もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第257話 「開幕、パオズ山の決戦」

「マリサ、どうかしたの?」

 

部屋の隅で水晶玉を見つめていたマリサに対し、アールは後ろから声をかけた。

 

「ええ、ええ…畏れながら申し上げます。どうやら、記憶兵器たちが…この拠城の位置を特定したようでございます」

 

マリサがそう言った瞬間、アールは顔を引きつらせながら凍り付いたようにその場で動きを止めた。数秒たった後、汗をかきながら血相を変え、声を張り上げる。

 

「ス、スカール様!!あの忌々しい記憶兵器共がこの場所の位置を特定した模様です!今すぐにご移動を!!」

 

…が、アールがいくら呼びかけても拠城はピクリとも動き出さない。いつもであれば、護衛軍の誰かが移動を頼めばすぐに拠城は次の場所へ向けて動き出していた。

 

「スカール様…!我々が奴らに後れを取るとは月と太陽が入れ替わる事があり得ない事と同じでございますが、それでも危険の可能性は拭えません…今すぐにご移動を…」

 

「スカール様のノーリアクション。これはつまるところ…どうやらスカール様と記憶兵器たちは互いに望んでいるらしい。どちらが滅ぶか、生き残るか…それを決める決戦の火蓋を斬って落とすことを…!!」

 

 

 

 

ついに長年かかっても成しえなかった人造人間の本拠地の特定ができたという知らせは、AA財団を通じてすぐに全ての記憶兵器へ届けられた。

 

「こちら、ブラック。了解した」

 

砂漠のど真ん中で、人造人間の残骸を見下ろしていた大柄な黒人男性は、被っていた帽子を脱いで火傷と無数の切り傷の跡が残った顔を露わにした。その目が睨む先には、パオズ山が存在する。

 

 

「オーケー。このラガルティハ・バルバルス、確かに聞いたぜ。ああヤバイ、いきり立ってきた…」

 

華やかな夜の町。ある建物の屋上で女性と抱き合っていた男性は、知らせを聞いた時のあまりの興奮を抑えきれず、女性の首に歯を立てて噛みついた。ツーと流れる血は、まるでこの男の真っすぐすぎる異常性を表しているかのようだった。

 

 

「こちら、サタン・マークとビーデル・マーク。はい、わかりました…ではそのスケジュール通りにパオズ山へ…」

 

空を飛ぶ飛行機の中で、いくつもの傷を負いながらも人造人間から乗客を守り切った父親と娘の親子は、静かに答える。しかし、物静かに見える父親の心の奥には、誰よりも熱い群青色の炎が燃えている。

 

 

 

 

─1か月後・夜─

 

「ここがパオズ山…」

 

パオズ山とはひとつの山ではなく、その一帯に連なる小さな山脈の事である。

薄い霧に覆われながらも、茶色い岩肌と緑の林のコントラストが目立つ山を見上げるシロナとミル。ついに、ふたりは人造人間の首魁、スカールの目と鼻の先までたどり着いた。

 

(これまで、色んな敵と戦い、いろんな場所を巡って来た。それも、全部はこの時この瞬間のため…)

 

最初に滞在していた街ではドリルの記憶兵器のミルと出会い、AA財団の施設では鋸の記憶兵器を保有するアリーズと出会った。そして護衛軍のひとりを撃退し、その肉片サンプルを手に入れた事で、カッターナイフの記憶兵器であるヒロイシが敵を無力化するための研究に取り掛かる事が出来た。財団の研究所では聖地カリンに人造人間が向かうという情報を手に入れた。そこで占いババの存在を知り、ようやくこの場所を探り当てる事に成功した。どれも、この60年間にわたる戦いの中で成し得なかった偉大な出来事だ。

 

「いきますわよ」

 

ミルがシロナにそう言った。いつもよりも低い声で放たれたその言葉には、行く、の他に、生きるという意味も含まれているだろうか。

 

「…ミル、あれは何?」

 

その時、シロナはふと空を見ると、上空からパラシュートのようなものでゆっくりと降りてくる数名の人影を見た。彼らは星空をバックに地面に降り立ち、目の前に見える谷向こうの山を見上げている。その山の岩の斜面には苔生した巨大な恐竜の頭骨が飛び出している。

 

「今宵は、人造人間を破壊する役目を負った兵器たちが集合いたしますわ。…人造人間たちは世界中を巡り、その行く先々で多くの人々を不幸のどん底に叩き落としてきた…しかしその所為で、本来ならば一生眠っていたであろうはずの虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れ続けてきた。あそこに居りますのは、無理やり叩き起こされた怒れる虎や龍たち。すなわち、”記憶兵器”ですわ」

 

そこには、ミルの他の6人の記憶兵器全員が集結していた。

 

「久しぶりですね、シロナちゃん…そこの性悪お嬢に酷い事されませんでしたか?それと、何か髪に金色が混じってきていませんか?」

 

アリーズがシロナに近づいてきてそう声をかける。

 

「そうかなぁ?」

 

確かに、言われてみればシロナの赤い髪の中にうすらと金色の筋が入っているのが見える。シロナは大して気にも留めなかったが、これはシロナの魔法使いとして更なる段階へ進んだことを意味している。髪の毛というものは魔力の影響を最も受けやすく、人間が魔法使いになった場合、その才覚が現れると髪は赤く染まり、さらに魔力を使いこなせるようになってくると金色へ変化する。

 

「もろもろの準備も万端だ。今晩で奴らは一体残らず滅ぶ」

 

ヒロイシも、相変わらずの様子でそう断言する。

 

「あれぇ、もしかして君がミルちゃんの雇ったって言う協力者のシロナちゃんかい?」

 

と、シロナにとっては初対面となる記憶兵器の男がそう声をかけてきた。その男は黒いズボンに黒い革のジャケットを着ていて、短い黒髪を立たせている。全体的に黒を基調とした衣服を纏うその男は整った顔立ちにいやらしい笑みを浮かべながら、シロナにその目を向けている。

 

「あ…はい、私がシロナです…」

 

「はははは、いいねぇ…無理なトレーニングなんかじゃなく、自然に成長する過程で発達した非常に機能美に溢れた筋肉とその身体に眠る暴力的とも言える生命力…実にそそられる。正直、勃起した」

 

「…はぁ…?」

 

シロナはその男の言う言葉の意味がいまいち理解できず、怪訝そうな顔で抜けた返事を返すことしかできなかった。

 

「シロナ、その男の言う事を真面目に聞こうとしてはいけませんわよ」

 

と、ミルがうしろから耳打ちしてくる。

 

「おおっと、相変わらずつれないねぇミルちゃん。ま、いいけどね。俺の名前は『ラガルティハ・バルバルス』、好きに呼んでくれて構わない」

 

「じゃあ、バルバルスさんで」

 

「オーケー。シロナちゃん、君はヒロイシさんとアリーズちゃんとは面識があるようだから、他の3人を紹介してあげよう。みんなシャイだから自分から話しかけに来ないんだよなぁ。じゃまず、そこにいる体の大きな色の黒い人が『ブラック』という」

 

「ブラックさん…」

 

「俺も彼の事は詳しく知らない。ただ、物凄く強いって事は知ってる。お次はそちらにいる親子の記憶兵器だ」

 

バルバルスはブラックの横に居た二人組を指差した。彼が親子だと言う通り、ひとりはアフロ頭の厳つい男、ひとりはシロナと同い年ほどに見える少女だった。

 

「お父さんの方がサタンさん、娘さんがビーデルちゃん。何でも、昔に亡くなってしまった奥さんの死の元凶が人造人間だったということが発覚して、財団の援助をしてくれていたが、1年ほど前に記憶兵器となることを親子で決意したらしい」

 

「へぇ…」

 

シロナは、腕を組んだまま父親のサタンと話しているビーデルを見た。

 

「ヒロイシさん、そう言えば人造人間はどこにいますの?」

 

ミルはヒロイシに話しかけた。確かに、占いババが特定した人造人間の居場所はこの座標地点に間違いない。しかし、目の前には人造人の本拠地らしきものは見当たらない。

 

「既に我々の目の前にいる」

 

ヒロイシはそう言いながらメガネの位置を直すと、目の前の谷を越えた向こうにある峰を見上げた。丁度、巨大な恐竜の頭骨が埋まっているあの岩山だ。

 

ギギ…ギ…

 

その時だった。錆びた金属が無理やり動くような音が周囲に響き渡り、シロナは思わず耳を塞いでしまう。が、すぐに目の前で起こった信じがたい光景に目を奪われた。

目の前の山が動いている。ボロボロと土や岩が崩れ落ちていき、斜面に埋まっているように見えた恐竜の頭骨がゆっくりと持ち上がっていく。山の斜面からは鉄塔や電柱が突き出し、オレンジ色に輝く糸のような物体で繋がる。

頭骨の下には大きな岩石が連なっていき、まるで生き物の首のようにもたげる。結果、あの山は…樹木、コンクリートやアスファルトの廃材、自動車、船や飛行機の残骸、その他半壊した家屋が幾重にも積み重なってできた超巨大な恐竜のような姿となったのだ。

しっかりとした四肢で地面に立ち、頭部をもたげ、長い尻尾を巻いて立ち上がった、その巨大な拠城。あれこそ、正しく記憶兵器が長年追い続けてきた人造人間の本拠地に間違いなかった。

 

「なるほどね…奴らはこの動く城を拠点として世界中を常に移動していたってわけか。そして、何故人造人間の襲撃を受けた場所には建物は愚か木の一本すらも残らない更地と化してしまうのかもわかったよ…」

 

そう言ったバルバルスの目はあの拠城の一部となっている家屋の残骸にくぎ付けとなっており、燃えるような怒りの炎がたぎっていた。それは、おそらく他の記憶兵器も同じはずだ。今すぐにでもここを駆け出して、あの生物のような蠢く拠城を破壊したい。だが、敵は何をしてくるか分からない。様子を見るために、その煮えるような怒りを抑えている。

 

「…どうやら、奴らも我々との決戦を御望みのようだ」

 

あの拠城は立ち上がって鎌首をもたげた切り、一向に動かない。

 

「では行くとしよう。一応振り返るが、我々の目的は諸悪の根源、人造人間1号ことスカールの破壊だ。頭を潰せば蛇は死ぬ…スカールさえ破壊できれば、残る人造人間の殲滅は造作もないことだ。もしくは、敵を明晩の午前零時までこのパオズ山に足止めする事。以上だ」

 

そのことは、シロナもミルを通じて事前に知らされていたので何の異論もない。

 

(分かってる…。でも、零時までここに止めておくっていうのはスカールの破壊が不可能だと判断された場合の最後の手段だ。少なくとも私は絶対にスカールを倒すつもりでここに来た。どれだけその行いが人間の所業じゃないって言われても、とりあえず最後まで使命を果たしきる…私のやってきたことが間違っていたのかどうかは、その時に振り返ってみて決める)

 

「…お!?ヒロイシさん、あれ見てよ」

 

バルバルスが敵の拠城を指差した。シロナもほぼ同時にそれに気付き、驚いた。

なんと、恐竜の形状をした拠城の身体のいたる部分から、黒い豆粒のような人造人間の集団がわっとあふれ出したのだ。それらは見る見るうちにこちらへ迫ってきている。

 

「熱烈な歓迎ですこと。でも、占いババさまのところで戦った数に比べれば大したことはありませんわね」

 

「そうですね。それに対してこちらは8人…ものの5分ですべて片付くでしょう」

 

「いいねえ、滾って来た。大勢でやるっていうのも悪くないな」

 

シロナを除いた7名の記憶兵器は迫る人造人間の集団を見据えると、それぞれの体内に眠る武器の記憶を呼び起こし、手足の形状を変化させる。

 

「『運命の螺旋掘削機(ミル・ドリルブレイカー)』」

 

ミルのドリルはこれまでに何度も見てきた。高速で回転する巨大なドリルは人造人間の硬い装甲をも穿つ。

 

「『暴君の巨鋸(テュランノス・ソー)』」

 

アリーズは地面から数本の鋸の塔を一瞬で発生させ、敵を一気に砕く。それを逃れた人造人間も、アリーズの振るう腕の鋸によって叩き切られていく。

 

「『狩る刃(ヤークト・クリンゲ)』」

 

ヒロイシは両腕をカッターの刃のような形の剣に変化させ、居合抜きの構えを取る。次の瞬間、ヒロイシは少しの土煙を立てたかと思うと人造人間たちの横を通り抜けてその背後へ移動していた。ヒロイシが構えを解いて振り向くと、通過した場所に居た人造人間たちはスッパリと全身を卸されていた。

 

「いいねぇ…。『欲情の断斧(ラスト・アックス)』」

 

怪しげに淀んだ桃色のオーラを纏う巨大な斧を作りだし、体から分離させてその柄を握るバルバルス。自分の身体を軸にして回転するように斧を振り回して周囲の人造人間を薙ぎ払い、そのまま斧を上へ振り上げるとその勢いにつられて、バルバルス自身の身体も空中高く飛び上がった。そして、手にしていた斧を空中に設置し、それを足場代わりに蹴って地面へ猛スピードで向かっていき、斧を振り下ろす。地面に叩きこまれた斧から発せられる桃色の衝撃波が人造人間たちをバラバラに砕く。

 

「オレはお前たちを滅するだけだ…『煌黒の滅鎚(ブラック・ハンマー)』」

 

ブラックは両腕を黒い鉄塊の如き巨鎚に変え、無茶苦茶に周囲の地面に叩きつける。単純な動きだが、周りの人造人間は何者もブラックには近づけず、近づけたとしてもやはり鎚に潰されてぺしゃんこにされた。

 

「喰らえ喰らえ喰らえ人造人間!『鷹の錐(イーグル・ギムレット)』!」

 

ビーデルの両足のくるぶしから先が、鋭くとがった長い槍のような形状に変化する。ビーデルはその状態の両足で全くバランスを崩すことなく戦場を滑るように走り回り、通るところにいる人造人間に対して蹴りを喰らわせる。一通り攻撃し終えると、両足の槍には串刺しになった人造人間が無数に連なっていた。

 

「あとは任せたわよ、パパ!」

 

ビーデルはそう言いながら両足を振るい、刺さっていた人造人間の残骸を地面に捨てる。

 

「わかった…。『地裂圧砕(グラウンド・サタンプライヤ)』」

 

サタンの両手は3メートルを超えるほどの大きさに巨大化しており、その指の一本一本がプライヤーの歯のように四角くかみ合わさるような形状になっている。その手で、地面ごと人造人間を捲り上げ、一気に握りつぶす。

 

「す…すごい…」

 

シロナは7人の記憶兵器たちの戦いぶりを見て、そう呟く事しかできなかった。それぞれが自分に宿る武器の形状や特性をよく理解し、それぞれに応じた攻撃方法や戦術を確立させている。

…が、シロナも負けてはいられない。

 

「この戦い…私たちの勝ちだよね…!」

 

 

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