「それくらい付き合いの長いお前だから頼める。俺が居ないあいだ、幻想郷は頼んだぞ」
「…おう、任せてくれ」
それが、カカロットとかわした最後の言葉だった。
あれから10年以上経つ。どうやらカカロットも霊夢も、もうこの世にいないらしいと気付くにはそう時間はかからなかった。
俺は悲しみよりも悔しさが勝り、何故俺はカカロットが死ぬ前に駆け付け、助けられなかったのかと自分を責めた。それは誰もが同じだった。ウスターも、美鈴もそうだったはずだ。
しかし、そうではなかった。カカロットは俺に幻想郷を守ることを頼んだ。頼まれたのなら、それを成す事だけ考えればいい。
この年になって、改めてカカロットの凄さが身に染みて分かった。どれだけ己を研鑽しても、同じ修行に身を投じて見ても、到底お前が至っていた領域にはたどり着けそうにない。俺は本当に、お前に頼まれたことを成せるだろうか?本当に、俺などが凄すぎるお前に信頼されてもいいのか?
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レイムは9本の霊尾を伸ばし、天龍を木っ端みじんに砕こうと攻撃を仕掛ける。しかし、天龍は10倍界王拳を再び使用し、全身に赤いオーラを纏いながら高速でその場から離れる。そしてそのまま地面を蹴り、大きなカーブを描きながらレイムへ突撃する。
「未熟よ」
が、地面の中から霊尾が飛び出し、天龍を殴り飛ばす。
「何度来ようが無駄よ。お前ではどう足掻こうと私に傷一つつける事すらできない…それは天の理であり地の自明だ」
吹っ飛ぶ天龍だが、やはり地面に転がりながらも体勢を立て直し、再びレイムへ向かう。レイムは冷たい眼差しを向けながらも天龍に対して無数のエネルギー弾を撃って勢いを止めようとする。
いくつもエネルギー弾が直撃する天龍だが、全身から血を流す怪我を負いながらもさらに勢いづいていく。
「…何故だ、わからないわ。お前がどう足掻いたところでこの幻想郷の滅びの運命は変えられない」
それをはじき返すレイムだが、またしても天龍は立ち向かってくる。
「やめなさい」
天龍はやめない。
「やめろ!お前のその愚かしい行為に何の意味があるというのだ!?」
レイムは大声で言い放つ。その感情は天龍の無意味な行為に対する怒りか、それとも…。
場所は迷いの竹林へと戻り、時も数分前へ遡る。
永遠亭の倒壊により怪我を負った人々の応急処理を一通り終えた永琳は、ひどく邪な気をずっと感じていた場所へ遅れて現れる。永琳の眼に入ったのは、ボロボロの状態で横たわる紫と、岩に寄りかかるようにして気を失っている史奈だった。
「ちょっと!貴方たち大丈夫!?」
「うう…永琳…」
永琳が声をかけると、史奈は目を覚ました。妹紅の力のおかげか、体の傷はほとんど治っていた。紫はレイムに思考を支配されていた影響と渾身の力で結界を張り続けていたせいか、妖力を使い果たして昏睡しているようだった。
「何があったの?それにシロナとスカーが見当たらないけど…」
「レイムって名乗る…博麗霊夢さんそっくりの悪い奴が現れて…シロナちゃんをバラバラにした。私もそこでやられちゃったんだけど、気絶する寸前に少しだけ見えたんだ…変なロボットがシロナちゃんを回収していって、スカーがそれを追って歩いていったのを…」
確かに、地面をよく見ると血のような黒い油の染みが点々と続いている。それは妖怪の山がある方角へと続いていた。
「ハァ…ハァ…アイツ、こんな場所に入っていきやがったのかヨ…」
スカーは自身の電気を駆使して、シロナを連れて行ったロボットを探知しながら妖怪の山までたどり着いていた。今スカーの目の前には洞穴があり、それはかなり奥まで、つまり妖怪の山の内部深くまで続いているようであった。もちろん、これは地底世界へと続く通路ではない。この先にそれとは別の空間が存在するのだ。
スカーはふらつく足取りでその洞穴へと足を踏み入れた。床は石畳となっており、苔が生えていてぬるぬると滑る。体が木や金属で構成されているスカーにとっては不快極まりなかったが、少しすると銀色の光沢を放つ床と壁、天井へ変わり、まるで未来的な建物の廊下のようだった。
「まさカ、山の内部ニこんなものがあったとはナ…」
スカーはさらに奥へと進んでいく。
すると、やけに広い場所が見えてきた。が、先は光で出来た網のようなもので塞がれて行き止まりになっており、進むことができない。
「…なんだヨ、ありゃア…!」
網の先には、天井から巨大な機械がぶら下がっていた。機械からは太いコードが何本も伸びており、それはひとつの椅子へと繋がっていた。手術台のようにも見えるその椅子は、薄暗いその部屋の中で妙に気味が悪く見えた。
「む、誰だお主は」
その時、どこからか声が聞こえた。網の向こうで、何かを背中に背負ったロボットがこちらを見ていた。そして、なんとロボットが背負っているものは…
「シロナ…!」
「そうか…シロナを追ってきたのじゃな。しかし無駄足だったのう…」
ロボットはそう言いながら、シロナを椅子に座らせる。
「わしとウィローがおらぬ間に幻想郷へ襲来したというフリーザ軍…彼らは素晴らしいものを残していきおっての。ハーレクインという手下に回収させたそれは、バラバラに千切れたシロナの体を見事に修復してくれたわい。それも、予想を超えたシロナの生命力があってこそだがの」
部屋の奥には、緑色の治療液で満たされた医療カプセル、通称「メディカルマシン」が設置されており、バラバラにされたシロナはこれで再生したらしい。このメディカルマシンは、このロボットが言う通りかつてフリーザ軍が幻想郷へ残していったものだった。
「オマエは誰だヨ?シロナをどうする気だ?」
「わしはドクター・コーチン。シロナの体はこれより偉大なる天才科学者、ドクターウィローのものとなるのだ」
「何だとォ?」
「お主のような低級な人形には理解できぬだろうが、無念の内に亡くなったウィローは人格の”ダウンロード理論”というものを確立させておる。人間の脳内の情報や記憶を電子記号として記録し、それを脳に書き込むことで同じ人格を持つ人間を増やす方法じゃ。ウィローは自身の人格をシロナへダウンロードさせ、世界最強の科学者として復活するのだ」
「何をアホなことを言ってやがル!?シロナを返せヨ!」
「それはできぬ…これこそが、無様にもこのような姿で生き長らえたわしの使命であるからな」
そう呟いたコーチンは天井の機械を降下させ、シロナの頭上にセットする。
「なぁに、たった3分でダウンロードは完了する…そこでウィローの降臨を目に焼き付けるがいい」
コーチンが装置のスイッチを押すと、シロナが座る足元がかすかに光を放ち始め、その直後に赤い光の柱が発生してシロナを呑み込み、頭上の機械と繋がる。
「クソ…おい!ここを開けロ!!」
スカーは光の網を掴んで引きちぎろうと力を籠めるが、ビクともしない。自分の雷をぶつけても完全に阻まれてしまい、やはり効果は無かった。その間にもシロナへのダウンロードは進んでおり、カウントは経過してゆく。
「無駄だ、お主如きのパワーでは、荷電粒子を高速で移動させることで形を保っているその網は壊せんよ」
スカーは全力の電撃を放ち続ける。が、それも空しく…やがてダウンロードの完了を告げるアナウンスが鳴った。
コーチンはシロナの前で首を垂れる。シロナはゆっくりと目を開け、目の前のコーチンの姿を一瞥する。そして首を回しながら、今度はスカーの方を見た。
「お、おい…」
「誰だ?お前」
シロナは冷たく低い声でそう言い放った。それを受けたスカーはまるで弾丸に胸を打ち抜かれたかのような感覚を覚え、その場で膝をついた。
「お目覚めですかな、ドクターウィロー」
「ああ…いい気分だ。かつての聖白蓮の肉体よりも桁違いの生命力に溢れておる。おそらく博麗霊夢やカカロットの肉体であっても、ここまでのパワーは得られなかったはずだ」
シロナ…いや、今はその中身は完璧にウィローの人格へと変化してしまっている。ウィローは全身から赤く迸るスパークを発生させて見せた。
「さて、行くか」
ウィローは立ち上がり、上を見上げる。
「早速、幻想郷を拠点とした世界征服へと乗り出すのですな?」
「いいや、違うぞ。邪魔な者がいる」
それを聞いたスカーはビクッとした。
「わしはウィローのメインブレインのデータをダウンロードされた…そうだな」
「は、はい、そうでありますが…」
その直後、ウィローは目を光らせた。神通力のような不思議なパワーで、なんと人格のダウンロードに使う天井の機械を破壊したのだ。
「ウィロー、何を…?」
コーチンが困惑の目をウィローに向ける。
「あの機械にあったのは本物のメインブレインからコピーしたデータ。では本物はどこにある?答えろコーチン」
「ほ、本物はこの地球の衛星軌道上に浮かぶ、ビッグゲテスター本体の中に…」
「だな。この世に自分がふたりいるというのは…何とも気味が悪いものだな。よって、わしはこれよりこの肉体以外に存在するウィローを全て消し去りに行く!それが宇宙だろうとこの世の果てであろうとな!」
「本気でありますかウィローよ…!」
「なんぞ?わしの成すことに何か間違いがあるとでも?」
「い、いえ…」
「案ずるな、コーチンよ。このパワーを手に入れたわしは天地において万能、成せぬことは無い。わしが世界を手にした後、残された他のウィローが現れてはたまらん」
「それでしたら、例のフリーザ軍の技術を応用した宇宙船がありますぞ…メインブレインがあるビッグゲテスターの本体まで1時間と掛かりますまい…」
「では行くぞコーチン」
ウィローは天井から伸びてきた階段へ足を乗せ、上階にある宇宙船の発着場へ向かう。が、途中でスカーの方に振り向き、シロナでは絶対にできぬであろう邪な声色で言った。
「スカール…キサマが何故どうやって動いているのかは分からぬが…くだらぬ人形ははやく朽ちてしまえ」
それを聞いたコーチンが何故か驚いていた様子だったが、スカーには関係のないことだった。
「何を言いやがル…!シロナ待ってろヨ!必ずワタシがお前を正気に戻してやるからナ!!」
最後にその叫び声のみがこだまし、ウィローとコーチンの姿は消えていくのだった…。