ついに、アリーズ、ビーデル、バルバルス、ヒロイシの記憶兵器の力で死の淵から復活を遂げたシロナ。テントを内側から吹き飛ばして現れたシロナは既に怒り状態へ変身しており、その髪の毛は煌めく金色へ変化していた。これまでの赤毛だった部分は一切なく、これはシロナの魔法使いとしての格や位がさらなる高みへ上昇したことの証である。
「誰がイノシシですって~?」
シロナはそう言いながらミルに向かって走り出し、それを見たミルは慌てて起き上がる。
「イノシシだから、イノシシと言ったまでですわ。と、サニーが言いたいそうです」
が、ミルはそう言いながら階段の上に居るサニーの方を指さした。シロナはそっちの方を見ると、視線に気づいたサニーがキョトンとした顔を浮かべる。
「え?ウチ?」
「そうかそうか、アイツが言ってたのね。んじゃアイツをぶっちめる前に、邪魔になりそうな奴らがいるわね」
そう言うと、シロナは内部に大量の人造人間を収納したまま、ここから逃げるために待機している飛行機型人造人間『ケツァルコアトルス』に向かって突撃していく。それを見た人造人間たちは、ケツァルコアトルスの窓から顔を出して口々に喚きたてる。
「おいおい、あんな人間のガキがひとりで何かやるようだぜ」
「なんだありゃ、ゴチャゴチャしててかっこワリィなァ!」
が、シロナは途中でジャンプして飛び跳ね、空中で体を回転させる。その四肢に作りだしたそれぞれの記憶兵器を振りかざし、シロナはすさまじい勢いで機体に激突し、回転の勢いのままに貫いて反対側へ突き抜けた。
その際の衝撃で機体の胴体部分は完全に破壊され、中に居た人造人間たちもバラバラに崩れて砕け散ってゆく。一瞬にして低級な人造人間を全て一掃したシロナは、そのままサニーが立っている階段の方へ向かって走り出す。それを迎え撃とうと、サニーはうっすらと笑みを浮かべながら黒い刀を構える。
「シロナ…まさか蘇るとはね。でも何度立ちはだかったところで結果は目に見えている…君はこれから最悪な死に方を」
ゴキッ
だがしかし、サニーはそう言いかけたところで顔面に強い衝撃を受けて突然後ろに倒れ込み、後頭部から階段にめり込んだ。見ていたミルはおろか、喰らった本人ですらも何が起こったのかわからなかった。
その直後、何もなかったはずのサニーの目の前に、突然シロナが現れる。シロナはサニーでさえも認識できないほどのスピードで接近しそのままサニーを殴り倒すとともに、そのスピードを維持したまま周囲を高速移動していたのだ。
「こ…こ…この…!人間の分際でこのサイカニアを殴ったな!!」
サニーは顔を押さえたままガバッと起き上がり、血走った目をシロナへ向けながらそう叫んだ。
「それがどうした、もっと殴ってやるよ…サニー」
シロナがそう言った瞬間、サニーは落ち着いたように目を細めた。
「ふ…少し冷静さを欠いてしまったか…。けど、君には失望したよ…この前、君と戦った時は、君の事を醜悪な化け物だと思ったけど、さっきウチをあと一歩のところまで追い詰めた時、死にゆく君を見て…ウチは敬意を覚えた。そう、人間は死ぬ…いかに多くを学ぼうとも、どれだけ強くなろうと、人は死ぬものだ。そうして死ぬとき、人は生きている者に『想い』を託す…それが脆く儚い人間のせめてもの”美しさ”かもしれないと思ったから。だがしかし、それに対して記憶兵器というのは実に醜悪だ」
「なに…?」
「記憶兵器はゴキブリのようにしぶとく、口を開けば人造人間の破壊、破壊と馬鹿の一つ覚え。記憶兵器とはこの地球上に出現した、もっとも醜く唾棄すべき存在の集まりなんだよ。そしてシロナ、君は今4つの記憶兵器をその身体に組み込み、蘇った…今の君は”死”から最も遠ざかっている。死ぬからこそ美しい人間であった君も、いまやそれ以下の存在になり下がった。だからウチは失望したんだ」
「よく喋るな…」
「その罰として、ここで燃え尽きて消えるといい」
サニーは片腕をシロナへ向け、そこから特大のエネルギー砲を放った。扇状に広がるそれは容易にシロナを包み込み、その圧倒的な火力でもって焼き尽くさんとする。そして、ダメ押しと言わんばかりに闇の力で作りだした4本の黒い刀をエネルギー砲の中を通っていくように投げる。サニーは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「…いいや、違うねサニー。人間は死ぬからこそ美しいだって?バカが、死ぬから人間はキレイなんじゃない…『死ぬほどの目に遭っても、自分が生きてるってことに気付いてにっこり笑える』から、人間は美しいのさ」
だが、カキンという軽い音と共にへし折られた4本の刀が階段の下へ投げ捨てられる。シロナは顔や全身のいたる場所に傷を受けながらも、燃え盛るエネルギーの中から平然と現れた。そして斧に変化した足による蹴りの一振りでエネルギーを斬り払い、サニーの目の前に歩み寄る。
しばらくの間、沈黙が流れる。両者の間のみ時間が極限まで圧縮されているかのような錯覚を覚え、まるで何時間もその場でにらみ合っていたような感覚がする。
ス…
そんな中、先に動いたのはサニーだった。手に持っていた刀を素早く振るい、シロナの胴体を真っ二つに切断しようと攻撃を仕掛ける。…しかし、それにも関わらず、胴体が切断されたのはサニーの方だった。
「ば、バカな…」
シロナは先に一閃を放ったサニーよりも後に右腕のカッターナイフと左腕の鋸を交差するように一撃を繰り出したにも関わらず、そのスピードは彼女を上回り、先に切り裂いたのだ。胴体をX状に切り裂かれたサニーの体は4つに分割され、階段を転がり落ちていく。
護衛軍との戦いが終わったことを察したミルは、シロナを見ながら喜びの笑みを浮かべた。が、すぐに口元を引き締め、シロナに呼びかける。
「シロナ…まだ、最初にして最後の元凶が残っていますわ…ここまで来たのなら…」
「ええ、分かってるわよ。ここまで来たら、引っ込んだまま顔も出さないスカールを引きずり出さないと気が済まない」
スカールを守っていた護衛軍も、他の人造人間たちもすべて倒した。残るは諸悪の根源ことスカールのみ。そしてこの地へ降り注ぐレーザー砲の発車時刻までは、既に40分を切ったところだった。このままシロナ達が今すぐこの場から退散すれば自分たちは助かる。が、肝心のスカールも逃げてしまうかもしれない。
ならば、やることは決まっている。ミルもサタンもそしてシロナも、スカールを直接討ち取らないままここを離れる気など毛頭なかった。
「ですが…私はしばらく動けませんわ。シロナ、お願いします」
「…ああ、分かった。そこで待っててちょうだい」
シロナはミルとサタンをその場に残して、スカールの居場所へと通じているという階段を昇り始める。一歩一歩上るたびに、これまでの旅の中で出会ってきた者たちの顔が思い浮かんでくる。
「この先にスカールが…」
シロナが階段を上り終えると、そこには薄暗い広間があった。ここはさっきまでいた部屋よりもずっと高い場所にあるようで、恐らくは外から見れば竜のような姿の拠城のうなじ付近に位置する場所だろう。
奥へ進んでいくと、この部屋の気味の悪さが際立ってくる。全体的に壁も床もじめじめしていて、壁には生き物の体組織を思わせるような不気味な模様が走り、見た事もない大きな生物の骸が埋め込まれていたりもする。
「こんな場所に好んで引きこもってるなんて、スカールはなんて趣味してるのよ」
シロナはそう言いながら立ち止まり、辺りを見渡そうとして横に顔を向けた。その時、口から心臓が飛び出して止まるかと思うほど驚いた。シロナが向いた方には、人間の頭部のようなものがぼんやりと浮かび、こちらをじっと見つめていたのだ。その顔は絵画や彫刻で見たスカールにそっくりであった。
「まさか、アンタがスカール?」
「お初にお目にかかります、人間よ。私はスカールと名付けられた人造人間です」
その顔はハッキリとした口調でそう言う。
「遅くなって悪かったねスカール…。でもあと40…いいや、30分以内にお前を破壊する。覚悟は良いか?」
「はい、こちらこそお待ちしておりました」
「奇遇ね、私も待ってたよ…お前の顔を視れる時を」
シロナはそう言いながら、鋸へ変えた左腕を高く振り上げ、今にもそれでスカールの頭部を叩き斬って破壊しようとする。だがその時、突然周りの壁がオレンジ色に発光し始め、シロナは思わず攻撃の手を止めた。この部屋全体がぼんやりと明るくなると、シロナはそこで初めてこの部屋は鍾乳洞のような洞窟を模した部屋であると気づいた。
だが、それよりも驚いたことがあった。目の前にあるスカールの頭部は空中に浮かんでいたのではなく、しっかりと体から首でつながっていたのだ。しかしその首から下の体は、暗闇に紛れる黒い色で、まるでアリやカマキリのような昆虫を思わせる姿であった。胴体から生える4本の腕と2本の脚は天井から連なるオレンジ色の太い糸束で縛られ、ぶら下がっている。人間の2倍以上はあるかもしれない体躯も、糸で天井に固定されていた。さらに、腕の先の細長い指先からも糸が伸び、それは天井を伝って四方八方の様々な方へ向かっていた。そしてでっぷりとした腹の先端から針のような管が飛び出している。
頭だけは美しい女性であるが、体は醜い怪物。おそらく、スカールが何十年間も他者の前に姿を見せなかった理由がこれなのだろう。
「やっと、異常者の相手をするうんざりした日々から解放されるのですね」
しかし、腕を振り上げたシロナを見て、スカールは小さくそう呟いた。それを聞いたシロナは思わず動きを止め、何とも言えない表情でスカールを凝視する。
「…今、なんていった?それはこっちのセリフでしょ…?」
「いいえ、あなた方は異常者の集まりです。いいですか…私は、生まれた時から女王です。産まれた人間が泣く事しか知らないように、私は女王としてこの世界を想うがままに闊歩することしか知りません。だから、そんな赤子のような存在に対して憎悪を燃やし、怒り狂う異常者の相手は疲れました…もう終わりにしたいのはこちらの方です」
「あ、そう…」
初めてだ。今まで何体もの人造人間と戦ってきたが、ここまで人造人間に対して冷たい気持ちになったのは。腹の底まで煮えたぎるどす黒い気持ちに支配されたのは。
「私はやります。ですから、戦いましょうシロナ」
スカールの肉体を天井に縛り付けていたオレンジ色の糸束がブチブチと千切れ、スカールの手足が解放されていく。スカールの体が落下して地面に降り立ち、でっぷりと太ったような腹の部位を前へ向け、そこに足を組んで腰かける。
「”死”がふたりを分かつまで」
今、最後の戦いが幕を開けた──