もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第298話 「あさきゆめみし」

シロナの体を乗っ取ったドクターウィロー…”シロナウィロー”は、助手のコーチンを連れて宇宙に居るもうひとりの自分と、自分という存在を増やすことができるメインブレインをこの世から消すためにビッグゲテスターの内部へとやって来ていた。

 

「うーむ、やはり自分の肉体が最も馴染むのかもしれんな」

 

シロナの体ではない方のウィローは伸びをしながら呑気にそう言った。このウィローは二十歳ほどの外見をしており長いもみあげと襟足が特徴的な髪形の大柄な男性の姿をしていた。

 

「わしが死ぬ前のオリジナルの肉体の細胞から造ったクローンに着替えたのだ。力は普通の人間並みしかないが…それでも構いはしない。して…地球のわしよ、ここへ何をしに来たのだ?」

 

生前の一番最初の人間の体へ戻ったウィロー…”オリジナルウィロー”はシロナウィローに対してそう問いかける。

 

「ふ…知れた事だ。この世に複数自分が居るというのは…どうにも落ち着かなくてな。わしはひとりで十分なので、他は消すことにした」

 

「そうか、そっちのわしはずいぶんと思い切りがいいのだな。しかし愚かな事だ…ただの人間に戻ったわしは、何の力も持たない。わしはこの肉体が朽ちるとき、それを受け入れて消滅するつもりだ。この世には何の未練もないからな…。本当の死というのも経験してみたい。だからわしはここにいる…違うか?もとは同じ脳味噌であるキサマもここまで思い至るはずだがな」

 

「気が変わったのだ。何せ、今度のシロナの肉体は最高のパワーをもたらしているからな、多少は気が舞い上がっているのかもしれん」

 

「ならば好きにするがいい。わしは自分という存在にも飽きた…先ほども言った通りこの世に未練もない。わしを殺したいのなら殺せばいい」

 

オリジナルウィローはそう言うと、足元の地面を指差し、そのまま指をクイっと上へ向けた。

 

ゴゴゴ…

 

すると、地面が小さく揺れ、オリジナルウィローの後ろの地面が盛り上がってゆく。そして地面の中から現れたのは、巨大で透明なカプセルだった。その中には、黒く干からびた気味の悪い物体がへばりついている。

 

「そ、それはまさか…!」

 

それを見たコーチンが驚愕する。

 

「ああそうだ。これがわしのメインブレインだ」

 

なんと、カプセルの中で干からびている物体は、ウィローの巨大な脳味噌であったものだった。人間だった時、永久凍土に研究所ごと閉じ込められたウィローが死の間際に自分の脳を取り出して保存し…それ以降増幅する邪悪な精神に呼応するように肥大化し続けた巨大な脳味噌。それは幻想郷でカカロットと戦った時には既に数メートルの大きさにまでなっていた。それが保存液を抜き取られ、人口の太陽光に晒され続けたせいで完全に死に絶えている。

 

「キサマ、それがなければわしらは…」

 

「言っただろう、わしは自分に飽きたと。飽きれば自分すら必要ない…メインブレインが無ければ、これ以上わしが増えることはない。今、この世に存在するウィローはわしとキサマだけということだ…」

 

オリジナルウィローがそう言いかけた時、彼は思わず口を止めた。その視線の先では、シロナウィローがぽろぽろと涙を流していたからだ。

 

「…何故泣く?まさか、わしともあろうものが未練たらしく絶望しているわけではあるまい」

 

「…違う…だって、哀しいよね…たったちょっとの幸せを願った人の末路がこうだなんて…」

 

「まさか…キサマはシロナか?」

 

「うん、私は私だよ…ウィロー」

 

 

 

ウィローの人格をダウンロードされている際のシロナは、自分の頭の中に真っ黒な水が濁流のようになだれ込んでくる夢を見ていた。

それはドクターウィローの記憶と脳内情報だった。一説では人格の形成には記憶が大きく影響するとされている。知識も癖も諸々も記憶に由来するためだ。そのウィローの記憶が、シロナの脳内に書き込まれてゆく…。

 

 

 

────────

 

────

 

ウィローの記憶は、87年前から始まっていた。当時のウィローは6歳。これ以前の記憶が無いのは、ウィローがダウンロード理論を完成させるために記憶をデータ化した際に不要と判断し意図的に削除したためだろう。

その時は寒い冬で、しんしんと雪が降っていた。

 

「ウィローくん、スカールちゃん。おいで」

 

大きな白い建物の玄関先で、眼鏡をかけた優しそうな男がふたりの子供の名前を呼んだ。呼ばれた男の子と女の子はとたとたと走り、男の元へやってくる。ウィローという名の男の子は黒い髪の普通の少年で、スカールという女の子は綺麗な銀色の髪を持っているが、その顔には大きな十字の傷跡が刻まれていた。子供らが不安そうに男の顔を見上げると、男は微笑みながら言った。

 

「この方が、今日から君たちの新しいお父さんになるんだよ」

 

男の前には、黒い帽子を深くかぶった少し猫背気味の男が立っていた。帽子を取り、ウィローとスカールに笑顔を向ける。その顔にはしわが刻まれており、恐らく40歳ほどの年齢に見える。

 

「やあ、初めまして。私の名前はコーチンというんだ。ウィロー、スカール、今日からふたりとも私の子供だ。一緒に暮らそう」

 

そうして、コーチンと名乗った医者の男に、養子として孤児院から引き取られたふたりの子供、ウィローとスカールの新たな生活が始まったのだった。

 

…それから、12年の月日が流れた。ウィローとスカールはコーチンの家で健やかに成長した。町で診療所を経営していたコーチンは子宝に恵まれず、妻も他界した寂しさからふたりを養子として迎え入れた。コーチン自身は自分の診療所を子供に継がせる気などは無かったが、それでもウィローは医者になってコーチンの診療所を継ぐ夢を抱いていた。

 

「ウィロー、今回の期末試験も学年1位だったそうじゃないか」

 

「お前と同率でな、ゲロ。それは中学生のころからずっと変わらん」

 

ウィローは親友でありクラスメイトのゲロと話していた。ここは彼らの暮らす国のハイスクールである。ウィローは背も体格も大きいが、逆にゲロは小柄な青年である。しかし、中学で同じクラスになって以来、ふたりは親友の関係を築いている。

 

「いいわねぇ、あのふたり」

 

「そうよねー、すごく絵になるよね」

 

廊下で談笑するふたりを遠巻きに眺める女子生徒が小さな声でそう話していた。よく見れば、ふたりは他にもすれ違う女子生徒たちの注目を集めているようだ。

 

「ウィローくんはスポーツも勉強も万能で文武両道って感じでステキだし、ゲロくんは細かいとこまで気が回って優しいのよね」

 

「ふたりとも、あの有名な医大に進学が決まってるなんてすごいわよねぇ」

 

ゲロはウィローと話しながらも女子がそう言ったのを聞き取り、小声でウィローに耳打ちした。

 

「あの子たち、また僕らの方を見てるよ」

 

「は?見ているから何だというんだ」

 

「鈍いなぁ。君の事をステキって言ってたんだよ」

 

「は!?お前、俺をからかうのか!」

 

「あ、ふたりともお待たせ~」

 

ウィローが顔を赤くしながらゲロの肩を掴もうとしたとき、後から誰かが話しかけてきた。振り返ると、そこには綺麗な銀色の髪をした女子生徒がひらひらと手を振ってこちらを見ていた。

 

「スカール」

 

ウィローが、その女子生徒の名前を呟いた。

 

「やあスカールか…生徒会の仕事は終わったの?」

 

「ばっちりよゲロくん!さぁ帰りましょうか」

 

3人が一緒に下校しようと廊下を歩きだした時、ウィローは後ろに居た他の女子たちがスカールを指差しながらひそひそと話しているのを聞いてしまった。

 

「また来たよあの”スカー”…ウィローくんと双子ってのは知ってるけど、ゲロくんまで取らないでほしいよね」

 

「ホント、あの傷女ね…普段は化粧と髪で隠してるけど、顔にでっかい傷あるの知ってるのよね」

 

 

 

帰宅したウィローとスカールは、ふたりで食事を囲っていた。コーチンは自分の診療所での仕事があり、帰ってくるのはもう少し時間が経ってからだ。

たまにとりとめのない会話を交わすだけの静かな食事の最中、ウィローはふと何でもない様子を装ってスカールに聞いた。

 

「なあ…お前学校で大丈夫か?」

 

「え?大丈夫かって…何が?」

 

「その顔の傷とか…友達とかとだよ。俺が見た限り、普段俺やゲロ以外の誰かと一緒にいる素振りが見えないが」

 

「だって、ウィローやゲロくんとはクラスも階も違うでしょ?今は登校するときと放課後しか会わないし」

 

「そうか…ならいいんだが」

 

ウィローはそう言いながら、飯の最後の一口を口に運んで完食する。

 

「ごちそうさま」

 

しかし、スカール本人から直接そう言われても、ウィローの杞憂が解消される事は無かった。だが、まさかあのような事件が起ころうとは、この時には考えてもみなかったのである。

 

 




今回の戦闘力紹介は無しで。
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