もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第263話 「共鳴」

「ブラック…さん…」

 

シロナの目の前には、壁の裏側からスパイク・スラッシャーを動かしていた巨大なからくり装置があった。そして、その装置を構成する幾重にも噛みあった歯車の隙間に、ブラックが巻き込まれてグシャグシャになっていた。胴体はボロボロに引き伸ばされ、手足は遠く離れた場所に挟まっている。

しかし、ブラックという異物を呑み込んだ装置はそこで動きを止め、ギチギチと軋んでいる。

 

「歯車で動くものは、悲しいな…どんな大きな運動を起こすものでも、はじめは必ず小さな歯車から始まる。どうだ、オレというほんの小さな石ころが挟まっただけで、動きが止まってしまう。現に、あの巨大なローラーも…」

 

「待っててブラックさん…今助けてあげる…!」

 

シロナは拳を振るい、歯車を叩き割って壊していく。

 

「いい、やめろ」

 

しかし、ブラックの静止の声を聴いて動きを止めた。

 

「オレの手足はもうどこにいったかもわからん。だが、感じる…」

 

シロナは周りの至る所から「パキパキ」という何かが固まっているような音が聞こえてきているのに気付いた。その音は離れた場所に巻き込まれているブラックの手足から発せられていたのだ。なんと、彼の手足は赤茶色の錆色に変色し、鉄のように硬化を始めていた。それは明らかに異常な光景だった。

 

「こ、これは…!?」

 

「記憶兵器の”死”だ。記憶兵器が死ぬときは、その肉体が金属に変化し、急激に劣化して砕け散る。肉体の金属化が始まれば、もう助からない。そして、お前も早くしないと危ないぞ」

 

その時、シロナはガクリと崩れ落ちた。何とか右腕で歯車に縋りつくように掴まるが、その視界は歪み、全身には力がほとんど入らない。

 

「気付いてるだろう、体の治りが遅い事に。体に空いた無数の穴…刀の斬傷、衝撃波に潰された足…。血だ、オレもお前も血を流し過ぎた。オレはもう助からない…が、お前はまだやることがある…他の記憶兵器と合流して、スカールを倒すのだろう。動けるうちに…早く行け…」

 

「そんな…」

 

「シロナ…オレの人生は本当に面白いよ。はじめは軽快に動いていた歯車が、いつしか止まってしまった…。長い間、動かなかったように思える…が、新しい歯車がそこに加わると、全体がまた回り出したんだ。果たして、それが何だったか…」

 

「ごめんなさい、私…」

 

「いいんだ、シロナ。人造人間という悪魔をこの世に排出してしまったツケを払うときが来たのかもしれん。スカールと相まみえることができなかったのは残念だが…それも他の者がやってくれる。頼んだぞ…」

 

ブラックは最期にそう言い残すと、ガクリとうなだれ、それきり動くことは無かった。

 

「分かった…スカールは…私たちが必ず…」

 

シロナもブラックにそう言葉をかけると、その場を後にする。

よろよろと歩きながら隙間の空間から出ると、正規の出口のドアを目指して歩き出す。

 

(…たどり着け…はやく…体が動かなくなる前に…)

 

そう思いながら気力を振り絞るシロナだが、力の入らない足はだんだんとその身体の重みを支えることができなくなり、やがて後ろへゆっくりと倒れてしまいそうになる。

 

「おおっと、大丈夫かよシロナちゃん」

 

が、突然体が楽になった。誰かが自分の背中を支えながら耳元で声をかけてくれた。眠りそうだった意識がフッと戻る。

 

「あ、あなたは…バルバルスさん」

 

「ああ、さぁ頑張ろうぜ!向こうでみんなが待ってる」

 

「うん…」

 

シロナはバルバルスに体を支えられながら、出口のドアを抜けた。

しかし、そこは部屋ではなく、明るい照明に照らされた長い廊下が続いていた。

 

「この先だ、頑張れ」

 

「ええ、でもバルバルスさん…なんでこの廊下、こんなに寒いの…?それに、暗いわ…足元に気を付けなきゃ…」

 

うつろな目でそう呟いたシロナを見たとたん、バルバルスはシロナの状態が思っていたよりもずっと深刻であることに気が付いた。シロナに寄り添いながら、彼女のペースに合わせて歩みを進めていく。

 

「わ~お、見ろよこれ」

 

バルバルスは廊下の両端にずらりと並べられた美術品のような置物の数々を見た。

 

「絵や彫刻が壁沿いにめちゃくちゃ並んでるな。…なるほど、これは人造人間どもが、主のスカールをテーマにして作った作品を展示しているのか」

 

「こんな暗闇でよく見えるね…私には何があるのかさっぱり。ねぇ、何か話を聞かせてよ…私が寝ちゃわないように…」

 

そう言われたバルバルスは、壁に飾られたスカールの絵を睨み、視線を前に向ける。

 

「そうだな…俺が記憶兵器になって間もないころの話だ。俺はとある任務で、人造人間が立ち寄ったとされる廃屋の調査に行ったんだ。そこで俺はびっくりしたよ…何せ、中には謎の美女の絵や彫刻が置かれてたんだ。ちょうどここにあるのと同じようなね」

 

シロナは黙ってバルバルスの話に耳を傾ける。

 

「何て言うのかなぁ、俺はその時…今までに得た事のない感動と興奮に包まれたんだ。すぐにこの作品のモデルがスカールだという事に気付いた。下品なんだが、いきり立っちゃってどうしようもなかったよ。それ以来、俺はスカールをこの手でめちゃくちゃにしてやりたい一心で戦ってきた」

 

「ええ…な、なによそれ…」

 

「でも、今…こんなにたくさんの作品を見ても、何も感じなかったよ。不思議なくらい冷ややかな気持ちだ。それは何故か…それはね、俺はもっと素晴らしい女性と巡り合えたからさ、シロナちゃん」

 

「えぇ…?私…?」

 

「そう。君の太陽のような暖かい輝きに比べれば、スカールなんて醜女以下さ。俺は君と共に、あんなものをほんのちょいとでも美しいと感じてしまった、バカだった昔の俺の象徴を壊すために戦うよ」

 

そう話しているうち、目の前には行き止まりが現れ、そこにあるドアの隙間からは向こう側の景色がわずかに見えている。

 

「ここが終点だ。みんな揃ってる…ブラックさん以外は」

 

バルバルスとシロナはその部屋に入った。

そこにはブラック以外の記憶兵器全員が揃っており、離れた場所には護衛軍の3人が待ち構えていた。

 

「おめでとう。まさかこんなに大勢がここへ来れるとは思っていなかったが…それもまたいい」

 

エースが挑発するように言った。

 

「はやくスカールに会わせなさいよ」

 

ビーデルがそう文句を言う。護衛軍らの背後には階段が聳えており、それは高く伸び、天井のそのまた上へと続いている。

 

「君たちはルールを破った。それを見逃してやったのはウチらの情けだよ。だから、今度こそ、ここで全員で戦って…君たちがウチらを倒す事が出来れば、この階段を上った先にいらっしゃるスカール様に会うといいよ」

 

「アタシらが負けるなんてことは天地がひっくり返ろうともあり得ないと思うけどねぇ」

 

この瞬間、記憶兵器と人造人間の最終決戦の幕が開けた。

記憶兵器たちは一斉に、肉体を変化させた武器を出し、構える。鋸、ドリル、カッター、斧、錐、ペンチ、何かを壊すことに特化した道具を模した武器、その全てが目の前にいる人造人間を破壊しようと猛烈な闘志を向けている。

 

「わ、私も…」

 

そこへシロナも加わろうとするが、バルバルスが止めようとする。

 

「君はだめだシロナちゃん、それ以上戦えば君は取り返しのつかないことになってしまう。君は死ぬべきじゃないんだ、君のおかげでこうして俺たちはほとんど無傷で戦える」

 

「君のおかげで…とは、よく言ったものだなバルバルス」

 

しかし、そんなバルバルスに対してヒロイシが冷ややかな声色で言葉を返す。

 

「私を見くびらないでほしい。私はその子供に助けてもらった覚えはないな」

 

「…ヒロイシ、お前何を言い出す…?シロナちゃんのおかげで無傷でここへ来れたんだろ…?」

 

怒りをあらわにするバルバルス。

 

「ふん、わたしがそんな奴に助けられたですって?冗談もほどほどにしてほしいわ!」

 

「ああ…私たちが無事にここへたどり着くための、『時間稼ぎ』でしかないんだよ」

 

ビーデルとサタンもシロナへ冷酷な言葉をぶつける。

 

「お前ら、なんてことを…」

 

「それ以上の役割があなたにできて?己惚れないでくださいまし、全てはこの時の為に…貴方をここまで連れてきたのですのよ」

 

「もう貴方は使えません。役立たずは死んでもいいですが、邪魔だけはしないでくださいね」

 

これまでシロナと共に旅を続けてきたミラとアリーズまでもが、そう吐き捨てて背中を向けた。シロナはうつむきながらその場で膝をつき、そのまま動かない。

 

「…シロナちゃん、君は休んでいてくれ。スカールは俺たちがやる」

 

バルバルスはシロナから離れ、他の記憶兵器たちの横に並ぶ。

次の瞬間、記憶兵器と護衛軍の正面からのぶつかり合いが始まった。

 

暴君の巨鋸(テュランノス・ソー)!」

 

アリーズは地面から特大の鋸の塔を出現させ、3体の護衛軍を狙う。だが彼らは同時に攻撃を繰り出して鋸の塔を木っ端みじんに砕いて破壊し、その瓦礫の内側からこちらへ迫る。

 

狩る刃(ヤークト・クリンゲ)!」

 

ヒロイシが刃を居合抜きのようにして振るって斬りかかるが、エースが剣のように鋭い尻尾でそれを防いだ。両者はギリギリと力を込め合い、火花が散る鍔迫り合いを繰り広げる。

 

欲情の断斧(ラスト・アックス)!」

 

が、そこでバルバルスが空中から乱入し、エースの脳天目がけて斧を振り下ろす。

 

「アナタの相手はアタシよぉ!」

 

それを、さらに割って入って来たアールがはじき返し、バルバルスとアールは激しい打ち合いを続ける。アールは振り下ろされ続ける斧の攻撃を見切り、一撃一撃を的確に受け流している。

一方、激戦が繰り広げられている横で、シロナは立ち上がり、体を引きずって歩いていた。

 

「ああは言われたけど…ただ指をくわえて見てるだけなんて…できないわ。あそこに…行くんだ…」

 

シロナの目指す先はスカールの居場所へと続く階段だった。

 

「おおっと、いいもの見っけ。あそこに行こうとしてるのは誰かしらぁ?」

 

とその時、バルバルスと交戦していたアールがシロナを目ざとく発見した。だがシロナはそれにも構わず、ひたすらに階段を目指している。

 

「でもあの様子じゃすぐに死んじゃうわね。抜け駆けしてスカール様に会いに行こうとしてるみたいだし…勝手に死なれるよりは、アタシがトドメを刺してあげた方が確実か!」

 

アールはバルバルスを軽く吹き飛ばし、シロナへ向けて飛びかかる。その腕には、あの時間が経過すると爆発する黄緑色の液体が塗られていた。

 

「シロナちゃん、気を付けろ!」

 

バルバルスがそう言いながらシロナを助けようと動き出すが、間に合いそうもない。

 

「あはははァ、はいシロナのフィナーレ!!」

 

ガキン…

 

だが、アールの振るう拳はシロナへ届かなかった。アリーズの鋸がアールの腕を根元から押さえ込み、サタンの巨大なペンチの手が足を掴み、ミラのドリルが脇腹へ直撃している。さらに、そこへヒロイシとビーデルが颯爽と現れ、アールを真っ二つに切断しようとカッターナイフの腕と錐の足による蹴りで攻撃を仕掛ける。

 

「何なのよ!」

 

アールは強引に振りほどいてそれを躱し、飛びのいて距離を取る。

 

「アール、離れて」

 

そこへサニーが登場し、腕から透明なエネルギー弾を発射してシロナを狙った。

しかし、またしてもアリーズら記憶兵器がその場へ瞬時に現れ、攻撃を防いで見せた。

 

「み、みんな…」

 

その様子を見たシロナは、思わず声を漏らす。

 

「そうか…。なんだ、俺たち記憶兵器は今この場でようやく…ひとつの同じ気持ちになっていたんだな」

 

バルバルスは、彼らのさっきまでのシロナに対するぞんざいな態度の理由に気付いた。

ヒロイシ、アリーズ、ミラ、ビーデル、サタン、バルバルスがシロナを守るようにして立ち、武器を構えていた。

 

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