もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第249話 「ハッチャン 其の弐」

その日の夜。先日の聖地カリンにジュラ隊が出現したのに続いて、この町でも人造人間らしき存在の仕業と思われる事件が多発しており、独自に調査に乗り出していたミル。

 

「人を殺し、その眼球を集めて回る怪人…」

 

警察が取り調べている殺人現場に足を運んでいたミルは、辺りに付着した血痕を見ながらつぶやいた。

 

ゴッ…

 

その時、遠くから何か硬い物が叩きつけられるような音を聞いたミルは、急いでその場へ向かう。両足を渦状のドリルに変え、そのバネの力を利用して高速で建物の上を移動しながら。

音がした方へと到着したが、既に遅かった。人通りの少ない土手道の街灯の下で、大柄な男が何か小さな物体を指でつまんでいた。その足元には、頭と胸を押しつぶされた女性が横たわっており、その顔からは眼球が抜き取られていた。

 

「今度こそ、この目が…」

 

そう言いながら、大男は目玉を巾着袋の中にしまい込む。

 

「遅かったですわ…」

 

だが、ミルは大男の目の前に回り込み、ドリルと化した右腕を構える。

 

「人の眼球を集めて何をするのかはわかりませんけれど、この場で破壊しますわよ…人造人間」

 

「えへへ、無理だなぁ」

 

その人造人間こそ、昼間にシロナと出会ったハッチャンその者であった。ハッチャンは不敵に笑いながら、血に汚れた両手を広げる。

ミルは地面を蹴って飛び出し、ドリルでハッチャンを貫かんばかりの突撃を仕掛けた。

 

「…!?」

 

しかし、ハッチャンはその巨体に見合わぬスピードでその一撃を躱し、腕を振るってラリアットをミルに叩きつけようとする。ミルもすんでのところでドリルに変えた右足で蹴りを繰り出し、その手をはじき返す。

 

「お前、ただの人間じゃないな。じゃ、オレも本気出す…」

 

ハッチャンは続けて上方向からのパンチを放ち、ミルは何とか身をひるがえしてそれを避けるが、外れたパンチはアスファルトを砕いてその下の砕石や地盤を隆起させた。飛んでくるアスファルト塊から身を守るためにドリルを展開するミルだったが…その背後に既にハッチャンが回り込んでおり、迫る大きな手に頭部を後ろからがっしりと掴まれた。

 

「しまった…!」

 

ミルは簡単にひょいと持ち上げられ、頭と胸を握力で締め付けられる。肉が圧迫され、骨が軋んで体が悲鳴を上げ始める。

 

「う…ぐ…!」

 

「へへへ…潰れろ~」

 

「やめろォ!!」

 

その時、遠くから走って来たシロナがハッチャンに飛びかかり、その顔面に拳を叩きつけた。が、ハッチャンは羽虫を払うようにシロナを吹っ飛ばし、顔の殴られた箇所を手で押さえる。

 

「ミル、大丈夫?」

 

「余計な心配…ですわ」

 

しかし、ミルはそう言いながらも口からは血を流し、息がヒューヒューと掠れている。

 

「へへ…新手が来たか」

 

シロナがミルと戦っていた相手を改めて見ると、それが昼間に病院で会ったハッチャンだと気付く。その手には例の巾着袋が握られ、その中には黒くしぼんだ物体が入っていたからだ。

 

「お前、今日ベンに会いに来なかった…?」

 

「…ベン」

 

ベンの名前を出されたハッチャンはそれまでの様子とは打って変わっておとなしくなる。

 

「やっぱりそうなんだね!?お前、ベンに何しようとしてるのよ!」

 

「…ベンの目、よくする」

 

 

──オレは10年以上前、戦闘用の人造人間としてレッドリボン軍で生まれた。でも、戦うの好きじゃなかったオレはいつも閉じ込められてた。

オレ、ある時に軍の人間たちと一緒に寒い村へ行った。探し物するために、軍の人間は村の人間を苦しめてた。でもレッドリボン軍の総本部が破壊された知らせが届くと、オレは軍の人間懲らしめた。それを気に入ってくれた村長は、人造人間だったオレと一緒に暮らしてくれた。

 

 

「…すごく楽しい時間だった。アイツらが来るまでは…」

 

 

オレが猟を終えて帰ると、村が無くなってた。そして、そこには人造人間1号…スカール様とその護衛軍たちがいた。オレ、それまでアイツらの事、全く知らなかったけど…絶対にスカール様に逆らえないって理解した。オレはスカール様と護衛軍への服従のしるしとしてもっと強い力貰った。その後は自由だった。オレは村の事を、人間の事を忘れようとして世界中の山を移動しながら暮らしてた。

 

 

「春も、夏も、秋も冬も…草も石も木も動物もいいけれど…やっぱり、人間と一緒に居た楽しい時間、忘れられなかった…」

 

 

『お父さん…?』

 

そんな時、オレは出会った。山に飛行機が落ちてきた…火の手が上がる場所へ行くと、泣いている子供がいた。子供はオレのことお父さんって呼んで…

 

『お父さん、これは…?』

 

『食べろ』

 

『…うん、おいしいな…』

 

 

「オレ、ベンが笑うと…なんか、うれしいんだ。へへ…」

 

 

『お父さん、目が痛いよ…』

 

オレ、ベンの目は治せない。治すには、人間にやってもらうしかない。治ればまた会える…そうすれば、またベンはオレのことお父さんって呼んでくれる…

 

 

─────

 

「なるほど。ベンの目はとっくに治ってると思ってはるばる見てみたら、まだ治っていなかった…。でしたら他の人の目をベンにやれば治ると思ったと…」

 

ミルがそう分析する。

 

「そんな…」

 

「へへ、目なら集めた。ベンの目、いいのと取り換える…」

 

「ダメだよ、ハッチャン…ちゃんと手術をしないとベンの目は治らないよ…」

 

「手術!ベンは怖がる!オレも手術怖かった!!」

 

ハッチャンはそう言うと、もう一度地面を殴り、すさまじい威力の衝撃波を発生させた。シロナとミルが怯んでいる間に、既にハッチャンは電柱を渡ってかなり遠くの方へと消えてしまっていた。

 

「逃げられましたわ。これ以上、目を奪われる犠牲者を出してはなりません。シロナ…貴女が何とかしてみなさいな」

 

「…そんなこと、言われても…」

 

(ハッチャンは心優しい人造人間だった…でも、スカールや護衛軍に捕まって凶暴な一面を持つように改造されたんだ。確かにヤツは大勢殺した…だけど、どうすればいいのよ…」

 

 

 

──ベンの手術前日…

 

「いよいよ明日だね…手術」

 

ベンの病室に見舞いに来たシロナは、そうベンに話しかけた。

 

「うん、でも森の中のお父さんが待ってるから怖くないよ…」

 

「その、ベン…君の叔父さんが引き取ってくれるらしいけど…やっぱり、そのお父さんの方がいいのかい?」

 

「うん。だって、森のお父さんは優しかったもん」

 

 

『明日は遠足なんだよ!となりのおばさんがお弁当を作ってくれて…』

 

『うるさい!早く寝ろ!』

 

 

…『これ、食べろ…。寒くないか?あったかくしてろな…』

 

 

「森のお父さん、お酒飲まないからいつも一緒なんだよ。僕と別れる前に言ってくれたもん」

 

 

…『ベンの目が良くなったら、またここでお父さんと一緒に暮らそう…』

 

 

「僕、森の中のお父さん好きだもん」

 

ベンの笑顔を見たシロナは胸の服をぎゅっと掴んだ。

…ハッチャン、本当にそう思ってたのかよ…。目が良くなったベンの前に現れて、お前がお父さんだって言っても、それでどうにかなるわけないだろ…!

 

 

 

…迷うシロナに与えられた新たな試練…。お互いに、一緒にいることを望んでいるベンとハッチャン。だが、そんなことは許されるはずがなかった。

 

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