もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第270話 「HERO」

多くの犠牲を払いながらも、ついにシロナは諸悪の根源ことスカールと相まみえる事が出来た。しかし、その敵の姿は絵や彫刻で見てきたような美しい女性の姿などではなく、歪な虫のような異形の姿だった。確かにその頭部だけは彫刻や絵画で表現されたスカールにそっくりだが、首から下は4本の腕と2本の足を持つ昆虫と人の中間のような姿で、腰から突き出た腹の部位を地面に置いてそこに腰かけている。

 

「あなたは悪なのです。ですから、悪は正義によって倒されるべきなのです」

 

「あんた何言ってんのよ!」

 

次の瞬間、スカールは軽く腕を振って指先に絡みついていた粘着質の糸をシロナへ向けて飛ばす。

 

「うおっ!」

 

驚きながらも難なくそれを躱すシロナ。糸はそのままシロナの後方にある壁にベチャッと張り付いた。そしてスカールが指を曲げてその糸を引っ張ると、なんと壁の一部を構成していた巨大な鉄骨のようなパーツを抜き取ったのだ。それを高速で引き寄せ、シロナの背後へぶつけようとする。

 

「なんの!」

 

シロナはそれを殴って弾き飛ばし、その勢いに耐えかねた糸は千切れ、鉄骨は再び壁に突き刺さった。

 

「やりますね。糸を強くする必要がありそうです」

 

スカールは別の腕から伸ばした、先ほどの糸を何重にも重ねた糸束を引っ張ると、今度は大きな鉄の車輪を壁の中から出現させ、転がしながらシロナを轢き潰そうと襲い掛からせる。

対するシロナはそれを真正面から受け止め、足腰に力を入れて車輪を投げ飛ばし、逆にスカールの方へ転がした。しかしスカールも絡みつけた糸束で車輪を操作し、再びシロナへ向かわせる。その間にももう2本の糸を引き、床の中からトリケラトプスのような恐竜の頭骨を引っ張り出し、その角を向けた状態で投げつける。

 

「ふん、その程度で今の私が止まる訳ないでしょ」

 

シロナは斧と化した左足で蹴りを放ち、頭骨を叩き割る。そして右腕の鋸のギザギザした歯で車輪を止め、右足の錐で糸を切断する。

 

「いくわよ、これで叩き斬ってやる…!」

 

両腕に鋸とカッターナイフを作り出し、それを振り上げながらスカールに飛びかかる。もはや自分の周囲に武器を持ってくる余裕すらないスカールは、ただシロナを見上げるほかなかった。

…しかし、そう見えただけだった。スカールはシロナへ向けていた尻の先端の針からオレンジ色の糸束の塊を高速で発射した。

 

「ぎゃっ!」

 

糸束がシロナの右半身にぶつかって纏わりつき、シロナはその場で地面に落ちてしまう。その瞬間、スカールは糸で引っ張って来た巨大な鉄筋コンクリートやアスファルト廃材を集めて作った塊を振り回し、シロナへ真正面から衝突させた。さらに、再び出現させた鉄骨や重機のアームなどを次々ぶつけていく。並外れた強度と弾力性を持つ糸束でパチンコのように「溜め」を作って放たれる一撃は絶大な威力を発揮し、いくらシロナと言えどノーダメージでやり過ごすことは不可能だった。

糸で拘束されてその場から動けないシロナは、逃げることもその攻撃によって吹っ飛ぶこともできず、全身ボロボロの状態でひたすら耐えるしかなかった。

 

「ぐ…ハァ…ハァ…!」

 

スカールの持つ残弾が一通り消化され、いったん攻撃の手を止める。シロナの全身は青い痣と流れる血で覆われ、その顔は腫れあがって見る影もない。

 

「悪役とは、潔く散るべきです」

 

スカールは口から螺旋状の巨大な衝撃波を放ち、シロナへ命中させる。響き渡る衝撃が糸束をバラバラに千切り、もろに晒されたシロナは吹き飛んで後方の壁に激突し、ズルズルと滑り落ちる。

スカールは腰からぶら下がっている大きな腹の部位を自ら切り離し、身軽な人型の姿になると、そんなシロナの元へ歩み寄る。そして虫けらのように横たわるシロナに対して憐みの視線を向けると、おもむろに口を開いて語り始める。

 

「…私は、造られた時から人造人間たちを統べる女王です。かしずく配下たち…ひれ伏す兵士…彼らは私を第一として尽くし、私の言う通りに動いてくれました。欲しいものはすべて手に入った…私はいろいろな場所を襲撃し、そのたびにこの拠城を大きくし、自分の武器を強化してきました。…ですが、無いのです。この無機質な城の中には、”何か”が無いのです。その何かが無いまま、それが何なのかも知らないまま、私は一生ここで存在し続ける」

 

その話を聞いたシロナは、何も言わずに顔を上げようとする。

 

「しかし、私は気が付きました。街を壊して取り込んだ廃材を監査している時、人の住む家屋を潰した時。人間たちの生活の中にほぼ必ずと言っていいほど存在し目に入ってくる、虚偽の文字や絵や映像で語られる作りごとの物語。その主人公たる、『ヒーロー』の存在に」

 

スカールの目が子供のように輝き始める。

 

「そこに有りました。私が求めていたものが、そこに有ったのです。私が見たヒーローは、どんなときにも諦めません」

 

「何言ってるのか…わかんないわよ…」

 

シロナはそう言いながら、力を振り絞って立ち上がろうともがく。

 

「何度でも、守りたいものの為に立ち上がるのです」

 

その時、シロナはガバッと立ち上がると錐の足でスカールへ蹴りかかる。

 

「めんどくさいヤツね!」

 

「口では自分本位で否定的な発言をしながらも」

 

スカールも腕で突きを繰り出し、シロナの肩を掠るように切り裂くが、シロナの錐が左腹にわずかに突き刺さる。

 

「弱き者や戦う術を持たぬ者の為に戦う」

 

スカールは痛みに顔をしかめながらも、もう一度別の腕で一撃を繰り出す。それはシロナの顔面に命中するが、シロナも鋸の腕でカウンターを繰り出し、鋸が背中の突起部分を破壊する。

 

「そんな時、ヒーローは普段の何倍も強くなるのです」

 

再び攻撃を放つが、シロナはそれを受け止め、はじき返す。

 

「そして、決して自分の恩を人に着せたりしない」

 

「だから、アンタはさっきから何が言いたいんだよ!?」

 

そこでしびれを切らしたシロナが思わずそう言った。

 

「ですから、あなたはヒーローなどではなく、悪役であると言っているのです!」

 

スカールはシロナの顔面を殴り抜ける。

 

「アンタ戦いの最中に何を言ってんのよ!?」

 

シロナはふんばるとまたもそう言葉を投げる。

 

「聞きなさい!一番大事な事ですよ!ヒーローは…」

 

「スカール様、ただいま加勢に~~!!」

 

しかし、スカールがそう言いかけたその時、彼女らの背後からドカドカとやかましい音が聞こえてくる。

どこかで生き延びていた低級な人造人間たちが、スカールを守ろうとこの場へ駆けつけてきたのだ。

 

「来るのではありません!」

 

だが、スカールはそう言いながら口からエネルギー波を吐き出し、向かってくる人造人間たちを一体残らず焼き払う。

 

「アンタ、仲間までも…」

 

「来ないでください!私がせっかくひとりで戦っているのです!物語のヒーローはひとりで戦うものです、加勢などして私をヒーローにさせないつもりですか!?」

 

今度はシロナの方へ首を向ける。

 

「ヒーローとは、普通とは違う能力に苦悩したり、時には強大な敵を前に敗れたりもするが、自分だけの信念をどこまでも貫き通すのです!そして、最後までひとりで戦い抜くのです!!」

 

ボロボロの体でまっすぐに立ち、なおも自分を睨みつけるシロナを見るスカールの目が血走り、今まで無表情だった口元が歪み、歯を食いしばっている。

 

──見ていた。私は見ていました。アニメや漫画のように、私はずっと…シロナ、あなたを見ていました。

手下の人造人間や記憶兵器の動向を監視するときには、嫌でも目立つあなたが目に入りますので。すべて見ていました…私たちとの戦いも、すべて…。

 

「ねぇスカール…お前はさっき、赤子のような存在に対して怒り狂うのは異常者だって言ったよね」

 

と、シロナが言う。

 

「それがどうしました?人は赤子のした悪事を笑って許すものでしょう?だからわざわざ私に歯向かおうとする人間は異常者だと申したのですよ」

 

「それがよ…気に入らないんだ」

 

シロナは血の混じった唾をペッと吐き捨てた。

 

「黙りなさい悪党め!」

 

そう言いながら、スカールは4本の腕を前にかざし、その手の平から無数のエネルギー弾を連射する。

しかし、シロナは避ける事もせず、逆にスカールへ向けて走り出す。背中から飛び出した脊椎の形をした鞭が全てのエネルギー弾を相殺していく。

 

「あのな、スカール…確かに赤子に対して、人は罰は与えない。だけど、赤ちゃんは自分が幼いことを理由に開き直ったりしないでしょ!アンタが言ってることはただの傲慢、やってるのはただの殺戮よ!」

 

さらに、シロナの顔を青い結晶の兜が覆い、その拳に今まで以上に強固になった結晶の板が貼り付けられる。

 

(…何故なのですか)

 

シロナは飛び跳ね、空中で拳を引いて構える。それを見たスカールは心の中で叫ぶ。そして口から渾身のエネルギー砲を発射しそれが命中するが、それでもシロナは止まらない。顔の結晶の兜が破損し、顔の右半分が元に戻るが、それでもシロナの闘志は鷹の脚のようにこちらをガッチリと掴んで逃がさない。

 

(何故この子供は『こう』なのですか…)

 

──私は物語に登場するような「ヒーロー」になりたかった。だが、それはこの拠城の中では決してあり得なかった。なぜならば、この城の中では私に歯向かう者も、倒すべき悪に涙する弱者もいなかったから。だから悔しかった…私はシロナの行動すべてに対して歯ぎしりした。私は、貴女のようになりたくてなりたくてたまらなかった…

 

「アアアアアアアアやっぱりかァァァァァァ!!」

 

スカールはシロナの背後に、巨大な猿のような獣が最大級の怒りを込めて吠えている姿を見た。

次の瞬間、スカールの顔面へシロナの拳が突き刺さる。スカールの上体がうしろへ傾き、軋むような音が響き渡る。

 

「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ…!!」

 

さらに一発を腹へ、さらに一発を頭部へ…次々と撃ち出される拳の連打と応酬がスカールの全身に襲い掛かる。その一撃一撃に、シロナは込めている。この戦いで散っていった仲間たちの願いを、これまで人造人間によって不幸に落とされてきた者たちの怒りを。

スカールの頬が割れて穴が空き、腕があらぬ方向へひしゃげ、胴体には無数の拳の跡の凹みができる。

 

「ウラアアアアア!!」

 

そして、最後の一撃を喰らわせると、スカールはその巨体ごとぶっ飛び、床に何度もバウンドして転がり、やがて止まった。

 

「カ…ガ…」

 

「わかった?」

 

起き上がろうと顔を上げたスカールの目の前に、シロナの足が降りてくる。

 

「アンタがやってることはただの無意味な殺戮よ。物を取り込んで自分の城を大きくしたいなら勝手に砂漠や森にでもこもってやってればいい。でもアンタは人や生き物を平気で巻き込んでる…なのにそれを気にも留めない態度が許せないのよ」

 

しかし、もうそのようなシロナの言葉も既にスカールの頭には届いていなかった。スカールはゆっくり起き上がろうとするフリをしながら、その思考はここからどうシロナを始末しようかという事しか考えていなかった。

 

(やはりこの子供は最後まで人間…動けない敵を見ると油断して口を滑らかに動かし始める。ですがこの私にそれはない。徹底的な無駄を省き、全てを合理的に成してこそあのお方に役目を果たされたこの私というもの!)

 

スカールはそう思うと、壊れた腕の関節部分から黒く濁った油の塊を吐き出した。それはシロナの顔面にかかり、その目に入って視界を奪った。

 

「これで終わりです!私こそが本物のヒーローなのです!!」

 

そして足で蹴りを放ち、つま先から生やした長い毒針でシロナを串刺しにしようと不意打ちを仕掛ける。

しかし、シロナは目が見えずともスカールが何か攻撃を繰り出したことに勘付くと、そこへ目がけて拳を放った。針は拳に真正面から突き刺さり、そこで両者の動きが止まる。

シロナは拳の痛みにわずかに顔をしかめ、スカールは勝利を確信してにやりと笑った。

 

「あれ…?」

 

だが、スカールは凍り付いた。シロナの拳の結晶に反射して映り込んだ自分の姿は、自分が想像し憧れていた理想の「ヒーロー」とは大きくかけ離れた悍ましいものだった。

 

(これが…あのお方から与えていただいたお姿…?)

 

自分自身の存在に対する、拒絶の念。思い返せば、これまでの自分の行動全てが理想のヒーローとは全く異なるものだったとようやく気付く。

スカールの足の針が砕け散り、そのままヒビは巨大な亀裂となってスカールの胴体を真っ二つに分かつ。スカールの体は自壊するようにして崩れ落ちていき、最後には頭部だけがその場に転がるのみとなった。

 

「もうお前も、人造人間も終わりだ」

 

シロナはスカールの頭部に歩み寄り、鋸に変えたその腕を振りかぶる。そして、一気に刃を頭部のど真ん中目がけて振り下ろした。しかし、次の瞬間に放たれたスカールの言葉を聞いて、シロナはぴたりと動きを止めることになる。

 

「私は今から54年前、スカール様によって造られた人造人間です」

 

 

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