もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第235話 「シュウゲキ」

60年も前、アイバーという若い女が住んでいた村が、突如として出現した人造人間の一団によって滅ぼされた。絶望し茫然とするだけのアイバーの元へ、謎の旅人が現れる。

旅人はアイバーから事情を聴くと、人造人間に対抗しそれを破壊するための力、「破壊屋の七つ道具」を託した。その中の「鋸」を体内に宿し「記憶兵器」となったアイバーは仲間を集い、人造人間たちとの長きにわたる戦いの火蓋を切って落としたのだった。

 

 

「面白い話、聞かせてもらったぞ」

 

しかし、その時、この場にいる誰のものとも違う声が響いたかと思うと、部屋の床が大きくひび割れ、その下から丸っこい形状の何かが飛び出した。それはまるで開花するつぼみか、あるいは羽化する蝶の様に空中で手足を広げて展開し、その全貌を露わにした。それはおおよそは人の形をしているが、赤黒い体色をし牙だらけの顎を持つモンスターだった。

まず、その体が丸っこく見えていたのは、背中から生えている長く太い腕を昆虫の羽根の様に折り畳んでいたからだった。その腕を目いっぱい広げると、その全長は5メートル近くにも及ぶ。そして、そのまま高速で回転すると、その半径内にあるものを根こそぎ吹き飛ばしてしまう。部屋中にすさまじい突風と衝撃が巻き起こり、机や椅子が壁に激突する。

あまりにも突然すぎる攻撃を前に、その場にいた全員が同様に成す術なく吹っ飛んでしまう。シロナはもちろん、あのミルでさえも攻撃が当たったわけでもないのに、その余波によって成す術なく飛ばされ、アギエルバに仕えていたメイドも机の下敷きになっている。

そして、その中で…未知のモンスターの攻撃が直撃してしまったアギエルバは、その殴打の衝撃で上半身を潰された状態で宙を舞っていた。モンスターはアギエルバを捕捉すると、それを地面に叩きつけて自身の長い腕で念入りに攻撃を加え続ける。バラバラに引きちぎられたアギエルバの体がそこら中に飛び散った。

 

「…姉さん…」

 

痛めた腕をかばいながら立ち上がったメイドは、なおもモンスターによる過剰な攻撃を受け続ける自らの姉、アギエルバを見ながらつぶやく。

 

「財団頭首としての務め…大変、ご立派でした」

 

カッ ビキビキ…

 

次の瞬間、メイドの体から青い闘気が立ち上り、その両腕が鋭い歯を並べた鋭利な剣へと変化させていく。財団を設立し、そのトップに立つ姉の替わりに「鋸」を継承し記憶兵器としての力を秘匿していたメイド…アギエルバの妹、アリーズ・アルティールはモンスターを強く睨み付ける。

…しかし、それに目ざとく気付いたモンスターは瞬時に驚異的なスピードでアリーズに飛びかかり、彼女が記憶兵器としての力を発現し終える前にその顔面を腕で殴りつけた。後ろへ倒れこむアリーズに対し、先ほどアギエルバにしたように一切の隙も許さずに怒涛の猛攻を叩き込む。

 

「シロナ、無事ですの?」

 

「な、なんとか…」

 

シロナが状況を飲み込んで顔を上げた時には、既にミルも両腕をドリルに変えて臨戦態勢に入っていた。シロナも立ち上がり、ミルと共にモンスターを狙う。

が、アリーズも長年にわたって姉の代わりに人造人間と闘い続けてきた歴戦の記憶兵器。敵の攻撃の合間にできたほんのわずかな隙を見計らい、その瞬間に自分の両腕を合体し一本の巨大で無骨な鋸に変化させ、それを天を突くような長大な刃と化させると、モンスターに突き刺すと同時に一気に天井を突き破って屋上よりもさらに上へと打ち上げてしまう。

 

「…覚えておきなさい、シロナ…これが本物の記憶兵器の戦い方というものよ」

 

ミルは自分が出る幕の無かったアリーズの反撃を目の当たりにして、動揺をごまかすようにシロナにそう言った。

アリーズは塔のように空へ向かって聳える鋸を根元から折り、それを物凄い勢いで登って頂上の先端に刺さっているモンスターに追撃を放とうと、両腕に鋸を成形して攻撃を仕掛ける。

 

「ふ…今のは危なかったぞ…」

 

しかし、モンスターはさっきの背中から伸びる長い腕とは別に存在する、人間と同じような両肩から伸びる普通の腕で、間一髪鋸が体に突き刺さるのを防いでいた。そして向かって来るアリーズの斬撃を背中の腕でガードする。あらゆるものを削り斬る鋸の一閃は届かなかった。

 

「我の名はエウスト・レプトス・ポンディルス!人造人間1号様直属護衛軍の一員たる我が、お前たちに引導を渡しに来てやったぞ!」

 

そう名乗ったモンスターは、牙の並んだ口を開けてそう言った。

 

「くっ、護衛軍の『エース』がなぜ今…?」

 

会話を聞いていたミルがそう呟いた。

 

「護衛軍?ミル、あいつが何なのか知ってるの?」

 

「…人造人間の親玉、つまりアイバーさんの村を滅ぼした主犯は人造人間1号と呼ばれていますの。そして、その1号に付き従う3体の配下…奴らは、人造人間1号直属護衛軍と呼ばれております…。その中でも奴は『エース』の通称で呼ばれ、我々は数回、奴に遭遇したことがありますわ」

 

ミルたちが見ている前で、エースはアリーズに対して威嚇する。背中から伸びる腕、肩から伸びる腕、そして鎖骨の真ん中から伸びる短くて小さな腕。それに両脚を合わせると、計8本となった手足を広げてアリーズの攻撃をどこからでも迎え撃てるというアピールをする。対してアリーズは、ギザギザした歯が何列にも並んだ無骨な鋸に変形させた腕を前に構え、じりじりとエースとの距離を詰める。

 

「正直、驚いたぞ。我はあのアギエルバが鋸の力を持ってるもんだと思ってたが、まさかいつも横にいたお前が本当の継承者だったとはな」

 

「こういう時の為に、姉さんは私の替わりに財団頭首になったんです。あなたのような思慮の浅いガラクタが真っ先に騙されてくれるので」

 

「そういうお前も、一撃で我を仕留められなかったことを後悔させてやる」

 

「それもこちらのセリフです!」

 

アリーズは前へ飛び出し、鋸の腕を伸ばしてエースに斬りかかる。エースはアリーズへ向けた背中の腕にエネルギーを込め、そこから爆発を引き起こした。が、それでもアリーズは止まらずに炎と黒煙を切り裂きながら現れ、エースの顔面へ刃の切っ先を突き立てる。

だがその時、エースはアリーズの鋸に噛みついた。驚いたアリーズが振りほどこうと力を込めるが、エースの顎の力はすさまじく、鋸はバキバキと音を立てながらひびが入っていく。

 

「…!?」

 

次の瞬間、こちらに突っ込んできた巨大なドリルを回避するようにしてエースが飛びのいた。ドリルは屋上の床に激突するがすぐに方向転換し、もう一度エースをねらって突っ込んでくる。

 

「チイィ…!”ドリル”のミルか…!」

 

エースは腕でミルのドリルを受け止め、強靭な馬力で無理やりその回転を停止させ、遠くへ投げ飛ばす。

そして、その時に生じたエースの隙を見て瓦礫の影から素早く出てきたシロナがエースに飛びかかった。シロナはエースの顔面を掴み、そのままバランスを崩させて屋上の端っこまで押していく。

 

(大丈夫…私は車とぶつかっても平気だったんだ…ここから落ちたって大丈夫!)

 

そして思い切ってエースごと屋上から飛び降りた。

 

「ははは…そうか、お前が例の協力者のガキか」

 

エースは空中でそう言うと、落下しながらシロナの胴体を抱くように抱え、頭を下に向ける。

 

「ちょっ、まっ!」

 

焦るシロナなど全く意に介さず、エースは地面に頭からシロナを叩きつけた。辺りに物凄い音と衝撃が響き渡り、土煙が舞う。エースが飛びのくと、そこには逆さまになって上半身が地面にめり込んで突き刺さった状態のシロナの姿があった。

 

「はははは!面白い光景だな。お前がディロフォとモノロフォと倒したというからどんな奴かと思って見に来たが、大したこともないただのガキだったようだな」

 

その時、ミルとアリーズが屋上から降りてやってくる。

 

「シロナ…!」

 

「シロナというのか。だがこのガキは御覧のザマだ、我は記憶兵器を見かけたら殺してもいいって言われてるんでな…悪いがお前らはここで始末させてもらうぞ」

 

「やってごらんなさいな」

 

「はああああっ!!」

 

ミルとアリーズは腕に作り出した武器を振りかざしてエースに襲い掛かる。エースはふたりの一閃をその全長を誇る体からは想像もつかないほどの速度でかわし、背中の腕を振り回して衝撃波を発生させる。その一撃は地面をえぐり、ミルとアリーズを弾き飛ばしてしまうのは容易かった。。

 

「ぐっ…!」

 

「我も一度に二体の記憶兵器を相手にしたことはないが…お前らみんな貧弱すぎるぞ!どおれ、この一撃で片を付けてやるとしよう」

 

エースは不敵にそう言うと、先端が刀のような刃になっている尻尾を自分の顔まで近づけ、その顎で尻尾の刃に噛みついた。エースは口から火炎を燻らせながら強い力で刃を噛み、その獣のような鋭い目がミルたちを睨んだ。ミルとアリーズが不穏な気配を感じたが、すでに遅かった。エースが口を離すと、解放された尻尾の刃は物凄い勢いで1回転し、その周囲を薙ぎ払った。

 

次の瞬間、辺り一帯が灼熱の旋風によって両断された。

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