クウザンは刀を構え、それでスカーに斬りかかる。スカーもサニーの能力で作り出した黒刀を使って防ぐものの、その直後にクウザンの刀から鋭い斬撃が飛び、頬を掠る。
「うおっ!」
「『ミダリツルギ』」
刀を振らずに、柄を強く握るだけで発動できる技を使うクウザン。刀から無数の斬撃が発生し、スカーを切り刻もうと襲い掛かる。
「爆液とマグマ!」
「はい!」
スカーが指示を出すと、アールとエースが返事をする。二の腕の口から爆破液が飛び散り、前腕の口からはマグマのように熱く煮える液体が圧縮されて放たれる。それはミダリツルギによる斬撃を上手く相殺していくが、その隙に迫っていたクウザン本体の一撃への対応を余儀なくされる。
「黒い刀を増やセ…!」
「遅い…」
が、サニーの口が黒い刀を生成している最中に、スカーは胸を切り裂かれた。細かい部品がぽろぽろとこぼれ、スカーは電気の反発を利用して素早く後ろへ下がる。
「やはり…か…」
にやりと笑うクウザン。
「何がだヨ…!」
「お前と…護衛軍の間には…隔たりがあるようだ…。意志が通じていない…お前が一度声に出して指示をしなければ…護衛軍は力を使ってはくれぬ…それすなわち…その分だけ時間に差異が生じるという事…その差異が…私に攻撃させるのを許してしまう…」
クウザンは一振りで細かな斬撃を無数に発射する。
「くッ…!爆破ダ!」
「ッ…はい!」
アールの口はあわてて爆破液を吐き出して周囲へまき散らすが、次の瞬間にスカーは首を掴まれて壁に叩きつけられた。スカーの視界に火花が散り、目の前にはクウザンがいた。フェイクの斬撃の死角から接近していたのだ。
「言った通り…だろう…。お前たちの間には…共に戦う歴戦の兵士に…見られるような…”以心伝心”の技がない…それもそのはず…そのような付け焼刃の能力ではな…」
「ああそうかヨ!」
スカーは額から電気を流し、閃光を焚いてクウザンの目をくらませる。その隙に遠くへ移動し、透明化して周囲を駆けまわる。
(どうすりゃいイ…!)
スカーは考えながら高速で走り回る。しかし、クウザンは鋭い感覚で人間では感知できない程に微かな音や匂いまでも敏感に捉え、透明化して気配も消しているスカーの位置に気付くことができる。
「…そこか…」
クウザンは刀を振るって斬撃を放つ。攻撃は外れるが、向こう側にあった壁をどこまでも切り裂きながら消えていく。
「ふむ…やはり…正確な位置がわからないので…当たるはずもなし、か…。ならば…」
そう言うと、クウザンはなんと刀を鞘に納めた。チン、という小さな音がし、周囲が静寂に包まれる。その行動にスカーも疑問を持つが、動きは止めない。
そして、両腕を下げて直立するクウザン。
「体内エネルギー炉…最高温度に…ゆくぞ…『バルシヴァク』」
次の瞬間、クウザンの全身から三日月形の斬撃が全方位へ向けて発射された。
まるで、打ち上げ花火のようだった。突然の無動作による無差別な攻撃を目の当たりにしたスカーは、飛びのいてそれを避けようとする。
「スカール様、お気をつけください!」
護衛軍の忠告も空しく、スカーの腹を斬撃が貫いていった。
「ウゲ…!」
外れた斬撃は四方の壁にぶつかり、そして切り裂きながら遠くへ消えていく。ガリガリという硬い物が削れる凄まじい音と共に煙が舞う。
「私は…体内の炉で刀をほぼ無限に…造って錬成できる…。そして…それを全身から伸ばし…エネルギーによる斬撃を撃つことも可能…」
煙が晴れていく。そこにいたクウザンは全身の穴から刀の刃を伸ばしていた。さらにその身体は真っ赤に赤熱して蒸気を吹いており、その異形の姿を見たスカーは、今のクウザンは先ほどよりもよりパワーとエネルギーを増していることに気付いた。
(驚いタ…斬撃はワタシの体を真っ二つにはしていないナ…半分くらい切り込みが入ってるだケ。しかし…竜骨が斬られていル…)
竜骨…スカーの機械の体の中心を通る柱のような部位。人間でいえば背骨にあたり、全身を支えるそれを損傷してしまっている。
「そこか…」
クウザンは攻撃が当たった時の音を敏感に聞き取り、スカーがいる方を睨んだ。全身から伸びる刀に再びエネルギーが充てんされていく。次の瞬間、クウザンは全方位へ向けて斬撃を放つ。
(クソッ…!)
スカーは透明化を維持したまま、今度こそ何とかそれを躱しきる。しかし、クウザンの斬撃はそれで終わりではなかった。第一波が終わったとたんに第二波、続いて第三波と連続して放っていた。
縦横無尽に周囲を走り回りながら避け続けるスカーであったが、それでも少しずつ斬撃が掠って傷が増えていく。このままではいずれ自分のエネルギーを切らすのは必然として見えていた。
(コイツらの能力を使えバ凌げるか…?いいヤ、アイツが言う通り指示を出すのに時間を喰うナ…そんな暇がないヨ!どうすル…?)
必死に考えを巡らせるスカー。
(待てヨ…?)
その時、どこかで聞いたある文章が頭の中に浮かんでくる。それはどこで聞いたのだろう。それほど昔でも、ましてや昨日の事でもない。もっと、ついさっきに聞いていたはずだ。
……お主のような低級な人形には理解できぬだろうが、無念の内に亡くなったウィローは人格の”ダウンロード理論”というものを確立させておる。人間の脳内の情報や記憶を電子記号として記録し、それを脳に書き込むことで同じ人格を持つ人間を増やす方法じゃ。ウィローは自身の人格をシロナへダウンロードさせ、世界最強の科学者として復活するのだ。
先ほど、シロナがウィローとやらの人格をダウンロードされる現場に居合わせた際、コーチンと名乗ったロボットから聞いた話だ。
重要な部分は、「人間の脳内の情報や記憶を電子記号として記録し、それを脳に書き込むことで…」という部分だ。
(電子記号…ってことは電気っテ事だロ…?だったラ、ワタシの考えてることを常に電気に念じながらコイツらに送り込めば声で指示を出さなくてモいいって事か?)
「見えている…傷ついた箇所からこぼれた…錆びや鉄粉、木屑は誤魔化せぬ…。そこにいるのは分かっている…私の最大の技で…斬り砕いてやろう…」
クウザンは刀を構え、目を瞑って体内で熱を練り上げ、紫色のエネルギーを刀へ集めていく。そして目を見開くと、その目は黒色に変わっていた。同時に刀を振り下ろすと、巨大な三日月型の斬撃が生まれ、紫色のスパークを纏いながら真っすぐにスカーへ飛んでいく。
「『紫電滅殺閃』…」
(チイィ、アレを喰らったら流石のワタシもシャレにならないヨ…!一か八か、試してみるカ…)
パリッ… ビリッ
「「「!?」」」
瞬間、護衛軍たちは反射的にその口を大きく開いてしまう。アールは爆破液を吐き出し、エースは火炎を放ち、サニーは黒い刀を数本作り出す。
それをフルに動員して使い、スカーは紫電滅殺閃を相殺しようと一斉に攻撃を仕掛ける。
「ぐ…お…!!」
護衛軍の放ったそれぞれの技によって、クウザンの攻撃の威力が弱まったところを狙って、スカーは抱き止めるようにして一閃を押さえる。スカーの踵が床に食い込み、斬撃に接している部分が焦げて燃え始める。
…が、スカーはにやりと笑った。次の瞬間、スカーの体に強烈なスパークが纏われる。
(何だ…?あ奴の雰囲気が…変わった…)
「駄目押しだ…」
クウザンは刀の一振りで無数の斬撃を発生させ、その全てをスカーが止めている紫電滅殺閃へぶつけた。駄目押しに放たれた斬撃の勢いが加わったその威力を前に、スカーの足が地面から離れ、斬撃ごと後方へ吹っ飛ばされる。
しかし、それはスカーがわざと足の力を抜いたからであった。その直後に突然、スカーはまるで体が床に吸いつけられたかのように不自然な軌道で下に下がり、紫電滅殺閃から脱した。
「何…!?」
明らかに不自然だったことは、クウザンも気付いた。それはまるで磁力にでも引き付けられたかのような…
バリバリッ… ドン!!
「ぐあああああああああ…!!」
さらに、その違和感を探ろうとしたクウザンの脳天から直撃してきたのは、超特大の落雷であった。あまりの威力にクウザンは目を見開いて悲鳴を上げ、その身体が黒く焦げていく。
「ウオオオオオ!!」
そして、トドメを刺そうとスカーはクウザンへ迫る。
クウザンも雷を振り払い、刀で反撃を繰り出す。
(…技が出ぬ…!)
が、クウザンの刀からエネルギーの斬撃が飛び出すことは終ぞなかった。スカーが右腕で振るう黒い刀と自身の刀を打ち合わせ、何とか防ぐ。
「お前に何があった…?まるで本物の手足のように…護衛軍の力を振るう…!」
「さァな!腕ェ動かそうと考えるだけデ腕が動くのは当然だロ!」
「スカール様の命令が、声ではなく直接届いてくる!」
「聞いて驚きなさい、スカール様は電気に命令のご意志を乗せて私たちに伝達しているのよ」
エースとアールがそう言った。
「ほう、そうであったか…!であれば…ここからは正々堂々…純達なる剣技にて…お前たちを完全に葬ってやろう…」
クウザンは刀で斬りかかり、スカーも武器として使っている左腕でそれを防ぎ、右腕で持った黒刀で反撃する。しかし、電撃によって体の内部を激しく焼かれたクウザンは思うように体が動かせず、次々と攻撃を受けてしまう。
「オマエはさっきの時点デ既に負けてるんだヨ!諦めて立ち去りナ」
スカーがそう言うも、クウザンは震える足で無理に歩く。
「私が負けている…だと…?馬鹿な事を…私は…」
『うん、もう関節とエネルギー炉がボロボロだね。傷ついたらすぐに修理しないと。君たちは私たち人間と違って、人の手を借りないと怪我も治らないんだから』
クウザンは耳元からそう囁きかけられ、咄嗟に背後へ刀を振るう。だが、そこには何もなかった。
その様に困惑したのは、スカーはもちろんクウザン自身もだった。
(何だ今のは…幻聴か…?)
ドン!!
その時、スカーの放つ二撃目の落雷がクウザンに命中した。先ほどと同じ威力の衝撃を受けたクウザンは、今度こそ内部から体を焼き焦がされていることを実感した。
それと同時に、頭の中の靄が晴れていくような感覚を覚える。そして、過去に体験したことのある記憶と感情が、津波のようにぐわっと押し寄せてきた。