(信じられない…みんなが私を…護ってくれた!?)
先ほどはあれだけシロナに冷酷な言葉をかけ、蔑んでいたはずの記憶兵器たちが、シロナが狙われたとたんに一斉に彼女を守った。
「はははっ、何だよあんたら…シロナちゃんがどうでもいいんじゃなかったのかい?」
安心したバルバルスが軽口をたたく。
「ふ…、ああでもしないとシロナちゃんは戦おうとしますからね」
「私たちも決して素人ではなくってよ。シロナのあの姿を見れば、彼女が受けたダメージが並大抵ではないことくらいわかりますわ。本来ならば立つことすらままならないはず…」
「だから、わざと気勢をそぐような事を言って戦線から離脱させようとした…最も、彼女には無駄だったようだがね」
アリーズ、ミラ、サタンがそう言った。
その会話を聞いたシロナは、感動で打ち震えた。人造人間を滅ぼすためにすべてをささげた者たちが、それ以外の目的のためにひとつとなっている。こんな自分などを護ろうとしてくれている。
「みんな、ありがとう…私は絶対にスカールを倒して見せる!」
シロナは大声でそう豪語した。その時、感動したのは記憶兵器たちも同様だった。今まで、とてつもない意志と爆発力で幾度も自分たちを助けてくれたシロナ。そんなシロナが言うのならば、彼女なら何とかしてくれるという…不思議な確信が湧いてくる。
──シロナなら、やれる!
再び闘志を呼び覚ましたシロナは片足を引きずりながらも、しっかりとした足取りで階段へと向かう。
「ほうお、あの娘…分際もわきまえずにスカール様のもとへ行こうとしているな」
「そうはさせないよ」
そう言いながら、護衛軍の3体もシロナの行動を阻止しようと動き出す。だが、彼らはシロナへ近づく前に記憶兵器たちに悉く行く手を遮られ、猛攻を受ける。
「邪魔だァ!!」
エースは口から炎を吐き出し、ミルを焼き払おうとする。が、ドリルの回転力に炎を吹き飛ばされ、サタンのペンチの手による殴打を受け、後退せざるを得ない。
「ちィィ…」
「ウチが行くよ」
「きゃっ…!」
「ま、待て!」
だが、サニーは自分に攻撃を仕掛けていたアリーズとヒロイシを跳ね退け、一気にシロナへ向けて跳躍した。
シロナはついに階段の目の前にたどり着き、今にも登り始めようと足を上げていた。が、階段の途中にサニーが着地し現れ、行く手を塞がれてしまう。
「サニー…!」
「あの時は訳の分からないヤツに負けたけど…あれから君はどれくらい強くなった?シロナ。もっとも、命の消えかかっているそんなボロボロの状態じゃあ、大して期待はしていないけどね」
「じゃあ、試してみろよ」
シロナは怒り状態へ変身し、階段を駆け上がりながらサニーに接近する。そして硬質化させた拳による突きを繰り出すが、サニーはそれを受け流し、いつの間にか手に握っていた黒い刀をシロナの首目がけて振り下ろす。
が、シロナはサニーの手首を掴むことでそれを防ぎ、顎を狙った蹴りを撃つ。サニーはそれも受け流し、刀の柄の部分でシロナを殴打して突き飛ばす。階段から転がり落ちるシロナだが、途中で踏ん張って体勢を立て直し、再び拳を放とうと突進する。
「無駄だよ、君の実力じゃまだまだウチには届かない」
サニーは自分へ向かってくるシロナの拳を見つめ、その腕を斬り落とそうと刀を構え、一閃を繰り出す。
パキン!
しかし、突然刀が真ん中から折れてしまった。
「なに…?」
その直後、サニーの腹部へ重い衝撃が響く。何か、しなる太い鞭のようなもので腹を殴打されており、思わずよろめいて膝をついてしまう。口の端から血が流れ、わずかながらダメージを受けたのを感じる。
サニーがシロナを見上げると、シロナの顔は結晶の鎧で覆われ、その背中から脊椎の鞭が伸びていた。
「…なんで、そこまで強くなった?この間の変な魔人に地球の反対側まで吹っ飛ばされたときも、傷一つ負わなかった私に…!」
「知るか。人間はいろいろな物を背負い込んで強くなるんだよ!うおおお!!」
シロナは拳に今まで以上に強固な硬質化を集中させ、分厚い板の如き結晶で覆った。未だ立ち直れていないサニーの胸へその拳による渾身の一撃を繰り出した!
「まずい…やられる…!スカール様…」
サニーは敗北を覚悟した。
ぽす…
しかし、サニーの鳩尾に当たった拳は、それだけだった。サニーの身体にそっと触れただけで、あとは押し込まれるわけでも次の一撃が放たれるわけでもない。
シロナの顔の結晶が溶けて消え、その下の顔は白目をむき、玉のような汗をかきながら、既に気を失っている様子だった。シロナは勝手に脱力し、階段を転がり落ちていき、動かなくなってしまう。
「シロナ!!」
ミルが心配の声を上げた。
「よく頑張ったね。ウチも正直危なかったよ…でも、さようならだ」
サニーは動かないシロナに近寄り、刀の切っ先を下へ向け、その胸目がけて一気に振り下ろした。
刀はシロナの胸に深く突き刺さった。シロナの服が血で染まり、床にもじわりと染みわたっていく。サニーはそこで刀を消し、シロナを一瞥してその場を去る。
シロナは記憶兵器たちが思っていた以上に無理をしていた。彼らが期待を寄せた分、シロナはそれに応えようと火事場のパフォーマンスを発揮したが…それでも、その拳はサニーに届かなかった。
「はあああ!!『
しかし、重い沈黙が流れる中、ビーデルが叫んだ。両足を錐の形状をした長い槍に変え、両腕の肘からも槍を生やしたビーデルは相対していたアールに対して目にも止まらぬスピードで攻撃を仕掛ける。バレリーナのように細い足でアールの周囲を縦横無尽に駆け回り、鋭い蹴りを放った。
「はずれよ」
が、アールはその場でジャンプしてそれを躱す。ビーデルは驚くことなく、冷静にすぐにもう片足による突きを繰り出す。
「今度はアタシの番ねェ」
アールは自慢の体術の強さを発揮し、ビーデルの足の錐に対してパンチを打ち込む。すると、アールの拳は錐の先端部分に真正面からぶつかったにもかかわらず、逆に錐を粉々に砕いてしまった。
「何ですって…!?」
「今から見せるのがアタシの能力…揮発性の毒を使った攻撃、とくと味わってみなさいお嬢ちゃん」
アールは両手の肘から先を舌でべろりと舐め、腕に付着している揮発する液体…爆液を唾液で活性化させる。長い両腕で同時にパンチを放ち、ビーデルの脇腹にヒットさせた。ビーデルはその威力を前にして後ろへ吹っ飛ぶが、その間に脇腹に付着した爆液がどんどんと黄緑色から赤色に変色していく。そして次の瞬間、爆液は爆発を起こす。
「きゃああああ!!」
ビーデルの両脇が爆発によって大きくえぐれてしまう。
「ビーデル!大丈夫か!?」
サタンが心配の声をかけるが、ビーデルはアールの追撃の猛攻を受け続けており安否の確認ができない。
「全力でかかってこい、記憶兵器!」
一方、エースは戦っていたヒロイシに対してそう叫んだ。
「あれ以来封印していたのだが、やはり使うしかないな…」
ヒロイシの頭部がぐにゃりと形を変える。まるでカッターナイフの持ち手部分を彷彿とさせる形状の頭部となり、刃を出すダイヤル部分が目のように見える。極限状態によってのみ覚醒できる記憶兵器の力を引き出したのだ。
両腕に備えた平たい刃を腰の横に引き、ヒロイシは居合抜きの構えを取る。
「この我、エウスト・レプトス・ポンディルスはすこし厄介だぞ」
エースの両肩とわきの下から蠢く肉の突起が飛び出し、それはどんどんと伸びて形を変え、3対の腕と化した。エースはその腕を床に突き刺し、思い切り力を籠めると床をえぐり取るようにして持ち上げ、振動でヒロイシの構えの邪魔をする。
しかし、ヒロイシはその程度では止まらず、すぐに地面を蹴って踏み出し、刃でエースに斬りかかる。
「ふん、その程度で我を倒せるか」
なんと、そう言いながらエースはヒロイシの刃に噛みついて攻撃を止めたのだ。ヒロイシがどんなに力を込めても、エースの異常な咬合力と強度の牙の前にはビクともしない。
「くっ…!」
「どうだ、スカール様に新しく造っていただいた体は素晴らしいだろう?ええ?」
エースは6本の腕をヒロイシの身体にかざし、それぞれの掌から強力な衝撃波を撃った。
「ぐあああああ…!?」
ヒロイシの身体には、範囲を狭くすることで威力を集中させた衝撃波を受けたせいでいくつものクレーター状の傷が出来、出血する。そのままヒロイシもその場に倒れ込んでしまった。
「ウチの相手は…君かな、ミル」
サニーはミルに向き、ゆっくりと歩いて迫る。
「くっ…!」
ミルは両腕のドリルを回転させ、それでサニーを攻撃する。サニーは薄く笑いながら手をかざし、ドリルの先端がその手にあたるが、猛烈な火花と音が出るばかりで少しもサニーの身体は傷つかない。
ザンッ
次の瞬間、ミラの腕が意志に反して横に向き、気が付けばミルの左腕は斬りおとされていた。サニーの手には例の黒い刀が握られており、恐らくは刀の切っ先でドリルの攻撃を受け流し、ミルの腕を一閃したのだ。
ギャリ…
だが、ミルはひるむことなくすぐさまもう右腕のドリルで反撃を放つ。それはサニーの身体を穿つことはできなかったが、サニーの着ていた白いシャツを破き去った。
と思いきや、またしても次の瞬間にはミルの右腕が無くなっていた。
「服を斬られただけじゃ赤ん坊でも死なないよ」
サニーはミルの顔面を蹴り上げ、空中へぶっとばした。
「わははは、弱いな記憶兵器ども!」
「あー、面白かったわァ」
「でも、歯ごたえは無かったね」
護衛軍は一旦1か所に集まり、既に3人も戦闘不能に陥ってしまった記憶兵器たちをおちょくるような発言を取る。
「さあ、残る3人もとっとと始末してしまいましょうか」
残ったバルバルス、サタンはごくりと生唾を呑み込む。だが、その中でもアリーズだけは全く怖気づく様子すら全くなく、堂々とした足取りで他の二人より前に出た。
「アリーズ、今さら貴様が何をするんだ?」
エースがアリーズにそう言った。
「7人いた記憶兵器ももはや半分以下…特に目立ったシロナも骸となって転がっている。こんな状況で、貴様に何ができる?」
が、アリーズは少し微笑んだまま何も言わない。するとエースはこれならばどうだと言わんばかりに、下品に舌を出しながらさらに挑発する。
「あの日、貴様の姉の血は温かかったぞォ…アリィィズゥゥ…」
「挑発しても無駄ですよ、エース。60年前、モンメリー村が災禍の渦に消えた日…私の母親であり、最初の記憶兵器となったアイバーの記憶を覗いてみれば、最も村人の皆殺しに貢献していたのはお前でした…」
「…だからどうした?」
「そしてお前は、姉さん…アギエルバを殺した。もちろん私はお前と戦いますよ…でも、私の心を揺さぶって戦いを面白くしようとしているのだったら無駄です。私は他の記憶兵器とは違いますから」
そうにこやかに言ったアリーズに対し、護衛軍たちは怪訝な顔を見せる。
「何故だろうね、なんでアリーズはあんなに落ち着いているんだろう」
「計画の全てがばれちゃって勝ち目なんかないのにね」
「ふん、自棄になったのだろう。それとも、まだ何か隠しているのかもしれぬ。何の憂いも残さぬよう、我が奴の手の内をすべて出させたうえで殺してやる」
「いいや、私の勝ちですね」
そう言いながら、アリーズは手に握っていた何か小さなものを空中へ放り投げた。それはほんの数センチほどの大きさの白いカプセルのようなものだった。
「あれは…まさか、ホイポイカプセル?」
ホイポイカプセルとは、一見すると小さなプラスチックで出来たカプセルだが、その中には様々な道具や車、家などですら小型化して収納することができる摩訶不思議な道具である。
BOM!
そのカプセルは床にあたると、その場で白い煙と共に中身を吐き出す。余裕をこいていた護衛軍たちも、その中身を見た瞬間に、信じられないものを目の当たりにしたかのように顔をこわばらせた。
「おお…あれは…!」
「そんな、ありえない…」
「スカール様!!」
その中から出てきたのは、なんとも美しい女性の姿をした人形であった。その人形は美術品として描かれていたスカールとうり二つの姿をしており、これは唯一スカールを直接見た事のあるアイバーの記憶を頼りに、アリーズとブラックで作り上げたものである。
「頭を垂れてつくばりなさい」
偽のスカール人形がそう命令を下すと、護衛軍たちはそれに逆らう事が出来ず、一斉にその場で座り込んで頭を下げた。
…現在の時刻は、22時を過ぎたところ。レーザー砲の発射時刻まで、あと2時間を切っていた。