第221話 「サイヤ人絶滅計画」
「ふふふ…準備は整った」
この宇宙のどこか、暗黒の世界。一面に赤い球体が山のように積まれ、または転がされた空間の上を、胡坐をかいて座った体勢のまま飛んで移動する人影があった。
「サイヤ人最後の生き残り…ヤツを絶対に逃がしてはならぬぞ、必ず見つけ出して殺してやるのだ…。よいな?」
その人物は青い肌にぼさぼさの髪とひげを生やした老人のような姿の男だった。男が手をかざすと、まるで男の燃えるような憎しみに呼応するかのように赤い球体の内部に黒い炎が燃え上がる。
「ふははははは…今度こそサイヤ人を根絶やしにできる…お前たちが犯してきた残虐非道な行いの報いをしかとその身に受けるがいい!骨の髄まで憎しみがしみ込んだ我々の…復讐の始まりだ」
今、怨念滾る復讐劇が幕を開けようとしていた…。
────
クウラとの戦いから、実に5年が経過していた。戦いが終わった後に再び地球を発ったブロリーは、宇宙船を駆り出して気ままに宇宙を旅する生活を送っていた。その最中に立ち寄った星に悪の魔の手が忍び寄っていればそれを退治し、星の住民を救ってきた。その活躍がいつの間にか誰かによって噂になり、やがては”彼ら”の元にまで広まった。
”銀河パトロール”。この宇宙のどこかに拠点を置き、銀河の平和と秩序を守る警察のような組織。銀河系中から集められた優秀な宇宙人が在籍し、全部で38名いるという。宇宙の凶悪な犯罪者や海賊団を何度も捕まえているが、あのフリーザやサイヤ人などには手が出せず、見て見ぬふりをするしかなかったという。
そんな銀河パトロールにブロリーの存在と活躍が知れ渡り、彼との接触を計った。そして対話の末に彼が最近消息不明となっていたフリーザを退治していたこと、残っていたフリーザ軍の残党勢力を全て潰し終えたことを知った銀河パトロールのトップは、サイヤ人でありながら理性的で宇宙の平和に貢献したブロリーを、是非銀河パトロールの一員に加えたいと言った。
しかし、当然ながらブロリーはそれを拒否した。銀河パトロール側はそれならばと食い下がり、今抱えている事件だけでも解決に協力してくれと頼み込んだ。
「まったく…俺だってもうフリーザ軍の残党を潰し終えてようやく地球へ帰れると思っていたのに」
ブロリーはぶつくさと文句を言いながら、宇宙船の操舵を握っていた。そして、ちらりと目線を横に向けると、そこには壁によりかかるようにして座っていた、ひとりの銀河パトローラーの姿が。
「いっ…」
そのパトローラーは一瞬だけびくっとするが、すぐに元の偉そうな態度になって立ち上がる。そのパトローラーは小柄な隊員で、グレイ宇宙人のような顔をしていた。
「そちらこそ光栄に思ってほしいものだ、銀河パトロールのエリート隊員であるこのジャコと共に仕事ができる名誉なんだぞ」
「ああ、光栄に思うとするよ…抱えている仕事に手を付けずに手伝ってくれる者を探していたマヌケに選ばれた名誉をな」
「何だと?」
ジャコと名乗ったその隊員はムッとした顔で怒りをあらわにし、ブロリーに近寄っていく。だがその時、別の何者かに肩を後ろから掴まれて引っ張られたことにより後ろへヨロッと下がる。
「おいおい、ブロリーは本当の事を言ってんだから素直に受け入れろよな…ザコさんよ」
「ザコではない、ジャコだ。お前は…スカッシュとかいったか」
ジャコの耳元でそう囁いたスカッシュはニヤっと笑った。
「しっかし、アタイもついてないなぁ…銀河パトロールに入隊して初めての仕事が、まさかブロリーと一緒だったとは」
「悪いがスカッシュ…俺もお前が一緒で残念だ」
「チッ…あっそ」
互いに悪態を吐きあうふたり。スカッシュは舌打ちをし、あからさまに不機嫌になった。
「おいお前たち、見えてきたぞ…私たちの今回の目的地…ナメック星が」
ブロリーたち一行はナメック星の大地へと降り立った。青緑色をした短くて柔らかい草が生い茂る地面を踏み、目の前一面に広がる広大な海を見渡す。
その瞬間、ブロリーは言葉を失ってただその場に立ち尽くした。脳裏には、かつてフリーザを倒すためにこの場所へ訪れた時の事を思い返していた。あの時の自分は自らの意志で父親の制御下に置かれており、それゆえの低い戦闘力からターレスには戦力として見られてはおらず、宇宙船のコントロール整備や裏方に徹していた。
しかし、ボスのターレスが見積もっていた以上にフリーザの戦闘力は自分たちの理解を越えていた。だからこそ、大勢の仲間がこの星で死んだ。その時、自分が全力のパワーでフリーザを迎え撃っていれば、その時に決着をつけることができたかもしれない。だが、ブロリーは自分の力を解き放つことが恐ろしかった。自分の力は簡単に宇宙を破滅へと導ける力だということを理解しており、それは一度でも解放するべきではないとも分かっていたからだ。
「おい、そこで突っ立ってんじゃねぇよ!」
と、その時、後ろから背中を蹴られてブロリーは我に返った。
「あ…すまん」
「まずは、この星の住民の話を聞こう」
「…それなら、向こうにナメック星人の村がある」
一行はブロリーが指差した方向へと向かった。その先には、ブロリーの言う通りにナメック星人たちの村があった。この村はかつてフリーザ一味やベジータの手によって半数以上が死滅した際の生き残りたちが暮らす村だった。
最年長のムーリを長老として、今では生き残りだけではなく新たに生まれた世代たちが別の場所に村を作って暮らしているはずだ。
「…ん?」
しかし、ブロリーはすぐに異変に気付いた。ほとんどの民家の中にナメック星人たちが入っているにもかかわらず、外に出ている住民が多すぎるのだ。しかもその誰もが、暗く沈んだような顔で座り込んでいる。その様子は、まるで一個の地域に難民があふれているようであった。
「これは…」
「お、おお…貴方はもしや…ブロリー殿でございますか!?」
ブロリーはそう話しかけられて振り返った。すると、そこには小さなナメック星人の子供を何人も抱きかかえたムーリが立っていた。
「ムーリさん…!」
「よかった…やはりブロリー殿でございましたか…!それに、スカッシュ殿まで…」
「よ!」
ムーリはブロリーとスカッシュの姿を見ると、心底嬉しそうに顔を輝かせた。
「皆の者!我々のもとへ救世主が来てくださったぞ1」
ムーリがそう呼びかけると、村の住民が続々と彼らの元へ集まってくる。
「ムーリさん、これは一体…何があったのですか?」
「うむ…貴方は5年前、フリーザの兄を名乗る者を倒し、我々をこの故郷ナメック星へ送ってくださいました。それから我々は新たに村を興し、宝である子供を産み増やして以前のような暮らしを取り戻そうと日々努力してまいりました…。ですが、ここ数か月の事です…この星の至るところで異常な現象が起こり始めたのです」
「やはり…このナメック星は既に”例のガス”の影響を受けていたようだな」
と、ジャコが口をはさんだ。
「ガス…その通りです。この星の各地で、植物が枯れて水が濁りだしたのです。他の生物も姿を消してしまい、きれいな水を飲んで生きる我々は食糧難となり、他の村へ助けを求めました。しかし、その村も腐ったように変わり果て、ついには私が治めるこの村だけが唯一無事な場所となってしまいました。最悪、死んだ者はおりませんがこの5年間で爆発的に増えた人口を支えるほどの資源はこの村にはありません」
「ムーリさん、このジャコという者は銀河パトロールの隊員です。スカッシュも今はそれに所属してます。彼から詳しい話を聞いてください」
ブロリーはジャコに目を向ける。
「おほん、私がジャコだ…よろしく。彼女とは面識があるようだが、コイツはスカッシュ…今は新米隊員として私と共にこの星の異変を解決するためにやってきた」
「ほおお…それは頼もしい限りです」
「実は、このナメック星を襲った現象は宇宙の様々な惑星に被害をもたらしている。ある者は、その被害にあった星を汚染する黒いガスを見たと言った。調べたところ、そのガスは触れた生物の細胞を破壊しながら星を侵食する…銀河パトロールはこれを『デストロンガス』と呼称し、星のどこかに複数個の『デストロンガス発生装置』が置かれていることを突き止めた。私たちはこの星のデストロンガス装置を破壊しに来たのだ」
ジャコはナメック星の異常現象の原因を説明した。
「何と…そのようなものが…」
「誰が一体何の目的で装置を製造し、星へ置いたのかはまだわからない…だが、安心して欲しい。この星の装置は必ずや我々が何とかしてやる」
星を蝕むデストロンガス。脅威がそれだけならば、どんなによかっただろう。この時のブロリーは、サイヤ人としての本能で薄々と感じていたのかもしれない…サイヤ人へ対する並々ならぬ怨念の力が、この星に漂っていることを…。