もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第219話 「しあわせにおなり」

良く晴れた日の事だった。魔理沙は気晴らしに散歩に出かけていた。菓子屋や雑貨屋を見て歩いていると、里の礼拝堂にて誰かの結婚式が開かれていた。

 

「この私には結婚など無縁なんだが…結婚式ってのはどんなことをするのか気になっちまうよな」

 

 

 

──────────

─────

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォォォォ!!」

 

女王は雄叫びを上げながら口から赤いエネルギー波を細くして放ち、シロナを狙う。シロナは走りながらそれを躱し、光線は床を削りながらどこまでも追ってくる。シロナは跳躍して女王の顔面の前で拳を構え、そして振り下ろした。

 

ガキン!

 

しかし、女王は骨の突起が伸びた腕をかざしてその一撃を受け止めた。そのまま腕を振るい、シロナを吹っ飛ばす。シロナは空中で回転しながら受け身をとって着地した。

 

「アアアッ!!」

 

女王は口の中でくすぶっていた紫色のエネルギーをその場で爆発させ、その威力に乗せて花火のようなエネルギー弾を全方位へ向けて撃った。それは一発一発が着弾した床を破壊する威力を持ち、その流れ弾を喰らった改造ヴァンパイアは跡形もなく消え去ってしまう。

 

「みんなに当たったらどうすんの!」

 

だがシロナは右手から霊力の波動を撃って女王の顔面へ命中させた。

 

「ギ…!」

 

顔から焦げた煙が上がり、女王は痛みに顔をしかめる。女王は石のような皮膚を捨て、筋肉と骨を露出させ攻撃に特化した姿に進化したせいで防御面に関しては以前よりも落ちていた。剥き出しの体内組織に響く衝撃は想像を絶する苦痛であることは間違いないだろう。

だが、それが女王に力を与えていた。

 

「ギアアアアアア!!」

 

女王が痛みを感じれば感じるほど、それによるストレスで怒りに任せて暴れ狂う。腕の骨が肉を突き破って露出してできた腕骨の刃を振り回し、シロナに飛びかかる。

シロナは女王の手を掴み、止めて踏ん張る。女王も負けじと力を込め、両者は互いに押し合う。彼女たちを中心にしてエネルギーが半球状に迸り出した。

 

「ふん!」

 

シロナはおもむろに女王の顔へ頭突きを喰らわせる。女王は思わず手を離して後ろへのけぞるが、こちらもシロナへ頭突きを叩きこむ。

 

「うおおおお!」

 

シロナのパンチが腹にめり込み、反撃の女王の手刀がシロナの肩に当たる。両者は激しい肉弾戦を繰り返し、互いに顔や打撃を受けた箇所から血が流れ始める。

 

「あのふたりはほとんど互角のようね…」

 

レミリアが改造ヴァンパイアに攻撃を加えながらそう言った。

 

「だからこそあと一歩…あと一歩シロナがペペロン女王を上回れば勝てるはずなんだ…」

 

と、魔理沙が苦い顔でそう言った。

 

「…!そうだ、シロナがあのパワーアップをしてくれれば…!さっきみたいな、赤いオーラで髪が逆立つあの変身をしてくれれば勝てるんじゃない?」

 

「あれは、シロナの怒りが爆発した時に起こる特異な変化だ。シロナの力の源は怒り…それも、他人を傷つけられる時の怒りだ」

 

その時、魔理沙の脳裏に悪魔のような考えがよぎった。

…いやいや…そんなことはできるわけがない。やるとするならば…それは…

 

「ぐはあっ!!」

 

シロナの腹に女王の突きの一撃がヒットする。思わず口から唾を吐き出し、前のめりになってしまう。反撃の蹴りを女王の足へぶつけてへし折るが、女王は口からエネルギー弾を吐いて炸裂させ、シロナを吹っ飛ばした。

 

「くっそ…」

 

シロナが体勢を立て直したときには、既に女王の足はほぼ治りかけていた。

確かに、互いのパワー面は互角であり、守備力に関しては女王が後れを取っていることは事実だろう。しかし、女王にはそれを覆せる自己再生能力とスタミナが備わっていた。シロナと女王の受けるダメージが同じ程度だとしても、それを回復しつつ自己強化できる女王の方が、このような長期戦を行う上では有利だっただけだ。

 

「アアアアアァァァァァ!!」

 

女王の容赦のない連続攻撃がシロナに休む間もなく襲い掛かる。

 

「シロナ!負けるな!!」

 

魔理沙はその戦いの様子を見ながら叫んだ。しかし、シロナは既にボロボロで、おそらく手術直後に戦闘を始めたせいで完全には体力も元に戻ってはいなかったのだろう。

そして、ここにきて群がってくる改造ヴァンパイアたちの相手をしていたスカーにも限界が訪れる。

 

「チッ…!」

 

襲い掛かるヴァンパイアに肩を掴まれ、放電して撃退しようにもすでに度重なる電気の酷使で消耗してしまい有効な一打は与えられない。続けて飛びかかって来たヴァンパイアの一撃が、スカーの胸に突き刺さった。

 

「カハ!」

 

「スカー、大丈夫か!?」

 

スカーは腹の中から内部の歯車を露出させ、それを高速回転させる攻撃で背後のヴァンパイアを吹き飛ばした。しかし、直後に前方から接近してきたヴァンパイアがスカーに抱き着き、力づくで回転攻撃を封じてしまう。歯車はバキバキに破壊され、スカー自身の胴体も潰れてしまう。

 

「グア…!」

 

ヴァンパイアたちはバランスを崩したスカーに、体が少しも見えなくなる程に密集し群がって痛めつけていく。スカーは身動きをとれなくなり、これを好機と見た他のヴァンパイアたちはレミリアやフラン、魔理沙に一斉に襲い掛かる。

 

「や、やめてくれ…」

 

魔理沙は絶望した。レミリアとフランは既に改造ヴァンパイアに力で取り押さえられ、今にも喰い付かれそうになっている。

スカーも痛めつけられてあの状況からの脱出は厳しく、シロナも既にペペロン女王に対する勝ち目はない。

そして、自分の目の前にも…ヴァンパイアの大口の中に光る鋭い牙が…

 

 

 

 

 

 

 

──でも、霊夢はあん時とは比べ物になんないほど強くなっていくし…変わんねぇのは私だけ…なーんか、取り残されちまった気分でよ…

 

 

 

 

「…うおおおおおおおおおお!!!!」

 

魔理沙は咄嗟に上着の内ポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。魔理沙にとって幼いころから手にして扱ってきた、ミニ八卦炉だった。

その八卦炉の口が稼働して開き、そこから特大の光の光線が放たれた。柱のように伸びるそれはスカーやレミリアたちに群がるヴァンパイアたちを一直線に吹き飛ばし、さらにシロナに襲い掛かっているペペロン女王に接近していく。

 

「ア…!」

 

女王はすぐにそれに気付き、さっと顔を横に傾ける。だが頬に掠ってしまい、そこが焦げて煙が上がる。

 

「ようし、来いよ化け物ども!!」

 

魔理沙がそう叫ぶと、周りのヴァンパイアたちはじりじりと魔理沙に近寄っていく。

 

「ま、魔理沙…」

 

傷だらけになったシロナは倒れた体勢のままそう呟いた。

 

「お前らはここから立ち去りな!ヴァンパイア共は…私が相手してやる。スカー、立てるか?」

 

「ああ…なんとかナ…」

 

スカーは損傷した体を起こして立ち上がる。

 

「シロナとレミリアたちを連れて逃げろ。私は大丈夫だ…さっき、パチュリーに頼んで私の魔力も若いころと同じに戻してもらったんだ」

 

「…わかったヨ…」

 

スカーはレミリアとフランを背負い、魔理沙に気をとられていたペペロン女王から一瞬でシロナを奪い取る。そしてそのまま浮かび上がると、この議事堂から立ち去ろうと出口へ向かう。

 

(嘘だ…)

 

だが、シロナは気付いていた。

 

「パチュリーに若いころの魔力に戻してもらった?嘘だよそんなの…魔理沙の気はいつもよりずっと弱くなってる…当然よ、私に動けなくなるギリギリまで血をくれたんだから…まともに戦う事なんてできるわけないのに…」

 

次の瞬間、シロナはスカーの肩の上で滅茶苦茶に暴れ出す。

 

「だめだよ魔理沙!!私がここに残るから…魔理沙はみんなと一緒に逃げなきゃ!!…ガッ…!」

 

しかし、シロナは突然目を見開き、白目をむいて気絶した。その首筋にスカーの指先が触れており、スカーの残る電力をかき集めてスタンガンのようにショックを与えたのだ。気を失ったシロナは流石に静かになり、ぶつぶつと何かつぶやくだけになった。

 

「だめ…魔…また、ひと…り…しないで…」

 

スカーは最後に魔理沙と目を合わせた。魔理沙はいつもと変わらない、すました顔でふっと笑ってピースサインを出した。スカーも魔理沙の最期の意図をくみ取り、何も言わずにこの場から去った。

 

「ありがとう、スカー。さて、この霧雨魔理沙…ここへきて自分の役目が何なのか分かった気がするぞ」

 

「フシャアアア」

 

ペペロン女王の命令の声を聴いた改造ヴァンパイアたちが一斉に魔理沙に襲い掛かる。

 

「やっぱり、この場を締めくくるのはこの私の独り舞台でなくちゃあな!!」

 

魔理沙は八卦炉に再び火を灯し、高熱の魔法を発動させてヴァンパイアたちを焼き払っていく。炎に弱いヴァンパイアは、燃える仲間の死体の間をくぐる事が出来ずに魔理沙に対して威嚇をするばかりだ。

 

「どうした!?お前らもこの程度かよ?」

 

「ギシャアアアアア」

 

しかし、女王がそう命令を下すと、ヴァンパイアたちは一斉に口から念力を衝撃波として放った。

 

「ぐふ…!」

 

それは魔理沙の胴体に次々と命中し、魔理沙は血を吐いて膝をついてしまう。

 

「ま…まだまだぁ!」

 

──シロナよ…お前は本当に他人を燃え上がらせる才能がある。お前の目に見られると、「しっかりしなくては」と思ってしまう。私もそうさ…かつての霊夢とカカロットも、そしてパチュリーもそうだったのだろう。

 

「ありがとうよ、シロナ…。後はただ腐っていくだけだった私の残り短い人生を彩ってくれて…たくさんの思い出をくれて」

 

しかし、炎を潜り抜けてきたヴァンパイアの一撃が魔理沙の左腕を切断した。そしてヴァンパイアたちが一斉に魔理沙へ群がり、その身体を八つ裂きにしようと手をかける。

 

(これは…走馬燈か…?)

 

──これは…いつしかに見た、見知らぬカップルの結婚式。結婚などというものは私にとっては生涯無縁だろうと思っていたが、なんとなくそれを見ていたのだ。

ひとり待つ、新郎。彼に向かって父親と腕を組みながらしずしずと歩いていく新婦。新しい生活への期待と愛情に頬を染めて…。そして、新婦は父親の手から離れて、新郎の元へ…。

このとき、私はこの人生という名の物語の、自分の役目を知ったのさ。

 

「どうやら、私はそろそろらしい」

 

魔理沙が最期に思い浮かべるのは、シロナの事よりも…遠い昔の記憶だった。霊夢と一緒に、幻想郷の空を飛び回ったこと…一緒に強敵へ挑んだこと…酒を飲んだこと、そして霊夢とケンカしたこと…。そして、その記憶の中の霊夢が、彼女に言うのだ。

 

「何だよ霊夢…セリフが無粋か?そうだな…こんな時には何と言おう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ああ

 

 

……そうか…

 

 

 

 

 

魔理沙はキッと目つきに闘志を宿し、自分の首に噛みつくヴァンパイアの胸に八卦炉の射出口を押し付けた。そのまま火力を最大にまで引き上げ、自分に残された魔力を全て送り込む。

 

 

 

──「しあわせにおなり」…だ。

 

 


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