もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第291話 「禍群の息吹」

壊滅した人間の里。崩れ去った家屋からはところどころ炎が立ち上り、周囲の道路はめくれ上がり、街路樹などの植物も真っ黒に焦げている。文字通り全てが焼き払われた人間の里だった場所は、炎が燃える音以外は全くの静寂に包まれていた。

と、そんな里の様子を窓のようなものを通じて見ている人影たちがあった。

 

「ま、間に合ってよかったな…」

 

そこにいたのは、幻想郷最高の賢者のひとり、摩多羅隠岐奈。その横にはあの豹牙天龍もいた。

豹牙天龍(ひょうがてんろん)…かつて豊聡耳神子の弟子であったが拳法にのめり込み、挙句には自らで道場を立ち上げてしまった男である。当時は己の実力に慢心し、高慢であったがカカロットと戦ってから考えを改め、以後は彼らと共に何度も戦った幻想郷指折りの歴戦の戦士である。

 

「それでも紫さんの助言が無ければ人々をむざむざあの青い渦に晒すところでしたよ」

 

そう言う天龍は年相応の雰囲気と威厳を放ち、若いころから変わらないおかっぱ頭が特徴的だ。口元に生やした髭を触り、天龍は苦々しくそう言った。

天龍率いる豹牙流拳法の一派は特殊な気功術によって石病の感染を完ぺきに防いでおり、黒幕の存在を感じ取ると何があってもいいように身を潜めていた。永琳との戦いで受けたダメージによってレイムの思考支配が解けた紫が現れ、彼らに里の住人の避難を頼んだのだ。

 

「そして、これ以上幻想郷へ手を出させるわけにはいかない」

 

 

 

「あははははは!!いざ戦ってみればなんと他愛のないものか!」

 

レイムは口元をゆがめて高笑いする。その周囲には、頭と上半身、そして下半身に分断されたシロナが血の海に沈んでいる。紫は唖然とし、史奈は涙を流し、スカーはそれを見てわなわなと震え、歯を食いしばる。

 

「シロナちゃんが…負けちゃった…」

 

「…テメェ、ふざけるなヨ。シロナは…シロナは私が殺すんだぞ!!」

 

スカーは周囲が真っ白に染まるほどの電気を纏い、迸らせる。しかし、レイムが放った藍色の淀んだオーラにすぐにかき消されてしまう。

 

「次はお前たちだ」

 

レイムの淀んだ鋭い目つきがスカー達を睨む。

次の瞬間、紫の体が地面に押し付けられた。まるで目に見えない巨大なボールが上からのしかかっているかのように、紫の体がクレーターの中へ沈んでいく。

 

「がは…!」

 

「妹紅ちゃん!」

 

史奈は自身の肉体の中に暮らしている妹紅の精神を呼び出し、攻撃に備えて構える。しかし、一度まばたきをした間に、妹紅の体には拳大のサイズの穴がいくつも空けられていた。

 

「すまん、史奈…」

 

妹紅がそう呟く。それと連動して史奈の肉体にもダメージが入り、妹紅が穴を空けられた箇所から血を吹き出す。レイムはさらに、史奈を霊尾で叩いて吹っ飛ばした。

史奈は竹林の中を物凄い勢いで突き抜けていき、途中にあった大岩に激突して止まった。咄嗟に妹紅が間に入って衝撃を和らげたようだが、それでも気を失ってしまった。

 

「お前が最後ね」

 

そう言われたスカーだが、何かしようとした瞬間に頭上から霊尾を振り降ろされ、地面と挟まれる形で叩き潰された。

 

「ぐお…オ…!」

 

スカーはそのまま動かなくなった。体内の電気エネルギーが漏れ出し、体から離れてゆく。

 

「くくく…くははははははは!!さぁて、もっとこの幻想郷を蹂躙し、人妖共の阿鼻叫喚を浴びるとしましょうか」

 

レイムはそう言うと、青いオーラを流星の尾のように引きながら空へ飛び立っていった。

 

…迷いの竹林及び永遠亭周辺は嵐が過ぎ去ったかのように静かになった。

その静寂を破ったのは、枝を踏み折る小さな音とわずかなウィーンという機械音だった。どうやら誰かが近づいてくる。辛うじて目を開けていたスカーは顔を上げることはできなく、その者の足元しか見ることができなかった。

 

「まったく…レイムの奴め、ドクターウィローの指令に逆らうとは…いったい何を考えているのか。やはり、あ奴もただの失敗作に過ぎないのか」

 

レイムによって喰らわせられたダメージは想像以上で、スカーは指一本すら動かせず声も出せないまま、目の前でバラバラになったシロナの体を抱えてこの場から去ってゆく、そのロボットの足を見ながら意識を失った。

 

 

 

 

「くははははは…今の私に掛かればシロナなどああだ」

 

レイムは妖怪の山の頂上へ降り立ち、これから滅ぼす幻想郷の大地を見渡した。

 

「私はこれより幻想郷を滅ぼす。妖怪共の阿鼻叫喚を浴びるのが楽しみだ」

 

「そうはさせられないな」

 

レイムは背後から聞こえた男の声を聴き、ゆっくりと振り返る。そこにいたのは、藍色の髪をおかっぱにした壮年の男だった。男は腕を組み、鋭い目でレイムを見据えている。

 

「誰?」

 

レイムは天龍の接近に全く気が付けなかった。天龍は完璧に気を消しており、微塵もその気配を感じさせない。さらには、その所作や足運びに至るまでの全てが完全な無音で行われていたからだ。

 

「俺の名は豹牙天龍、豹牙流拳法の師範を務めている。このたびは友との約束を果たすために来た」

 

「豹牙…?ああ、お前がそうか。データを取った日から20数年、見た目も変わるものね。それで…私をどうするのかしら」

 

「…『発』ッ!!」

 

次の瞬間、天龍の身体から蜃気楼のように揺らめく透明なオーラが湧いたかと思うと、次の瞬間にはレイムは胸に強い衝撃を受け、吹っ飛ばされていた。目の前にいたはずの天龍の姿がどんどん遠ざかっていく。

 

(…読めなかった。あの全くの”無”と言える状態から、一瞬にしてこれほどの力を放てるとは)

 

そう考える間に、既に天龍は自分に追いついていた。

 

「貴様の目的は分かっている!最終的に幻想郷を消し去るのだろう?そうはさせないぞ!」

 

天龍は目にも止まらぬスピードで無数の突きを繰り出すが、レイムは身をひるがえしてそれを躱す。そしてその場で減速し、追い越していった天龍との距離を離し、腕からエネルギー弾を放って反撃する。

 

「俺がこれまで経験した数多の修行…その成果の全てを出し切る!『10倍界王拳』!!」

 

天龍は真っ赤に燃える炎のようなオーラを纏い、戦闘力を何倍にも高めることができる奥義、界王拳を発動させると、気合だけでレイムの攻撃を跳ね飛ばす。「あの程度の実力ならこれで倒せるだろう」と踏んで攻撃を放ったレイムは劇的な戦闘力の変化に驚く。

 

「ほう…」

 

「全力で行かせてもらう!『豹牙螺旋弾』!!」

 

前へ伸ばした両腕に青い気が集中していき、渦を巻くように流動するエネルギー弾を作りだし、レイムへ向けて発射する。しかし、レイムは霊尾の一本を振るってそれをかき消した。その際に凄まじい爆発が生じ、それに紛れるようにして飛び出してきた天龍の突撃を受けたレイムは森の中へ落ちていく。

体勢を立て直したレイムの前へ、天龍は再び猛スピードで迫り、激しい突きや蹴りの応酬で攻撃する。

 

「なるほど…確かに少しはやるようね、かなりの達人だけど雑魚。それが何だというんだ?」

 

レイムの霊尾が天龍の攻撃を全て受け止め、その直後に別の霊尾が天龍に殴打を喰らわせる。たった一撃で多大なダメージを受けた天龍は口から血を吐きながら後ろへゆっくりと吹っ飛ばされる。

 

「さようなら」

 

そして次の瞬間、伸縮してミサイルのように一直線に向かっていく霊尾が天龍の脇腹を抉っていった。天龍は空中で力を失い、その場で落下してしまう。

 

「私に歯向かう愚か者…私の体にもお前が混じっているらしいけど、嘘だと思いたいわ」

 

そう呟いてこの場を後にし、いよいよその凶牙を剥こうとするレイムだが、背後から後頭部へ一発のエネルギー弾を受けて立ち止まる。それは全く気にするほどの威力ではなかったが、癪に障ったレイムは目に怒りをたぎらせて振り返る。

 

「行かせはしない…この豹牙天龍の名にかけてな…!」

 

「…死にぞこないが、楽しませてくれるわ」

 

目の前にある大きな壁と実力の差。それをまじまじと見せつけられ実感し、致命傷を与えられてもなお、レイムへ挑もうと勇む天龍。果たして、彼をそこまで突き動かす原動力とは一体何なのだろうか…?

 

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