もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第255話 「シンゲキ」

初めて人造人間を破壊した時、手が痛かった。それもそのはず、並の銃や爆弾ではビクともしないほどの強固な素材を使用した外皮とパーツの寄せ集まった頭を拳で叩いたのだから。

だが、だんだんと人造人間を殴り続けるうち、その痛みは感じなくなっていた。単に自分の拳も硬く強くなったからかもしない。代わりに感じるようになったのは、微かな快感。人造人間を倒す瞬間には、まるでトクサを千切るときのような、毛虫を踏みつぶしたときのような小気味の良さがあった。

始めは人造人間によって不幸にされた人たちのためと思って戦っていたが、いつしか無意識のうちに彼らを破壊する快感を求めようとしていたのだ。

それに少しだけ気付いたのは、聖地カリンでジュラ隊の最後の一体を破壊した時だった。あの人造人間は、子供だった私を見て発砲するのを躊躇った。もしも、彼女が人間を殺すことにわずかでも快感を覚えているのなら、すぐに私を撃った。

反対に、私はすぐに彼女を殴って破壊できた。私は人造人間を破壊する快感を知っていたからだ。そして、ハッチャンと戦った時。暴走したハッチャンは人を襲って殺してしまうところだったのを、私が胸を拳で貫いて機能を停止させた。でもその時、別の止め方があったんじゃないか。何も背中に拳を叩きこまなくても止めることができたんじゃないか。

 

 

「君に限っては…もう心が人じゃないんだよ」

 

 

サニーに吐かれた言葉を反芻する。…私は、人間じゃなかったのか?

ミルやアリーズ、ヒロイシさんは体に記憶兵器の基となるメモリーチップを埋め込んでいるからって言う理由がある。でも、私はそんな事なんてしていないのに、傷がすぐに治るし、身体を石のように硬化させる能力も持っている。何の理由もなしに、こんな力を持っていた私はやっぱり…

 

 

人間じゃなかったんだ。

 

 

 

 

 

「ギヤアアアアアアア!!!」

 

シロナは闇雲に拳を振るい、地面に倒れ込んだミルに襲い掛かる。

 

「落ち着きなさいシロナ!」

 

ミルがそう呼びかけるも、シロナは全く意に介さずに攻撃を仕掛ける。ミルが転がってそれを躱すと、シロナのパンチが床に当たった。武舞台のタイルがめくれ上がり、土煙が舞う。

 

「カアッ!」

 

後へ下がっていくミルを苛立たしげに見つめるシロナは手を握ったまま指を震わせる。カチカチと結晶が擦り合わさる音が響き、摩擦で火花が散る。

だが、シロナがふと横を見ると、その目に占いババが映った。

 

「ひええっ!ま、まさか、わし…?」

 

「ヌガアアア!!」

 

シロナは占いババに狙いを定め、歯の剥き出た口を大きく開きながら拳を振りかぶって向かっていく。

しかし、その間に占いババの戦士たちが割って入り、シロナの拳を受けた。

 

「うわあああああ!!」

 

が、そのあまりの威力に耐えきれずに4人全員が遥か彼方へぶっ飛んでいく。

 

「シロナ!」

 

その隙に背後へ近づいていたミルが、シロナを背後から羽交い絞めにし、耳元で囁く。

 

「サニーの言う事に耳を傾けてはなりません。確かに貴女はみっともなくて、粗暴で、寝るときはヨダレを垂らし、耳の垢をとるのが好きですが…それでも人間ですわ。人造人間によって不幸にされた人の悲しみを理解し、嘆くことができる…だから」

 

その時、シロナは拳に硬質化を集中させ、板のような結晶を纏う。

 

ドゴッ!

 

「アガ…」

 

そして次の瞬間、その拳を自分の耳元にあるミルの顔面目がけて放った。

ミルは咄嗟に頭をひっこめてそれを避けたのだが、なんとそれに誘導されてしまったシロナの拳はシロナ自身の顔面に直撃し、巨大な衝撃波と共にその顔の上半分を消し飛ばした。舌がダランと垂れ、割れた結晶がパラパラと落ちる。

 

「な、何なのじゃ…!?アイツ、自分で自分の顔を殴りおった…?」

 

驚く占いババ。

シロナはその場でうなだれるように座り込んでしまう。

 

「シロナ…」

 

ミルはシロナを見下ろしながらそう呟く。

 

「…なんじゃあれは…」

 

と、その時、占いババの震えた声を聴いたミルはハッとした。周囲からこの場所へ向かって無数の人造人間の反応が感じられる。その数は半端ではなく、千を越える数だ。

 

 

 

 

「うん、いいね。今なら記憶兵器一匹とシロナを同時に始末できる」

 

離れた場所にある岩山のてっぺんに座り込むサニーは、引き連れてきた数千単位の人造人間たちに指示を出し、占いババの敷地へと向かわせていた。

 

「やってしまって…殺してしまってよ…うふふ、ははははは!」

 

 

 

 

「…まずいですわ」

 

全方位から一気に押し寄せてくる人造人間。幸いにも一体一体の戦闘力は大したことはない量産型のようだが、あの数で来られてはさすがに対処のしようがない可能性がある。記憶兵器が複数人いれば何とか逃げるか半数を倒すことはできるだろうが、シロナがこんな状態でまともに戦えるのが自分ひとりとなれば…

 

(サニーは上手くシロナを無力化させた。残る私を物量で始末するつもり…。今なら私だけでも逃げられる…でもシロナたちが…)

 

ミルは苦し気に気絶したままのウスターと顔が潰れたきり動かないシロナ、そして戦えない占いババを武舞台上の中心に集める。

いよいよ、人造人間の大群が目と鼻の先まで迫り、一斉に飛びかかってくる。ミルは意を決し、両腕を巨大なドリルに変えて回転させると、それらを迎え撃った。

ドリルを一度振るうたびに2~4体ほどの人造人間の胴体がバラバラに砕け散り、回転によって残骸が散らされ吹き飛ぶ。武舞台の端から端を飛んで回り、人造人間を一体も武舞台には上がらせないかの勢いで駆逐していく。

しかし、いくらこのペースで敵を破壊し続けても、ひとりでは取りこぼしも出てくる。逃した人造人間がシロナの方へ向かっていくと、ミルはそれを追いかけて破壊する。だがその隙に十数体もの人造人間が舞台上に上がり込み、ミルは今度はそれらを倒すべくドリルを振るう。

が、だんだんと武舞台上の人造人間の数が増え、手に負えなくなってくる。人造人間の一体がミルの後頭部を殴り、ミルは思わず前へよろめく。体勢を立て直しつつ背後へ一撃を繰り出すが、今度はサイドから攻撃を受け、肩と脇腹を痛める。

 

(まずい…このままでは…!)

 

もしここでミルがやられてしまえば、ドリルの記憶兵器が財団の管理下に戻る保証はない。ドリルは永遠に失われ、人類は人造人間に対抗する矛をひとつ失うことになる。

 

(それだけは避けたい…)

 

だが、そう思っても敵の猛攻は止まらない。背後から攻撃を放とうとしていた人造人間の気配を察知し、ドリルでその人造人間の胴体を貫いて破壊するが、既に放たれていた攻撃を後頭部へ受けてしまう。血が額を伝って流れ、その拍子に別の敵に髪の毛を掴まれて引っ張られる。

 

「この…離しなさい!」

 

ジャキン

 

スパッ…

 

ミルがそう叫んだ瞬間だった。突然、周囲に群がっていた人造人間たちが無数の突起の生えた物体によって両断され、バラバラな残骸となって倒れ伏していく。

 

「ちょっと…なんでこんな場所で死にかけてるんですか?バカなんですか?」

 

ミルの窮地を救ったのは、別の任務があって別行動を取っていたアリーズだった。アリーズは鋸に変形させた両腕を使い、周囲の人造人間をまとめて薙ぎ払う。

 

「記憶兵器ともあろう者が情けないぞ、ミル。しかしそれよりも、これはどういう状況だ?」

 

次に押し寄せる人造人間の一団が、真っ二つに切断される。現れたヒロイシは両腕の刃を構え、足先を軸に独楽のように回転しながら敵の人造人間を切り刻んでいく。

 

「貴方たち…どうしてここに…」

 

「あなたとシロナちゃんが占いババのところへ行くって連絡が入ってたから、1000万ゼニーを用意してきました」

 

「私の質問にも答えろ。これはどういう状況だ?なぜシロナ君が、顔が吹き飛んだ状態でそこに倒れてる?」

 

アリーズとヒロイシは喋りながら人造人間を倒し続ける。

 

「スカール直属護衛軍のサニーが現れた後、シロナが暴走し、自分の顔を殴りました。その後恐らくサニーの放ったであろう人造人間の大群が襲撃してきた、という状況ですわ」

 

「なるほど…。だが安心するといい。記憶兵器はひとりいれば誰にも負けぬ矛となり、ふたり揃えばどうにも止まらぬ弾丸となり、三人そろえば絶対に崩れぬ砦となる。我々三人なら、シロナくんを守り切り、敵を殲滅できる」

 

 

 

「ん…アリーズとヒロイシか。彼らが来るとは予想外だった」

 

サニーはここへ来て初めて、少しイラついたように眉を顰めながら言った。

 

「でもね、今この瞬間にも、さらなる人造人間がそこへ向かってるんだよ」

 

 

 

「『狩る刃(ヤークト・クリンゲ)』」

 

ヒロイシが目にもとまらぬスピードで両腕の刃を振りつつ、人造人間たちの間を通り抜ける。すると、その軌道付近にいた人造人間は胴体を真っ二つに切断され、その場に崩れ落ちる。

 

「『暴君の巨鋸(テュランノス・ソー)』」

 

さらに、アリーズは両腕の鋸で戦いながら、押し寄せてくる人造人間の足元の地面に力を送り込む

 

「鋸の塔!」

 

送られた力は地中でアリーズの鋸となり、まるでタケノコのように地面から飛び出した。それは高さ1メートルほどの小さめの鋸の塔であったが、多数の敵を足元から破壊し、防護壁を作るには十分だった。

息を整えなおしたミルもすぐに加勢し、三名の記憶兵器が揃っての殲滅戦を展開する。

…しかし、全員がうすうすと勘付いていた。万を超える数がいる人造人間のうち、まだ数百体しか倒せていないということに。

 

「敵はまだ湧いてくるぞ」

 

ヒロイシが宙へ飛んだ時、地平線の先からまだまだ人造人間たちがこちらへ向かってくるのを見た。この分では、敵がまだまだ押し寄せることになる。

 

「…シロナさえ、一緒に戦ってくれれば…」

 

 

─────

 

 

「体の自由がきかない…っ!」

 

シロナは真っ暗な洞窟のような空間の中で、淀んだ輝きの放つ青い結晶が四方八方の壁面から伸びており、シロナ自身も巨大な青い結晶の塊に手足を捕らわれていた。さらに結晶からは生物の脊椎を思わせるような触手が何本も伸び、シロナの胴体に巻きついている。

 

「ここは一体どこなんだよ…?」

 

(知りたいかい?)

 

その時、この見知らぬ空間に声が響き渡った。中性的な女性の声で、それを聞いたシロナは何とも言えない感情に包まれ、妙な懐かしさを感じた。

 

「誰!?」

 

(私は、お前の精神の中に住む者…とでも言おうか。ここはお前の心が作りだした精神の世界…見ろ、奇跡的なバランスで成り立っていたこの空間が崩れてしまった。その結晶も骨も、今のお前を形作っていた要素だ、それにお前は呑み込まれてしまっている)

 

「…アンタはここで何してるのよ」

 

(別に何も。強いて言えばお前を見ていた)

 

「私を?」

 

(そうだ。この声も、お前にとって最も安らぐ波長の声を選んでいるだけだ)

 

「じゃあはやく私をここから出しなさいよ!はやくしないとみんなが…」

 

(残念だが私にはお前を開放する権限はない)

 

「はぁ!?」

 

(お前次第だ、お前の心の在り方次第で、お前はどこにでも行ける、何でもできる。そこから動けないと言う事は、お前は無意識に動き出す事を恐れ…もしくは嫌がっているのではないか?)

 

そう言われたシロナは何も言い返せず、黙ってしまう。

 

(元はお前の能力の象徴だぞ、その結晶と骨は。結晶はお前が使う魔法、骨は超再生能力を意味し…本来はお前が意のままに支配して然るべき能力だ。だが何かが原因でその関係が崩れ、お前は逆に呑み込まれた。何か心当たりは?)

 

「…私は、何の罪も犯してない人たちを救うために人造人間を壊してきた…のに、いつのまにか人造人間を壊すことを心のどこかで楽しむようになっていた。楽しむために何かを壊す…それじゃあ奴らと変わらない…」

 

(なるほどな。お前の抱える迷いの所為で、能力の支配権を失ったと。ならばやることはひとつ…再び自らの能力を支配せよ。それしかお前がそこから抜け出せる方法はない)

 

「そう言われたって…」

 

(どうすればいいか分からないか?まったく、世話の焼ける…。ならば、怒れ!)

 

「怒る…?」

 

(そうだ、怒るのだ。お前の原動力は炎のように燃え盛るような怒りだ。初めて人造人間に対して感じた怒りを思い出せ、お前に助けられた人間の顔を思い出せ。さすれば、自ずと怒りがこみ上げるはずだ)

 

シロナは目を閉じ、ミルに誘われ戦いに身を投じてからのかつての記憶を呼び起こす。エースと戦った際に感じた強い怒り。

アールの襲撃から助かったカイン少年。そして、アリーズの母親の村を滅ぼし、罪のない人々を地獄へ叩き落とした…諸悪の根源スカール。

 

(お前が繋ぐのだ、”理不尽に対する怒り”を。純粋なる怒りの炎はすべてを焼き尽くし、その先にある進むべき道を照らしだすだろう。その道の先にある何かを見た者は、この世で一番の自由を手に入れた者だ。今はとにかく戦え、戦うのだシロナ!!)

 

「分かった…けど、アンタ本当は何者?アンタの声…やっぱりすごく懐かしい感じがするんだよ」

 

(…私はお前の中で生きている者たちの意志だ。お前が過去の記憶を思い出さない限り、私は名乗る事ができない)

 

しかし、シロナは見た。蜃気楼のように揺らいでいるが、長い金髪を靡かせた女性を。

 

─────────

 

臥していたシロナの頭部が激しい蒸気を吹き上げながらみるみるうちに元に戻っていく。

 

「戦エ…戦エ…」

 

(お前は誰にも負けない。お前は強い子だ…それは私たちが一番よく知っている。いいか…何が正しい事で何が間違っているかなど、その時は誰にもわからない。進んだ先が地獄なのか、それとも楽園なのか…それがどうかも、進み続けた者にしか…わからない。お前は進み続けろ、自分という名のパートナーを愛し、どこまでも)

 

「ススメ…!!」

 

 

 

 

 

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