「ふっふっふ…久しぶりだなシロナ。俺を覚えているか?」
そう言いながらこちらへゆっくりと歩み寄ってくる、男口調のその女性から発せられる熱気のようなオーラはシロナの全身を包んだ。その瞬間、シロナは潜在的に感じ取った。この女性は地球上に存在するありとあらゆる理を超越したかの如く強大な戦闘力を持ち、一度その力が悪意を持って振るわれれば、この場の全員の命が直ちに消え失せることは明白だと。
そして、あの女性以外の4人の戦士は彼女の声を聴いた瞬間に恐れを抱き、冷や汗をかきながら下を向き、彼女のための道を空けたまま立って動かない。
「あ、アナタは…!?」
オーラに押されながらも、シロナは声を振り絞る。
「誰…?」
しかし、シロナはその姿に全くピンとこなかったようで、真剣な面持ちでそう言った。彼女とその周囲に居た者たち全員が一気に緊張を解かれたせいか、一斉にずっこけた。
「な…なに…?この俺を覚えていないだと?」
その女性は猛獣のような気迫を発しながらシロナを睨みつけた。
「この魔人ウスターの事を忘れたというのか?」
「…実は私…記憶喪失なんだ…。事故に遭ったらしくて、2年前より以前の記憶が全部ないんだ」
「…何だと?」
ウスターはそう呟いた。
「でも、アナタは今言った…『久しぶりだなシロナ。俺を覚えているか?』って…だったら、アナタはもしかして、昔の私と会ったことがあるの!?」
シロナの言葉を聞いたウスターは、確かにこのシロナは以前の記憶を全く無くしているのだと確信した。ならば、自分があの博麗霊夢とカカロットの子供だという事も、あの素晴らしかったふたりがフリーザとの戦いで命を落としたことも…何もかもを、可哀想な事に、すべて忘れているのだろう、と思った。
ウスターは、シロナに対して哀れみを抱くと同時に、燃えるような怒りも抱いた。この俺の生涯において、もっとも強く気高く、大きかったあのふたりの事を、コイツはさっぱり忘れている。ふたりの血を受け継いだ子供でありながら…
「…確かに、俺はお前の過去を知っている。全てを話してやってもいい…が、ここで俺と戦い、勝つことが出来ればな」
そう言いながら、ウスターは構えた。
「どうした?来ないのか?お前は自分の過去を知りたいのだろう?」
「…分かった…勝てばいいんでしょ?やってやるわよ」
シロナも格闘の構えを取る。
「おい占いババ!もしも俺が負ければ、この勝負はコイツらの勝ちだ!いいな!?」
「へえっ!?ま、まあいいじゃろう…では、開始せい」
バキッ!
「むぐっ…!」
占いババが試合開始の合図を下した瞬間、なんと目にもとまらぬ速度で飛び出したシロナの拳が、ウスターの頬をとらえていた。シロナは不意を突かれて怯んだウスターの足へローキックを繰り出し、そのバランスを崩させる。そしてその顎へ肘打ちを繰り出すと、ウスターはよろよろと後ろへ下がっていく。
「チッ!」
が、ウスターはすぐに態勢を立て直すとシロナへパンチを放つ。が、シロナはそれを首を傾けてかわしつつ懐へもぐりこみ、相手の脇の下から首元をガッチリと掴み、そのまま投げ倒した。
「す、すごいなあのガキ…あのウスターを投げ飛ばすなんて…」
戦いを観ていた他の戦士たちが驚きの声を漏らした。
「どう!?」
シロナがウスターの肩を極めながらそう問うが、ウスターは全く抵抗するでもなく、ただ静かに口を開いた。
「くっくっく…この俺に背を地に付けさせるのはそう容易い事ではないぞ。お前の父親にはやられたがな…」
「え?」
その瞬間のシロナの動揺の隙をついて、ウスターは拘束から脱した。
「ふふふ…お遊びはここまでだ。とくと見せてやろう、俺のすさまじさをな」
ウスターは足を開き、拳を握って全身に力を籠める。するとその肉体から気迫と同時に熱気のようなオーラが波紋状に放たれた。
「うおっ、あっつ…!」
思わず両腕で顔を覆うシロナ。戦いを観ていた他の戦士たちは吹き飛ばされ、ギリギリ宮殿の屋根に掴まらざるを得ない状況となり、地面に腕のドリルを突き刺して飛ばされるのを防いでいるミルと、彼女にしがみついている占いババ。
「ひええ~~っ!」
「あのお方…一体何者ですの…?」
だが、シロナもいつまでもこのままという訳には行かない。気力を絞り、吹き付ける熱波の中をゆっくりと歩いて進んでゆく。その様子を見たウスターも熱波を発したまま構えを解いた。
「そろそろ始めるか」
次の瞬間、ウスターの姿がフッと消えた。
シロナが気付いた時には、既にウスターはシロナのサイドからその顔面へ攻撃を加えていた。シロナは勢いよく床と平行に吹っ飛び、それを高速で追いかけて先回りしたウスターの蹴りがシロナにヒットし、今度は垂直方向へ打ち上げられる。
そして今度は地面を蹴って飛び、それを追い越すとシロナが飛んでくるであろう位置で拳を構え、それを振り下ろした。
「ぐあああ!!」
シロナは落下し、武舞台のタイルを割ってめり込んだ。
着地したウスターはその場で腕を組み、笑い声を上げる。
「はっはっは!どうした、その程度か?」
しかし、瓦礫に埋もれたシロナは沈黙したまま。
「…ふん、面白くない…。その程度では到底、両親には及ばんな。どれ、俺がこの技でトドメを刺してやる…」
ウスターはそう言うと口を大きく開き、そこから紫色のエネルギー波を発射した。
「『魔口砲』でな!」
「いかん、やりすぎじゃウスター!」
占いババが焦りの声を上げ、ミルもこれはまずいと思って武舞台へ上がろうとその縁に足をかける。もしもシロナに直撃すれば喰らった本人は愚か、武舞台ごと…いや、恐らくここら一帯がまとめて更地になってしまう。ミルが戦ってきたどの人造人間にもそのような芸当ができる者は存在しないだろう。
だが、その時に見たウスターの自分へ向けられた視線には、「試している、邪魔をするな」という意志が込められているのに気付いた。
「喰らえェ!!」
そして、ウスターの放った魔口砲がシロナへと直撃した。
…だが、当たったはずのエネルギーはその場で爆発は起こさず、なんと寸前で上体を起こしたシロナの額に当たって跳ね返ったのだ。
それは真っすぐにウスターの方へと向かっていき、ウスターは面食らってしまうが何とかそれを両腕で押さえ込み、潰して防ぐことに成功する。
「あぁ~~~~痛ってぇ~~!!」
そう言いながら完全に起き上がったシロナの頭部は青い結晶の鎧を纏い、両手も結晶に覆われて強固になっている。髪をしばっていた紐がほどけ、魔力によって深紅に染まった髪が後ろへなびいている。
「やっと私の過去が知れるチャンスが来たんだ…絶対に負けやしねーぜ!」
シロナはウスターへ飛びかかりながら拳を振るう。
「くくく…くははははは!!やはり面白い、あのふたりの子供ならそう来なくては!」
ウスターは向かってくるシロナの拳に自分の拳を叩きつける。ぶつかり合った両者の拳の間に赤と紫色のスパークがほとばしり、すさまじい気の波動が周囲に広がってゆく。
それを見たミルは驚愕した。あの人造人間の中でも最強格の護衛軍の身体を一撃で消し飛ばし穴を空ける威力を持つシロナの拳を、同じく自身の拳で防いだウスターのパワーに。
「むん!」
続いて放たれたシロナの回し蹴りを腕で防ぎ、カウンターの前蹴りを放つウスター。それはシロナの胸に当たるが、その瞬間にシロナはその足を掴み、引っ張りながらパンチを繰り出す。
「が…」
顔面を殴られたウスターであったが、右手からエネルギー弾を撃ち、シロナを吹っ飛ばした。武舞台の縁にまで吹っ飛ばされるが、何とかそこで踏みとどまる。
が、ウスターはなおも続けて両手から連続でエネルギー弾を発射し、シロナに当ててゆく。
「ちょっ…オイオイ!」
硬質化を集中させた両腕で防いでいるのでダメージはあまり受けていないが、爆発の威力でじりじりと後ろへ下がっていく。
「それは反則でしょ!」
シロナは両手を一気に広げてエネルギー弾をはじき返し、その際に生じた隙間を縫って素早くウスターの目の前へ迫る。
…が、拳を振りかぶって反撃を撃とうとしたシロナの胸元に、ウスターの右手が触れていた。
「あ、やば」
ドォン!!
その時、シロナに当てた掌でエネルギーをさく裂させたウスター。その爆発の威力はすさまじく、シロナはそれの直撃を受けて大きく吹き飛ばされる。
しかし、シロナもそのままではない。大ダメージを受けた腹を押さえつつも空中で体勢を立て直し、何とか武舞台上へ着地する。
「ハァ…ハァ…!」
その様子を見たウスターは思った。
(…やはりそうか。ヤツの身体から立ち上る魔力と、あの深紅に染まった髪。どういった経緯だったかは知らないが、シロナは魔法使いとして覚醒しているようだな…。魔界でも同じやつを何人も見てきた。あの異質な姿は恐らく、本人の資質に対応した特徴が濃く出るという魔法による変身術の類いか。そしてあの再生力と回復力…何かがシロナの肉体を死ににくい体質に変えているようだな)
おそらく内臓にダメージを受けたはずのシロナだが、ウスターがそう考え終えた時には既に何事もなかったかのように振る舞っている。
「よ…よォ~~…その程度かよ…?」
シロナはよろよろとウスターへ近寄ってくる。
(今の俺にガキをいたぶる嗜好はない)
「ふっふっふ…貴様こそ、その程度か?俺から過去の記憶を聞き出すんじゃなかったのか?」
「やってやんよ!!」
シロナは足取りがおぼつかないフリをしながら溜めていた気を足裏から爆発させ、反動を利用しまるでミサイルのように前へ飛び出した。そしてウスターの顔面へ硬質化を集中させた額で頭突きを喰らわせた。
命中したかに思えたが、ウスターは間に自分の手を挟んでそれを受け止めていた。
(全身の皮膚を魔法で硬質化し、顔と両腕は特に表面が結晶化する程強固で、さらにその部位に限り全身の硬質化を集中させて更なる破壊力や防御力を発揮できる)
「ウラァ!」
さらに、シロナは右拳に高質化を集中させる。分厚く発達した結晶は、まるで拳に鉄の板を貼り付けたかのような重厚さを誇っている。そして、その拳で渾身のパンチを放つ。が、ウスターは首を横へ傾けて間一髪でそれを躱し、すかさずシロナの腹を蹴って引き離す。
ガチン!
「オイオイ…」
次の瞬間、飛んできた輪っか状の気がシロナの上半身に腕ごと巻きつき、拘束した。両腕を封じられたシロナは思わず声を漏らす。
「それで自慢の硬質化の集中はできまい」
ウスターはそう言いながら宙へ浮かび上がり、シロナへ両掌を向けた。そこへ強力なエネルギーが充てんされてゆき、黄色のエネルギー弾が生成される。
「その状態でこれに耐えられるか?」
想像を超えたウスターの猛攻に、シロナは打ち勝つことができるのだろうか…?