もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第237話 「クスブリ」

力尽きたエースの骸の上で、シロナは立ち尽くしていた。ミルの挑発によって怒り状態へと変身したシロナは、その身に存在する魔力によって特殊な怒り状態へと変身した。魔法の力に浸食された変身能力は特異なものとなり、全身が鎧のように硬質化した状態となったのだ。おまけに、鳴りを潜めていた魔法使いとしての才覚が目覚めた証である明るい深紅の髪の毛も蘇った。

サイヤ人が人間の姿のまま大猿の超パワーを引き出した姿である、怒り状態。それに魔法の力が加わり強化された特異な”怒り状態・魔強化”とでも呼ぼうか───へと移行したシロナは、圧倒的な力でエースをねじ伏せたのだ。

 

「終わった…!やったぞォ、ついについに…」

 

シロナは両腕を空高く掲げながら大声でそう言った。

 

「まさか、護衛軍を倒してしまうとは…恐ろしい子供を見つけてきたのですね、ミル」

 

「私も想定外ですわ。このままではマズいと思ってわざと貶して怒りを糧に奮い立たせようとしましたら、こんなお釣りが帰ってくるとは」

 

エースを圧倒的な力で撃破したシロナを見ていたミルとアリーズはそう話した。これまで、記憶兵器たちはエースを筆頭にした1号直属護衛軍とは何度か戦ってきた歴史があったが、奴らをあそこまで完膚なきまでに叩きのめした者はこれまで存在しなかった。

 

「あれで、もしも”破壊屋の七つ道具”のどれかひとつでも宿していようものならどれほどの強さを持つ戦力になったのやら…」

 

シロナはそのままの姿勢で達成感と感動に打ちひしがれていた。

 

「やっと…ミルをやっつけたぞ!!」

 

「…は?」

 

だが、シロナが発した言葉を聞いたミルとアリーズは思わず呆気にとられた声を出した。

 

「わはははは!どうだミル、今まで私にさんざん気に障る態度で接してきた報いを、この私が与えてやったのさ!」

 

「まさか、あの子…怒りで周りが見えなくなって今までミルと戦ってるつもりだったんじゃないの?」

 

「…どうやらそのようですわね」

 

シロナはひとしきり喜び終えると、何かの糸が切れたようにその場でばったりと倒れる。顔や腕を覆っていた硬質化の結晶は溶けるようにして解除され、顔も元に戻る。

 

「シロナ!大丈夫ですの?」

 

と、そこへミルが駆け寄り、崩れた両腕でシロナを起こす。

 

「ミル…あれ?どうなったの?何も覚えてないんだけど…ってか、その腕大丈夫なの?」

 

「ええ、我々記憶兵器は短時間で体を再生できますの。明日にはこの両腕も元に戻っていますわ」

 

「そうなんだ…。ところで、エースは…?」

 

ミルは黙ってエースの骸を視線で示す。

 

「これ、私がやったの…?ははは、やった…」

 

シロナはゆっくりと立ち上がり、守り抜いた施設の子供たちの元へ近寄る。

 

「もう大丈夫だよ、悪い人造人間はやっつけたから…」

 

しかし、先ほどのように悪魔の如き風貌へ変身し、鬼のような戦いぶりで残酷にエースを葬ったシロナを、子供たちは恐ろしがり、避けて離れていった。シロナはショックを受けたように放心し、自分に向けられる子供たちの恐怖の視線を見た。

 

(その目は…人造人間に向けるはずの目だろ…?)

 

「無理もありませんわ…あんな戦い方をすれば、誰だって怖がりますもの」

 

ミルが慰めるように小さな声でシロナに耳打ちした。

 

「はは…参ったな。私はただ…ううん、何でもないや。ねぇミル…アンタは私が人造人間と戦うのか、決めてもらうためにここへ連れてきたんだったね…。今、答えるよ。私は記憶兵器たちと共に人造人間と戦う!そして奴らを一体残らず破壊する!そうすれば、二度とこの子たちはこんな目に遭わないから」

 

そう言いながら、シロナは子供たちに背を向けてとぼとぼと歩き出す。その姿は、とても子供たちの為に怒り、守るために戦った者とは思えない程哀愁に満ちていた。

 

 

 

…その後、ミルとアリーズはエースの死体の一部をサンプルとして回収すると、それ以外を全て燃やして処分した。試験管に詰めた肉片は未だ血が通って生きているかのようで、ぴくぴくと蠢いていた。ミル曰く、これがあれば記憶兵器でも一筋縄では退けられない強力な戦闘能力を持つ人造人間1号直属護衛軍の行動メカニズムを解析できるかもしれない、ということだった。

次の日、駆け付けた財団の他施設の職員が今回の件の後始末に当たり、シロナとミルは次の目的地へ向けての準備を始める。

 

「ミル、ほんとにあの怪我が1日で治っちゃったんだ」

 

シロナはミルの腕を見ながらそう言った。エースの攻撃によって千切れた腕が、たった一晩で元通りに治っていたのだ。

 

「ええ。記憶兵器が体内に宿すチップ、”破壊屋の七つ道具”は体を自己修復できる能力と万全で良好な状態の肉体の情報を記憶していますの。それなりに体力や栄養は使いますけど、すぐにこの通りですのよ」

 

「遅いですよ」

 

ふたりがそんな会話をしながら駐車場にまで行くと、自分たちのエアカーにはアリーズが乗っていた。長いスカートのメイド服に、顔にはサングラスをかけて既にハンドルを握っており、今にもエアカーでかっ飛ばし始めてしまいそうなオーラが漂っている。

 

「なんでアリーズがいるんですの?」

 

「いいじゃないですか、私も行ったって。記憶兵器は本格的な任務に赴く際はペアでの行動が必須でしょ?万が一どちらかが死んだとき、体内のチップを回収する役目が必要ですから」

 

「まあいいよ!人が多いほうが、いざってとき頼もしいし!」

 

「ほら、シロナちゃんはこう言ってますよ?」

 

アリーズはわざとらしくシロナを抱き寄せた。

 

「まあ…承知しましたわ…」

 

「んで、これから私たちはどこに行くのよ?」

 

「南の都にある、財団の所有する研究所へ行きましょうかと。そこには、我々と同じ記憶兵器のお方がおりますのよ。彼に会って、このエースの肉片を研究に回してもらいますわ」

 

「んじゃ、その研究所まで行くんだね」

 

「分かりました。出発しましょう」

 

アリーズはエアカーのエンジンをかけ、南の都の財団研究所へと向けて走らせた。

だが、エアカーが発進する寸前、近くの茂みから飛び出した赤黒いタコのような小さな生き物が裏側に張り付いた。それは8本の触手を動かし、絡みついて離れない。

 

(1号様をお守りし、その望みを達成すべく存在する護衛軍たるこのエウスト・レプトス・ポンディルスの確かな不覚だった…!あの子供を侮った結果がこれだ…。しかし、奴に完全に命を絶たれる前に肉体のコアを逃がすことに成功した。そしてこいつらが次に行く場所の情報も掴んだ!既に仲間には伝えてある!ふっふっふ…お前ら記憶兵器の言う通りになんぞさせてたまるか…)

 

肉体を維持していたコアのみとなってしまったエースの戦闘力は著しく弱体化し、恐らく人間にとっての小動物程度の力しか残されていないだろう。しかし、隠密に行動するにはかえってこの姿の方が都合が良かった。製造される際、タコの遺伝子を組み込まれていたエースはこのまま車の裏に張り付き、シロナ達の向かう先へと共に移動するのだった。

 

 

 

「エース、『シロナ』トイウ協力者ノ子供ニ破レル。エース、『シロナ』トイウ協力者ノ子供ニ破レル」

 

一方、人造人間たちのアジトにて。カラスの姿をした偵察の機械を肩に止まらせた人造人間。オレンジ色の髪に長い手足と長身の女性型の人造人間、1号直属護衛軍に属するひとり…「アール」は、読んだ手紙を握りしめて静かに憤っていた。

 

「まさか、エースがやられるなんてねぇ…」

 

余裕そうな口調でそう言うが、声は震えている。

アールは天井を睨みつけながら、エースとの在りし日の光景を思い浮かべる。そしてグッと目を閉じると、今度は体の向きを変えて歩き出す。

 

「おい、起きな寝坊助!」

 

「ほっ…!?なに、もうご飯!?」

 

スースーと寝息を立てて眠りこけていたもうひとりの護衛軍が座っている椅子を蹴飛ばし、驚いたその護衛軍はよだれを垂らしながら寝ぼけた目をアールへ向ける。

 

「ちょっと行ってくるわよ。エースの仇をとってくるわ…」

 

「あ…そう…」

 

「場所は南の都の研究所。そこで行われる我々に対しての研究を阻止せよ、というのがエースの最期の通達だったのよ。待ってなさい記憶兵器ども…この私、”アルティリヌス”がアンタたちを血祭りにあげてやるわ…」

 

怒りを露わにするアールは、信頼する同志たる仲間を倒された悔しさを胸に秘め、敵討ちを決意するのだった。

 

 

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