もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

267 / 551
第267話 「双想不変」

「アルティリヌスが復活してしまったか…」

 

サタンたちは動きを止め、なんとか立ち上がってスカールへ続く階段を守ろうとするアールとにらみ合う。まだ完全には偽スカール人形の命令を振り切れていない影響か、アールの動きはぎこちなく、ハァハァと息を切らしている。が、それでも彼らにとってはかなり厄介な敵であることに変わりはない。

 

「…サタンさん。貴方はスカールの元へ急いでくださいまし。アールは私とバルバルスで何とか致しますわ」

 

「了解した」

 

「いいや、ミルちゃん。ここは俺に任せてくれないかい?」

 

しかし、バルバルスがひとりで名乗りを上げる。

 

「…本気ですの?」

 

「ああ、マジの大マジさ。君にはやるべきことがある。俺がやられた後、俺の『斧』の記憶兵器のチップを回収してシロナちゃんに届ける役目だ」

 

「やられた後って…まさか、貴方まで…」

 

「あの子からは風が吹く。故郷の豊かな牧草地に吹く柔らかい風だ。俺たち記憶兵器は、昨日の復讐の為に戦ってきた。だけどあの子は違う…いつでも、明日の希望の為に拳を振るっている。ミルちゃん、サタンさん…俺はもう十分に昨日を壊した。今度は、明日に向かって風を吹かせたい」

 

バルバルスは笑顔でそう言った。

 

「来たわね、記憶兵器たち…。この私、アルティリヌスが…めいっぱいの抱擁で迎えてあげるわァ」

 

そう言いながら、アールは両腕の肘から指先までを長い舌で舐め上げる。すると、唾液で活性化した爆液が現れ、両腕が黄緑色に染まった。さらには額からも爆液が滴り出し、垂れた液体が床の上で次々と爆発を引き起こす。その熱によって、アールの周囲の空気が揺らめき出した。

 

「ミルちゃん、彼女を救ってくれ。俺が唯一、本気で愛したあの子を救えるのは君だけだ。だから、俺の戦う様を見ててくれ…そして、シロナちゃんに伝えてくれよ」

 

そう言うと、バルバルスは手を変形させて作った大きな斧を体から分離させ、柄を手に握ると大きく掲げてアールへと向かっていく。

 

「まだ、足が良く動かない…あの人形の命令に背いた影響がまだ残ってる。でも、スカール様には指一本触れさせないわ!!」

 

「いいや、君にはここで眠ってもらうぜ!」

 

そして思い切りジャンプして飛び跳ねると、その斧を勢いよく振り下ろした。

 

「やってみなさい、バルバルス!!」

 

アールは両手で斧の一撃を受け止める。しかしその瞬間、なんと斧の柄の部分がまるで蛇のように長く伸び、バルバルスとアールに同時に巻きついて、ふたり一緒に締め上げる。

 

「きゃははは、素敵な抱擁だこと!でも、無駄死にっぽいわァ」

 

「どうかな?」

 

その時、サタンがふたりの頭上を軽く飛び越え、階段に降り立った。そしてぐんぐんと階段を駆け上がり、スカールの元を目指していく。

 

「おのれぇ、そうはさせないわよ!」

 

アールはそう叫ぶと、辛うじて蜷局を巻くように自らとバルバルスを締め上げる斧の間から出ていた左足を曲げて力を込め、次の瞬間に宙高く飛び上がった。

 

「な、なに…!」

 

たったの片足のみで、それも体の自由が上手く効かない状態で跳躍して見せたアールに対して驚きの声を漏らしてしまうバルバルス。

 

「すごいかしら?じゃ、もっと驚かせてあげる」

 

アールは身体に巻きつかれながらもその中で腕を動かし、手の平をバルバルスの胸に当てた。そして付着させた爆液が炸裂するのと同時に手を前へ突き出し、バルバルスの胸を突き破った。

貫通した腕が背中から飛び出し、その傷口も爆発による高温で焼け爛れている。

 

「ぐっ…ぐあああああ…!!」

 

「すごいでしょ、アタシの手」

 

「バルバルスくん!!」

 

階段を上がっていたサタンが振り返って心配の声をかける。

 

「俺の事はいい、はやく登るんだサタンさん…」

 

「行かせないわよォ、サタンンン!!」

 

しかし、アールは空中から落下し、それと同時に爆破液を纏った額で頭突きをするようにして階段に激突した。それと同時に発生した巨大な爆発により、サタンは吹っ飛ばされ、床にたたきつけられた。その両足は爆発によって吹き飛ばされてボロボロになってしまった。

 

「うおおお…アール…!!」

 

「あはははは!これでスカール様のとこへは行けなくなっちゃったわねぇ!!」

 

階段は途中で抜け落ち、大きな穴が空いた。アールとバルバルスも床に降り、アールがバランスよく着地した。しかし、バルバルスは心の中で絶望していた。

 

(まさか、アールがこれほどのパワーを取り戻しているとは思わなかった…!)

 

「さぁバルバルスゥ…アナタはもう何もできやしないわ。なぜならアタシがこの腕をちょっと上げるだけでアナタは真っ二つになって死ぬんだものねェ。じゃ、いくわよォ…せーの!」

 

「くっ…!」

 

ガキン!

 

しかし、アールの腕は現状よりも上へ持ち上がる事は無かった。どんなに力を込めても、まるで何かに遮られているようにちっとも上へ持ち上がらない。

 

「なに…?」

 

そう、バルバルスの背後に立ったミルが、両腕に作ったドリルを交差させるような形でアールの腕が上に上がるのを押さえ込んでいた。しかし、アールの発揮する馬鹿力の前には押さえ込むだけで精いっぱいのようだ。

 

「ミルちゃん…!そんなに近寄っちゃあ君まで巻き添え喰らっちまうぜ!君には俺の『斧』をシロナちゃんに届けるって役目が…」

 

しかし、ミルはバルバルスがそこまで言いかけたところで言葉をかぶせる。

 

「バルバルス、やりなさい。見ていて差し上げますから」

 

「…感謝する」

 

バルバルスは口から血を流しながらもニッと笑うと、自分とアールを縛り付けている斧を操作し、その刃の部分を勢いよく振り降ろした。逃げられない状況で一撃を放たれた、と思って警戒するアールだったが、なんとその斧はバルバルスの背中に突き刺さったのだ。

 

「あはははは、バーカ!自分に斧を突き立ててどうするのよ!!」

 

その様子を見て嘲笑するアール。

 

「アール…最期に教えてあげますわ。バルバルスの『斧』は特別性ですのよ」

 

「斧が特別ですって…?んむっ!?」

 

アールはそこまで言ったところで、突然何かで口をふさがれた。何を思ったのか、なんとバルバルスがアールの唇に自分の唇を重ねたのだ。

 

「バルバルスの斧は歴代の記憶兵器の中でも前例のない特別なものですの。バルバルスの斧がピンク色に発光しているのを見たことがありますでしょう?この正体は…ずばり、”魔法の力”」

 

…バルバルスは、北方の地域の緑豊かな山岳地帯で生まれた。父親は牧師であり、その息子であったバルバルスは生まれつき特異な体質で、不思議なエネルギーを宿していた。その正体は「魔力」であり、バルバルスが成長するにしたがってそれはどんどんと増大し続けていた。

やがてバルバルスは、故郷の豊かな山ごと父親と教会を人造人間に踏み潰され奪われた後に”斧”の記憶兵器を受け継ぐと、その魔力を記憶兵器の力と併用して活用することができるようになった。バルバルスが生成した斧にはその魔力が籠っており、それを使った一撃には絶大な破壊力が秘められるのだ。

 

「人造人間とは、人間の科学の力で造り上げられた存在。そんな人造人間が苦手とするのは、科学ではどうしても理屈付ける事ができない事象…それすなわち”魔法”、人造人間にとっては”猛毒”。今、バルバルスの体内には斧を通じて魔法の力が還元されていますの。それを、バルバルスはどうするとお思い?」

 

(まさか…!)

 

「もう遅いぜ」

 

バルバルスは唇をそっと離し、不敵にそう言った。

 

「まさか、流し込まれた…!?猛毒が…アタシの体の中にィィ…!!」

 

アールの全身は、体内に灼熱の鉛が駆け巡るような激痛に侵され、顔を死への恐怖に歪ませる。

 

「ぎゃあああああ離せ離せ!!離せェェェェ!!」

 

顔を振り回し、必死に足掻こうとするアール。最後の馬鹿力で暴れまわると同時に、バルバルスの背中を突き破っていた腕を押さえていたミルのドリルを振りほどこうとしている。

 

「くっ…これ以上は押さえ込めない…!」

 

「ミルちゃん、もういい。俺の『斧』はシロナちゃんにやってくれ」

 

──シロナちゃん…もしも、また会えたらデートしよう。おすすめのレストランにも連れて行ってあげるし、行きたいところどこへでも連れて行こう。君のご両親は健在かな…今度挨拶に行かせてくれ。だから、シロナちゃん…君だけは生きてくれ。

 

しかし、ミルの奮闘も虚しく…次の瞬間、アールの腕はバルバルスの上半身を真っ二つに引き裂いた。と同時に、魔力を流し込まれたアールの首元や腹がボコボコと膨らみ始め、やがて風船のように破裂する。

 

「ア、アタシの顔が…体がァァア…!」

 

「往生際の悪いことですわ、アール。バルバルス捨て身の最期の技…貴女はもうお終いなのよ」

 

「そんなことをォ…このアルティリヌスが、認めるものかァァァ!!」

 

アールは鬱陶しく抱きついたまま事切れたバルバルスを力任せに引き剥がす。バルバルスの身体は既に錆びた鉄へと変わってしまっており、その衝撃で粉々に砕けた。そのままアールは空高くジャンプして空中へ逃れようとする。

ミルは飛び散る鉄の破片の中から『斧』の記憶兵器のチップを発見すると、それを手でキャッチし、握りしめる。そして両足をドリルに変えると、そのバネのような構造を利用してその場で踏ん張り、一気にバネを開放し、勢いよく空中へ飛び上がってアールへ追いついた。

 

「キィィィ!!」

 

それに気付いたアールは、手から滴る爆破液を飛沫にして無数に飛ばす。

 

「潔く負けを認めなさい!!」

 

だが、ミルの操る高速回転するドリルはそれらを全て吹き飛ばし、毒で動きの鈍ったアールの腹にいとも簡単に突き刺さった。そのままアールの腹に風穴を空けて貫通し、傷口からは毒によって腐った内蔵組織があふれ出す。アールはそのまま地面に落下すると、潰れて動かなくなった。

 

「やりましたわ…」

 

ミルは息を切らしながら着地する。その手の中には、アリーズの『鋸』と、バルバルスの『斧』のチップが握られている。ミルはヒロイシとシロナが入っているテントへゆっくりと歩み寄り、その中へと入っていく。

 

「ヒロイシ…貴方…」

 

そこでミルが目にした光景は、シロナの手術を続けるヒロイシの姿だった。

 

「ミル、無事だったか…」

 

「ええ。ですが、アリーズとバルバルス、ビーデルが…」

 

ミルはヒロイシにアリーズとバルバルスのチップを差し出す。

 

「分かっている。彼らの最後の願い…シロナ君に生きてほしい、それを叶えるために私はここにいる」

 

そう言いながら、ヒロイシはチップを受け取るとベッドに寝ているシロナへ目を向ける。ミルもシロナの方を見ると、なんとシロナの潰れたはずの右足はほとんど治癒し終えていた。さらに驚くべきことに、右足は細長い錐のような槍の形状に変形していたのだ。

 

「それは…ビーデルの『錐』…」

 

「ああ、彼女が使ってくれというのでな…使わせてもらった。だがな、シロナ君が完全に回復するためには、記憶兵器4体分の再生力が必要だ。既に、3つが揃う事は勘付いていた…では、残る4つ目は自分の物を使うしかないだろう」

 

そう言いながら、ヒロイシはメスを自分の手の甲に突き立てようとした。

 

「ですが、それでは貴方が普通の人間に戻ってしまいますわ。それに、記憶兵器3つ分の再生力でも、シロナは間違いなく復活できるでしょう…」

 

「それでも、私はやる」

 

「なぜですの?この記憶兵器を託してくださった方達は、自分はもう助からないと死を覚悟して戦い、シロナへ遺志を託そうとしました。ですが、ヒロイシ…貴方の傷はもうしばらくすれば快方へ向かうかもしれない…何故、自ら生き延びられる道を捨ててまでシロナを助けようとしますの?少なくとも私は、皆が助かって生き延びられる道を探したい…そう思うのは、私が生き汚いという事でしょうか」

 

「本来、記憶兵器はひとりにつきひとつだけだ。複数の記憶兵器をその身に宿した場合、その力に肉体が耐え切れないからだ。しかし、シロナ君は奇跡のような能力を秘めている…故に、計算上では記憶兵器4個分の力に耐えられるし、3個よりも4個にした方が回復速度も早まるだろう。…それに、何も私は、人の為に死ぬことが正しいのだと言いたいのではない。ミル、君は生き延びたいと思っている。それは間違いなく正しいよ、人として生まれたからには、生きたいと思う事は実に正しい。ただね…ここに来て死んだ仲間たちは、皆…”やりたいからやった”のだよ」

 

「そのような子供らしい考えは捨てなければなりません」

 

「あのな、ミル。これはさっきシロナ君から教えてもらったんだが…人は嫌な時に、理由は必要ないらしいよ」

 

そう言われたミルは、何も言い返せずに黙ってしまう。

 

「ミル、かつての私は自分が神に選ばれし不変の象徴だと、驕り昂っていた。自分なら、ひとりでどんな人造人間も破壊できると思い上がっていた。しかし…それはあり得ない事だった。不変とは、人の想いなのだ。誰かが成し遂げられなくても、次世代の者がそれを成してくれる。私は、護衛軍のひとりも倒すことはできなかった…しかし、この子なら…シロナなら、必ずやってくれると信じている。そう思えば、ほら…しょうがないなぁ、って思えないか?」

 

パキ… ピシ…

 

その瞬間、ヒロイシの身体から金属がひび割れて軋むような音が聞こえ出す。

 

「それは…!」

 

「聞いての通り、私の体は金属化しつつあり、こうなってはもう助からない。エースにやられた傷は思ったよりも深刻なようだ。快方へ向かう事なんてないんだよ。一度、錆化が始まってしまえばもう止めるすべはない…それは君も知っているいるはずだろう」

 

「ええ…」

 

「それに、私が消えてもまだ君がいる。君がシロナ君に、私の『カッターナイフ』を託すのだ」

 

ヒロイシはそう言いながら、シロナの左足に『斧』のチップを、左腕に『鋸』のチップを埋め込む手術を進めていく。切開した箇所にチップを差し込むように挿入し、その傷口を一本一本丁寧に縫合していく。その間にも、彼の手足の錆化は止まらず、首を覆ってついには顔にまで達する。

 

「ふふふ…初めは、自分が人間ではないような顔をした私も…どうやら、まだ人間だった…らしい…。私の…娘も…しっかり大きくなれていたら、シロナ君のような子に…なっていたのではないかな…。ミル、最後のチップを埋め込む作業は…君に託す…。どうかこの戦いを勝利へ…導いて…く…」

 

ヒロイシがそう言いかけると、彼は最後の縫合を終えた。しかしその身体はガラスのように割れて砕け、破片が山のように積もった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。