もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第242話 「爆・斬」

シロナは硬質化を集中させた拳で、アールの腹目がけて攻撃を放つ。しかし、アールがそれを緑色の爆液に塗れた手で受け止めようとしているのに気が付くと拳をひっこめ、後ろへ飛びのく。

 

「チッ、あれがどうしても厄介だ…!私の硬くなった体でも防げるかどうか…」

 

「あらァ、逃げないで!その小さい体を抱かせてちょうだいよ」

 

「やってみろオラァ~~~~~!!」

 

距離を置こうとするシロナを追って移動するアールは、腕を振って爆発する爆液を飛ばした。その”爆液”はシロナの足元に付着し、直後に大きな爆発を起こす。

 

「あっ!?なんかずるい!」

 

その勢いで窓を突き破って研究所の外へ落下を始めるシロナ。爆発をもろに受けた右足は焼けて変な方向へ曲がってしまっていた。途中で硬質化した指を壁に食い込ませて落下を止めるが、その直後に上から降って来た大量の爆液に気付き、それを躱そうと体をくねくねと激しく動かす。

 

「うおああああ…!」

 

「何よその動き!」

 

その時、爆液に隠れながら落ちてきたアール本体の肘打ちを脳天へ受けてしまうシロナ。

 

「うぎぎ…!」

 

その場で悶絶し、思わず手を離してしまう。再落下を始めるシロナだが、その隙に既に彼女の下へ移動していたアールのアッパーが腹に食い込み、その勢いのままに上空へ打ち上げられる。その際に腹に付着した爆液が赤くなり、その直後に爆発を起こす。

 

「えぇ…?」

 

ロケットのような勢いでさらに吹っ飛ばされるシロナだが、自身のすぐ近くで爆発を起こしてその爆風を利用し一瞬で追いついてきたアールの姿を見て困惑の声を漏らした。アールは両手を合わせた拳を作り、それをシロナの背中へ叩きつけて地面へ向けて打ち落とした。

背中を中心に満遍なく塗られた爆液はシロナが地面に激突するまでに3回の爆発を引き起こした。

 

「…流石に死んだ?」

 

アールは地面の上でズタボロになって横たわるシロナにそう聞いた。

 

「そっっっんなわけないでしょ!」

 

そう言いながらガバッと起き上がるシロナだが、その直後によろけてしまう。顔に纏った硬質化の鎧は右半分が砕けて無くなり、鼻からは血の筋が流れていた。頭の中で巨大な鐘でも鳴っているかのような頭痛を感じる。

 

「でもォ、そう言う割にはもうやばいんじゃない?」

 

「ああ~~ヤベェな!」

 

フラついて膝を地面につくシロナ。

 

(これは爆発のダメージじゃない…てかあの爆発うるさすぎ!毎回毎回耳元でガンガン音出しやがって…その所為で頭が猛烈に痛いわ…)

 

「トドメといこうかしら」

 

そう言いながらアールはシロナに殴りかかる。シロナはおぼつかない足取りで何とかそれを躱す。

アールの一撃はすさまじく重く速く、おまけに例の爆発の威力を加味すればそれはさらに凶悪な戦闘力を発揮する。肘の先で爆発を生じさせればその勢いによってパンチはさらに強く素早く放たれる。その実力は、本人が言った通りあのエースよりもずっと格上だ。シロナはこれほどまでに強い相手と戦うのは、今残っている記憶の限りでは初めてだった。

しかし、彼女は頭の中に何かが引っかかっているのを感じていた。

 

(前にも、こんなヤツと戦ったような…?)

 

その時、シロナの頭の中に自分の知らない光景と人物が少しだけ流れ込んできた。その人物は主に殴りによる格闘戦を主軸とし、拳で殴った箇所に結晶を発生させ、その結晶は数秒の間を置いて炸裂する。

 

(あの時は…どうしたんだっけ…?)

 

シロナはその記憶を隅々まで懸命に頭の中で繰り返す。

 

(そうだ…あの時は確か…)

 

「…簡単なことだった!」

 

シロナは大声でそう叫び、アールのパンチをしゃがんで躱す。そして、アールの脇の下から腕ごと上半身を抱え込み、そのまま投げ飛ばした。

 

「な…!?」

 

(あの時は確か…)

 

「チィィ、今のは偶然よ!」

 

そう言いながら、アールは再び猛然と襲い掛かる。

 

(簡単な事だった…あの時は、ソイツよりも速く動いた!ソイツが何かに触れるより、何かをする前にこっちから攻撃をする!)

 

「え?」

 

次の瞬間、思い切り前へ踏み込んだシロナはアールの眼前へ急接近し、その顎を渾身のパワーで殴り抜けた。アールの足が浮かび上がり、アールは慌てて体勢を立て直そうとする。

が、すぐさまシロナの蹴りを膝に受け、ガクリと前へ倒れそうになる。そのままシロナはアールの顔面を殴り、さらに次々とパンチをヒットさせていく。

 

「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ…!!」

 

(な、なんで…!?速すぎる…この私が何もできないなんて…!)

 

「ウラアアッ!!」

 

シロナはトドメの一撃と言わんばかりの正拳突きを繰り出し、アールの胸に命中させて吹っ飛ばす。アールは何とか踵を地面に食い込ませて勢いを殺そうとするが、たまらずに背中から地面に倒れてしまう。

 

「うぐ…!」

 

シロナが全身の硬質化を集中させた拳を振りかぶっているのが見える。流石のアールでも今の状況ではあの攻撃を避けられない。もうやばいかと思ったが…

 

ピシッ

 

「げ!?」

 

その時、なんとシロナの拳の表面の結晶がひび割れ、そのまま砕け散った。同時に顔や全身の硬質化も解かれ、その身体には一気に疲労と魔力の行使による反動が襲い掛かる。

 

「こんな時に…電池切れ…」

 

アールはすぐにシロナを蹴り飛ばし、吹っ飛んだシロナはそのまま気を失う。

 

「あはは…なにをマジになってんのよ、アタシったら…。ま、これならイチコロでしょ」

 

そう言いながら、大量の爆液に塗れた拳でシロナの顔面を潰そうと構える。しかし、突然上空から高速で伸びてきた何かの接近を感知し、咄嗟にその場からジャンプして離れた。

 

「なに…!?まさか…」

 

上空から、巨大な鋸が落ちてきて今までアールが立っていた地面に突き刺さった。そして、その影に隠れていたふたつの影がキリモミ状に回転しながらアールへと迫る。

 

「ッ!」

 

アールは迫りくるドリルを躱し、続いて放たれた斬撃を避ける。

 

「アアアアアアアア!!」

 

「ヤアアアアアアアア!」

 

ミルとヒロイシは修復しかけのボロボロの肉体でアールへと肉迫する。

 

「…そんなに叫んで、何の意味があるってんのよ…」

 

そう静かに呟きながら、アールは攻撃を受け流しつつミルとヒロイシを殴り飛ばす。しかし、そこへアリーズが加わり、三人は同時に別方向からアールへと攻撃を喰らわせようとする。

 

 

────

 

「ああ…せっかく気に入ってた自作のティーカップを割ってしまったわ」

 

そう言いながら、スカールは割れたカップを片付けながら呟いた。その眼には心なしか涙が溜まっているように見える。

その様子を物陰から見ていたアールは、涙を浮かべる自分の主を見て内心穏やかではなかった。

 

(スカール様が泣いてらっしゃる…あの涙という液体が分泌される時は、精神状態が乱れている時よね。原因はお造りになった作品が壊れてしまったせい…何とかしないと!)

 

 

数日後…

 

「スカール様、先日破損したティーカップですが…昨晩、作業場をお借りしてなるべく元の物に近いものを作ってみました。破片の情報をもとに復元いたしましたので、粘度や焼成温度などはすべて同じになっているはずです」

 

アールはそう言いながら、スカールに復元したカップを差し出した。

 

「えっ!?作ってくれたの?」

 

「は…もしや、余計な世話焼きでしたか…?」

 

「いいえ、私はとっても嬉しいのですよ」

 

そう言いながら、スカールはにっこりと微笑んだ。その笑みを見たアールは何とも言えない至福の感情に心を満たされ、彼女も自然と笑みをこぼした。

 

「でも、作ってくれたのは嬉しいのだけれど…この取っ手部分はしっかり作り過ぎですね。もう少し不安定さがある方が美しいかも」

 

「そうですか?先日は取っ手の破損によってカップを落としていましたので、そうならないようにと…」

 

「違うんだよねぇ~!そういう非対称とか非幾何学的なところに美は生まれるのですよ」

 

「す、すいません、ワタクシにはよくわかりません…」

 

アタシは、スカール様の笑顔が好きだった。あの笑みを向けられると、なぜかこちらも胸の内がポッと熱くなるような不思議な感覚に包まれる。

…しかし、ある時を境に、スカール様が笑わなくなられてしまった。アタシたちがどんなにスカール様を喜ばせようとしても、決して何も表情を変えず、何も言わない。まるで感情というものが消失してしまったかのようだった。当然、あの好きだった笑顔も少しも見せなくなった。それはある村を襲撃し、ドラゴンボールを奪った時からだった。

そしてある時、スカール様はおひとりになったところを人間たちに襲われ、あわや「停止」しかけるほどの大怪我をなされた。それによりお体の大部分を失われた事がショックだったのか、それ以降スカール様は自室に閉じこもったまま我々にお姿を見せてはくれない。

 

…人間ども、特に記憶兵器よ…アタシはお前たちが憎いわ。大好きだったスカール様から笑顔を奪ったその罪、いつの日か償わせてやる…お前たちからも、感情を奪ってやるわ。

 

 

 

「だから!そんなに足掻いて…何の意味があるってんのよ!!」

 

アールはそう叫びながら両腕を地面の中に突っ込んだ。そして腕から流れ出る一際強力な爆液をぐんぐんと流し込み、地中に浸透させる。結果、地面は真っ赤に変色して割れ、その隙間から次々と爆発が噴き上がる。

その圧倒的な威力を誇る爆発に巻き込まれた、ミルとアリーズ、ヒロイシは再度ボロボロになり、吹っ飛ばされる。中でも真正面からの直撃を受けたヒロイシは、まるで地雷を喰らったように腕が千切れ飛んでしまう。

ベチャッと音を立てて、ブレード状に変化させたままの腕が落ちる。ヒロイシはその場に落下したまま気絶し、ミルとアリーズも腹から血を流したまま動かない。

 

「…あ~あ、かわいそうに」

 

ボロ雑巾のように横たわる記憶兵器たちを見て、静かに呟くアール。

…だがその時、ふとした違和感に気付いた。あまりにも周囲が静かすぎる。確か、自分が引き連れてきた手下の人造人間たちを警備制圧のためにこの辺りに配置していたはずだ。だというのに、一体も手下の姿が見えない。

 

「アタシの手下たちは…どこ?」

 

そう言いながら辺りを見渡すアールの後ろで、ひとりの老人がゆっくりと歩いていた。それはあのケニーだった。ケニーは千切れ飛んだヒロイシの腕を拾い、刃を腰に構える。

そして、アールの目の前を一瞬にして通り過ぎていった。

 

「え?」

 

突然、アールの両手の指がすべて切断される。新たな敵…伏兵…別の記憶兵器──!?そう考え、咄嗟に臨戦態勢に入るアールだったが、その向こう側ではケニーが既にもう一度斬撃を放つ準備をしていた。

 

「…うおおおおおおおおお!!」

 

アールは雄叫びを上げながらケニーに殴りかかるが、既にケニーは自分の背後に移動していた。

 

ザンッ

 

そして拳を繰り出したはずの左腕は細切れに切断され、サイコロのようになって地面にバラバラと落ちる。

 

(次が来る──)

 

アールは再び斬撃の構えを取るケニーを見て、全身の神経を防御へ集中させる。全身がびしょ濡れになるほどの爆液を身に纏い、触れられた瞬間爆発を起こし敵ごと剣を吹き飛ばすつもりで敵の攻撃を防ごうとする。

しかし、次の瞬間、アールの視界は真っ暗になった。自分の頬を爆破液とは違う液体が流れていくのがわかる。

 

(何だ、何も見えない!まさか、目をやられたの?)

 

そう思考を巡らせるアールだが、その瞬間に足元の感覚がなくなり、バランスを失った自分の体がガクンと前へ倒れていく。

 

(足が──)

 

続いて、なんと両足の足首を切断されていた。うつぶせに倒れ、顎を地面に強打したアールはその場から動くことができない。その間にも、ケニーは更なる一撃を放つだろう。

 

(まずい、動けない──)

 

残された右腕を地面に突っ込んで、先ほどのように地中からの爆発を敵へ浴びせようとするが、その腕さえも斬り落とされてしまった。

 

「うわああああああああああ!!」

 

どうしようもなく恐怖の悲鳴を上げるアール。彼女にトドメを刺そうと、ケニーは一閃を放つ。アールの指を斬り落として動揺を誘い、目を斬って視界を奪い、足を斬って体勢を崩し、両腕を斬り落として攻撃と防御の手段を奪い、最後はその首を刈り取るだけ。

 

「…!?」

 

しかし、その時だった。遠くから飛んできたタコのような生物がアールに巻きついた。そのタコはケニーに向かって口から黒い煙幕を吐き出し、それを周囲にもまき散らす。

ケニーは煙幕を斬り払い、続いて斬撃を振るう。しかし、既にそこにはアールの姿は無く、斬られたタコの足だけが一本、転がっているきりだった。

 

「…逃げられてしもうたわい」

 

 

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