もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第239話 「ヒロイシ・タカツグ」

「遅かったな…ミル、アリーズ。いくらエアカーだけでここまで来たと言っても、20分前には到着できるはずだが」

 

ミルたちに会って開口一番でそう嫌味を放った、目の前の白衣の男。名をヒロイシといい、記憶兵器のひとつをその身に宿しているらしい。

黒い髪をカッチリとオールバックにし、メガネをかけた仏頂面をミルたちへ向ける。その姿は真面目と厳格そのもので少々取っつきにくい印象を覚える。

 

「ごめんなさい、道中で人造人間と遭遇しましたので」

 

「ふん、それだけではないだろう。奴らと闘うのに時間を割くことは結構だが、我々にとっては食事をとる時間すらも惜しいのだぞ」

 

そう冷たく言い放つヒロイシ。

 

(なによコイツ、嫌なヤツね…)

 

シロナは心の中でそう思いながらじいっとヒロイシを睨み付けた。

 

「おお、君が例の協力者のシロナ君か。話だけは聞いているよ」

 

ヒロイシはシロナの存在に気が付くと、腰を落として目線を彼女と同じにし、握手を求めた。シロナが手を握り返すと、ヒロイシは相変わらずの仏頂面だが、さらに挨拶を述べる。

 

「私の名はヒロイシ・タカツグ、好きに呼んでくれて構わない。”カッターナイフ”の記憶兵器を所持している。それと、いきなり文句を言ってすまなかった…人造人間に苦しめられる罪の無い人達の為、一秒も無駄にできないのでね」

 

「シロナといいます…よろしくお願いします」

 

(なんだ、意外といい人じゃん…)

 

「さて、無駄な時間を過ごしている暇はない。早速、スカール直属護衛軍の『エース』の試験用サンプルを受け取りたい」

 

アリーズはエースの肉片が入った試験管をヒロイシに手渡した。

 

「これが、かのエースの肉片か。まさか血肉の通ったバイオタイプの体だとは思わなかった」

 

「ええ、私も驚きましたわ。他の護衛軍もバイオタイプである可能性が高いでしょうね」

 

「なるほどな。だとすれば、護衛軍は主であるスカールの命令は声や音ではなくそれらに含まれる特殊な電波や信号で正確に認識し、行動するという事はわかっているから、何かしらの共通した伝達神経を有しているのだろう。それを何とかして解析し、そのメカニズムを知ることが出来れば…」

 

「その神経伝達網に対応する電波を探し出せる。そうすれば、奴らが絶対に逆らえない命令をこちらから下すことが出来る。例えば、無理やり行動を停止させたりとか」

 

「それは素晴らしいな。スカールの命令と同じ波長で下された指令には、奴らは逆らえない…どんな命令でも否が応でもこなしてしまうからな。すぐに研究に取り掛かりたいが、その前に…」

 

ヒロイシは試験管をアタッシュケースにしまい、厳重なカギをかける。

 

「私は現在匿われている、人造人間の侵攻から生き延びた子供と老人から話を聞きに行く。私は子供の相手をするから、君たちは老人から話を聞いてみてほしい」

 

ヒロイシはシロナたちを2階の部屋へと案内する。

シロナたちはある部屋に通されると、そこには確かに子供と老人が椅子に座っていた。子供のほうはシロナよりもいくらか年下といった感じで、老人は小豆色のジャケットを羽織り、杖の柄を握りしめてじっと座っている。二人とも少しも動かずにうなだれており、その表情からは生気を感じ取れなかった。

 

「どちらもつい最近、人造人間の往来を受けて壊滅した山村の生存者だ…人造人間の襲撃を受けて生存者が発見されるケースは極めて珍しい。何か有益な情報を掴めるはずだ。君たちは老人のほうを頼む、さぁ…君は私と一緒に来てほしい」

 

ヒロイシは反応を示さない子供を抱きかかえると、別の部屋へと移動する。

 

「さて、お爺様。人造人間の襲撃を受けたこと、心中お察しいたしますわ。もし、何か彼らについて覚えていることがあれば、私どもめにお話していただけませんこと?」

 

老人のすぐそばで、丁寧に質問するミル。しかし、老人は一瞬だけチラっと瞳をミルの方へ向けるが、すぐにまた正面をじっと見つめ始める。

 

「どんな事でも構いません。たとえば、どういう外見の者を見かけたとか、何かを話していたとか…例えば、これからどこへ向かうかとか」

 

アリーズが話しかけても同じだった。老人は少しだけ目線を返すだけで、相変わらず口を開かない。

 

「ま、まあ…。ねぇおじいさん、おじいさんの名前ってケニーっていうの?ヒロイシさん、名前も教えてくれずにどこか行っちゃうから置いてあった書類見ちゃったよ」

 

が、シロナにそう聞かれるとかすかに頷いた。

 

「ねぇケニーさん、これは脅すわけじゃないんだけど…人造人間に家族や知り合いを殺されてとても辛い気持ちはよくわかる。でも、その辛い気持ちを他の人にも味合わせたくないなら、何でもいいんだ…何か知っていることがあったら私たちに教えてほしいんだ」

 

そう言われたケニーは、今度はシロナの方をじっと真っすぐに見つめた。だがそれきりで、決してケニーが口を開くことは無かった。

 

「…ま、あきらめた方がいいでしょうね。この分だとヒロイシの方も同じだと思います」

 

「私も、あの子供のとこに行ってみる…歳が近そうな私が聞いた方が話してくれるかもしれないし」

 

シロナはヒロイシが向かった部屋へと入っていく。

 

「失礼します…」

 

シロナが部屋に入ると、そこには数名の白衣を着た研究員の姿があった。しかし、その誰もが部屋に入って来たシロナに対して憎しみを込めたような表情で睨んだ。それは、ただ単に勝手に部屋に入って来たという理由だけではなさそうだった。

 

「あ…すみません、お邪魔でした…?」

 

「…いや、いいさ」

 

その中の一人がそう言うと、彼らは正面のガラス張りになっている部屋を眺め始める。シロナもその隣に立ってガラスの向こうを見ると、そこにはひとつの机が置かれ、さっきの子供がその前に座らせられ、ヒロイシがその耳元で何か言っていた。

 

「カイン、よく思い出せ。そして口を開け。もう一度尋ねるぞ、その時人造人間どもはどちらの方角へ向かったんだ?」

 

しかし、カインと呼ばれた子供は何も言わない。

 

「まるで尋問じゃん…あの子を犯罪者みたいに…」

 

シロナはその様子を見ながらつぶやいた。

 

「これは君も知っているだろう?」

 

「…え?」

 

「確かに私は人造人間をいつの日か全滅させるためにここで研究を続けているが、記憶兵器たちの事は好きではない。両親が死んだショックで口がきけなくなった子供でも容赦なく問いただし、冷静に人造人間を追う…それが君らの仕事だもんな」

 

「答えな…お前もどうせ長くはないんだ。どうせなら…役に立って死んだらどうだ」

 

そう冷酷に吐き捨てるヒロイシの声を聴いたシロナは、カッと頭に血がのぼる。

 

「我々もこんな事はしたくない…だが君らも協力しなければ…。…な!?」

 

バリイイイン!

 

次の瞬間、シロナは強化ガラスの壁を蹴破って粉々に破壊した。そして振りかかるガラスの中を、ヒロイシ目がけて一直線に飛びかかる。

 

「ヒロイシィ!!テメェこの───!!」

 

バキィ!

 

シロナは怒りに任せてパンチを繰り出し、ヒロイシの顔面を思いきり殴りつけた。ヒロイシはその場で体勢を崩して尻餅をついてしまう。

 

「お前は人間じゃない!最低だ!記憶兵器ってのはみんなこうなのか?なぁ、ミル、アリーズ!」

 

シロナはいつの間にか部屋へやってきていたミルとアリーズに向けてそう問いただす。だが、ミルとアリーズは黙ったまま。

呆れたシロナは眼に涙を浮かべながら、目の前でこんな光景が繰り広げられてもちっとも反応しないカインの手を握る。

 

「大丈夫よ、こんな奴らじゃなくて私がずっとついてる…君はもう、何も苦しまなくていいんだから…」

 

「やれやれ…本当に手が早いな、この女の子は」

 

一方、殴り飛ばされたヒロイシは立ち上がり、鼻息を吹いて中の血を飛ばす。

 

「でも、シロナ君…キミはユーモアのセンスがあるよ。何せ…我々『記憶兵器』が、人間であるわけがないだろう」

 

その時、なんとヒロイシの顔がグニャリと変形する。髑髏を思わせるように全ての歯をむき出しているが、その形状はまるでカッターナイフの持ち手部分のようにも見える。

異質な形状へと頭部を変形させたヒロイシは、まるで大きな目のようなダイヤル部分をシロナへと向けた。

 

「な、何なのよそれは…!」

 

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