謎の大事故に巻き込まれたというシロナは、ミル・フィーネという女に助けられた。事故のショックで失った知性や理性はリハビリにより何とか取り戻すことができたが、それでも記憶は少しも戻らない。
ミルは世界中でひっそりと悪事を成す「人造人間」との戦いを有利に進めるため、自分たち「記憶兵器」と呼ばれる人間たちに協力するようシロナに頼む。そして何やかんやの事件の末、シロナは記憶兵器たちと共に人造人間を破壊する戦いに加わることを決意した。
「…そもそも人造人間の最終目的は、ドラゴンボールを全て集める事です。それを使って何を叶えたいのかは分からないけれど。1号と護衛軍がお母様の村を襲った際に三ツ星のボールを奪ったとされていますが、後にそれを何者かによって奪われてもいます。我々記憶兵器も奴らがボールをそろえるのを阻止するためにボールの捜索を続けていますが、未だに一個も発見できていません。しかし、ここまで奴らに大きな動きが無いのだとすれば、恐らく奴らもボールを揃えきれてはいないのでしょう。もしくは、ボールの収集よりも優先すべき物事があるのか…」
エアカーを運転しながら、アリーズはそう話した。アリーズは母親だったアイバーから受け継いだ「鋸」の記憶兵器を姉の代わりに継承し、姉のアギエルバはアリーズの代わりに財団頭首の座についた。
「それでもって奴です。60年もこの地球のどこかに居を構えて今日まで暗躍してきた人造人間たち。それらのボスを務めるのは諸悪の根源であり人造人間の首魁、人造人間1号、通称『スカール』と呼ばれる者です。お母様の記憶によればとてつもない美人のような風貌であったとされていますが、それ以来誰の目にも触れた事はありません。スカールは、自身の言う通りに行動し自身を守護する存在である3体の直属護衛軍を造り出しました。それぞれ、『エース』、『アール』、『サニー』の通称を持ち、その戦闘能力は個々が絶大で我々でも一体を撃退するのが精一杯でした」
人造人間1号ことスカールは60年以上前に、今は亡きレッドリボン軍によって作られたとされている。しかし、アイバーに戦うための力を与えた旅人の「レッドリボン軍を恨まず、人造人間だけを恨め」という言葉に従って軍とは不干渉の姿勢を貫いた。
しかし、時は18年も前の事。レッドリボン軍はかつて世界を恐怖に陥れたとされるピッコロ大魔王によって壊滅させられた。元より彼らと対話するつもりなど毛頭なかった記憶兵器であったが、人造人間1号に関しての情報や手がかりは永久に闇の中となってしまった。
「そして、奴らの本拠地…つまりスカールの所在は未だに掴めぬままです。敵を鹵獲し何とか場所を聞き出し、そこへすぐに向かったとしても、もうその時点ではそれらしき物は影も形もありませんでした。そのような事がもう何十回と繰り返されています。ここから導き出されるのは…人造人間たちは本拠地ごと世界中を移動しているのではないか、という説です」
「今宵もスカール様のため、良い晩よねェ」
一方、人造人間たちの本拠地内にて。
アールは近くで座りながら眠っていたサニーに向けて、オレンジ色の髪を持ち上げヘアバンドで固定しながらそう言葉をかけるが、やはり返事は何も返ってこない。相変わらずいつもの事だが少しイラッとするアールだったが、別の場所から返事が返って来たのでそちらに振り向いた。
「本当に良い晩でございますなぁ、アルティリヌス殿」
階段に腰かけていた、紫色の髪をし、魔女のような三角帽を深く被った女がアールにそう言ったのだ。
「んで、何か用なのかしら?アンタが用もなくアタシらの部屋に来るわけがないからね」
「その通りでございますよ。この魔法による占いが趣味のしがない女如きが、スカール様の直属護衛軍に用もなく声をかけたりはしませんよ。次に貴女方が向かうべき方角が占えたましたのでね。”南西”さ」
「そうか…分かったわ、マリサ」
マリサと呼ばれた占い師は、深く被った帽子のツバから覗いた口元を曲げてクスクスと笑った。
「何か面白い事でもあった?」
「くくく…いやぁね、貴女方はいつでもスカール様の事を一番に考え、行動している。だが、人造人間と対立する記憶兵器とかいう連中は、まさか貴女方がひとりの人間の女による占いをあてに世界中を移動しているなんて思いもしないだろうと思いまして」
「そうだとは思うけれど」
「ま、だからこそこんな身よりも金もないただの女をここに住ませてくれてるんでしょうけど。感謝しているんですよ、2年前に大事故に遭い、記憶を無くした私を助けてくださった事」
「うふふ、人造人間にも気まぐれってものがあるらしいのよ。アンタは余計な事も言わず、ただアタシらを占うだけ。何の害もない。アンタだけは生かしといてあげるわ」
「嬉しいですねぇ。だけど、ドラゴンボールの在り処だけはどうしても私にもわかりません」
「いいわよ、別に。だってドラゴンボールなんて物はもうこの世にないんだもん」
「え!?そうだったのですか?」
「ええ、もう18年も昔にピッコロ大魔王がドラゴンボールを壊しちゃったのよ。もちろん、私たちの本当の目的もパーだけど」
「では、現在は何のために世界中を回っているのですか?その進路上に存在する村を破壊し、人々を殺しながら」
「うーん、それはスカール様に聞いてくれなきゃ。アタシらはあのお方のお望みのままに動いているんですものねェ」
アールは一息つくと、上を見上げて大声を張り上げる。
「スカール様!!マリサより、次の行き先が決まりました!南西でございます!!」
声が響くと、数秒の間を置いてゆっくりとこの場が揺れ始める。
ミシミシ、ギシギシと響くような大きな音を立てながら、まるで建物そのものが動いているかのようだ。動き始めたら、あとはずっと静かだった。しかし、外から見れば、荒れ地にうずたかく積まれたごみの山が突然動き出し、巨大な四足の生き物のような形状に組み合わさって歩き出したように見えただろう。
「さて…と。それじゃあ、アタシも行くとするわね」
「エース殿の敵討ちですか?」
「ふっふっふ…エースの遺志は無駄にはしないわ」
アールは部屋のドアを開けると、外の荒野に飛び出した。
幾重にも重ねられた建物の残骸、倒木や岩石で構成された巨大な動く城は、闇夜の荒野を進む。数多の人造人間をその中に乗せて…
シロナ、ミル、アリーズは財団の研究所を目指して車を走らせていたが、途中で休憩がてら軽い昼食を取ることにした。
「これも美味しいですよ、シロナちゃん」
「い、いいよ、自分で食べれるから…」
甲斐甲斐しく缶詰の中身をシロナに食べさせようとするアリーズと、恥ずかしがりながら拒否するシロナ。そんな微笑ましい光景の横では、ミルが何か言いたそうな目で彼女らを見ていた。
「何か言いたいことでも?」
「別に…。ただ、貴女はちょっとシロナに甘過ぎではなくって?まだ子供とはいえ、これから人造人間との戦いに身を投じる覚悟を決めた立派な戦士…母親のように甘やかすのはいささかシロナの為にならないかと」
「いいじゃないですか。それとも、アナタもシロナちゃんに構いたいんですか?」
「そんなんじゃなくてですわ…」
ミルが呆れたようにため息をつくと、その瞬間、何かの気配に感付く。本来、生命としての気を持たない人造人間の気配を察知することは難しい。しかし、ミルやアリーズを初めとする記憶兵器には何らかの術で彼らの気配を感じることができる能力を有しているのだ。
「…くる!」
「ようお嬢さんたち、こんなところにピクニックかい?」
しかし、やってきたのは車に乗った一組の若いカップルだった。男の方は窓ガラスを下げてミルたちにそう声をかけた。
「…ええ、南の都まで行く途中、ここらで昼食でも食べようかと思いまして」
ミルがそう答えると、男の隣に乗っていた女が機嫌の悪そうに言った。
「ねぇ、はやく行きましょうよ~」
「あ、ワリィワリィ。じゃ、ここらには変な連中がうろついてるらしいから気を付けなよ」
カップルはその言葉を残してこの場から去ろうと車を発進させた。その間にもミルとアリーズの緊張は解けない。
そして次の瞬間、突然車の天井がめくれ上がり、そこからカップルの女の方が飛び出してきた。女は空中で自分の腕や頭部から鋭い巨大な刃物を露出させ、それを使ってシロナ達に斬りかかってくる。
「うわっ!」
シロナはすぐにそれを躱すが、今まで座っていた岩がまるでバターのようにスッパリと切断された。
「チッ、すれ違いざまに真っ二つにしてやろうと思ったのに、あの使えない男が車を止めるから…!協力者の子供を加えたアンタたちは人造人間の間でちょっとした話題になってんだ。アタイが狩らせてもらうよっ!」
女の人造人間はそう言うと、再びシロナに刃を向けて何度も斬りかかる。シロナは頭を下げたりジャンプしたりしてそれを避け続けるが、やがては大岩と背中が接触してしまう。
「くっ…!」
シロナはふとミルとアリーズの方を見た。ふたりは既に両腕を武器に変えているがじっと立ったまま、シロナを見ているだけだった。まるで、「その程度、ひとりで倒しなさい」とでも言いたげだ。
(なら、やってやる…!)
「エース様を倒したらしいけど、どうやらそれは嘘だったみたいだねぇ」
「へっ…嘘かどうか、もう一度やってごらんなさいよ」
「言ったわね!」
人造人間は再びシロナの首目がけて刃を振るう。しかし、シロナはそれを見切ると、その腕を掴んで引き寄せつつ自分はそこから飛びのいた。人造人間は勢い余って頭から岩に激突してしまう。
「ぐぎ…!」
「はああああっ!!」
シロナはそのまま、背後から人造人間の背中に向かって渾身のパンチを繰り出した。拳は背中に突き刺さるとそのまま胴体を貫通し、その先の岩ごと人造人間の体を砕いた。
破壊された人造人間はガラガラと崩れる岩に潰され、そのまま完全に機能を停止した。
「お見事ですわ」
「ええ、流石はシロナちゃん」
「ど、どうも…」
シロナは自分の手を払う。
「お、おい、アンタら一体何なんだ…?何をしたんだ?」
と、そこへこの人造人間と一緒に居た男が困惑しながら歩み寄って来た。
「アナタのお連れさんは人造人間だったので始末しました。ひとりで行動するよりも、他の人間と関係を持ちつつ行動する方が我々に怪しまれないで済むと踏んだのでしょう」
そう言われた男はその場で唖然としたまま何も言わない。
「さ、昼食も食べた事ですし、急ぎましょうか」
三人は再び車に乗り込むと、再び研究所へと向かうのだった。
…やがて、1時間ほどするとシロナ達はある建物へたどり着いた。南の都と呼ばれる南方エリア最大の都市のはずれに位置するこの研究所は、周囲を高いフェンスで囲まれ厳重な警備の元にある。
が、車から降りてから研究所の入口へ向かうシロナの足取りは何故か重かった。
「どうかしましたの?」
「あ…いや、さっきの男の人、ちょっとかわいそうだったなって…。だって、いくら恋人が人造人間だったとはいえ目の前で殺されたんだから…」
「…ま、仕方のない事ですわ。人造人間はサラリーマンや銀行員からホームレスまで、いろいろな人間に化けて社会に紛れ込んでおりますから、こういう出来事はこれまでに何回も経験した事がありますわ」
「そういうもんかしら…」
「早く行きませんと、ヒロイシの事ですからきっと怒っていますわ」
「ヒロイシ…?その人が、ここにいるっていう記憶兵器の人?」
三人が研究所へ入ると、目の前には白衣を着た男性が立っていた。
「ヒロイシ…お久しぶりです」
「遅かったな、ミル、アリーズ…。いくらエアカーだけで走って来たと言っても、もう20分は早く付くはずだろう」