もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

290 / 551
第290話 「君に薔薇薔薇…という感じ」

「うおらあああああ!!」

 

シロナは一気に駆け出し、攻撃を仕掛ける。殴りかかると見せかけて地面に片手を突き、鋭い蹴りを放つが、レイムは腕でそれをガードし、反対の腕でシロナの頭を掴むと思い切り地面へ叩きつけた。そのままシロナの顔を掴んでいる手の中にエネルギーを溜め、炸裂させる。

地面に小さめのクレーターが掘られる。が、レイムが気付いた時にはシロナはそこにはいなかった。

 

「なに…?」

 

困惑するレイムの足元の地面からシロナが飛び出し、その足を掴んだ。シロナはそのままの勢いで空へ向かって跳躍し、レイムを羽交い絞めに拘束したまま落下する。

 

「アンタは一体何者だ」

 

シロナは落ちながらもレイムの耳元でそう質問する。

 

「ふふふ…言ったでしょう、私は貴女の母親であり姉妹。そして私は貴女とこの幻想郷を滅ぼしたいと思っているのよ…」

 

「何ですって!?」

 

「それもただ滅ぼすんじゃなく、この地で暮らすすべての人間や妖怪に絶対的な絶望を与えてから…阿鼻叫喚をこの身に浴びながらじっくりと嬲りたい。絶望の感情こそが私の欲する最高の甘味なのだから」

 

レイムは下半身を上へ上げ、その勢いを利用してシロナと体勢を逆転させる。そしてシロナの足を掴み、振り回して地上へ向けて投げ飛ばす。

 

「うオ…!」

 

シロナは、スカーと史奈のすぐ近くに落下し、衝撃で飛び散った土塊が容赦なく振りかかる。

 

「く…!」

 

起き上がろうとするシロナだが、直後にレイムが飛ばしてきたオーラの針が肩に突き刺さり、地面に縫い止められてしまう。

その間に、空に浮かんだままのレイムはじっと遠くを見やる。口元にどこか不気味な笑みをうっすらと浮かべながら…

 

「確か、あの方角には人が暮らす里があったな…」

 

シロナにも聞こえるようにそう呟くと、レイムは薄く開いた口の中に青いオーラを溜めこんで迸らせていく。レイムがゆっくりと口を大きく開けるたびにそれに比例してエネルギーも大きく強力になっていく。

 

「まさか…やめろ!」

 

レイムが何をしようとしているのか気付いたシロナは叫んだ。が、レイムは口を釣り上げて尚もエネルギーを溜めこんでゆく。

 

「やめろォ!やったら殺す!絶対殺すぞ!!」

 

シロナは強引に磔を振りほどき、肩にズタズタの穴が空くのにも構わずにレイムに向かって跳躍する。

 

「心地良い…」

 

レイムは可笑しくてたまらないというような笑みを浮かべてそう呟くと、一気にその口から特大の竜巻のような青いエネルギー波を放った。それは空を”真っ暗に”照らしながらまっすぐに伸び、遠くに見える人間の里に直撃した。それは本物の竜巻のように、通過した場所にあった家屋に始まって樹木から、何から何までが巻き上げられていく。そして、それが消え去った跡…今まで人里があった場所には黒く焦げた焼け野原だけが残っていた。

 

「おおおおおおおお…!!」

 

シロナは唸るような低い雄叫びを上げながら、攻撃を撃ち終えたレイムに殴りかかる。しかし、レイムはそれを躱し、逆に鳩尾へ蹴りを喰らわせる。そのままシロナの頭を両手でつかみ、空中で体をぶら下げたままギリギリと締め付ける。

 

「別に良いじゃない…一度はお前をいわれのない罪で糾弾した愚か者たちよ?」

 

シロナは激痛に耐えながら、レイムの顔に手を当てて爪を頬に食い込ませる。傷から血が流れるが、レイムは長い舌でそれを舐め取った。

 

「それにしても、私がばら撒いた…お前たちが石病と呼ぶ人工ウイルスはいい仕事をしてくれたわ。私が一撃で全員を葬り去れるように人間どもをひとりたりとも動けなくしてくれたからね…」

 

「そ、そうか…あの病気を発生させたのはお前だったか…!なんでだ…!何でそんな事を…」

 

「今説明したでしょう?八雲紫を支配して、お前がウイルスを持ちこんだって吹き込んだら…あとはあの通りよ」

 

「憎い…憎いぞレイム…!」

 

シロナはギリギリと歯を噛み締めながら言った。

 

──私が記憶を取り戻したのは、最初にスカーと闘おうとしたとき。記憶がよみがえる際の負荷による激痛に耐えられず撤退し、ミルの看護のもと目を覚ますと、全てを思い出していた。

再び幻想郷へ向かうとき、私は密かに期待していた。もしも、もし幻想郷に帰った時、私の事を知っている人が喜んでくれたら…どんなに私もうれしいだろう。そうなったらどんなに素敵なんだろう。

 

しかし、私を待っていたのは存在してはいけないものを見るような眼と、拒絶だった。もうとっくに、私の居場所はここでは無くなっていたのだ。

 

でも、もしも石病が存在しなくて、病原菌を持ちこんだのが私だって言うデマもなければ、私は温かく迎え入れられたんじゃないだろうか。もう一度、あの頃の安らかな生活に戻れたんじゃないのか。

そんな期待を裏切り、全てを私から奪ったのは…お前なんだな。レイム──

 

シロナの背中から脊椎の触手が伸び、レイムは驚いて思わず手を離してしまう。飛ぶ術を持たないシロナは下へ落下していくが、レイムもそれを追って地面に降り立つ。

 

「ほう、驚いた…」

 

レイムは6本の脊椎の鞭を展開したシロナを見て呟いた。

 

「うるさい!全部お前の所為だ…私の普通を返せ!」

 

「ふふ…くっくっくっく…ああ、実に心地いいわねぇ…幻想郷最強の貴女が私への憎しみを募らせていくのは」

 

「ウラアアアアアア!」

 

シロナはレイムに飛びかかり、触手を振るった攻撃を仕掛ける。

 

「ちなみに、さっき驚いた理由は…貴女も私と同じように、『霊尾』を使えるからよ」

 

そう言ったレイムの背後から、複数の何か白くて長いものが生えて伸び、シロナの脊椎の鞭の攻撃を全て弾いた。そのまま白い物体はふよふよと霊夢の周囲を取り囲った。

 

「それは…」

 

シロナが声を漏らす。

 

「そうよ…これが私の使える『霊尾(れいび)』。綺麗だと思うわよね?」

 

合計で9本あるそれは薄く青の混じった白色の毛並みをしており、まるで獣の尾、あるいは九尾の狐を想起させるような器官だった。

 

「これ、限界を極めた博麗の巫女だけが扱えるらしくて、長くて数が多いほど強いらしいわ。お前のは不思議な形だけど、それは霊尾っていうのよ、覚えておきなさい」

 

「知るかよ、そんなこと!」

 

「お前の貧弱な霊尾と比べてごらんなさい」

 

レイムは霊尾を操り、一瞬にしてシロナを殴打した。吹っ飛ばされるシロナをさらに狙い撃ち、地面へ叩きつける。シロナは口から血を吐きながらも立ち上がり、再び向かっていく。

 

「なんの…!」

 

「それと、私はこんなこともできるのよ」

 

レイムが一本の尾をシロナに向けて掲げると、その先端が人型の何かに変化し、分離した。その姿は、銀色の髪をしたメイド姿の女性に変わっていった。

 

「アイツは…十六夜咲夜かヨ!?」

 

スカーはその尾から生まれた何者かの姿が十六夜咲夜と瓜二つであることに気付く。おかしな点と言えは、全身にうっすらとレイムのものと同じ青いオーラを纏っていることだろうか。

 

「これは私の尾と同化している分身…」

 

さらにもう一本の尾を変化さえると、それは刀を携えた白髪の少女の剣士の姿をした分身となった。

 

「魂魄妖夢さん…!」

 

過去に面識のある史奈がそれは妖夢であると気付く。

レイムはさらに2本の尾から分身を生み出し、一体は頭に兎のような耳を取り付けた兵士へ、もう一体は緑色の髪に白い巫女服を着た少女へと変わる。史奈はそれらが優曇華院と東風谷早苗であると気付くにはそう時間はかからなかった。

 

「驚いたかしら?この者たちは全員こことは別次元の並行世界の住民よ。サクヤ、ヨウム、サナエ、ウドンゲ…みんな、私が一度殺してから精神と肉体をそっくり支配したのよ。でも、各々の力はお前たちでは絶対に勝てない領域にいるから…せいぜい泥濘の中でのたうって私を楽しませてみなさい」

 

「…キィサマァ~~~!!」

 

シロナは激怒した。この狂気に満ちた、母親と同じ顔をしただけのケダモノをただちに調伏しなければならないと思った。

その怒りを表情に込め、シロナはレイムに立ち向かう。しかし、それを遮るようにしてサナエが割って入り、シロナへ向けてエネルギー弾を投げる。

正面からそれを受けてしまうシロナ。服が少し破け、自身も傷を受けるも構わずにレイムへ向かっていく。が、次の瞬間にサクヤの投げたナイフの形をした鋭利なエネルギー弾が腕と足に突き刺さり、込められていた気が爆発する。

 

「ぐ…!」

 

またもダメージを受け、勢いの落ちたシロナへ対し、ウドンゲが指先から発射する無数の小さな衝撃波が全身にヒットする。あまりの威力に後ろへずり下がってしまい、その箇所から血が流れ出し、口からも血反吐を吐く。

シロナは負けじと何度も挑みかかるが、そのたびにレイムを守るようにして動く4人の傀儡戦士によって阻まれ、迎撃されてしまう。

次の瞬間、気が付けば、シロナの体には拳くらいの大きさの穴がいくつも空けられていた。

 

「ぎゃ…」

 

力を失って倒れそうになるシロナだが、何とか踏みとどまる。肉体の再生が始まっていくが、メタルウィローを倒した後にすぐ戦い始めたこともあって、かなり遅れている。シロナの闘志もむなしく、その体は落下して竹の葉の上に覆いかぶさった。

 

「快楽!快楽よ!憎きお前が絶望の海に沈んでゆくのを見るのは実に気持ちが良い!!」

 

レイムは不気味な声で笑いたてた。

 

「なんてヤツだヨ…」

 

「ひどい…何も悪い事をしていない人たちを平気で吹き飛ばすなんて…」

 

スカーがそう呟いた。史奈もわなわなと震えながらレイムを睨んでいる。

レイムはそんな2人の視線に気が付くと笑うのをやめ、向き直る。

 

「さて…お前たちにもう用はない。すぐに幻想郷に住む愚か者どもにとって最悪の夜が訪れる。その夜は明けることなく一人残らずお前たちを滅し込めるだろう。だから…この未練がましい結界を解きなさい、八雲紫」

 

2人が振り返ると、そこにはボサボサの金髪を乱した八雲紫がたたずみ、レイムへ向けて何かを念じていた。

 

「大したタマね、いくら思考に影響を与えるだけに支配を留めていたというのに自力でそれを脱するとは。しかし、それがどうした?幻想郷は間もなく永遠の闇夜へ堕ちる…お前にとっても重荷が外れて楽になることだろう」

 

「そんなことをしてみようものなら、霊夢に怒られてしまうわ」

 

弱々しい紫の声がレイムに投げられる。

 

「霊夢?霊夢はここにいるじゃない」

 

「誰が?アナタは霊夢であって霊夢でなく、シロナであってシロナでない…。人間から感じられて当たり前の境界が、貴女からは一切見つけられない。つまりアナタは母親の子宮ではなく薄暗い部屋の中の試験管で生まれた。それくらい分かって当然ですわ」

 

思わぬ図星を突かれたのか、レイムは目を見開き、黙って紫に視線を向ける。一触即発の空気が流れ、スカーと史奈も息を呑んで展開を見守る。

そんな中、やはり先に動いたのはレイムであった。紫とスカーらを一撃で粉砕しようと霊尾の一本を振るう。余りの威圧感に、超巨大な棍棒を振り下ろされたかのように錯覚したスカーたちも避けられず、死を予感して思わず目を瞑ってしまう。

 

ガキン!!

 

しかし、甲高い凄まじい音が響き、攻撃は届かなかった。目を開けると、そこには目覚めたシロナが立っていた。6本全ての脊椎状の霊尾を使ってレイムの霊尾一本を押さえ込んでいる。

 

「まだ生きていたのか」

 

「ッたり前だ…!私をあの程度で殺せるとは思わない事だ…!!」

 

シロナはレイムの霊尾をはじき返し、レイムは大きく後ろへ下がる。尾を通じた痺れが体に届く。

その間にもシロナはレイムのすぐ近くにまで迫っている。すぐにサクヤやヨウムらで返り討ちにしようとするが、シロナはそれにも構わずに突き進んでくる。

 

「…!ダメよシロナ!あのレイムは憎悪の化身…憎悪を憎悪で倒すことはできない!」

 

紫の言う通り、シロナの顔はレイムに対する憎悪をこれでもかとばかりに表現していた。

シロナは6本の霊尾を縦に纏め、”リーマー”のような形状に変えると、それを高速で回転させながらレイムへ突きつける。

 

「行けぇシロナ!!」

 

スカーと史奈の応援の声が聞こえる。

そして次の瞬間、シロナの霊尾の一撃がレイムの腹へ突き刺さった。

 

…その時、時間が止まったような気がした。レイムが一撃を受けた箇所を中心にして渦が広がり、レイムの体を捩じっていく。

 

だが、捻じれは途中で止まってしまい、そのまま元に戻る。

レイムは目をいやらしく細めてほくそ笑んだ。

 

「笑止…」

 

レイムはシロナの体に既に9本の霊尾を突き刺し、貫いていた。そのまま霊尾を引き抜くと、シロナの体はバラバラに引き裂かれて周囲に飛び散った。

 

 




今回は戦闘力紹介は無しで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。