「さて…次はお前だ……ん?」
が、クウザンが気付いた時にはその場にスカーの姿は無かった。一瞬、逃げられたかと思った。しかし、あれっぽちの戦闘力しか持たないであろうあの者が自分に気付かれず逃げおおせるとは考えられない。
「そこか…」
クウザンは刀を投げ、その刀は壁に勢い良く突き刺さる。そしてその直後に周囲にパリパリと軽い電気が流れ始め、なんとそこにスカーの姿が突然現れた。が、その胸を刀で貫かれ、そのまま壁に固定されてしまっていた。
「く…!」
「なるほど…」
クウザンは目を細めてスカーを見る。
「外皮に含まれる特殊な金属に発電版で生成した電気を流し…光の反射率を下げ…透過率を高めてその姿を隠しているのか…。その機構があれば…大抵の者は存在にすら…気付けぬであろうな…」
これまでも、スカーはシロナ達の前に突然何の前触れもなく現れることが多々あった。それは今クウザンが看破したような特殊機構を使っての透明化をしているからだった。
スカーは刀を引き抜こうとするが、クウザンがそっと刀の柄に手を添えるとそれ以上全く動かなくなる。
「しかし…それでも取るに足らぬ我楽多人形…何千年でもそこで磔となっているがいい…。仮に…お前が自力でそこを脱せた時…私に挑みに来るが良い…。そこでお前が機能停止したとしても…それも宿命であったということだ…」
クウザンはスカーを刀で縫い止めたまま、背を向けてこの場から歩み去ってゆく。いつの間にかその腰には新しい刀が提げられている。
(クソが…こんなはずじゃア…!どうする…!?また、ワタシひとりの力じゃ何もできねぇのかヨ…)
スカーは自身の無力さを痛感してしまう。レイムにはたった一撃で敗れ、行く手を阻む光の網を壊す事すらできず、あのクウザンにも及ばない。
その時、スカーの傷口から漏れ出した微かな電気が床の上を流れていた護衛軍たちの血液に伝わり、それは彼らの骸にまで届く。
(スカール様…我々を連れて行ってください…)
すると、電気を伝ってか、スカーの頭の中に直接、何かの声が聞こえた。
「あ…?誰カ、何か言ったかヨ…」
(私たちが共に戦います…だから、私たちをスカール様のお傍へ…)
護衛軍たちだった。肉体は切り刻まれて既に完全に死んでいるが、その精神だけがスカーへ語り掛けているのだ。
「オマエら、そんなバラバラになって何言ってんダ…ワタシにゃオマエらの肉片全部かき集めて背負ってくずくはねぇヨ…」
(我々は、貴女に自由な身体を与えられただけの、ただ彷徨っていた3つの精霊…肉体の有無は大した問題ではありません。今の我々はただの精霊に戻りましたが…貴女がいれば戦えます)
「じゃあ具体的にどう戦えるってんだヨ…それ次第だゼ…」
次の瞬間、床に流れる血液が蠢き始める。護衛軍3体分の血液はまるで生きているかのようにその場でうねって津波のように盛り上がり、スカーへぶつかる。
「ん…?」
異変に気付いたクウザンが離れた場所からこちらへ振り返る。
護衛軍の血はそのままスカーの体に纏わりつくと、スカーが以前から欠損していた右腕の付け根に集まり、なんと右腕を形作ってしまう。それと同時に、スカーの全身のくまなくまで護衛軍が生前持っていたパワーの全てが行き渡る。
(力を…さらなる力を差し上げます。だから、私たちと共に戦ってください!)
(スカール様が戦い続ける限り、我々は決して裏切りませぬ)
「しょうがねェ、傍に置いといてやるヨ」
護衛軍のエネルギーによって新たに造られた腕の手の甲、前腕、二の腕それぞれに口がついている。
スカーは全身にほとばしる溢れんばかりの電気エネルギーを足元に集中させ、磁力の反動を利用して一気に高速で前方へ飛び出した。スカーを磔にしていた刀はへし折れて粉々に消滅する。
そしてその先に居たクウザンに激突し、今までと同様に武器として使用してきた何者かの左腕で攻撃を仕掛ける。
「何だと…?」
それを刀で受け止めるクウザンだが、スカーの勢いを止めきる事が出来ずにスカーともども通路の奥まで引きずられていく。そしてこの先には、先ほどシロナがダウンロードを受けたあの部屋がある。
ふたりは鍔迫り合いを繰り広げた状態のまま部屋への侵入を妨げていた光の網にぶつかった。
「ウオオオオオオオオオオ!!」
スカーが気合の声を挙げてさらに勢いを高めると、光の網はいとも簡単に破れて破壊され、ふたりは部屋の中の柱にぶつかってようやく止まった。
「よっしゃ!」
スカーとクウザンはお互いに後ろへ飛んで距離を取る。
「その絶大すぎる電気の力…お前は…そうか…思い出した…。戦場のヒーローこと…”イカヅチ”か…懐かしや…」
「何言ってんだオマエ?」
「私もお前も…昔は…レッドリボン軍の兵器の…人造人間だったという事だ…。いやしかし…イカヅチは確か…どこかで回収されて軍に加えられていただけで…あったか…」
「ワケの分からん事ヲ抜かしてんじゃねぇヨ!」
「さて…ウィロー様にとって脅威となりうる…お前を…存在させておくわけにはいかぬ…」
クウザンは腰の刀に手をかける。
しかし、次の瞬間にはとてつもない瞬発力で前へ飛び出したスカーが迫っていた。手に持った左腕の指先をこちらへ向け、突き刺そうと攻撃を繰り出している。
が、スカーが攻撃を撃ち終えた時には、既にそこにクウザンはいなかった。お互いに並大抵ではないスピードを持っているという事は、ここで両者は理解した。
「忌まわしい護衛軍の思念を取り込んで…強化されているのか…。敵として…不足なし…」
クウザンは刀を抜くと同時に振るった。スカーとの距離は十分に離れており、その一閃は絶対にこちらへ届くことはないと、スカーは思った。
しかし、なんと刀を振るっただけで鋭い斬撃が発生し、それはスカーへ向けて迫ってくる。
「うおッ!」
スカーは飛びのいてそれを躱す。クウザンは続けて連続で何回も刀を振るうと、それに応じた大きさや角度の斬撃を飛ばしてくる。スカーは手に持った左腕を振るい、斬撃を打ち砕いてゆく。
「ほう…この程度では…遊びにもならぬか…。で、あれば…」
クウザンは腰を引いて刀を奥に構えた。そして腕へエネルギーを送り込み始める。
(何をする気ダ…?)
スカーが警戒すると、次の瞬間、クウザンは一気に刀を前へ突き出した。その際に腕の関節を高速回転させており、それにより斬撃のエネルギーを螺旋の渦状にしてスカーへ対して放った。
「『ケガウリウ』」
「スカール様、私の力をお使いください!」
二の腕についていた、アールの口がそう言った。次の瞬間、その口から黄緑色の粘度の高い不気味な液体のしぶきが吐き出された。それは床に垂れるとその場で真っ赤に変色し、大爆発を起こし、クウザンの放った渦状の斬撃を相殺してしまった。
「ほう…」
感心したように目を見開いて声を漏らすクウザン。が、それも一瞬のみとし、次なる攻撃を放とうと刀を真上へ掲げた。
刀の切っ先を中心として、空気中に漂っていた熱が集まってくる。
「『マカナワジウ』」
その刀を振り下ろすと、高熱の炎を纏う特大の斬撃が放たれる。
「我の炎も、スカール様のものでございます」
今度は前腕についている牙だらけのエースの口から、マグマのように煮えたぎる熱線が発射された。二つのヒートアタックがぶつかり合い、互いに押し合う。部屋中が真っ赤に染まるほどの灼熱が周囲を覆い、スカーとクウザンは思わず顔を背ける。
次の瞬間、両者の攻撃は耐えきれずに爆発を起こして消滅した。その際に吹き荒れた爆風によってスカーは後方へ吹っ飛んでしまい、クウザンはそれを立ったまま耐えたものの、上半身の衣服にあたるものが焼けて無くなってしまった。
やっと熱が治まり、煙も晴れてゆく。
「…申し分ない…。個々として成立していた…護衛軍の技と特徴を…己の技として使えるとはな…。しかし、だ…まだお前では私に…勝つことはできない…」
上半身の衣類が消えたクウザンの体には、いたる箇所にシャッターで塞がれた小さな穴があった。
「ふん!寝言は寝て言えヨ!ワタシとオマエはほとんど互角!オマエの技ヲかき消すのもそこまで難しくはねェからナ」
「では…試してみようか…」
クウザンは刀を振りかぶり、ギュッと柄を握りしめる。すると、刀からエネルギーが放出され、それは無数の三日月形の斬撃となってスカーへ向かっていく。
「『ミダリツルギ』」
「ンだそれ!振りなしで斬撃だト!?」
「ウチの力、とくとご利用ください」
今度は手の甲にあったサニーの口がそう喋り、その口内から黒い刀身を持つ長い刀が出現し、それは次々とサニーの口から飛び出し、10本ほどの黒い刀がスカーの頭上に浮かんだ。
「おお…!ンだこれ!」
スカーがい驚ている間に、宙に浮いている黒い刀たちはひとりでに動き、向かい来る斬撃を全てはじき返した。刀のうち9本は折れてしまうが、残った一本をスカーは右手で掴んで己の武器とした。
「よォし!ここからワタシがオマエをギッタギタにしてやんヨ!!」
「その意気や良し…しかし…やはりお前では私には…勝てぬ…」
クウザンとスカーの戦いは激しさを一層増してゆく。人造人間同士の対決、果たして勝つのはどちらか…?