もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第299話 「Hammer To Fall」

(そうか…私はウィローと一緒に…記憶を体験しているんだな…)

 

シロナはウィローの記憶を脳内に送り込まれている時、まるで若かりし頃のウィローに憑依するようにして、その記憶を追体験していた。

 

(ウィローとスカールは孤児で…医者のコーチンに養子として引き取られた)

 

シロナは微かに自分との共通点を見出す。自分もまだ小さいころに両親が他界し、それからは魔理沙と一緒に暮らしてきたからだ。

他にも、シロナはウィローの精神内に潜むことにより、彼の感覚や感情が手に取るようにわかっていた。例えば、ウィローは昔からずっと何かに怒りながら生きていることとか。ウィローはそれを口にも態度にも出さないが、それでも心のどこかでは常に吐き出せない怒りを抱えて生きていた。

 

 

次の日の放課後、ウィローはいつものように親友のゲロと共にスカールの生徒会の仕事が終わるのを、くだらない雑談をしながら待っていた。今日は昨日のように、遠目にこちらを鬱陶しく眺めてボソボソと何かをのたくるだけの女子はいない。

いつもとは違う静けさが、スカールがいつもの時間になってもふたりのもとへやってこない不安感を煽っていた。

 

「遅いなぁ、スカール」

 

「ああ…何か忙しいんだろうな」

 

心配の言葉を漏らすゲロに対し、ウィローは不安を押し込めるようにそう言った。

 

「でも心配だ、様子を見に行こう」

 

だがゲロは食い下がらず、ウィローにそう提案する。ウィローも平然を装いながら、「そうだな」と承諾してゲロと共にスカールがいるであろう生徒会室へ向かうのだった。

 

「え?スカールさん?そういえば今日は来てないね」

 

だが、そこにいたひとりの生徒にスカールの事を聞いても、そう言うだけだった。ウィローとゲロが困っていると、彼らの会話を聞いていたメガネの男子生徒がボソッと口にした。

 

「でも、スカールさんなら友達の女子と一緒の旧校舎の方に歩いていったのをさっき見たよ?何があるのかは知らないけど」

 

それを聞いたとたん、ウィローの体中を悪寒と共に焼けつくような強い怒りが一気に駆け上がった。

昨日の晩、スカールはああ言っていたが、それでも自分が見ている限りはスカールに放課後一緒に過ごせるような友達がいるとは考えられない。

そう思い立った瞬間、ウィローは踵を返して来た廊下を戻ろうとしていた。

 

「ウィロー!?どこに行くんだ!」

 

ゲロがうしろから呼び止めようとする。

 

「旧校舎だ。スカールを探す」

 

「だったら僕も行くよ!」

 

「だめだ来るな!!」

 

ウィローは鬼気迫る顔でそう怒鳴った。ゲロはビクッとその場で足を止める。

 

「なんでだ…僕と君は親友だろ…」

 

「だからこそだ。昔からそうだろ…荒っぽい事は、俺がやる」

 

 

 

「うっ…!」

 

スカールは突き飛ばされ、トイレの壁に寄りかかるようにして押し倒される。そこへすかさずひとりの女子生徒が近寄り、横から髪の毛をひっつかむ。

 

「や、やめて…!」

 

スカールは小さい声でそう言いながら抵抗しようとする。しかし、3人の女子生徒たちはスカールを逃がさないように囲んでいる。

 

「やめてじゃないわよ、傷女め。アンタ、まさかウィロー君かゲロ君と付き合ってるんじゃないでしょうね?」

 

「そんな…ウィローとは双子の家族で…ゲロくんはただの友達…」

 

「じゃあ二度とあのふたりに近寄らないでよ、絶対にふたりだって迷惑してると思うよ…そんなみっともない傷のある顔じゃね」

 

『俺はスカールの顔、好きだぞ!戦うヒーローみたいでかっこいいぞ!』

 

しかし、スカールは小さいころにウィローから言われた言葉を思い出した。

スカールは北のはずれにある紛争地帯の村の出身だった。他の家族は皆爆弾に吹き飛ばされて死んでしまい、スカールも爆発の破片を受けて顔に大きな傷がついてしまった。そのため奴隷商人や人買いにも疎まれ、たったひとりで放浪していたところをかつての孤児院の院長に発見された。

スカールは自分の顔の傷が嫌いだった。小学校ではこれが原因でよくいじめられた。だが、そのたびにウィローはスカールを助け、その顔が好きだと言ってくれた。

 

「…やだよ、そんなの」

 

「は?」

 

「ウィローはこの顔が好きだって言ってた!だから私も…」

 

パン!

 

その時、スカールの顔に平手打ちが襲い掛かる。

 

「まだ自分の状況が分かってないみたいね?いいわ…今日はたっぷりと鬱憤を晴らしてやる」

 

 

 

「なんだぁ?優等生のお前がこんなところに何か用かよ」

 

ウィローが旧校舎の中に入ると、さっそく呼び止められた。廊下を塞ぐようにして目の前に立っているのは、4名の不良生徒たちだった。彼らはウィローに詰め寄り、下からその顔を睨み上げる。

 

「どけ」

 

ウィローは低い声でそう言うが、不良生徒はさらにウィローに近付いてくる。

 

「才色兼備文武両道のウィローさんの命令でも聞けねぇなぁ…センコーだろうとここは通すなって言われてっからよ」

 

「じゃあいい」

 

次の瞬間、ウィローは目の前に居た不良の顔面を思いきりぶん殴った。不良は数メートル吹っ飛び、床の上に倒れ込む。

 

「テメェ先に手ェ出しやがったな!」

 

「前から優等生ぶってるお前が気に入らなかったんだ、せっかくだからぶっ潰してやるぜ!」

 

他の不良たちも次々とウィローに向かって殴りかかってくる。しかし、ウィローは腹を蹴られようとも顎を殴られようとも全くビクともせず、逆に攻撃してきた相手のひとりを先ほどのようにぶん殴り、さらに蹴り飛ばす。続くもう1人の蹴りかかってくる足を掴み、力任せに持ち上げると軽く振り回して壁に叩きつけた。そして最後のひとりの腕を片手で掴んだままもう片腕で何発も殴りつけると、相手はそのまま気を失って動かなくなる。

ウィローが先を急ごうとした瞬間、後頭部に強い衝撃を受け視界に火花が散った。眉間を血の筋が伝っていき、床にポタポタと垂れる。

 

「デカブツが…これならどうだ…!」

 

最初に殴り飛ばした不良生徒が、手に消火器を持って後ろに立っていた。しかもそれを振り上げ、さらにもう一発ウィローにぶつけようと構えている。

だが、ウィローはそれでも全く調子を崩すことなく無言でその不良の顎を片手で掴み、そのまま持ち上げる。不良の足が床から離れ、逃れようとバタバタしている。

次の瞬間、ウィローはそれを思い切り地面に叩きつけた。ゴシャッという鈍い音が響き渡り、その場にはウィロー以外に動いている者はだれひとりいなくなった。

ウィローは彼らを捨て置いて廊下の先へ行き、奥の女子トイレの中から何か音が聞こえるのに気付くと、そこのドアを蹴るようにして開け放った。

 

「え!?ウィローくん…!」

 

何事かと振り返った女子生徒は、ウィローがここへやって来た事に驚いている様子だった。しかし、ウィローにとってはそんなことはどうでもよかった。

壁際で髪を掴まれ、口の端から血を流していたスカールを見たとたん、ウィローの黒く燃える怒りの炎が吹きあがった。

ウィローは感情の赴くままに、一番近くにいた女子生徒の腹を蹴りつけ、吹っ飛ばして個室のドアに激突させる。すぐさまもうひとりの側頭部を殴りつけ、さらにもう一発喰らわせる。

 

「う…あ…!」

 

最後のひとりはすっかり怯えて逃げ出そうとするが、ウィローがうしろから髪の毛を掴んで引き寄せる。そのまま床に投げ飛ばし、起き上がれないところを思いきり蹴り上げた。

3名の女子生徒はうずくまったまま立ち上がらず、痛みからすすり泣いている者もいる。ウィローはそれを黙らせるようにもう一発殴りつけ、周りが静かになると、スカールの手を引いて起き上がらせた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん…」

 

ウィローはスカールを背中におぶると、そのまま旧校舎を後にして何事もなかったかのように帰路へと着くのだった。

その日は、特別夕焼けが真っ赤だった。

 

「ごめん…」

 

その道中、スカールはウィローの背中でそう言った。

 

「別にいい…昔からこうやって来ただろ。お前をいじめる連中は俺が黙らせて、お前がのびのびと過ごせるようにしてきた」

 

「でも、私の所為でもう学校にいけないし…きっと、ウィローが行くはずだった大学だって…」

 

「構うもんか。お前のためなら何だって捨てられる。…これからは俺たちで生きて行こう、父さんと一緒に…」

 

「…うん」

 

…後日、男子生徒4名と女子生徒3名が全治2か月近くもの怪我を負い、その犯人とされる生徒であるウィローは退学処分を受け、決定していた医療大学への推薦も取り消された。

しかし、怪我を負った生徒やその家族に対して、ウィローも義父であるコーチンも、要求される慰謝料は全て払ったものの最後まで一度たりとも謝罪の言葉を述べることも、頭を下げることも無かった。

 

 

それから、およそ1年の月日が流れた。

コーチン、ウィロー、スカールは家を別の遠く離れた地域に移し、そこで新たに町の診療所を開いている。ウィローはその診療所を手伝いながら、自分の新しい進む道を探している。

 

「ただいまー」

 

「おお、おかえり」

 

ウィローは新聞を見ながら、帰宅してきたスカールに声をかける。スカールもホテルの受付の仕事に就いており、彼らは新たな地で充実した日々を送れるようになっていた。

ただ、ウィローには心残りがひとつだけあった。それは親友とも呼べた存在であるゲロの事である。旧校舎での一件以降、ウィローはゲロとは一度も会っていない。しかし、彼もひとりで突っ走って勝手にいなくなった自分の事など、もう気にもしていないだろう。

 

 

───エイジ700年2月。

全世界で新型感染ウイルスが拡大。発熱と関節の痛みに始まり、重症化すると体が石のように硬直して昏睡し、免疫機能が低下することから、通称「石病」と名付けられた。

石病は主に人から人へと飛沫や接触により感染し、多くの感染者と死者を出した。薬の開発も目処が立たず、感染を予防するには人同士との接触を最低限に抑え、各々が意識を持って予防を徹底するほかなかった。

だが石病は数年ほどで沈静化し、ワクチンや治療薬も登場したことによって流行は完全に過ぎ去った。しかし、この間に世界中で2000万人近くもの死者を出したとされ…その中には、スカールも含まれていた。

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