もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第261話 「ブラック」

シロナとビーデルは奈落へ向かって落下する床からジャンプし、協力して壁に穴を空け、その向こうへと飛び込んだ。瓦礫と誇りを払うと、そこは薄暗く狭いだけの空間だった。が、両側の壁にはさっきまでいた部屋の壁にずらりと並んでいた釘の発射装置の裏側の装置の部分が剥き出しになっており、その所為で全体的に脆そうな構造だった。

 

「ふっ…アンタ、トロそうな顔してよく思いついたわね…こんな方法を」

 

ビーデルは槍に変えた両足を元に戻しながらそう言った。

 

「とろそう…は余計よ」

 

「で、これからどうするの?」

 

「もう一回、壁をぶち破って横へ行く」

 

「…なんで?スカールが居る先は向こうでしょ」

 

ビーデルが指差した方向はただの壁だが、そこを越えた場所はさっきヒロイシが入っていた正規の扉の先だろう。

 

「この壁の向こうには、たぶん他の記憶兵器がいる。さっきの部屋もこの部屋も扇形だったから、たぶん交互に繋がって円の構造になってるんだと思う。そしてあの調子じゃ、きっと他の部屋の連中も同じこと言われて争ってるかもしれないし…」

 

「シロナ、アンタさっきの話聞いてた?私たちは誰か一人でもスカールの元へたどり着いて、奴を破壊しなきゃいけないんでしょ!」

 

「それはそうだけどさ、どうせなら皆で行った方が心強いでしょ?」

 

確かにその方が勝率は高い。

 

「…まあ、そうかもね…」

 

ふたりはもう一度壁を壊し、今度は反対側にあるであろう部屋へと抜けた。

…隣の部屋もシロナが読んだ通り、やはり扇形の部屋だった。その部屋にはふたりの男…サタンとブラックがいた。

 

「な…一体どうしたのかね、ふたりとも…」

 

突然壁を壊してやってきたシロナとビーデルを見たサタンは驚いた。

 

「サタンさんにブラックさん、よかった…」

 

「パパ!」

 

ビーデルはサタンに駆け寄る。

が、サタンとブラックは今にも同時に攻撃を仕掛けようかというような状況で、両者は緊張した視線をぶつけあっていた。

 

「今、あの人造人間らに言われてな…ふたりで決闘を始めるところだった」

 

ブラックはシロナ達の乱入を受けてもう決闘の必要はないと悟ったのか、ハンマーに変えていた両腕を元に戻す。それを見たサタンも変形を解き、臨戦態勢を解除する。

そして、ブラックが指差した方向では、出口のドアがある壁の一面に同じ姿をした何百体もの人造人間たちが隊列を組んで佇んでいた。

 

「おやおや、これはとんだ新入りだ」

 

「だが面白い…お前ら4人で戦ってもらおうか。その方が楽しめる」

 

彼らは両腕にガトリング銃のような武器を構えている。

 

「我らに逆らえば…こうだ」

 

彼らは一斉に腕の銃を乱射し、シロナ達の背後の床を撃ち抜いて穴だらけにした。その床は崩れて落下していき、先ほどシロナ達が居た部屋と同様にどんどんと足場が狭くなっていく。

 

(これじゃあ壁を破るどころじゃないな…さっきの釘よりも、数も殺傷力も高い…私じゃ防げないな)

 

シロナがそんな事を考えていると、おもむろにブラックが歩き出した。その先には、出口のドアと人造人間たちがいる。シロナはその行動に驚いてブラックの顔を見ると、彼と目が合った。

 

「シロナ…だったかな、君は」

 

「え、ええ…」

 

「紹介が遅れたな、オレはブラック。オレは”ハンマー”の記憶兵器を宿していて、きっと人造人間の根絶を願う気持ちは他の誰よりも強いと自負している」

 

その時、ブラックは顔に痛々しく残っている無数の切傷と、火傷の痣に触れた。

ブラックが目の前にいる人造人間の隊列の前に仁王立ちし、挑発の視線を向ける。

 

「バカなやつだぜ、言われた通り殺し合えばいいものを!」

 

次の瞬間、全ての人造人間たちが腕のガトリング銃をブラックへ向けて一斉に発射した。

が、ブラックは片腕を掲げると、その拳がボコボコと巨大化しながら黒く変色すると同時に硬化し、巨大なハンマーに変わった。そして、それを振り下ろして弾丸をはじき返し、次の弾丸が迫ってくる前に、巨大なハンマー一瞬にして解除し驚異的なスピードで人造人間らへ接近し、その合間を縫うように潜り抜けて元居た場所に戻って来た。

 

「罪深き玩具どもめ…オレはお前たちを憎む。よって、罪なきただの歯車に戻るがいい」

 

ブラックがそう言った直後の事だった。なんと、無数にいた人造人間たちの身体がまるで分解されたかのようにバラバラに崩れていく。物言わぬただのガラクタの山へと変わった人造人間たちを一瞥するブラック。

 

「オレを一体誰だと思ったんだ?オレが一体何年間お前らを見続けてきたと思ってる?お前らの構造なんて知り尽くしている。一瞬で分解することなど、朝飯前だ」

 

「す、すごい…」

 

シロナは思わずそう声を漏らした。

 

「当たり前よ、ブラックさんが苦戦してるところなんて見た事ないわ」

 

ビーデルがそう言う。

 

《さすがだなブラック。スカール様を造りだした造物主と同じく、レッドリボン軍の幹部だったことも頷ける》

 

と、隣の部屋でもそうだったように何者かのアナウンスが部屋に流れた。

 

「だろう?ならば出口の扉を開けてくれ」

 

《いいや、それじゃルールが違うだろう?ここを出られるのは、戦って生き残った1名だけだ》

 

すると、部屋の四方の壁から、先ほどの部屋と同じように無数の棘が飛び出してきてずらりと並んだ。

 

「オレとサタン、シロナくんが残ると言ってもだめか?」

 

《ダメだ》

 

「そうか。ダメと言われても…オレは通るがな」

 

しかし、ブラックは交渉が失敗してもなお足を踏み出し、出口の方へ向けて歩き出す。その瞬間、四方の壁から釘の弾丸が一斉に射出された。

それはブラックを目がけて一気に迫り、同時にシロナ達にも浴びせられる。

 

(今度はみんなまで守り切れない!)

 

シロナは自分の周囲に満遍なく拳を繰り出し、釘をはじき返す。だが、やはり何本かはそれをすり抜けて体に刺さってしまう。それでも、シロナはひとりで歩いていったブラックを心配し、そちらに目を向けた。

しかし、そのシロナの心配は無駄な事だった。ブラックは両腕を巨大なハンマーに変えて自分の身体ごと独楽のように回転し、襲い来る全ての釘を跳ね返して無力化していた。

 

「オレの操るハンマーは、全ての記憶兵器の武器の中で最も大きい!だからこのように振り回して回転していれば全方位に対しての無敵の防御壁となりうるのだ!」

 

サタンも大きなプライヤーと化した手を使い、ビーデルと自身の身を守っていた。

そして、ブラックは回転させていた体に急ブレーキをかけ、両腕のハンマーを出口のドアの方へ向けた。すると、急に回転を止めた反動でその方向へぶっ飛んでいき、ドアにぶつかる瞬間にハンマーを振り下ろす。

すると、その一撃を受けたドアは破れ、その先に続く道が姿を現していた。

 

「ま、こんなところか。ではビーデルとサタン、お前たちが先に行け」

 

ブラックはビーデルを見ながら、ドアの向こうを指差した。

 

「わたしたちだけで行っていいんですか?」

 

「ああ。オレとシロナくんはまだやることがある…先へ行ってくれ」

 

しかし、その言葉を聞いたシロナは何か納得ができなかった。

 

(何をやるって言うんだ?わざわざ私と二人で…)

 

「この部屋の隣…3つ目のドアの部屋では、同じようにアリーズたちが殺し合いをさせられているだろう。彼女らを助け、その上全員でスカールを目指す!」

 

(こ、この人…私と同じことを考えてた!?)

 

「分かりました…行って暴れておりますので、ブラックさんも必ず来てください」

 

サタンはそう言うと、ビーデルと共に出口のドアの向こうへ消えていった。

 

「すまないな、シロナ…勝手な事を言ってしまって」

 

「いや、いいですよ、私もそうするつもりだったんで」

 

「そうだったのか?ははは、オレと君は同じ考えをするんだな」

 

そう言うブラックは、初めてシロナに対して笑みを見せた。

 

「…ねぇ、ブラックさん…もしよければでいいんだけど、なんで記憶兵器になったのか教えてもらえる?」

 

ブラックは少し考えてから、歩きながら口を開いた。

 

「オレは最も長く記憶兵器を続けている。そして、最も人造人間を滅ぼさねばという想いが強い…と思う。なぜならば…かつてレッドリボン軍参謀として、人造人間創造に関与した責任があるからだ」

 

ふたりは壁を壊し、隣の部屋との間にある狭い空間を横断しようとする。

 

「え…?それって…」

 

「人造人間1号ことスカールは、レッドリボン軍の工房で誕生した…という事は知っているな?人造人間を作り出したいという科学者たちの要望に許可のハンコを押し、最終的な決定権を持つ総帥にそれを通したのは他ならぬオレだ。その時のオレは権力欲に塗れ、愚かだった…まさかこんなことになるとは思ってもみなかったんだ」

 

ブラックの目にわずかな怒り、そして後悔の色が宿る。

 

「しかしね、人造人間とは本来は素晴らしい目的と意義を持って設計されたものなんだよ。人造人間を設計した科学者は、これ以上戦死者が出ぬように人造人間を戦場へ投入しようとした。または人間の代わりに負傷者の治療にあたれるように、と。だが…スカールは鬼畜の所業を犯した!!人を守る意図で作られたはずの人造人間が、今や人を殺し、傷つけて世界中を闊歩している…許せるはずがないだろう。オレは、レッドリボン軍の残した負の遺産に、この俺の手で引導を渡してやらなければならないんだ」

 

ブラックは、かつてピッコロ大魔王によってレッドリボン軍が壊滅させられた時、その場に居合わせていた。大魔王の圧倒的なパワーによって軍の本拠地を木っ端みじんに破壊され、それに直撃するように巻き込まれたブラックであったが、跡地を調べに来たAA財団に救助され、生き延びていた。それと同時に知った、レッドリボン軍が造りだした人造人間が行ってきた残虐非道の数々。ブラックは思った…自分が生き延びたのは、きっと人造人間という負の遺産を根こそぎ滅ぼすためだったのだ、と。

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