もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

240 / 551
第240話 「マスク」

ヒロイシの頭部は、まるでカッターナイフの持ち手部分を連想させるような形状へと変わった。その異質すぎる外見は、ヒロイシに対して怒りを覚えていたシロナの頭を冷やさせ、戦慄させた。

 

「な、何なのよそれは…!」

 

「やれやれ、ミルとアリーズは教えていなかったようだな。記憶兵器は肉体を武器へと変えて人造人間と戦うだろ?それは指先から腕など体の一部分だけで十分だが、我々は極限状態に追い込まれると体内に埋め込まれた”破壊屋の七つ道具”に眠る更なる武器の記憶を呼び起こすことで強力な戦闘能力を発現させることができる。その際に頭部の形状がそれぞれの武器に応じた外見へ変化する。最も、これは記憶兵器が決死の覚悟で戦闘に臨み、極限状態に陥った場合にのみ覚醒できる力だ」

 

「じゃあ、アナタのそれは一体?」

 

シロナはさらに質問を続けた。ヒロイシの変化の正体が極限で覚醒する記憶兵器の更なる力だとすれば、今のこの状況においてそれが目覚める意味がわからなかったからだ。

 

「…人造人間はこの60年間の間に、当時とは比べ物にならない程強く進化している。それは自分たちで自分の体を改造し、強化できるからだ。その間、私がただ何もしなかったとでも思うかね?そう、私はその極限状態で覚醒する記憶兵器の真の力を、好きな時に好きなだけ引き出せるように、体内のチップにプログラムを作って打ち込んだのだよ」

 

「そ、そんなことができるの…?」

 

「これは私の先代にあたる『カッター』の記憶兵器が進めていた研究だ。私はカッターを継承するとともにその研究を継ぎ、そして完成させたのだよ。素敵だろう、シロナくん…私は神に祝福されて記憶兵器となったのだ」

 

ヒロイシは言い終わると、頭部の形状を元に戻した。

 

「なんでここの研究員に記憶兵器が嫌われてたのかわかったわ」

 

シロナはカインの手を引いて部屋の隅に座らせ、ハンカチで顔を拭いてやったりする。その様子を見た後、ミルはヒロイシを睨みつけた。

 

「何か言いたいことでも?」

 

「いいえ。素敵な研究成果ですのね…ぜひその力で人造人間に破滅をもたらしてくださいまし」

 

「ふっ…君は相変わらず人をその気にさせるのがうまい」

 

ヒロイシは無表情でそう呟く。

 

「ええ、本当に…もしアタシが男だったらその気にさせられちゃうわァ」

 

「!?誰だ!」

 

その時、突然聞こえてきた声に対してヒロイシは声を荒げた。ミルとアリーズはようやくここで気付いた。既にこの研究所は人造人間に占拠されていることに。

 

「しまった…我々としたことが…」

 

アリーズがそう呟くが、もう遅い。

部屋の外の廊下から射す逆光の中に、すらりと背の高いシルエットが浮かぶ。

 

「な、何だ…まさか、あれが人造人間か…」

 

部屋にいた、ただの人間に過ぎない研究員たちは初めて目の当たりにする人造人間を前にして、よろよろと後ずさって腰を抜かしてしまった。

数体の配下の人造人間を従えた、スカール直属護衛軍のひとり、「アール」は記憶兵器とシロナ達の前に姿を現した。

 

「はァい、皆さんご存知、”アルティリヌス”こと『アール』でございまァす。どうやらここで面白い事をやるって聞いたもんでねェ…だから厄介なことになる前に死んでもらおうかしら」

 

ミル、アリーズは両腕をそれぞれの武器に変化させて臨戦態勢を取る。シロナは何もすることができないカインを庇うようにその前に立って格闘の構えを取った。

 

「いや、君たちは下がっていてくれ。私がやろう」

 

そんな中、ヒロイシがミルたちを押しながら前へ進み出た。

 

「あらァ、久しぶりじゃないヒロイシ…アナタみたいなカッコいい男が相手で嬉しいわァ。記憶兵器じゃなかったらペットにしてあげたいくらい…」

 

「気色の悪い事を言う」

 

その時、ヒロイシの構えた両腕がみるみるうちに形を変えていく。手の指が互いに融合しながら長く伸び、刃渡り1メートルほどにも及ぶ長剣となる。剣は直線的で鋭利な形状をしており、その見た目はまるで巨大サイズのカッターナイフの刃そのものだった。

同時にその頭部もドロリと溶けたかと思うと形を変えて再構成され、同じくカッターナイフの持ち手部分を連想させる極限状態の外見へ変化した。

 

「さァ、戦えぬ者は逃げるがいい!この私がコイツらの首を取る!」

 

「ひ、ひィィ!」

 

部屋に居た研究員たちは一目散に非常用ドアから逃げていく。アールのそばに控えていた手下の人造人間たちがそれを追おうと駆け出すが、ヒロイシは長い刃となった腕を広げて通せんぼする。

 

「お前たちの相手はこの私だろ?はやくかかって来いよ、削いでやる」

 

「ナメやがって…!」

 

「アルティリヌス様!我々にやらせてください!」

 

手下たちは口々にそう喚く。

 

「いいよ、やってみな」

 

そう許可の言葉を聞いた人造人間たちは一斉にヒロイシに襲い掛かる。彼らは体内に収納された刃物を露出させ、それを振りかざしてヒロイシを細切れにせんとする。

が、彼らの攻撃は空ぶった。今までそこにいたはずのヒロイシが、わずかな風を残してその場から消えたからだ。攻撃を仕掛けた人造人間たちは不思議に思い、後を向く。すると、ヒロイシは彼らの背後に背を向けて立っていたのだ。

ヒロイシはとんでもないスピードで瞬時に彼らの背後へ移動したのだ。

 

「…な、なんか変な感じだ」

 

そして、ひとりの敵がそう呟いた瞬間、ピッと顔から胴体にかけて斬り込みが走り、そのまま3枚オロシに切断されてしまった。ヒロイシは敵の間を通り抜ける際に彼らを斬っていたのだ。

バラバラになった人造人間たちが地面に転がり、まるで血のような黒い油を流して息絶える。

 

「ほお~~!いつ見ても惚れ惚れする剣さばきだわァ」

 

「手下は全部壊したぞ。次はお前の番だな、アール。…『狩る刃(ヤークト・クリンゲ)』」

 

キュ…

 

次の瞬間、一瞬にしてアールの横を通り抜けたヒロイシ。その際に斬撃を加えられたアールの服の肩の部分が裂ける。

 

「おおっ、あっぶな!」

 

アールは反撃として背後へ向けて回し蹴りを放ち、ヒロイシもそれに応戦する。

 

「みんな逃げたわ、君も早く逃げないと…」

 

シロナはヒロイシとアールが戦っている隙にカインを安全な場所へ避難させようと声をかける。

 

「…あれは…何?」

 

「え?」

 

カインはか細い声でそう呟いた。

 

「あれも…人造人間と同じだ。なんで、人造人間が人造人間と戦ってるんだ…?」

 

そう言われたシロナは思わず固まってしまう。目線をヒロイシが戦う様子へと向けてみると、頭部を人工物の形状に変え、怪物のような風貌で戦うその姿と様子は、とても人間のようには見えなかった。

 

「どうした?私の『狩る刃』の前に手も足も出ないか?しかし、これでトドメだ」

 

ヒロイシはカッターの腕を腰の横まで引き、居合いのように引き抜きつつ高速で移動し、その刃をアールの胸に向けて伸ばす。

 

メキョ…

 

しかしその時、アールの放った裏拳が高速で横を通り抜けようとするヒロイシの顔面にめり込んだ。

 

「バカな…」

 

アールの手下では認識できなかった程の速度で動いたにもかかわらず、アールは的確に攻撃を繰り出して命中させた。流石はスカールに直接仕える護衛軍の一員だが、あまりにも簡単に一撃をもらってしまったヒロイシは口から血を垂らしながら困惑する。

 

「ありえない…この私がそんな攻撃を受けるなど…!」

 

「人間は斬られるでも撃たれるでもなく、殴られるのが一番屈辱だって言うわね。だからそうしてやったのよ」

 

ヒロイシは腕を振るって斬撃を繰り出し、アールはそれを躱して後ろへ飛びのく。すかさず居合でそれを追うヒロイシだが、直後に伸びてきた長い足による蹴りを顎へ受け、そのまま吹っ飛び天井に激突する。

 

「ぐは…!」

 

床に落下して倒れたところにアールが覆いかぶさるように飛び乗り、渾身のパンチでヒロイシの頭部の装甲を砕き、破壊した。ヒロイシはぐったりと動かなくなり、変身を解除してしまう。

 

「口ほどにも無かったわねェ」

 

そう言いながら、アールは手に付いた血をピッと飛ばして払う。

 

「ねぇ、シロナとか言う子…そろそろ戦いましょうよ。アタシはエースを倒したアンタと戦ってみたかったのよね」

 

アールはシロナに対してそう声をかける。

 

「…私は正直、迷っていた。本当に人造人間ってのは悪い奴らなのかって…人造人間を破壊することで、誰か悲しむ人がいるんじゃないかって」

 

シロナの脳裏には、この研究所に来る道中で戦った人造人間の事を思い浮かべていた。確かにあの人造人間は悪い奴だったかもしれない…だが、彼女を殺したことでツレの男性は悲しみを感じていたことだろう。

 

「記憶兵器も嫌いだが…そもそも記憶兵器が生まれるきっかけになったのは、お前らだ。だから私はお前らを許さない…これ以上、悲しむ人がいなくなるように、私は戦う!!」

 

シロナの黒髪が赤く染まり、静電気を帯びたように逆立ち、眼の色が黄色く変色する。そして腕と拳の皮膚がダイヤモンドのように硬化し、その顔も同様の結晶のような鎧に纏われる。そして額から鼻にかけてがサメの頭部を思わせるように尖って伸び、頬の肉がなくなって歯が剥き出しになる。

 

「ウラアアアア!!」

 

「おほほほほ!いいわァ!いいわよアンタ!」

 

そのままシロナは魔法で硬質化させた拳を振るい、アールとの激しい肉弾戦を展開する。

 

「今、分かった…」

 

アリーズが呟く。

 

「何故、ヒロイシのように極限の力を呼び起こした記憶兵器の顔は形を変えるのか…何故、シロナちゃんは顔に硬質化した結晶を纏うのか。それは、どうしようもなく辛い事があった時、人は素顔や表情を隠したくなるから。固まった顔は表情を持たず、唇のない口は動かない。村にやって来た旅人もそうだった…顔を隠してた。自分がどんなに辛くても、それを顔に出さず隠しながら他人の為に戦う…それが、シロナちゃんが戦う道を選んだ理由なのかもしれません」

 

 

 




一応、今のシロナについて振り返りの解説を。

・ヴァンパイア王国の戦いから2年が経っており、現在14歳。
・自分の名前以外の全ての記憶を忘れている。
・サイヤ人の尻尾は消失している。
・魔理沙の血液とパチュリーの魔力がその身に流れていることにより、サイヤ人と博麗の巫女の力を持ちながら魔法使いとしての能力も備えている。
・”怒り状態”を魔法で強化した形態、”怒り状態・魔強化”に変身ができる。この形態に変身すると、髪が赤く変化する。
・「肉体の硬質化」の魔法を使う。
・移植されたゴルゴンの腕が体に完全に馴染んだ影響で、ある程度の傷ならばすぐに再生可能。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。