今、人造人間と呼ばれる存在が世界中に散らばっており、彼らは人に災いをもたらしながら動き続けている。そんな彼らを破壊し、人の世を人造人間による災厄から救うために日々たたかい続ける者たちが居る。
その名を、人は「記憶兵器」と呼ぶ…
「シロナ、今日は極秘の任務の為にここへ来ましたのよ」
「分かってる…」
淡々と言葉を投げかけるミルと、汗を流しながら目の前の光景を見つめるシロナ。ふたりからはただならぬ緊迫感が漂っている。
「あまりの光景に愕然としているようですわね」
「当たり前でしょ…」
「こういった場所に来るのは初めてですものね。この熱気と、人々の声…」
「うん…。でもさ、ここって…」
シロナは目の前を指差し、大声で叫んだ。
「海!!しかも海水浴場じゃん!?」
そう、そこには大勢の客でにぎわう海水浴場があった。さんさんと照り付ける太陽、熱気を放つ砂浜、家族や仲間同士で楽しく過ごす人々の声。
「そうですわね。極秘の任務とは休むこと。たまには休暇を取るのもいいかと思いまして」
腰にスカーフをまいたビキニの水着姿のミルはそう言いながらかけていたサングラスを外した。
「まさか、常夏のリゾートにおもむいた理由が海で遊ぶことだったなんて…」
この海岸はとある島の有名なリゾート地で、一年中海水浴を楽しめる温暖な気候となっている。
そしてそう言うシロナだったが、当のシロナもきっちりと水着に着替えているので楽しむつもりはあるようだ。
「ねぇミル、お腹すかない?先に何か食べたいんだけど…」
「なるほど。でしたら、とっておきの方法を教えて差し上げますわ」
「方法?私は何か食べたいだけなんだけど…」
「うふふ、まあ見てなさいな」
ミルはそう言うと、困惑しているシロナを置いて歩き出す。そして周囲を見渡し、何かを見つけるとそこへゆっくりと歩み寄っていく。
「きゃっ!」
ミルはわざとらしく小さな声を上げ、背中を向けていた男性に寄りかかる。驚いた男性が振り向くと、流れるように手慣れた自然な挙動でその男性の腕の中に収まる。
「き、キミ!?大丈夫かい?」
男性が心配する声をかけると、ミルは紅潮した顔で額をぬぐう。
「申し訳ありません…普段はあまり外に出ないものですから、強い日差しにやられてしまいまして…。大変申し訳ありませんが、私を日陰のある場所まで運んでくださいませんか?」
「えぇ?まあ、別に構わないけど…」
「ありがとうございます。ああ…その前に、少し体を冷やしたいので冷たい食べ物を頂きたいのですけれど…そうですね、かき氷のようなものがあれば…」
「わ、わかった!すぐに買ってくるよ!」
男性はひとまずミルを日陰に座らせると、出店の並んでいる場所へ向かって走っていく。それを見届けたミルはシロナの方へ向いて「どうかしら?」と言いたげに軽くウインクをして見せた。
「ミル、すごいな…。よ、よぉ~~し、私も…」
シロナも恥ずかしい感情を押さえながら勇気を出し、ガッチリした後姿が漢らしい男性を見つけると半分体当たりするような勢いで向かっていく。
「あれー!おかしいなー!急に目まいが…」
そう言いながらその男性の背中に寄りかかるが、振り向いた男性の顔を見たシロナはぎょっとした。
「ん、おめぇ大丈夫だか?」
男の顔は唇が厚く、太い眉毛にむさ苦しい髭を生やしていた。先ほど、ミルが捕まえて見せた男性とは全く変わった容貌と雰囲気に圧倒されたシロナはその場で固まってしまう。
「いや、その…」
「んん~?おめぇ、よく見るとなかなかめんこいべな…。よし決めた、おめはオイラの嫁っこな~」
男はそう言うとシロナの腕を掴み、自分の元へ引き寄せた。
「え?ちょっと!?」
それに抵抗しようとするシロナだが、その男の力は思ったよりもずっと強く、自分ではどうしようもできない。普通の男が相手であれば、シロナなら軽くのしてしまう所だが…
(な、なによコイツ…!)
「シロナ!その男は人造人間ですわ!」
その時、ミルが叫んだ。
「うそ!?」
「チッ、こんな場所にまで記憶兵器どもがおっただか…。オイラがスカール様に頂いた名前は『ルゴプス』ってんだが…ってことは、おめはまさか…うわさに聞くシロナっちゅうヤツか?うはは、ちょうどいいべ、この娘っこは今からオイラの嫁っこだ~!」
ルゴプスと名乗った人造人間はシロナを片腕で抱いたまま、その場でしゃがみ込むと次の瞬間に物凄い跳躍を見せ、大量の砂を巻き上げると同時に一瞬でその場から消え去った。
「くっ、やられましたわ…」
「お待たせ、かき氷買ってきたけど…」
「くださいまし!」
ミルは男が持ってきたかき氷を奪い取ると、ダッシュで浜辺を後にした。
…
「…ってな事があって、私はこんな場所に…」
シロナは別の島の貸し切られたリゾート地に連れられていた。ビーチパラソルの下でジュースや果物でもてなされ、その横ではルゴプスがはしゃいでいる。
「いやったいやった~~い!これでオイラにも念願の嫁っこが手に入ったぞ~~!」
「冗談じゃない!なんで私がアンタの嫁なんかに…!」
「うはは、オイラと一緒に暮らせば贅沢できっぞ~。この島全部が、今じゃオイラの所有物さ!一生遊んで暮らせるべ!オイラは欲しいと思ったもんは何でも手に入れられちまうんだ!…でもよ、ひとつだけ、どうしても手に入らないもんがあった…それが嫁っこだったってわけだべ」
「ここへ来る途中に聞いたよ。アンタはまず、一本のわらしべを拾ったんだってね。そして、それを子供と交換してやって飴をもらったんだよね」
「おう、その通りだべ!スカール様に作られて意志を頂いてから外に送り出されたときに、最初に手にしたものを大事にしてみなさいと言われたもんだからな。そうしたら飴を欲しがる子供とオレンジを交換した。そして金持ちの男にオレンジをくれて…そうやって交換を繰り返していくうちに、オイラは人間の大きな組織のトップの座を奪い取ってた。それからはもうとんとん拍子でここまで漕ぎつけたな!この島のホテルのオーナーをぶっ殺して、とうとうこの島の全部がオイラの根城になったってわけだ」
「最低ね…」
「うははは!なんとでも言うがいいべ!さぁ、オイラと誓いのキスをしようぜぇ」
「嫌に決まってるでしょ!…あ?」
シロナが顔を後ろにそらした時、視界の隅に見慣れた姿を発見した。そこには、ボロボロになってしまった水着を着たミルが居た。
「ミル!」
「ふん…確か、ドリルのミルだったか…ここまで来やがるとはな」
ミルはゆっくりとシロナとルゴプスの方へ近づいてくる。
「記憶兵器は腕を武器に変えて、オイラたち人造人間を壊すんだってな?だから、お前はドリルに変えた腕をオイラに渡しな。そうすりゃ、この場だけは見逃してやる…」
「まあ、お待ちなさいな」
「あ?」
ミルはルゴプスを止める。
「私も、アナタと同じような体験をしましたわ…。かき氷1杯を交換しましてね…」
─────
『…そこの君…すまないが、それを私にくれないか…。喉が渇いて…死にそうなんだ…』
シロナを追っている途中、出会ったのはFBIの刑事だった。
『ありがとう、助かったよ。私の名前はタイラー、とある犯罪組織を追っていたんだが、この島の陽気に中てられて熱中症寸前でね…』
ミルはタイラーと共に犯罪組織を追う事になった。
西へ東へ、一体どんな冒険をしたのだろう…しかし、タイラーは組織との銃撃戦の中で胸を撃たれ、倒れてしまう。
『タイラーさん!しっかりしてくださいまし!』
『ミル…このような事に君を巻き込んでしまってすまない…』
『そんなことを仰らないでください…あのかき氷が、貴方との素晴らしい思い出に変わったんですもの』
『私の事を忘れるなよ…あとは…頼んだ…』
『タイラーさん…!』
ミルはタイラーの想いを継ぎ、走った。空港から小型ジェットでどこかの国へ逃げようとする組織とそのボスを追って。
『貴方たちに高飛びなんてさせませんわよ…!』
なんとかミルは飛び立とうとする小型ジェットに乗り込み、組織の連中に対して大立ち回り。圧倒的な力で組織を壊滅させることに成功するも、奴らが撃ちまくった銃弾の所為でジェットは火を噴き上げて墜落しそうになっていた。
『ありましたわ!緊急脱出用のパラシュート…』
記憶兵器と言えど飛行機の爆発に巻き込まれればただではすまない。ミルはパラシュートを身に着け、墜落してゆくジェットから脱出に成功したのだ。
…その話を聞いたシロナとルゴプスはあんぐりと口を開け、震える声で言った。
「なんてことだべ…オイラの成り上がり物語より、スゲェ…」
だが、シロナは思わず吹き出してしまう。
「きゃはははは!FBIって!嘘つくにしても限度があるわよ!どうせどっかですっ転んで水着破いちゃったりでもしたんでしょ」
「なんだ…嘘なのか?」
「当たり前でしょ」
「…まあ、ウソなんですけれど」
悪戯っぽく舌を出しながらそう言うミル。
それを聞いたルゴプスはわなわなと震えながら怒りをあらわにする。
「オメェ、オイラを馬鹿にしとるんでねぇ!!」
「あら、御免あそばせ」
「そんなら、はやく腕をドリルに変えてみな!そしたらオイラが腕ごとぶった切って、そのドリルでオメェをぶん殴ってやらァ!」
ルゴプスの右腕が鋭利な刃に変形する。
「さぁ、はやくドリルを出してみな!ドリルを出せェ~~~!!」
そうミルに大声で言い寄るルゴプスだが、鋸の記憶兵器を持つアリーズが得意としていたような生成した武器を体から分離させる技を使い、造りだした巨大なドリルを頭に取り付けられたまま爆発寸前の燃え盛るジェット機が落下してきていることに気が付いたのは、既に自身の身体が粉々に砕け、燃え尽きる瞬間だった。