しており、女王は再び苦痛の悲鳴を上げた。
「ギャアアアアアアアアア」
「ヴァンパイアを殺す方法は…脳を破壊するか、全身を修復不可能なまでに破壊する事…そしてヴァンパイアの回復能力は体の血液が心臓から破損個所に送られることで発生する現象だ…だから心臓を壊してしまえば、吸血鬼の不死性は著しく低下する…。そうだろ?」
「アギ…!」
「答えろよ、失礼な王様だな」
そう言いながらサンドラは腕をもっと深く突き刺し、心臓を一突きにして女王の背中から貫通させる。そしてすぐに腕を引き抜き、拳による殴打を女王の顔面へと浴びせる。
「アグウウ…!」
後ろへ倒れ込む女王の上に飛び上がり、6枚の翼の先端から無数のエネルギー弾を撃ち出し、それをペペロン女王へ浴びせる。
「いける…!勝てるぞ、女王に…」
ゴルゴンは女王を上回り、圧倒的な戦いを繰り広げるサンドラを見てそう言った。
「負けるなペペロン女王!私のレッドリボン軍再興の夢を台無しにするつもり!?」
オートがエネルギー弾の炸裂による爆発から腕で顔を守りながらそう叱喝すると、女王はカッと目を見開き、上半身だけを起き上がらせてサンドラを睨んだ。そしてその両目から赤い怪光線を発射し、雨のように向かい来るエネルギー弾をかいくぐりながらサンドラへと迫らせる。
「危ない!」
ゴルゴンは思わずそう叫んでしまうが、その必要は無かった。
「ふん、バーカ…その程度じゃ今の私の相手にはならないぜ」
サンドラは6枚の翼の先端を自分の前に集め、その集中点に緑色の雷のようなエネルギー弾を作り出し、それを強烈な妖力の波動として放った。それは女王の怪光線にぶつかるが、それを難なく押し戻し、ついに女王の全身を包み込んだ。
「ガアアアアアア…!!」
エネルギー波は女王を包み込みながら突き抜け、やがて消えてしまう。女王の全身は炎に包まれ、火だるまとなった女王はもがきながら辺りをウロウロする。
サンドラとゴルゴンはその様子を見ていたが、やがて女王は力を失い、その場に仰向けに倒れ込み、動かなくなった。
「…終わったか」
「そ、そんな…無敵のペペロンがやられるなんて…。私のレッドリボン軍再興の野望が…」
ドクターオートもまた、自分の野望の失敗を突きつけられその場に崩れ落ちるのだった。
ゴルゴンは未だ燃え続けて黒焦げになっているペペロン女王に近寄り、その顔を見下ろした。サンドラに心臓を破壊された影響か、もう肉体の再生は少しも発動していない。どうやら、本当に死んでしまったようだ。
「可哀想な母上…せめて安らかに眠れるよう、念のために頭を潰させてもらう」
ゴルゴンは女王の亡骸に近寄り、その頭に手を置いてギリギリと圧力をかける。
だがしかし、地面に降り立ったサンドラは微かながら女王の魔力が、まるでタンクから少しずつ漏れるガスのように周囲にただよいつつあるのに気が付いた。
「…近付くな!ソイツはまだ生きてるぞ!!」
「なっ…!」
ゴルゴンは慌てて後ろへ飛びのく。
死んだはずのペペロン女王の炭化した皮膚がひび割れ、その内側から赤い光が漏れ出す。女王が上半身を起き上がらせると、ヒビ入った皮膚が砕けていく。それはまるで虫や爬虫類がおこなうような脱皮と似ていた。
「ははははは…これは面白いものを見せてくれたわ…!」
ドクターオートが歓喜の声を上げる。
ペペロン女王は姿を変えて復活した。衣服が焼けて無くなってしまったが、全身は大理石のように白く硬質な皮膚で覆われ、頭部は髪の毛すらも一本も生えておらず、低い鼻と真っ赤なするどい目、耳元まで裂けた口の中からは毒蛇のような細長い1対の牙だけが覗いている。
「ギシャアアアアアア…」
傷を受けた箇所をより強固にしつつ回復する”順応”が全身に満遍なく適応され、それが極限のピークに達した時、ペペロン女王はその姿を文字通りの怪物のように変化させてしまったのだ。
「それじゃあ化け物、あの者たちを早く殺しなさい!」
オートがそう命令するも、女王は何も反応を示さない。
「ど、どうしたのよ?早く私の命令を聞きなさいこのバケモノ!!」
「カアアッ!!」
その時、女王は突然オートに振り返ってその牙を剥き出した。そしてガパッと大口を開け、恐怖して後ずさりするオートの上半身を噛み千切った。
「アイツ…!」
「オートを喰いやがった…」
残されたオートの下半身からは機械のようなパーツが見えた。どうやらオート自身も自分で自分の体に改造を施したサイボーグ人間であったようだ。
だがペペロン女王にはそんな事は関係ない。血肉を持つ生き物であれば、何でも貪欲に喰らえるのだ。すぐに残った下半身も口に放り込み、数回咀嚼して飲み込む。もはや吸血というよりも捕食行動に近いその動作は、もはや今のペペロン女王は以前とは全く違う生命体と化したことを意味していた。
「もはや、あの怪物を制御できる者はいない…!今この場で始末しないと…きっと王国を地獄へ変えるだけでは止まらないだろう…!」
「ふん、それがどうした…?今なら遅くない、今の私ならこの怪物を倒せる!!」
サンドラはそう言いながら再び空中へ舞い上がり、ペペロン女王の真上にやって来た。そして手にはさらに大きく鋭くなったライエムドアクスを生成して構え、それを振り下ろさんとする。
確かに、サンドラの考えは正しい。まだ変身直後であるペペロン女王であれば、今のこの隙を叩けばまだ倒せる可能性は十分にあるだろう。しかし…
ポンッ!
「え…!?」
「あ…!?」
「えぇ!?」
いよいよペペロン女王へ一撃を叩きこむ瞬間、サンドラからレミリアとフランが分裂してしまった。同時にサンドラの妖力も元に戻ってしまう。
「ど、どういうことだ!?二度と戻らないんじゃなかったのか!?」
「…おそらく、摂取した女王の血液との拒否反応が働いたか…。そのレミリアとフランは”サンドラ”との融合を果たしたが、呪いを解くために飲んで体内を巡っている女王の血液がそれを追い出してしまったのだ…」
ゴルゴンはそう解説する。
「そ、そんな…へぶっ!」
その時、女王が口から放った衝撃波が3人を吹っ飛ばした。
「魔理沙、細胞活性剤200㏄を…そう、その注射器よ。臓器は全部回復しつつある…次は背骨と肋骨に保護固定剤を…」
「お、おう!」
パチュリーと魔理沙はシロナの死を食い止め、蘇生させるための手術に躍起になっていた。パチュリーの魔力をシロナに与えてその肉体を徐々に少しずつ再生させていく。その他医療剤を駆使して損壊した臓器や骨を元に戻していく。
「…まずいわ、血が足りない…!こうなったら輸血の用意よ、私の血を輸血しつつ手術を続けるわ」
「そんな事をしたらお前が死んじまうだろ!ただでさえ生命維持に必要な魔力をシロナに与えてんだ…」
魔理沙はそう言いながら、横に寝かされている咲夜を見た。既に傷の処置は終わり、今は眠っている。だが咲夜は先ほどの戦いで血を流し過ぎた上に、そもそもシロナの血液型とは違う。
「…パチュリー、私の血をシロナに輸血してやってくれ」
魔理沙はパチュリーに自分の腕を差し出すのだった。