もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第241話 「ボマーアンドロイド」

「…よっこらせ」

 

隣の部屋でアルティリヌスを初めとした人造人間たちと、ヒロイシらを初めとした記憶兵器との戦闘が勃発したころ。人造人間につい最近滅ぼされた村の生存者だというケニーという老人は、戦闘の衝撃による強烈な揺れと音を感じると、よろよろと杖を突きながら立ち上がり、窓を外を覗き見た。

 

「ひいいい!」

 

「キシィィ…」

 

そこには、研究所を防衛しようと駆り出された兵隊たちが人造人間と戦闘を行っていた。しかし、いくら最新の重火器で武装した兵士と言えど、優に人間を超越し、人知を超えたパワーを発揮する人造人間を相手に手も足も出ず、既に追いつめられている状況だった。

 

「やれやれ」

 

老人はそう呟くと、なんと開けた窓から外へ飛び降りたのだった。

 

 

 

シロナは素早いパンチを繰り出すが、アールは首を傾けてそれを躱す。続けてシロナは無数の拳のラッシュを放ち、連続的に襲い掛かる拳で壁を作り出してアールを押しつぶそうとする。

 

「ウラウラウラウラウラ…!」

 

「へぇ、はやいはやい!」

 

口ではそう言って驚く様子を見せながらも、なんとアールはそのすべてに的確に拳をぶつけ返して全てを防ぐ。両者の拳と拳の間に無数の火花が散り、固い石と金属がぶつかり合うような音が幾重にも響き渡る。そして、シロナの攻撃の中に見た一瞬のすきを見て、アールはシロナの肩を軽く手で押してバランスを崩させる。

躓いて後ろへ上体を逸らすシロナだが、その直後に不意打ちのキックを放った。が、アールは手でそれを押さえ込んでいる。

シロナは類を見ない格闘のセンスで人造人間との戦いを勝ち抜いてきたが、そのシロナでも軽くあしらわれるほどの格闘能力を持つアール。

 

「どうしたの?まさかこの程度じゃないでしょ」

 

アールは掴んだシロナの足にギリギリと力を籠める。

 

「…ッ!」

 

シロナは歯をむき出した大口を開け、アールの顔面に噛みつこうとする。アールは間一髪それを避け、手を離して後ろへ下がる。

 

「うっひょーアブねー!」

 

笑いながら余裕あり気な様子のアール。シロナは右手に魔力を込めると、そこへ全身の硬質化を集中させてさらに強固な結晶で覆われた拳を作り出す。それを素早く前へ突き出し、アールの顔面を狙う。

アールはまたしてもギリギリのタイミングで顔を逸らしてそれを躱してしまう。しかし、それでも先ほどよりもスピードも威力も増した一撃を前に、掠った頬の外皮が剥がれて散った。

 

「素晴らしいパンチね、それならエースを倒したってのも納得できるわ。でもォ…アタシはエースより、強いのよ」

 

アールはカウンターのパンチを繰り出す。それは簡単にシロナへの接触を許してしまい、そのパンチはなんと命中したシロナの顎を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

 

「ア…ガ…!」

 

下顎がなくなり、舌をだらりと垂らしたまま、シロナはその場であおむけに倒れ込んだ。

 

「シロナちゃん…!」

 

その様子を見たアリーズはすぐに彼女を助けようと足を踏み出すが、ミルに後ろから襟を掴まれて止まった。

 

「エースを倒したって言うからどんなもんかと思ったけど、アタシの敵じゃなかったわ。それで、アンタたちはこれからどうするの?」

 

アールはミルとアリーズに向き直りながらそう言った。

 

「そうですわね…」

 

ミルは倒れたまま動かないシロナをチラっと見る。

 

「そのシロナとヒロイシを失うのは我々にとって大きな痛手なのですけれど…仕方がありません、我々は撤退するしかなさそうですわね。逃げてもよろしいですの?」

 

「ちょっと、ミル…!」

 

それを聞いたアールは少し考えてから、目をつぶってクスクスと笑う。

 

「ごめんねェ、どうするの、なんて意地悪な聞き方だったわ。アンタたちにはこれからどうするかなんて選べないのよ。ここでアタシが始末しちゃうから」

 

「それは残念」

 

ミルが両腕をドリルの形状へ変形させると、アリーズも両腕から鋸の刃を生やす。それを見たアールが素早く前へ駆け出すと、ミルも前に出てアールの振りかぶった腕にドリルを当て、そのままの体勢で固定させる。それ以上腕を前に出せなくなったアールが怯んだ隙を見て、サイドから迫っていたアリーズが巨大な鋸を振り下ろす。

 

「おおっと」

 

だが、横に目を向けずともそれを既に見切っていたアールは柔軟な身体から繰り出す蹴りで鋸を受け止め、ミルの服の襟を掴むと、そのままミルを引っ張ってアリーズの鋸の刃先に顔をぶつけようとする。

アリーズは慌てて刃の側面を向け、ミルが真っ二つになるのを防ぐ。しかし、その間に既にアールはアリーズの懐へもぐりこんでおり、彼女の背中に手を添えると、反対の腕で鳩尾に強烈なパンチを浴びせた。アリーズの足が床から浮かび上がり、背中から螺旋状の衝撃波が貫通するのが見えた。

 

「がはっ…!」

 

そして、次にミルへと狙いを定め、素早く殴りかかる。

 

「くっ…!」

 

ミルはドリルの腕を回転させながら突き出し、アールの拳とぶつけて攻撃を防ごうとする。

しかし、破壊されたのはミルのドリルの方だった。アールのパンチはドリルをその切っ先からバキバキと粉々に打ち砕き、そのままミルの顔面に拳を叩きつける。そして前へ出した足を踏み降ろし、ミルの腿をへし折った。前へバランスを崩すミルの顔の前に膝を差し出し、それを顔へ強打させる。

 

「『暴君の巨鋸(テュランノス・ソー)』…!」

 

しかし、倒れながらもそれを見ていたアリーズは腕の鋸を床に突き刺し、中で移動させてアールの足元から突き出した。鋸は巨大な樹木のように枝分かれしながら上へ伸びていくが、アールは間一髪でそれを躱し、鋸にしがみついていた。

 

「うっひゃー!」

 

そのまま滑り降りて行き、驚いたまま固まったアリーズの脳天へ踵落しを喰らわせた。とてつもない衝撃が響き渡り、アリーズは白目をむいたままその場で気絶した。

立ち上がるアールであったが、直後にその聴覚は何か金属が擦れるような音を聞き取り、咄嗟に背後へ向かって蹴りを繰り出した。

 

「アンタ…!」

 

「ガアアアアア!!」

 

そこには先ほど倒れたヒロイシが立っていた。再び頭部はカッターナイフの持ち手の形状に変化し、両腕には刃を纏っている。ヒロイシは雄叫びと共に一閃を放ち、斬撃を飛ばす。それはアールの足に深い切り傷を作り、間一髪で胴体や顔への命中を防いだ。

アールは後ろへ飛びのき、そのまま床を蹴ってヒロイシへ接近し、その胸へ膝蹴りを叩きつける。口から血を吐き出すヒロイシだが、腕を振るって刃を向ける。

 

「さすがは記憶兵器…アタシたちへの執念は伊達じゃないか」

 

ヒロイシの腕を掴み、投げ飛ばして壁へぶつける。ヒロイシは再び動かなくなってしまう。

だがその時、また別の影がアールの前へ立ちはだかった。シロナだった。その顎は蒸気を吹き上げながら修復されている途中だったが、顔に結晶の兜を纏ったままアールを睨んでいる。

 

「しつっこいわね…」

 

その後、アールは周囲を見渡しながら少し考え、にやりと笑った。

 

「ま、いっか。ここにいる全員を殺せばいいわけだし…アタシの奥の手を出して片付けちゃおうか」

 

その時、アールはそう言いながら口を開け、服の袖をまくり上げると長い舌で自分の腕の肘から指の先までを舐めた。腕中に唾液がまとわりつき、それが光を受けててらてらと光っている。

突然の意図不明な得体の知れない行為に、シロナは手を出さずに警戒している。

 

「ふっふっふ…てや!」

 

アールは指先から滴る唾液を飛ばし、それはシロナの足元に付着した。

 

「…ッ!?」

 

ボッ!

 

いや、それは唾液ではない、何か別の液体だった。その液体は緑色で、床に付着したとたんに見る見るうちに黄色に変わり、その後赤色になった瞬間、小さくも高威力の爆発を起こしたのだ。

その爆風から腕で顔を守ったシロナが吹っ飛ぶ。アールはそれを追い、緑色の液体に塗れた拳を振りかざす。シロナは身をひるがえしてそれを躱すが、空ぶった拳は自分のすぐ後ろにあった壁を殴る。その際に壁に付いた液体がまたも変色し、赤くなった瞬間に爆発した。シロナは炸裂するコンクリートの破片を受けるが、堅く硬質化した体のおかげでダメージを受けなかった。

 

「驚いたかしら?アタシの身体にはね…アタシの唾液で活性化するバクテリアが棲んでるのよ。これは身体を離れてから一定時間が経過すると死んでしまうのだけど、その際に破裂するってわけ」

 

アールの額からも液体が流れ出し、腕にまとわりついている液体もまるで生き物のように蠢きだす。

 

「ウラアアアアッ!!」

 

そして、既に顎を再生し終えたシロナと、奥の手を発動したアールとの最終ラウンドが始まった。

 

 

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