もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第289話 「阿修羅ちゃん」

魔法の力によって怒り状態が強化された形態へと変化したシロナは、ウィローと向かい合う。

 

「なんだ、キサマのその姿は…わしが集めたデータには存在しない…!」

 

狼狽えるウィローは、シロナに向けて腕を振り下ろす。が、シロナはそれに対して頭突きを繰り出すだけでウィローの攻撃をはじき返してしまう。さらにシロナが拳に硬質化を集中させ放ったパンチがウィローのボディにめり込み、大きな破損こそしなかったものの、電気が溢れ出し、内部に深刻なダメージが蓄積された。

 

「おーおー、そうか!だったらこれも知らないよなぁ?」

 

シロナが背中を丸めて力を籠めると、その背後から6本の長くなった脊椎でできたような触手が伸びる。それは鞭のようにヒュンヒュンと鋭い音を立てながらシロナの周囲を取り囲う。

ウィローは手下に加えたブラックから、シロナの戦闘力や能力について報告を受けていた。しかし、この硬質化の魔法と脊椎の鞭に関してはブラックの前で披露していないため、ブラックはウィローにこの能力を報告することができなかったのだ。

 

「しかし!それでもビッグゲテスターの偉大な科学力を手に入れたこのわしに、敵うはずがない!」

 

ウィローは目を光らせ、シロナの体に重なる座標地点を爆発させる。だが、既にシロナはその場に居らず、いつの間にかウィローの背後へ回り込んでいた。

 

「ウラアアアアアアア!!」

 

シロナは左腕の鋸を振り上げ、ウィローに向かって叩きつけようとする。

 

「バカが!今のわしに、そのような玩具が通用するか!」

 

だが、シロナは自身の鋸の部分に硬質化を集中させる。今までは拳や足、頭部などしかそれを行えなかったが、記憶兵器の武器と化した部位にも硬質化できる術を編み出していたのだ。

結果、シロナの一撃は強化されたウィローの装甲を砕き、抉ったようなダメージを残した。

 

「…無駄な事だ」

 

しかし、ウィローにはこのくらいのダメージはいつでもすぐに修復できるという確信から来る余裕があった。ウィローはダメージ修復を後回しにし、体の前面から衝撃波を撃ち、シロナへ命中させた。シロナは血を吐きながら高速で後ろへ吹っ飛んでいくが、途中で何かに引っ掛けられたように止まってしまう。

 

「むお!?」

 

その瞬間、ウィローの巨体が何かに引っ張られるようにして前のめりにバランスを崩した。何事かと思ったウィローが自分の体を見ると、なんと自分の胴体にシロナの脊椎の鞭が巻き付き、それは少し離れた場所にいるシロナ本体と繋がっていた。シロナは計6本の脊椎の鞭を1本につなげて長い縄のようにしてウィローを縛り、引っ張っているのだ。

 

「地獄の綱引き一本勝負!よーいスタートォ!」

 

「引き寄せられている…!?バケモノが…!」

 

ウィローも脊椎の鞭を掴み、引き寄せられまいと踏ん張る。そして、シロナがいる地点へエネルギー弾を送り込んでその場で炸裂させる。

爆炎に包まれるシロナだが、それでも力が緩むことは無かった。

 

「オーエス!オーエス!オーエス!」

 

しかし、パワーはシロナの方が上でも、重さによる分はウィローの方にあった。ウィローは全身の関節部から火花が出るほどにパワーを込めると、シロナの体は徐々に前へ引きずられていく。

 

「ぎぎぎぎぎ…!」

 

その時だった。優位に立ったウィローの頭上から、突如として雷が落ちた。それはウィローの脳天に命中し、そのまま全身に電気が流れる。落雷そのものはウィローにとって糠に釘を打つように全く効き目はなかったが、雷を発生させた者がいると気付いて、そちらを先に始末してやろうと顔を向ける。

 

「まさか…キサマ…!?」

 

しかし、ウィローは空中に居たスカーを見て何故か驚き、一瞬だけ動きを止めた。その短い隙をシロナは見逃さず、ウィローに巻きつけた鞭を思い切り引っ張った。

ウィローの巨体が思わず宙を舞い、シロナの方へ吹っ飛んでいく。シロナは両腕と両足すべてに記憶兵器を発動させ、さらに硬質化の結晶を纏う。そのまま体を独楽のように回転させながら跳躍し、渾身の体当たりを命中させた。

 

「ぐああああああああ!!」

 

シロナは勢いのままにウィローの腹部を貫通した。その衝撃でウィローの胴体が上下真っ二つに分かれる。

 

「だ、だがしかし…この程度ならばまだ再生が可能…!!」

 

ウィローの胴体の断面から無数のコードが伸び、それは互いに結び合いながら再びくっつこうと再生を開始する。が、シロナはすかさずに再び跳躍し、再生途中のウィローに向かって連続で拳を振り下ろす。

 

「ウラウラウラウラウラウラ…!!」

 

硬質化を集中させた拳による殴打を連続で受け、再生途中の体がさらに損傷していく。するとウィローの体を再生しようとする力が分散され、ダメージの許容量を超えてしまう。

 

「ウラァ!!」

 

シロナが最後に放った大振りのパンチを受け、ウィローの体は空高く打ち上げられる。体内に送り込まれた気が暴走し、ひび割れた箇所から赤い光が漏れ出す。

 

「そんな…バカなァ~~~!!」

 

次の瞬間、ウィローの体は爆発四散し、跡形もなく消え去った。その際の爆風が竹林を大きく揺らし、竹の葉が辺りを舞い散った。

戦いを終えたシロナは怒り状態を解除し、顔の結晶も溶けるようにして剥がれ落ちる。だが、シロナもガクリと膝をつき、息を切らしていた。そこへスカーと史奈が駆けつけてくる。

 

「シロナちゃん、助けてくれてありがとう」

 

「別に…。それよりも、永遠亭に入院していた人たちは無事?」

 

「ああ、死人は出てないヨ。怪我した奴は永琳が診てるけどナ」

 

「よかった…」

 

シロナはそう言いながらも、右手をカッターナイフに変形させる。それを見たスカーは身構え、シロナの顔をまじまじと見る。その表情はスカーに対しての敵意を見せていた。

 

「何のつもりダ?」

 

「邪魔は消えた…私は私の使命を果たす」

 

「へっ…面白いナ。やってみろよ」

 

シロナとスカー、両者は互いに睨みあう。

 

「あ…あれ…!」

 

だが、史奈の震えた声が聞こえた。シロナが振り返ると、史奈は片手で口元を押さえ、もう片手で空を指差していた。恐る恐るその方を見るシロナは、次の瞬間に驚愕と絶望を覚えた。

先ほど、あれほど苦労して撃破したはずのメタルウィローが空に浮かんでいる。しかもそれはただの一体だけではなく、二体、三体…いいや、空を埋め尽くすほどのおびただしい大量のメタルウィローがいた。

 

「嘘だロ…!」

 

「な…何ですって…?」

 

しかし、シロナにはもう一体のウィローを倒すだけの力は残っていない。しかも敵は先ほどよりも強化されており、しかも百体以上。どうやってもシロナには成す術はない。

 

「あんなのどうしろってのよ…」

 

そう弱音を吐くシロナ。

 

ポシ…

 

が、その時だった。空を埋め尽くすウィローたちのうちの一体が、小気味の良い音を立てて消失した。胴体の真ん中に穴が空いたかと思うと、その穴が一瞬にして広がり、やがてその全身を消し去ったのだ。

 

「え?」

 

ポポポポポポポ…

 

シロナと史奈、そしてスカーの見ている前で、ウィローたちは次々と消失してゆく。また一体、また一体と歯止めなく跡形もなく消えていき、シロナ達はただその光景を困惑しながら眺めているしかなかった。

十数秒後、最後の一体が消えると、辺りは清々しいほどの静寂に包まれた。曇っていた空が晴れ、眩しい陽光が射す。しかし、シロナは胸騒ぎを感じずにはいられなかった。まるで嵐の前の静けさのような…

 

「お次は何だ?」

 

「何か来る」

 

史奈がそう呟いた。

その時、シロナは感じ取った。空からゆっくりと降りてくる、不穏な影を。それはまだ目視できる限りでは点のように小さいが、それでもそれが纏うこの世の闇を凝縮したような暗黒の気が台風の嵐のように襲い掛かり、どうしようもない不快感に侵される。

 

「く…ぐ…!」

 

シロナはそこにいるだけでも苦しくなり、思わず前へ倒れ込みそうになってしまう。が、史奈とスカーはそこまでの不快感は感じていないようで、なまじシロナ自身の気も強力であるがゆえに強く感じてしまうようだった。

それだけではない。シロナがそれを不快と感じた理由は、この気の中にひどく懐かしい存在を感じたからだ。もう過去の記憶を思い出しているシロナであれば分かる…その存在とは…

 

「会いたかったわ…シロナ」

 

その気の主は青色と黒色が混じり合った邪悪な気を纏いながらゆっくりと地面に降り立った。そしてその気を解除し、今まで見えなかったその姿が露わになる。

 

「なんで…どうして…!」

 

「あれって…もしかして…?でも、そんな事って…」

 

シロナと史奈は困惑しながら汗をかく。

 

「なんだ…?アイツが一体何だっていうんだヨ…!」

 

その姿とは、黒いズボンの上に肩を出した青い巫女服を纏い、白い袖を両腕に着け、同様に青い髪飾りを髪に巻いた博麗霊夢そのものであった。

 

「そう、私はレイム…私は貴女の母親にして姉妹よ」

 

しかし、その表情は邪悪に歪み、下から睨み上げるような恐ろしい目つきは、到底シロナたちの知る博麗霊夢とは大きくかけ離れていた。

 

「な…何を言ってるのよ…!お母さんは…博麗霊夢はとっくの前に死んじゃってるわよ…」

 

「んん~?だったら今ここにいる私は一体何なのかしら?教えてちょうだいよ、シロナ」

 

レイムと名乗る女はシロナの胸ぐらを掴み上げた。鋭い目でシロナを睨みつけると、シロナは金縛りにあったように動けなくなってしまう。

 

「ふふふ…私はね、アナタを殺しに来たのよ」

 

「なんでシロナちゃんを殺す必要があるのよ!」

 

史奈が横から口を出す。レイムは目だけをギロリと史奈へ向け、答える。

 

「…ふっふっふ…ウィローが次の生身の肉体を得て現れるまでは自由にしてて良いって言うのよね。もちろん言わずもがな次の肉体ってのはこのシロナの事。つまりシロナの肉体を乗っ取れない程にグチャグチャにして殺せば、私は永久に自由時間ってわけなのよ」

 

「そんな事の為に…!」

 

「そんな事の為に、死んでちょうだいシロナ!!」

 

怒りに震える史奈を尻目に、レイムは手刀を作った手をシロナの胸に押し込む。このまま力を込めれば貫かれてしまうが、手は何かにさえぎられてそれ以上前へは行かなかった。

 

「ドイツもコイツも私のカラダカラダって喚きやがって…!」

 

そう呟くシロナの髪が再び逆立ち、怒り状態へと変貌する。同時にレイムの手は胸に集中させた硬質化の結晶によって防がれていたのだ。シロナ自身も魔力で強化された怒り状態へなっているが、顔の結晶は中途半端に纏われており不完全な変身であるようだった。

 

「離しなさいこの変態女!!」

 

シロナはそう怒鳴りながらレイムの顔面を殴り、吹っ飛ばす。

レイムは足を地面に食い込ませて踏みとどまる。殴られた顔面から煙が上がっておるが、ギリギリのところで直撃を手で防いでいた。

 

「…面白いわね、その力…。でも半端な力を備えた者はかえって早死にする…この私の手でね」

 

レイムは手を退かし、その顔を再び見せる。裂けたように広がった口元からは人間の物とは思えないほど鋭い牙が並び、その目はひび割れたような模様が走り、怒りに歪んで収縮した瞳がシロナを睨んでいた。

 

悪鬼のような、青い博麗霊夢…その正体とは…?

 

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