もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第260話 「やだね」

「さァ…どうする?」

 

目の前に現れた、3つの扉。そのうちのどれかひとつが、諸悪の根源・スカールの部屋へと繋がっているという。

だが、シロナはそんなことなどあまり頭に入ってこなかった。3つの扉の上に額縁に入れて飾ってある大きな写真に写る女性の姿から目が離せなかったからだ。護衛軍が言うにはあれこそ記憶兵器たちが追い続けてきた諸悪の根源こと人造人間1号、通称スカールの姿だというが、何故か自分はそのスカールの姿にかすかな見覚えがあったからだ。

 

「明らかに罠だが…どうする、アリーズ」

 

ヒロイシがアリーズに耳打ちする。

 

「乗ってみるしかないでしょう。そして私たちの誰か一人でもスカールにたどり着き、彼女を破壊する!」

 

「わたしは罠に飛び込んで死ぬくらいなら、ここで戦いまくって死んだ方がマシよ!」

 

「それは正しいとは言えないよ、ビーデルちゃん」

 

勇むビーデルに、バルバルスが囁くように声をかける。

 

「もしも、俺たちがあのドアの中で奴らの遊びに長く付き合ってやれたなら、それだけ零時のレーザー攻撃の時間に近くなる。どんな可能性にだって、賭ける価値はあるだろう?」

 

「バルバルスさんの言う通りよ、やろうぜ。私たちは必ず人造人間を滅ぼすんでしょ?」

 

シロナがそう言った。

 

「ふん、アンタに言われなくなって分かってるわよ!」

 

「じゃ、誰がどの扉から入るのか決めなくちゃいけませんね」

 

 

 

シロナたちは話し合いの末、それぞれの扉に入るメンバーの割り振りを決めた。

 

「ほう、決まったようだな」

 

ひとつめの扉には、シロナ、ヒロイシ、ビーデルが。

ふたつめの扉には、サタン、ブラックが。

みっつめの扉には、バルバルス、アリーズ、ミルが。

それぞれが、入る予定のドアの前に立つ。シロナが横目で他のドアの方を見ると、アリーズのドアの横には、かつて財団の施設で戦った事のあるエースが控えていた。

 

「しばらくだったなぁ、アリーズ…貴様の姉は元気かね?」

 

エースは挑発するような声色でそう言った。

 

(アイツ…自分でアリーズのお姉さん、アギエルバさんを殺しておいて…!)

 

シロナは怒りに拳を固め、怒りの声を挙げようとするが、アリーズが目でこちらを制止する。シロナはアリーズの顔を見上げると、その顔には微塵の怒りの気配すらも感じられず、むしろさわやかな風を受けているように清々しかった。

 

「ええ、おかげさまで元気にやっていますよ」

 

「ふん、そうかね。ではとっとと扉に入れ」

 

アリーズらは自分の扉の中へと消えていく。

 

「君も入りなよ、シロナ」

 

サニーに言われるがまま、シロナは歩き出す。

 

「わかってるよ…」

 

ガチャン…

 

シロナとヒロイシが中に入り、扉を閉めると、そこには暗闇が広がっていた。しかし、これはサニーが作りだした闇の空間ではない。サニーの闇は周囲が真っ暗でも自分や他人の姿だけははっきりと視認できる、が、今は自分の手や隣にいるヒロイシやビーデルの姿さえも見えない。

 

《おめでとうございます!!》

 

とその時、部屋が明るくなるとの同時に何者かの声が響き渡った。

 

「な、なに…?」

 

「おめでとうって事は…」

 

《そうです、貴方たちが入ったこのドアが正解だったのです!スカール様は、向こう側のあの扉の先で待っておられます》

 

「そう、じゃあ行くわよ!」

 

シロナとビーデルはドアの方へ向かって走り出す。

 

《お待ちください!》

 

「な、何だよ!?」

 

《申し訳ない話ですが、スカール様は大変疲れやすいのでおひとりのお相手をなさるので精いっぱいなのです。ですから、ここであなた方が戦って…その勝者おひとりのみに、スカール様はお茶をお出しするというわけです!》

 

「ひとりだけ…?ふざけた事言ってんじゃないわよ」

 

《なお、貴方たちはもう前の部屋へ戻ることもできず、他の行動を選択することもできません。四方の壁に15cmの間隔で並んだ、長さ30cmの釘が一斉に発射されますので》

 

アナウンスの通り、四方の壁には無数の棘のような大きな釘が並べられている。

 

《そして、戦闘を遅らせることもできません。3分経過するたびに、あのように床が落ちていきます》

 

ガコン、という音がして振り返ってみると、確かに床が崩落してその下に広がる奈落の底へと消えていった。

 

《さぁ始めてください。記憶兵器とて登れない奈落の底ですよ、全ての床が消えるまで、あと15分です》

 

「むう…仕方がないな」

 

ヒロイシがそう言った瞬間、シロナは拳を振り上げて飛びかかって来た。咄嗟に構えるヒロイシだが、シロナの放った拳は彼の顔の横を通っていき、その背後で足の錐を今にもヒロイシの背中に突き刺そうとしていたビーデルの顔面に届いていた。

 

「やったわね!」

 

ビーデルは両足を槍に変え、両肘からも棘を生やす。しかし、既にそのふところに潜り込んでいたシロナのアッパーがビーデルの顎に命中し、ビーデルはその場に倒れ込んで気を失った。

シロナは全身から闘気を吹き出しながら、ヒロイシに向き直る。その瞳は黄色く変色し、髪は靡くように逆立っている。

 

「シロナくん、残念だよ…仲間同士でやり合うはめになるとはな。さぁ、やろうか」

 

ヒロイシは両腕をカッターナイフの刃の形状に変え、戦闘態勢に入る。

 

「やだね!」

 

が、シロナは舌を出し、そう言うと気絶したビーデルを担いで奥の方へ運んでいく。

 

「…君は、何をしようとしているんだ?」

 

「まったくさ…言われたら言われた通り、人造人間を倒すために存在してる記憶兵器が人造人間の言う事に尻尾振ってどうするのよ。みんな、怨敵のスカールを目の前にして熱くなっちゃってるのよ…いったん冷静になりましょうよ」

 

「だが、ここから出てゆけるのはひとりだけだ…しかも、それはここで争って勝利した者だけだ」

 

「じゃあヒロイシさんが出て行ってよ」

 

「バカな、君は死ぬつもりか?」

 

「死ぬ気なんてないよ…」

 

《戦わない事は認められません。戦って勝った者だけがこの先へ進めるのです》

 

「なんでよ!別にいいじゃん!」

 

《ダメです、認められません。一斉発射まで10秒!9…8…》

 

「シロナくん、奴らの言う通りにするしかない。生き延びるチャンスは全員に平等になくてはならない。君はさっき、言ってただろう…私たちの力は選ばれなかった者の力だと。それが何故やすやすと死を選ぶ!?」

 

《3…2…1…発射!!》

 

四方の壁に設置されていた、無数の釘が一斉に発射された。逃げ場もなくこちらへ迫る釘だが、シロナはその釘に対して硬質化させた拳を振り下ろし、空中で砕いて相殺した。その調子で、シロナは迫りくる釘を次々と破壊して防いでいく。

 

(私だって変なこと言ってるのはわかってる…でも、でもさ…!!)

 

グサ…

 

シロナはヒロイシの前に立ちふさがり、最後の釘をその身で受けた。シロナの左半身は、痛々しく突き刺さった数十本の釘で覆われていた。

 

「シロナ君、何故なのだ…?」

 

「ヒロイシさん…私みたいな何も世間を知らない子供が言うのもおこがましいけど…人間は嫌な時に、理由なんて必要ないのよ」

 

シロナはそう言いながら刺さった釘を抜いていく。

 

「ビーデルも、ヒロイシさんも今までにない状況に直面して混乱してるんだよ。さぁ、あなたは行って…スカールに一発でかいのかましてやってください」

 

「シロナ君…」

 

「いたたたたた!!これじゃ私はもう無理だ、戦えなーい!ヒロイシさんに行ってもらうしかないよねー!」

 

《…ま、いいでしょう、認めます。ドアの先へどうぞ》

 

先へと続くドアが開いた。

 

「シロナ君、この恩は忘れない」

 

「全然ダイジョブよ…私も後で必ず行きますから」

 

ヒロイシはドアの向こうへと消えていった。

その間にも、どんどんと床がこちらを目指してどんどん崩れていく。

 

「ぐっ…あと3分でこの床も落ちるな…」

 

シロナは血にまみれた左半身を奮い起こし、ビーデルのもとまで近づく。

 

「起きて、ビーデル」

 

「う…うかつだった…。ヒロイシさんが行ったのね」

 

ビーデルは目を覚ますと、頭を押さえながらそう言った。

 

「ああ…あと少しでここも落ちる」

 

「信じられないわ、わたしがこんなところで脱落なんて」

 

「いいや、まだ手はあるさ…」

 

シロナは何かをビーデルの耳打ちする。話を聞いたビーデルはにやりと笑う。

 

「いいわね、それ」

 

「でしょ?じゃあ行くよ…」

 

自分たちが居た場所の床が崩れていく瞬間、シロナとビーデルは床を蹴り、壁に向かって飛んだ。

ビーデルは両足と肘の槍を壁に突き刺してその場にとまり、シロナはビーデルの肩の上に降り立った。

 

《何をしようというのかね?無駄な事はやめて、速く奈落の底へ落ちるといい》

 

「どこから見てるのか知らないけど、そこで見てなさい…!ウラアアア!!」

 

シロナは硬質化した拳を渾身のパワーで振り下ろし、壁を殴りつけた。だが、壁にはヒビが入って拳の形に凹んだだけで破るには至らなかった。

 

「やば…!」

 

「何やってんのよ!」

 

ビーデルはシロナをふるい落とし、片足の先を服に引っ掛けてキャッチする。そして、もう片足を振り上げ、シロナが殴った箇所に特大の槍を突き刺した。

 

「もう一度やってみて!」

 

「あ、ああ!」

 

シロナは再びビーデルの身体を登り、槍を引き抜いて脆くなっている場所を殴った。すると、もろくなっていた壁は砕け、大穴が空いた。ふたりはすかさずその穴の中に飛び込むのだった。

 

 

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