もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第234話 「破壊屋の七つ道具」

かつての村人たちを火葬する炎を見つめながら、ぼんやりと立ち尽くすアイバー。照りつくす太陽の下、燃え盛る劫火の近くにいるにもかかわらず、その身体を耐えがたい寒さが襲う。

 

「私、これからどうすればいいの…?寒い、寒いわ…」

 

どうしようもない喪失感に襲われ、ガタガタと震えながらその場にへたり込む。このままでは心がおかしくなりそうだった。

しかし、その時、彼女の目の前に何者かが現れる。下を向いていた視界に、土ぼこりを舞わせる黒いブーツが入って来た。上を見上げると、そこには黒いボロ布を纏い、汚れた包帯で顔の上半分を包み込んだ、異様な格好の旅の者が立っていた。

 

「あ、あなたは…?」

 

「私は、しがない旅人です。たまたまこの近くを通りかかったところ、酷く荒れた村を発見してここまで来ました。一体、何があったのですか」

 

アイバーは旅人にすべてを話した。自分だけが村を留守にしていた間に、何者かの集団によって村を荒らされ、挙句に自分だけを残して全ての村人が惨殺されたことを。

旅人はただ黙って話を聞き、それが終わるとアイバーを抱きしめた。アイバーが困惑して旅人の顔を見ると、巻かれた包帯の目元部分から、液体が滲んでいるのに気付いた。

 

「そうですか…それは可哀想に…。貴方も被害に遭われたのですか」

 

「貴方も…とは?」

 

「私は旅の中、ここと同じような惨状に見舞われた村をいくつか見てきました。どの村も同様に荒らされ、生きている人間はいませんでした」

 

「そうなんですか…。この村を襲ったのは、3人の悪魔を従えた、不死身の女でした。フォークで体を突き刺しても、血の一滴も流さなかった…」

 

「やはり、そうでしたか。奴らの正体は”人造人間”!その名の通り、人間が造りし人間たちです。奴らは世界に7つ存在し、全て集めると願いが叶うという宝、ドラゴンボールを探している。おそらく、この村にボールがあったことを突き止め、ボールを奪うと共に口封じとして村を滅ぼしたのでしょう」

 

「そんな事の為に…許せない…!」

 

「今、許せないといいましたか?」

 

「え?は、はい…」

 

「でしたら、私は貴方に問いましょう。このまま何もせずに村人を殺された怒りとやるせなさを秘めながら余生を過ごすか、奴らと戦って破壊し復讐するか。貴方は…どちらを選びますか?」

 

「…私は…忘れない…。アイツらが私の友達に…ジャンに…何をしたか…!私はアイツらに復讐したい!!」

 

煮えたぎるような憎悪を露わにし、そう言うアイバーを、旅人はじっと見つめる。そしてその憎しみが本物であることを確認すると、おもむろに立ち上がる。

 

「では私は私なりの責任を取りましょう。まず、ここに寝てください。私があなたの体内にこれを埋め込みます」

 

旅人は白い布にくるまれた、黒くて小さな四角いチップを取り出した。

 

「『破壊屋の七つ道具』と呼ばれるものです」

 

「え?それを体内に…?」

 

「怖いですか?嫌ですか?ですが、これを体内に入れることで初めて、貴方はあの人造人間に打ち勝てるパワーを手に入れることができます」

 

「…分かりました、お願いします。それで、奴らを地獄に突き落とし返すことができるなら…」

 

「では、しばらく我慢してください。一応麻酔を打ちますが…眠る訳ではないのでできるだけ手術は見ないでください」

 

そう言われて、数十分経っただろうか。

 

「終わりましたよ」

 

アイバーは目を開け、旅人に支えられて上体を起こした。手術を受けた肩を見てみると、包帯が巻かれていた。その下は切り開いた傷口を縫ってあるらしい。

 

「あの…特に何も変わったような感じはしませんが…痛みを感じるくらいで」

 

「痛みは仕方のない事です。あなたが力を感じるまで、しばらく時間がかかるんです。明日の朝、またここにいらしてください。包帯を替えて薬を塗ります」

 

「はい…」

 

旅人の言う事成す事全てが突拍子もないものだったが、短い間にいろいろと起こり過ぎてとっくに限界を迎えていたアイバーは、特に疑問も持たずに言われたとおりにするしかなかった。

 

「ありがとうござ…」

 

アイバーがそう旅人に対して礼を言おうとした瞬間、旅人は広げた手の平をこちらへ向けてそれを遮った。

 

「いや、礼は言わないでください。これであなたは、人造人間を破壊し終えるまでその戦いに身を投じなければならなくなりました。そして私のように各地を回り、人造人間に人生を壊された人間のもとへ行き、同じように質問するのです。このままひとりで死ぬのを待つか、共に人造人間と戦うのか」

 

「な、なぜ…」

 

「何が何でもそういうものなのです。そして戦いたいという者がいれば、私がしたのと同じように、その者の体内にチップを埋めてやりなさい」

 

旅人はそう言いながら、自分のカバンから道具箱を取り出してその場に置いた。

 

「明日、来たときに箱のカギを渡します。分かりましたら、もう行ってください…その様子では疲れているはずです、詳しい事は明日にでも」

 

「あの…そういう貴方様は、どなたでしょうか?私に救いの手を差し伸べてくれた、お優しいあなたは…」

 

「…かつて、レッドリボン軍に所属していた。だが、人造人間を造り兵器として使う彼らに嫌気がさして、軍を去った…。だが憎むべきは人ではない…人造人間だ、決してレッドリボン軍の事を恨まないでくれ」

 

 

翌日、約束通りに昨日の場所へ行くと、そこには誰もいなかった。ただ、昨日小さくなっていた火葬の炎は不思議な事にまだ燃えていた。だが、旅人が言っていた通り例の道具箱だけは置いてあったのを見つけた。箱の上に鍵が置かれていて、アイバーはそれを使って箱を開いた。

 

カチャリ…

 

小さな音と共に箱を開けた瞬間、アイバーの背筋が凍った。まるで後ろから誰かが自分を抱きかかえ、逃れられないようにしがみついているような感覚を覚えた。

その瞬間から、アイバーの体はアイバーのものではなくなった。頭に流れ込んでくるのは、人造人間に関する知識やそれらとの戦い方、そして…自分の体に埋め込まれた謎のチップがもたらす破壊の力、『記憶兵器』の使い方。

アイバーは戦慄しながらも箱の中を確認する。すると、中には昨日自分が埋め込まれたのと同じチップが6つ並べられていた。それぞれ、上に右から順番に「ドリル」、「斧」、「ハンマー」、「キリ」、「ペンチ」、「カッター」と書かれたテープが張られている。そして、一番左端の空白になっている場所には、「鋸」と書かれていた。自分に埋め込まれたのは、どうやら「鋸」の記憶兵器らしい。

何故、これが記憶兵器という名前が付けられているのかも、流れ込んでくる記憶によって理解できた。この黒いチップには、肉体を武器に変化させて戦う術と武器の記憶が刻まれているのだ。だからこれが体内にあれば、チップに眠る武器の記憶を呼び覚まして肉体をその形状に変化させることができる。そしてさらに、前の持ち主の記憶をも今の持ち主にインストールしてしまうのだ。どうやったのかは分からないが、あの旅人はこの道具箱を開けた瞬間にそれが作動するように仕掛けていて、さっき自分が箱を開けた時に自分の中のチップが覚醒した。おそらく、この記憶のチップにはあの旅人も持っていた人造人間に対する深い憎悪の意識も記録されていたのだ。

その日、アイバーは記憶兵器となった。体を武器に変じさせることの他に、歳を取りにくくなって寿命が延び、打たれ強く、すぐに怪我を再生できる異常な治癒力と、人造人間を破壊するための怪力が手に入った。旅人が残した記憶にはチップを埋め込むための手術の手順も入っていたので、アイバーは同じように人造人間によって愛する者らを殺された者を探し、記憶兵器の仲間を増やすために、自分も旅へ出るのだった…。

 

 

 

────────────

 

 

「それから、私…いや、母は記憶兵器の仲間を7人そろえ、共に人造人間と戦い続けた。しかし、いくら記憶兵器が人造人間と渡り合える程の戦闘力を持つと言っても、所詮は人間だ。いくら寿命が延びようと、打たれ強く怪我をしにくく、治癒力も桁違いとなっても、死ぬほどのダメージを受ければ死んでしまう。そうなってしまったら我々は死んだ仲間の体内から再びチップを取り出し、次の者へ託す。私も、そうして母親から『鋸』を受け継いだ」

 

アギエルバは、そう言いながら自分の胸に触れた。あの胸の中に、人造人間と戦い続けた誇り高い戦士の記憶が眠っている。シロナの隣で黙って話を聞いていた、ミルの中にも。

 

「私は母の遺言に従い、この財団を設立した。まぁ、それもミルの資金援助があったからできた事だがな」

 

「いえいえ、私のしたことはほんの些細な事にすぎませんわ。財団設立に最も奔走したのは、他ならぬ貴女ですわ」

 

「てことは、前々から思ってたけどもしかしてミルってかなりのお金持ちなの?」

 

「その通りだよ、シロナちゃん。実は、ミルは大会社のご令嬢なんだ」

 

「過ぎた話ですわ」

 

「ミルはなんで記憶兵器になったの?」

 

「アギエルバのお母様と同じような理由ですわ。社員旅行の船を人造人間に襲われ、私以外全員海に沈みましたの。無人島に漂着した私はそこで虫と草を食べながら3か月生き延びましたわ。やがて、アギエルバのお母様率いる記憶兵器の団体に発見され、丁度枠が空いていた”ドリル”をこの身に宿しましたのよ」

 

「ふーん…」

 

シロナはそう呟くと、何だか気まずくなって黙ってしまう。大事故に遭い、2年間も記憶喪失になってしまった自分よりも、この人たちの人生は波乱万丈だ。人造人間によって不幸になった上に、戦い続ける人生を強いられるなんて…。

 

「面白い話、聞かせてもらったぞ」

 

しかし、その時、この場にいる誰のものとも違う声が響いたかと思うと、部屋の床が大きくひび割れ、その下から何かが飛び出した。

 

 

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