ブロリーとリルド将軍が激しい戦いを繰り広げている頃、気を失ったまま指令室に寝かされているスカッシュ。
彼女は静かに目を覚ますも、目は開けることなく自分に何があったかを思い出す。
(そうだ…アタイは変なロボットみてーな奴らにやられて捕まって…)
そして目を覚ましていることを悟られないように、そっと薄目で周囲の様子を伺う。
ここはどこか建物の中…周りにはさほど強そうではない研究者のような出で立ちのロボットが忙しそうにあちこちを歩き回っている。自分はカプセルの中で寝かされており、幸いにも周りのロボットたちは自分たちの仕事に一生懸命でスカッシュの事を気にかけている余裕はないようだった。
そして、部屋の向こうにあるモニターには、司令官らしき男とブロリーが戦っている様子が映っていた。
(偉そうな奴が外でブロリーと戦ってる…つまり、今ならここの警備は手薄かもしれねぇって事だな…逃げるなら今のうちだ)
スカッシュは思い立った後の行動の速さにおいてはピカイチであった。手から気を放ってカプセルを破壊し、一瞬でその場から走り去った。
「…実験体、逃亡!実験体、逃亡!」
突然の出来事に処理が追いつかないながらも、爆発の衝撃から逃れたロボットたちは口々にそう言った。
通路をひたすらに走っていると、そこらかしこでサイレンが鳴り響く。
「へへっ、どんなロボット野郎でも来やがれってんだ」
逃走するスカッシュの目の前に、紫色のボディを持ったマシンミュータントが5体出現する。丸っこい身体に、細い手足と長い尻尾を持った、人間大サイズの戦闘タイプだ。
戦闘タイプM2たちは球体上の胴体を上下半分に割るようにして口を開き、そこから飛び出した機関銃、ガトリング砲をスカッシュに向けて無数に乱射する。スカッシュは勢いそのままに、なんと壁や天井を平気で走りながら乱射される弾丸を躱してゆく。そして天井を蹴り、一気に戦闘タイプM2との距離を詰め、拳を突き出してそのボディを全身で貫いた。その余波を喰らった他の戦闘タイプそろとも、その場の5体はバラバラになった。
「うっし!」
しかし、それらを倒したのもつかの間、後ろからも前方からも戦闘タイプM2の集団が押し寄せてくる。それでもスカッシュは久々に胸から湧き上がってくる闘争への熱意と興奮による凶悪な笑みを浮かべながら走り出す。
「キャハハハハハ!!スカッシュ様のお通りだよ!」
「『ハイパーメガリルド』!!」
リルドが開放した気が竜巻のようにうねり、天を突くドリルのように空高く昇ってゆく。やがてそれが治まった時、そこには進化を遂げたリルドの姿があった。
取り込んだメガキャノンΣたちの装甲を思わせるメカパーツが顔の下半分や頭部、胸といった全身のいたる箇所を覆い、体の筋肉も増えやや体格が大きくなったような気もする。さらにその右腕は大きな金色のドリルに変化しており、高速回転するそれはハイパーメガリルドとなったリルド将軍の圧倒的なエネルギーを秘めていた。
伝説の超サイヤ人と化したブロリーであっても、思わず後ろへ一歩下がってしまうほどの迫力…。
「では、第2ラウンドといこうか」
リルドは笑うように目を細め、空高く飛び上がった。こちらを見上げているブロリーに向かって急降下し、回転する右腕のドリルを叩きつけようと襲い掛かる。それを後へ飛びのいて躱すブロリーだが、目の前に地面に衝突したリルドから巻き上げられるエネルギーの波動に吹っ飛ばされる。
「ぐお…!」
ブロリーでも耐えきれない威力の波動は収まらず、そこから飛び出したリルドは一瞬でブロリーに追いつき、その真上で腕を振り上げる。そして、その胸にドリルを振り下ろすのだった。
「うぐあああああ…ッ!!?」
けたたましい金属音と共にブロリーの胸を貫くかに思えた一撃だったが、ブロリーの巨体を完全に貫通するまでには至らず、咄嗟にエネルギー弾をリルドの顔面へぶつけたブロリーはそこから脱した。
しかし、ブロリーの胸には痛々しい大きな傷が出来ており、傷口からは血が流れていた。同時に口の端からも血が垂れ、致命傷ではないもののかなりのダメージであることが伺える。
「ハア…ハア…!」
「ふ…その程度か。どうだ、お前もはやくマシンミュータントになると言え。そうすれば傷を受けても何度でも元に戻る肉体が手に入るのだぞ」
リルドはブロリーに対してそう言った。
「馬鹿を言え…誰がそんなものになるか」
「そうか。ではお前が認めるまで、痛めつけてやるとしよう」
リルドはブロリーに対してドリルを向けると、そこからドリル型のエネルギー弾を発射した。それを飛んで避けるブロリーだが、間髪入れずに放たれた2発目が目前に迫っていることに気付く。それを避けようとするが、ギリギリで切っ先が腕に当たり、ザックリと切り裂かれてしまった。
鮮血を撒きながら、ブロリーは全身からジェットのようにオーラを噴いて高速で飛び去る。
「逃がさんぞ」
そう小さく呟き、リルドは冷静にドリルからエネルギー弾を飛ばしてブロリーを狙い撃つ。避けようとするブロリーだが、先ほど胸に受けたダメージの所為で動きが鈍り、次々と攻撃を喰らってしまう。背中に攻撃が命中してしまい、体勢を崩したところを集中的に何十発もの攻撃が襲い掛かる。
──まずい
息をつく間もなく降りかかる攻撃が着実にブロリーの力を奪う。どんどん気が減っていき、伝説の超サイヤ人の状態を維持できなくなり、そのオーラの鋭さと全身の筋肉が徐々に小さく萎んでゆく。
「そろそろ潮時か。どれ、一気に叩き潰してやるか」
リルドはドリルの腕を空高く掲げ、全身のメカパーツから体内エネルギーを集中させ、そのドリルを一気に自分の身長の倍以上の大きさにまで巨大化させる。それを眼下で速力を失っているブロリーに向けた。
次の瞬間、巨大なドリルが変形し、太さはそのままにどこまでも伸びてゆく。巨大な柱の如きドリルはブロリーの頭上に迫り…
「な…!」
驚くブロリーの全身に影を落とし、そのまま彼を押し潰して地面に激突した。
一方、惑星M2とは離れた位置にあるどこかの惑星にて、司令塔内で暴れまわるスカッシュの様子を、モニター越しに眺めているドクター・ミュー。ミューは手の平の上に浮かべた半透明な天体の模型のような物体を転がし、怪訝そうに口を開いた。
「何か、惑星M2が騒がしいな。メガキャノンΣとリルド将軍は…戦闘中か。では仕方がない、”ルード教計画”に組み込もうと思っていたが、お前に行ってもらうしかないようだ。ムッチーよ、あの娘を直接ここへ連れて来い」
「ご命令のままに、ドクター・ミュー様」
「意外としつこいなコイツら…!」
スカッシュは行く手を塞ぐマシンミュータント達に突撃し、破壊しながらそこを突破するものの、上下前後左右、あらゆる場所から出現してくる敵に対して文句を垂れた。
それでも次々とM2を撃破し、司令塔の外を目指して突き進んでいく。が、次の瞬間、目の前から何か黄金色をした細長い物体がしなりながらスカッシュの身体を打った。
「うお…!」
スカッシュは吹っ飛ばされ、壁を突き破って隣の通路にまで吹っ飛ばされる。
「イテテ…何なんだ…!?」
瓦礫を退かしてその下から這い上がりながらそう言ったスカッシュは、攻撃を喰らった箇所は打撲したように腫れ上がり、全身はボロボロになっていた。
スカッシュは今自分が突き破った壁の向こう側からこちらへ歩いてくる影を見た。
「俺様は”ムッチー”。さぁ、ミュー様の元へ来てもらうぞ」
ムッチーと名乗るマシンミュータントは、黄金色のボディを持ち、頭部は後ろへ長くせり出し、指の無い手からは鞭のようにしなる武器を生やした怪物のような姿をしていた。嘴のような口を曲げ、十字線の刻まれた赤い目を細めて笑うと、両手の鞭を振るい、スカッシュを攻撃した。
「あだっ!テメ、何しやがる!」
隙を見て逃げ出すスカッシュ。流石に、あの鞭野郎は今まで蹴散らしてきたマシンミュータントたちとは別次元の強さを持っていると分かる。その力はあのクウラよりも、そして暴走する前のライチーよりも凄まじいだろう。
しかし、追いかけてくるムッチーの鞭攻撃が尻にヒットし、驚いて躓いてしまう。
「ギャー!やめろこの変態野郎!!」
「誰が変態野郎だ」
スカッシュの言葉に激怒したムッチーは、今度は片腕の鞭を伸ばし、スカッシュの足に巻きつかせた。そのまま絡めとって持ち上げ、軽く振り回して壁に叩きつけた。
「うげ…」
あまりの衝撃に血を吐いて目を見開くスカッシュ。ムッチーはにやりと笑い、もう一度鞭を振り回し、反対側の壁にスカッシュを叩きつける。
「ハーッハッハッハッハ!どうした、もっと抵抗して見せろ!」
「クッソ…!」
しかし、ムッチーは何度何度もスカッシュを壁や床に激突させ、反撃の隙を与えない。やがて、ムッチーはスカッシュが弱ってぐったりとしたのを確認すると、振り回すのを止めて自分の元へ引き寄せる。
「フッ!!」
その瞬間、スカッシュはムッチーの顔面に、弾けるスパークを纏う紫色のエネルギー弾をぶつけて炸裂させた。スカッシュは血まみれの顔でムッチーを睨みつける。
だが、煙が晴れると、そこには全く傷を受けていないムッチーがいた。
「チクショオ…もうアタイの力なんて…どこにも通用しないじゃないか…」
「もう終わりか?では…ミュー様の元へ届けるとするか」
ムッチーがそう言うと、スカッシュの体に巻き付けた両腕の鞭が電気のようなものを纏った。それはスカッシュの全身を覆うと、今度はムッチー自身に逆流するかのように流れてゆく。
「ぐああああああ…力が抜ける…!!」
ムッチーはスカッシュの身体からエネルギーを吸い取り、彼女を気絶させた。ムッチーはスカッシュを鞭で巻き取ったまま、司令塔の最上階へと戻ってゆくのだった。
「…奴のエネルギーが減少している。流石に、オレのこの一撃を受けては死を免れなかったか」
リルド将軍は地面にめり込んでいる巨大なドリルに押しつぶされたブロリーの気がかなり小さくなっているのを感じ取った。
「しかし、ミュー様の命令はあくまでコイツの”生け捕り”だ。死なれては任務失敗になってしまう。どれ、死ぬ前にとっとと金属板に変えてしまうか」
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…我らがサイヤ人の始祖よ。これより、”超サイヤ人ゴッド”の名において其方に願う。
始祖よ、この我…”超サイヤ人ゴッド”の言う事を聞け。
私は当代の超サイヤ人ゴッドです。始祖に命じたき事がございます…
薄れていくブロリーの脳裏に、知らない誰かの言葉が聞こえてくる。その声は厳格そうな男の声だったり、ぶっきらぼうな男の声だったり、女性の声だったりするが、そのどれもが何やら”始祖”と呼ばれている存在に対して”超サイヤ人ゴッド”と名乗る者たちが命じかけている意味合いだった。
(…なんか、この感じ…前にも味わったことがあるような…)
そうだ…知らない誰かの声が聞こえてきて、まるで自分が別世界に足を踏み入れてしまったかのような不思議な感覚。これは以前のドクター・ライチーとの戦いの最中にも感じたような…。
「…あ」
その時、ブロリーは目を覚ました。
自分は既に立ち上がっている体勢で、この場所は先ほどまでリルドと戦っていた惑星M2ではない。赤い砂が敷き詰められた地面が地平線のはるか先まで続き、空は暗くも無数の星や銀河が瞬き、宇宙空間を見上げているようだ。
ふと自分の横に気配を感じてそこに視線を落とすと、そこには見た事のない姿の女性が立っていた。
「お前は…」
思い出した。ライチーの使う怨念増幅装置ハッチヒャックに半身を吹き飛ばされたとき、自分が訪れた謎の空間がここだ。そして横にいる女性はその時に自分の体を治してくれた人と同じだ。今の今まですっかり頭から抜け落ちていた。
リルドの放った巨大なドリルは、確かに自分の体を目茶目茶に潰したはずだ。しっかりとその感覚も残っている。しかし、ここにいる自分は何事もなかったかのように、傷ひとつ負っていない。
「お前は一体誰なんだ?」
ブロリーは女性に対してそう問いかけた。