もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第301話 「Sci-Fi ROMANCE TRAVELER」

亡くなったスカールを人造人間として復活させる。そのような愚かな行為をした自分を戒め、悔いたウィローは永久凍土のツルマイツブリ山に構えた巨大研究所の中でバイオテクノロジーを使用した研究に没頭していた。

かつては義理の父親であり、自分の指標でもあったコーチンは自身の診療所を畳み、ウィローの助手という形で研究を手伝っている。バイオテクノロジーを使い生身の義手や臓器を作り、または独り者の老人や病人を支える人造人間の開発に熱意を注いだ。

 

…しかし、ある時にウィローは体調の不良を感じ取った。息苦しく、熱が出ている。

初めは無理がたたった所為かとも思った。だがどうやら違うようだった。そして気付いた…この症状には覚えがある。これは全世界で2000万人にものぼる死者を出したウイルス性の病…”石病”であると。

恐らく、外から仕入れた機材や食材の中にウイルスが付着していたか、この永久凍土の中に同じウイルスが眠っていたのか…。

ウィローは焦った。既に手足の末端から関節の痛みがあり、やや硬化が始まっている。このまま何の手も打たなければ、この閉鎖された環境で自分は死ぬだろう。だが、ゲロからもらっていたワクチンを使う事は絶対にしなかった。ゲロの研究で自分が助けられることを酷く嫌悪したからだ。

そんな中、最悪な事が起こる。歴史的といえる異常な寒波がツルマイツブリ山を含む北の地域を襲い、研究所への食料や電気の供給網が破壊されてしまったのだ。保温耐寒機能を失った研究所はみるみるうちに雪と氷に覆われ、冷えていく。

もはやウィローは起き上がる事すらできなくなり、共にいたコーチンでさえも関節痛の症状を訴え始めた。もはや、研究所ごとふたりが氷漬けとなるのは時間の問題だった。

 

若い頃から持っている強靭すぎる肉体と精神力によって昏睡状態に陥ることができないウィローは、地獄のような苦しみの中で灼熱の憎悪を渦巻かせていた。

 

(何故、この世の神は私が存在することを許そうとしない?これは愚かな業を重ねた私への罰だというのか?)

 

ウィローは神を、この世のすべてを呪った。

 

(これが”死”か…)

 

死ぬ。死ねば全てが終わり、泥に沈んだ土塊が如く溶けて消える。

…否、そんな事はない。

ウィローは死の間際に陥って、その心の中に眠っていた吹き出せない怒りと野心を解き放った。灼熱の憎悪が、それらを閉じ込めていた心の枷を焼き消したのだ。

 

(いいや…この世が私を許さんとするのならば、そんな世が私が支配すればいい。私が支配し、思うがままにしてやることで世界へ対する復讐を成し遂げるのだ!そうすれば私は誰の邪魔もなく…あの子の分まで生き続けられる)

 

傍らについていたコーチンが、ウィローの顔を見て戦く。

 

「ウ、ウィロー…お前…」

 

先ほどまで苦しんでいたはずのウィローだったが、その顔は目を細くし、口の端を釣り上げて満面の笑みを浮かべていたからだ。

 

「コーチン、我々の身体を捨てるのだ」

 

ウィローにはある考えが浮かんでいた。

 

「は…?」

 

「私はじきに昏睡し、やがて死ぬだろう。しかし、それは肉体のみの話だ」

 

「ウィロー…何を言っている?」

 

「いいからよく聞け。お前はまだ症状が軽い…今のうちに、私の脳を摘出し生命維持装置へ移すのだ。そうすれば、私は脳だけになろうとも自力で自分とお前の仮の体を造れる。その後、その身体にお前も脳を移すのだ」

 

ウィローの計画は成功した。

コーチンは指示された通りに外科手術でウィローの脳を取り出し、生命維持装置を兼ねた仮の機械の体に移し替えた。その後、ウィローがコーチンの機械の体を作り、その脳を移し替えた。

しかし、ウィローはそこに細工を仕掛けていた。襲い来る”死”というものによって心の枷を破壊され、野心と憎悪を解き放たれたウィローは父親であるコーチンさえも手駒にしようと画策したのだ。彼が造ったコーチンの機械の体に、自分を崇め付き従うようにプログラムを打ち込んだ。

これで、ウィローは永遠の命とそして世界を支配するための力を手に入れる事が出来た。しかし、既に雪に深く覆われ氷漬けとなった研究所に閉じ込められてしまっており、それを実行するにはしばし長らくの休眠をする必要に迫られた。

 

 

…長い時が立ち、目を覚ましたDr.ウィローは異変に気付いた。機械の体に備わった能力で研究所の外を覗くと、そこは眠りにつく前の永久凍土の大地とは大きく違っていた。最初は、気候の変化で環境が変わったのかと思った。しかし、さらに検知してみるとここはツルマイツブリ山とは全く違う土地で、さらにそこにある巨大な山の内部に研究所は収まっているようだった。

 

「これは一体どういうことだ」

 

ウィローは困惑する。しかし、それも当然…ウィローは自分が世間から忘れ去れ記憶から風化し、結果”幻想郷”へ研究所ごと迷い込んでしまったという事実にたどり着くことはできないだろう。

 

「まあいい…この土地には未知の力を秘めた生命共がいるな…感じるぞ。ならばわしのこの機械の体の代わりとなる生身の強靭な肉体がいくらでも転がっているわけだ」

 

続いて、遅れて目覚めたDr.コーチンは研究ラボへ向かい、ウィローが設計したバイオ戦士たちの構造図を見る。

 

「キシーメ、ミソカッツン、エビフリャー…なるほど、これほどの戦士を設計なさるとは、さすがは偉大なるドクター・ウィロー様じゃ」

 

コーチンはものの数日で凶暴なバイオ戦士たちを完成させた。ウィローはそれらを駆使して強い妖怪を捕らえ、その肉体を奪い、この幻想郷を拠点として世界を支配する第一歩としようとした。

しかし、そこに邪魔が立ちはだかる事となる。

 

(あ…お母さんに父ちゃんだ)

 

ウィローの記憶を見ていたシロナは驚いた。

その邪魔こそが博麗霊夢とカカロットたちだった。彼らの奮闘によってウィローとコーチンは敗北し、その野望ごと宇宙空間へ放逐され、元気玉によって完全に打ち砕かれた。

…かに思われたが、ウィローは死んでいなかった。その脳の欠片は宇宙空間を漂い、やがて「宇宙の墓場」と呼ばれる場所に流れ着いた。そこには一枚のコンピュータチップが周囲の物体を取り込みそのエネルギーを吸収して巨大化した惑星・ビッグゲテスターがあり、ウィローの脳はその星に漂着すると取り込まれる事なく逆に支配してしまった。己の物としたビッグゲテスターの科学力で脳を再生させ、自分の脳細胞から培養した、生前の肉体のクローンを造り出してそれに意識を乗り換えた。

 

「わしの脳は破損した大部分をビッグゲテスターの力で常に補っているに過ぎない。脳は脆く、長くは持たないだろう…」

 

そこでウィローは本体の脳に頼らない”人格のダウンロード”理論を完成させた。まずは生前にバックアップを取ってあったコーチンの人格を、ビッグゲテスターで造った機械の体にダウンロードし、復活させた。

ビッグゲテスターの力があれば、以前の機械の体を大幅に強化した戦闘マシーン・メタルウィローを量産したり、地球をさまよう下等な人造人間を攫って改造し手駒とすることも、幻想郷の戦士たちの細胞を組み合わせた最強の肉体を造ることも容易かった。

 

「これでもうじき、わしの世界征服は完成する。そうすれば…使い古しの脳味噌とも、機械の寄せ集まったガラクタ惑星ともおさらばだ。そして、キサマともな」

 

(えっ?)

 

ウィローの精神内に潜んでいたシロナは、急に視線を向けられた気がしてびっくりした。長くウィローの精神内に潜んでその記憶を覗いてきたが、ウィロー自身から認識されたのはこれが初めてだった。

 

「ずっと昔からわしの頭の中に潜り込んでいたのは知っている。得体の知れぬ、キサマが何者であるかはもう知る事は出来ぬが…さらばだ。機会があればまた会おう」

 

シロナはウィローの精神内から叩きだされ、その身体は地球へと向かって飛ばされていく。まるで時間の流れを越えているかのような不思議な感覚を覚え、そこでシロナの意識は戻った。

ウィローの記憶の旅は、終わった。

 

 

 

 

────

 

────────

 

────────────

 

 

「記憶兵器って知ってる?」

 

シロナはウィローにそう尋ねた。

 

「知っている。何でも、人造人間に対抗するために体の一部を武器に変えて戦える者たちのことらしいな」

 

「私には、4人分の記憶兵器の力が備わってるんだよ。記憶兵器は怪我も病気もすぐに治る…それは、”肉体を最高に良好な状態に保つ”って言う記憶兵器の性質によるもの。ダウンロードで無理やり人の人格を脳に送り込まれるのって、果たして正常かな?意識を乗っ取られてる状態って、良好って言えるのかな?」

 

「なるほどな…それによってキサマはダウンロードを逃れ、わしのフリをしてここまでやって来たという訳か。しかし、わからぬな…キサマはそこまでして何のためにここまで来たのだ?そして…何故泣いておるのだ」

 

ウィローが指摘した通り、シロナの目からは涙が流れ続けていた。ウィローには分からなかった…肉体を乗っ取りかけた相手を前にして、普通ならば怒りを露わにするはずのシロナが、何故泣いているのかを。

 

「だってさ…なんで…どうして皆が幸せになれないのさァ!!」

 

涙ながらに訴えるシロナを、ウィローはじっと眺める。

 

「ウィロー、コーチン、スカール…ゲロに…スカー…!みんな、楽しく幸せに生きていたのに…なのに、その幸せの歯車はどんどんどんどん変な方へ回ってしまって…結果、全員が苦しんで…それが今もずっと続いてる。このままじゃ、誰も幸せになんてなれないよ!」

 

シロナの後ろに居たコーチンも、フリーズしたように硬直しながら彼女の事を見ている。

 

「ふ…何を言っているのかわからないぞ。何故幸せになれないのか…それはわしが愚かな行いを犯したからに過ぎん。一時の感情に身を任せて、救えるはずの人間を救えず…不幸にした…だから、わしを今ここで殺せば幸せになれる。違うか?」

 

「本当に、貴方が死ねばみんな幸せになれる?違うよね…きっと、まだ不幸な人がいるはずだよ」

 

「ではどうすればいい?」

 

「もう…いいでしょ…お願いします!幻想郷に広まった石病を治して、レイムを止めてください!」

 

シロナはウィローに向かって頭を下げる。ウィローもまさかシロナから頭を下げてそんな懇願をされるとは思っていなかったようで、目を丸くして驚いている。が、すぐに元の仏頂面に戻る。

 

「貴方の記憶を見たから分かった…ゲロが作った石病のワクチンをまだ持ってるんでしょ?そして、レイムは貴方が造った人造人間だ…だから貴方の言う事は聞くはず!だから…」

 

「やだね、バーカ」

 

ウィローはキッパリと、そして悪戯っぽくそう言い放つ。

 

「人は、嫌な時に訳は必要ないんだろう?自分で言っていたよな?せめて、戦って吐かせてやるってくらいは言えよ。もっとも、今のわしの戦闘力は普通の人間並み…下限が難しいな、ええ?シロナ…」

 

「…だったら約束して。私が勝ったら、私のお願いを聞いてくれるって」

 

「それはできない。戦ってみればいいじゃないか…わしを殺せば全てが止まる可能性もあるぞ?ほらどうした?」

 

「くっ…!じゃあ戦ってあげるわよ!」

 

シロナはそう言いながらウィローに向かって走り出す。

 

(死なない程度の攻撃に抑えて一発くらわせないと…)

 

ミシ… ドゴン!!

 

しかしその時、蒼空を映していた天井が突如ひび割れ、崩れてきた。シロナとウィローはやり取りを中断し、上を見上げる。すると、その穴の向こうから何かが飛び降りてくる。

 

「何だ…?」

 

「キサマは…」

 

「やあやあ皆様方!こんな場所で会うなんてご愛嬌~!このハーレクインが、雁首そろえたバカどもに引導を渡しに来てやったっすよ」

 

この場に乱入してきたのは、あのハーレクインだった。

 

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