もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第283話 「狂気沈殿」

夜の街の中を何かが高速で移動していく。駅で談笑していた2人組の間をすり抜け、線路の上を走る電車を追い抜いてどこまでも駆けていく。

 

「ああああああひィィィィィ!!アニキアニキ怖いよ”トルボ”アニキ!」

 

「落ち着け、落ち着けよ”ノド”!」

 

ノドと呼ばれた人造人間は大柄な体に見合わない臆病なセリフを吐きながら、トルボという小さな男の子のような姿をした人造人間を肩に担ぎ、街中を疾走する。最初は人や障害物を避けながら走っていたが、やがて切羽詰まってくるとそんなことはお構いなしに車や建物にぶつかって強引に突っ切っていくようになる。

 

「なんでアイツがここにいるんだここに!恐恐恐恐恐…怖怖怖怖怖…!!」

 

「スカール様を倒したという最強の記憶兵器…!ヤツがこんなところにまで現れるとは…!」

 

2体は高速道路上へ飛び乗り、車を後ろから蹴散らしながらひたすらに走る。

 

「アッ!?アニキィィィィ!!」

 

しかし、ノドは道路のはるか先にポツンと佇んでいる人影を発見した。その人影はゆっくりと、刃物のような形状に見える両腕を振り上げる。

 

「止まれノド!」

 

「アニキアニキアニキ止まれないよアニキアニキ!!」

 

「うわあああああああ~~~!!」

 

2体は勢いを殺すことができずに全速力のまま、どんどんと近づいてくる人影に突っ込んでいく。その人影が両腕の刃を交差させながら振り下ろすだけで、ノドとトルボの兄弟の体はそれぞれ4つに切り裂かれ、残骸が道路上へ散らばる。残骸は地面へ落ちる前に爆発を起こし、その爆炎はもろに人影に振りかかる。が、人影はそれを全く意に介している様子はない。

 

「あ…悪魔め…」

 

そう呟いたトルボの頭部を踏み砕いてトドメを刺したのは、紛れもなくあのシロナだった。完全に冷え切った表情で人造人間の残骸を見下ろし、足で蹴散らす。通常は記憶兵器を継承すると歳をとりにくくなり、具体的には老化の速度が5分の1ほどになる。シロナもそれに倣って、背格好はほとんど変化が無い。

シロナはそのまま道路から離れ、駅に着く。すると、そこで待っていたミルが話しかけた。

 

「ご苦労様。次の人造人間はいつになるのでしょうかね…」

 

「はやく、本物のスカールにたどり着ければいいけど」

 

 

──時は、シロナ達が人造人間との決戦に勝利してから間もなくの時間に遡る。

 

財団の施設にて傷を癒し、休養を取っていたシロナとミル、そしてサタンの元へ、差出人不明の謎の手紙が届いた。その手紙の内容はこういうものだった。

「人造人間と戦い続けし人間たちよ、私はカリン塔を登り切ったさらにその先で待っている」。たったその一文だけ書かれた手紙を見たシロナ達は互いの顔を見渡した。

 

「何ですのこれ…」

 

「カリン塔と言えば…ウパさんたちと一緒に戦った場所にあった天空まで続くっていう塔だよね」

 

「一体、そこまで行けば何があるというのだ?」

 

「…そういえば、ボラさんが言ってた…。言い伝えでは、当を登り切った先には神様がいるって」

 

「私はここで待っていよう。もう少し、自分の気持ちに整理をつけたい」

 

サタンがそう言って残ったので、シロナとミルだけで聖地カリンへと向かうのだった。

…ふたりが車で聖地カリンに入ると、真っ先にカリン塔とその付近にあるウパたちの家を目指した。目的の場所へ到着すると、ウパたちは真っ先に出迎えてくれた。

 

「おお、久しぶりだな!」

 

「うん…ウパさんたちも元気そうね」

 

「おかげでな。ところで今日は一体どうしたんだ?人造人間との戦いはどうなった?」

 

シロナ達はウパに事の顛末を全て話した。全ての記憶兵器が人造人間と決戦をしたこと、そして人工衛星によるレーザー砲によって、人造人間と記憶兵器は自分たちを除いた全てが消え去った事…。

 

「そうだったのか…ご愁傷様に…」

 

「それで、私たちのところにこんな手紙が来たのよ」

 

シロナはウパに礼の手紙を見せた。

 

「…まさか、これは間違いない…きっとカリン塔の天辺に住むという神様からのお達しだ。神様は君たちに塔を登って私の元へ来いと言っている」

 

言われたシロナとミルは天高く聳えるカリン塔を見上げた。その天辺というのも、どれだけ目を凝らしてもかけらも見えてこない。

だが、シロナとミルは一緒にカリン塔を登り始める。最初は途方もなく感じられたが、いざ登ってみれば今のシロナ達にとっては楽勝だった。シロナは硬質化させた指を塔の模様やくぼみにひっかけて勢いよくぐんぐん登っていき、ミルも同様にドリルのように渦を巻く腕をほどいて帯のようにし、それを伸ばして巻いてを繰り返し塔を登る。やがて、ふたりは30分と満たないうちにカリン塔を登り切った。そこにはドームを逆さまにしたような形状をした建造物が塔一本に支えられて浮かんでおり、ふたりは梯子を伝ってその上へ行く。

 

「ここがカリン塔の頂上?」

 

「だとしたら、神様がおられるはずですわよね…」

 

そう言いながら辺りを見渡し、ふと後ろを向いたとき、ふたりの後ろには異様な二人組が佇んでいてじっとこちらを見ていた。ひとりは肌の黒い無表情でアラビア風の衣装の男、もうひとりは二足歩行で杖を持った猫であった。

 

「あ…どうも…で、どっちが神様?」

 

シロナがそう聞くと、黒い肌の方の男が答える。

 

「わたし、ミスター・ポポいう者。こっち、仙猫のカリンいう。どちらも神様じゃない、神様に仕えし者。よくぞここまで来てくれた…あとは私が神様がいる上まで連れて行こう」

 

「ではポポ殿、頼みましたぞ」

 

カリンと呼ばれたしゃべる猫がそう言うと、ポポはパチンと指を鳴らした。するとどこからともなく、赤い空飛ぶ絨毯がやって来た。

 

「乗れ」

 

シロナ達は驚きながらも絨毯の上に座った。ポポもその上に立って乗ると、絨毯は浮かび上がり、建物の外へ出るとそこからさらに上へと飛んで上昇していく。

 

「うわわわっ」

 

絨毯が雲の中に突っ込むと、その中で雷が幾度となくこちらを狙って落ちてくる。だが、不思議な事にある程度近くまで来るとポポとこの絨毯を避けるようにして消えてしまう。すると、上の方にさっきのカリン塔の頂上にあった建造物よりもさらに大きな建造物が待ち構えていた。

ポポの絨毯はその上へ上がり、ミルとシロナをそこに降ろす。床は白い大理石のタイルが敷かれ、奥に見える大きな宮殿に続く道の両脇にはヤシのような植物が植えられている。

 

「ここは…」

 

シロナがそう呟くと、ポポが返答する。

 

「ここは地球を見守る神様の暮らす神殿」

 

「さっきから神様って…本当に神様って事?」

 

「本当に神様。地球で一番偉くてすごいお方だ」

 

すると、向こうに見える神殿から、ひとりの影がゆっくりとこちらへ歩いてきているのがわかる。シロナとミルは一瞬身構えたが、その者の雰囲気が穏やかさそのものであることに気付くと、警戒を解く。

 

「はるばるお越しいただきありがとうございます。私は新たに地球の神の座を継いだもの…『ピッコロ』といいます。以後よろしくお願いしますね」

 

そう言ったのは、白い地に大きな「神」という字が書かれたローブを身にまとう人物だった。ピッコロと名乗ったその青年は、緑色の肌を持ち、耳は尖り、頭からは一対の触角が生えており、明らかに普通の人間とは異なった風だった。

 

「立ち話もなんですから、あちらへ行きましょうか」

 

ピッコロは神殿のテラスを指差し、そこへシロナ達を案内する。シロナとミルは椅子に座り、綺麗なアクアリウムの設置された壁を思わず眺めた。

 

「…さて、私はこの地球を見守る『神』という存在に就きました。ちょうど10年ほど前、先代の地球の神は亡くなられました。それからは長らく地球の神は不在でしたが、ついひと月ほどまえ、私は神になりました。その時、私は見ました…あなた方記憶兵器と、人造人間の戦いを」

 

「気に入らないわね」

 

と、そこでシロナが言った。

 

「罪のない人々が人造人間によって長年苦しみ、私の仲間が戦っている時、地球で一番えらい神様は何もしてなかったの?」

 

「そう思われるのは当然です」

 

が、ピッコロもすぐさま話を続ける。

 

「神とは見守る者…これは先代の先代、それよりずっと前から定められた方針です。生きるも滅ぶも、全て民たちに任せる。民が生存と繁栄を望むのなら、神もそれを望んで見守り続ける。民が破壊と絶滅を望むのであれば、神もそれを望む。しかし、私は違います。私は神の手を必要とする者へ力を貸します」

 

「じゃあ神様は私たちにどんな力を貸してくれるの?」

 

「今現在、地球で生き延びている人造人間の居場所を教えます」

 

「人造人間は全て滅んだはずですわ。スカールは全人造人間を拠城へ集結させ、彼らは我々とレーザー砲によって全て消滅させましたのよ」

 

「だがどういうわけか、何体かは逃れています。もともと集まらなかったのか、それともレーザー砲から逃げたのか…。数は未だ具体的には把握できておりませんが、私が人造人間を発見し次第あなた方へ伝え、あなた方はそれを倒す…それを続けていれば、いずれは本物のスカールへとたどり着けるはずですよね?」

 

「…神様には、全てお見通しだったというわけですのね…。人造人間をすべて倒しきった時、スカールがいなくても良し。スカールを見つけられればなお良し」

 

「いいえ、スカールは生きています」

 

ピッコロはそう言い切った。

 

「どういうこと?」

 

「本当に微弱ですが感じるのです…貴方たちがスカールと呼ぶ人造人間の本物はこの地球のどこかに必ず存在しています。他の人造人間を全て破壊した時、その存在もよりハッキリするでしょう」

 

「そういうことなら、ぜひお願いしようよ。どいつもこいつも、あの護衛軍や偽のスカールに比べれば全然大したことないだろうし…」

 

それから、シロナとミルは神様の協力の元、スカール傘下の人造人間の残党との戦いを続けていたのだ。

 

 

…そして、3年近くが経過し現在に戻る。シロナは身の危険すら顧みる事のない、命を賭した無謀な戦いをこれまで続けてきたのだ。全ては、かつて仲間が命と引き換えに自分に託した願いを叶えることができなかったという、罪悪感と重責のために。

今倒した二人組の人造人間の後始末をした二人は、次に戦うべき人造人間の情報を聞くために神の宮殿へと戻った。

 

「お疲れさまでした。無事に倒せたようですね」

 

そんなふたりをピッコロが出迎える。

 

「ああ…んで、次の人造人間はまだ?」

 

「はい、運よく続けて発見することが出来ました。あちらをご覧ください」

 

部屋でピッコロが指差した先には、紫色の水瓶が置かれていた。その大きさはシロナの腰くらいまでで、そのほかにもこの部屋には様々な色やデザインの水瓶が置かれている。

 

「この部屋にある水瓶は、全て『異界』へと通じています。それは過去の世界や死者の世界、はたまた桃源郷などなど…。そして、あの紫色の壺は『幻想郷』と称される世界へと通じています」

 

「幻想…郷…?」

 

その言葉を聞いたシロナは、頭の奥深くにある何かを刺激され、一瞬だけ激しい頭痛に襲われた。だが頭を振って余計な念を払い、ピッコロの話に集中する。

 

「あの水瓶を覗いてください」

 

シロナとミルは、ピッコロに言われるがまま例の水瓶を覗き込む。

 

「これは…」

 

ミルが思わず声を漏らす。その中には半分ほどまで水が溜められており、灯りに反射しててらてらと光っていた。が、突然水面の揺らぎが全く消えたかと思うと、そこには何者かの顔が映し出されたのだ。その顔を見た瞬間、シロナはまたしても激しい頭痛に見舞われた。

 

「いつっ…!」

 

「大丈夫ですの?」

 

「うん、平気…」

 

改めて映し出された人物の顔をまじまじと見つめる。面長で整った顔、ショートヘアの銀髪、眼球が無い目には赤い光が宿るのみ…シロナはあの時戦った偽のスカールと差異はあるもののそっくりだと思い、ミルもアリーズやブラックが造ったスカール人形と瓜二つだと思った。

 

「やはり、この人造人間が何かスカールと深いかかわりを持っているのは確かなはずです」

 

「深いかかわり…?違うわよ、ついに見つけた…私の悲願…人造人間の首魁スカール!ついに…ついに見つけた…」

 

ミルは横目で見ていた。シロナの目が殺戮の衝動で燃えるのと同時に、うっすらとその唇は笑みを浮かべている様子を…。

 

 

 

 

 

 

 

「シロナ…!!」

 

スカーはあまりの衝撃に、口と目を見開いたまま固まっている。5年前、自分たちを助けるために爆発を抑えこんで死亡したと思っていたシロナが、生きて目の前に立っている。

どれほど、夢に見ただろうか。こうして再び顔を合わせられる日を。どれほど悔やんだだろうか。あの時みすみす死なせてしまったことを。だが、スカーは喜んで叫び出したい感情を必死に押さえ、これまで通りに憎まれ口をたたく。

 

「よォ、オマエ生きてやがったのカ…そりゃ当然だよなァ、オマエはやはりワタシに殺されるべきだかラ…」

 

しかし、スカーがそう言いかけた瞬間、シロナは足を強く踏み込んで前へ飛び出し、一瞬でスカーに接近し、その腕から伸びたギザギザした鋸のような刃を首筋へ突きつけた。

 

「確かに…私の名前はシロナだ。だが…なぜお前が私の名前を知っている?なぁ、本物のスカールよ」

 

「な…!?」

 


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