もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第230話 「ミル・フィーネ」

(さっき車がぶつかってきた衝撃で目が覚めた…私の名前はシロナ、そんでもってなんで私が路上で乞食の真似なんかしてなくちゃいけないの?)

 

シロナはぶつくさと文句を思い浮かべながら、通行人が行き交う歩道を歩いていく。暴走する車に一寸の躊躇もなく激突されたシロナであったが全く傷や痛みは受けていない上に、むしろその時の衝撃で頭がはっきりしたらしい。もちろん、無くした記憶が戻ったという訳ではない。事故直後で頭がぼんやりしていたところに、シロナを助けてくれた人物が「貴方はいつもこの辺にいた物乞い」とシロナの身の上を説明するので、なんとなくそんな気がしてこれまで物乞いをしていた。

そのシロナの現在の身なりは綺麗とは言えず、薄汚れた顔と髪に、体は少し臭う。

 

「うーん、事故に遭う前の私は本当にそんなことしてたっけ?ま、ミルに問いただしてみるかな」

 

シロナは高級そうなホテルに入り、ミルという名前の人物が滞在している部屋に向かう。そしてドアにキーを入力して開け放ち、大声で名前を呼ぶ。

 

「おい、ミル!ミル・フィーネ!私はさっき目が覚めた!今まではリハビリって言われて飲んでた薬の所為で頭がぼーっとしててアンタの言う事も疑いなくやってたけど…昨日から薬は飲んでないし、そんで車にぶつかられてようやく頭がすっきりしたよ!」

 

そう言いながら部屋を見て回るが、どうやらミラは留守のようだった。

 

「ちっ、いないのか…だとしたらあそこかな」

 

シロナが次に向かったのは、外に出て何本かの通りを越えたところにある古びた廃ホテル。

 

「気は進まないが…ミルがあのホテルにいないときは大抵ここ。いつもは豪勢なホテルのスイートルームに住んでるのに、くだらない時間を過ごすときは決まってここ…何考えてるのかわからねーわ、アイツ」

 

そしてある部屋のドアノブに手をかける。

 

「やい、ミル!今日こそアンタには私について知ってることを全部話してもら…!」

 

シロナがドアを開けると、大きなベッドの上でひとりの女性とふたりの見知らぬ男がともに絡み合っていた。それを目撃してしまったシロナは赤面して驚き、急いで外に出ようとするが、緊張した馬鹿力の所為でドアを壊してしまう。

 

「な、何やってんのよミル…こんな昼間っから…!」

 

「あら、見られてしまいましたわね」

 

ミルは口ではそう言うが特に慌てる様子なく起き上がって服を着始める。

 

「さ、貴方たちはあの子に悪影響ですから帰ってくださいまし」

 

そして男たちをベッドから無理やり押し出すと、その男たちもぶつぶつと文句を言いながら着替え始めた。シロナはずかずかとミルという女性に近寄り、その腕を掴んで問い詰める。

 

「ミル、アンタは2年前に私を見つけたって言ってたわね!どこで見つけたの!?」

 

「ふ…ずいぶんと言葉遣いが達者になりましたのね…。助けてからしばらくは何もかもの記憶を忘れて、手の焼ける獣のような振る舞いしかできませんでしたのに」

 

「それは感謝してる!助かった時、言葉も人間としての暮らし方も忘れてて、野生動物さながらだった私にここまで言葉や振る舞いを教えてくれたこともね!」

 

「おお、ヒニーケ教授の論文通りですわね!低能な猿にも反復学習は効果がある…」

 

ミラは緑色のドレスを身にまとうと、立ち上がりながらそう言った。この女性、”ミル・フィーネ”は会話から分かる通り、2年前に大事故に遭ったというシロナを助け出し、治療とこれまでのリハビリをしてくれた(というか然るべきところでやらせただけの)女性だ。

緑銀色の髪の毛をドリルのような大きな縦ロールに巻いてツインテールにし、いいところのお嬢様らしく風貌も美しく、所作にも上品さを感じられる。しかし、この他人を見下したような目つきや態度がシロナの癪に障るのだった。

 

「ぶん殴るぞ!」

 

「ご自分の記憶の空白が気になるのはわかりますわ…でも、まさか暴力に訴えようとするとは言いませんわよね?」

 

ミルはそう言いながら首から下げたペンダントを触る。それをパカッと開いて中にはめ込まれている男性の写真を撫でる。

 

「ねぇダーリン…狂気と倦怠と暴力イノシシ娘がいるこの世界で麗しく逞しいのはダーリンだけですわ…」

 

「そんなのはいいから、はやく質問に答えてちょうだい!」

 

「うるさいですわね…。全身大火傷、内臓がスクランブルエッグ状態のところを発見して医療機関に連れて行ったのはこの私ですのよ。記憶を無くして獣同然に暴れまわる貴女に言葉やもろもろを教えてそこまで調教した私は、いわば命の恩人ではなくって?本来ならば跪いて涙を流し、神のような私を崇め称えるのが普通でしょう」

 

「うぐ…確かにそうだけど…アンタのセリフはいちいち引っかかるのよ。だから私の質問にちゃんと答えないと、こうよ!」

 

シロナはそう言うと、ミルの首にかけられたペンダントを外して奪い取った。ミルは焦って取り返そうと腕を伸ばすが、シロナはそれを軽くひょいひょい避ける。

 

「あ…あぁ、ダーリン…帰ってきて…うぅ」

 

ミルは小さくカタカタと震え出し、その場で脱力してベッドの上に這いつくばってしまう。

 

「なんなんだコイツは…」

 

そう言いながらペンダントを返すシロナ。ミルはこの通り、肌身離さず持っている恋人の写真が入ったペンダントを取られるとどうしようもない不安に駆られ、動けなくなってしまうのだ。

 

「まったく、その年齢で卑劣な性格ですこと…。ですが、貴女もそろそろ次の段階へ進むころかもしれませんわね」

 

「次の…段階?」

 

「60年以上前から、人知れず続いている戦いがありますの。人造人間と、それを破壊しようとする人間たちの…」

 

「ちょっ、何言ってんだよ、私は…」

 

「聞きなさい、シロナ。私が質問に答えるよりも、現状を把握した方が手っ取り早いですわ」

 

「人造人間っていったいなんだよ?」

 

「私の言う人造人間は、自分で考えて自分で動く、文字通り人に作られた人間の事。その定義はただのロボットやからくり人形だけではなく、バイオテクノロジー等で作られた人工生命体も各当しますわね」

 

「ははっ、そんなんと戦ってる人間たちがいるですって?」

 

「彼らは人の世に災いをもたらそうと考えている…」

 

ミルはそこまで言いかけると、シロナを抱き寄せながら地面に伏せた。次の瞬間、飛んできた無数の弾丸が壁に突き刺さり、直後にその壁を破壊した。

 

「な、なに!?」

 

シロナがその方向を見ると、部屋のドアの前に立つふたりの男がこちらに向いていた。先ほど、ミルと一緒にいた男たちだ。だが、その首や腹部は切り開かれ、その内部から露出した機関銃が煙を吹きながらこちらを捉えていた。見た目は人間そっくりだが、その異質すぎる外見は間違いなく彼らが人間ではないことを示していた。

 

「外したぜ、ディロフォ」

 

「外しちまったな、モノロフォ」

 

ディロフォ、モノロフォと名前を呼び合った異質な男たち。

 

「こ、こいつら一体…!?」

 

「証拠が近くにある好例ですわ。奴らが人造人間…そして、それらを破壊する役目を負った人間──、その人間たちを総称して」

 

そう言いながら、ミルの右腕が細い包帯のような帯状に変形して伸びていく。それは尖った指先を先端として、渦を巻くような形状へ形を変える。

 

「『記憶兵器』と呼ぶ」

 

そうして、右腕を自分の身長程の大きさもあるドリルに変形させると、それを構えた。

シロナは驚いた。攻撃してきた人造人間にもそうだが、それよりもこの自分の体を武器に変えたミルに対しての方が大きいか。

 

「私たちを手伝いなさい、シロナ」

 

人造人間、そして記憶兵器とはいったい…!?

今、シロナは世界の命運をかける壮絶な戦いに巻き込まれようとしていた…

 




ミラ・フィーネの名前をミル・フィーネに変更しています。

「運命」を意味するミラという単語を名前にしていましたが、今後の展開を考えて粉砕機の事を指すミルに変えました。
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