もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第302話 「月虹」

「やあやあ皆様方!こんな場所で会うなんてご愛嬌~!このハーレクインが、雁首そろえたバカどもに引導を渡しに来てやったっすよ」

 

突然、何の前触れもなくこの場へ乱入してきた人造人間…ハーレクイン。

シロナはこの人造人間の事を知っている。キヨヒロの父親を殺し、結果的に彼の人生を大きく狂わせた、邪悪な機械人間。前に博麗神社で邂逅した時には”強い機械人間”としか思えなかったが、今ならわかる…コイツは歯車のひとつひとつまで邪悪さがしみ込んだ悪の人造人間だ。

しかも、その時のハーレクインの実力であったなら今のシロナなら十分にねじ伏せられるが、今のハーレクインではどうだろう…その戦闘力は比類できないほど高まっているだろう。

 

「ハーレクイン…何しに来た?」

 

「やだなァウィロー様…アンタがもう必要なくなったんで始末しに来たに決まってるでしょーが」

 

「何…?バカな事を。キサマは邪魔なのでとっとと消えろ。これは命令だ」

 

ウィローの手下である”四像”というグループに含まれるハーレクインはウィローによる改造強化を受けており、彼の命令に逆らう事はできない。

だが、ハーレクインはその命令を聞くことなく不気味に笑った。

 

「ひゃははは!残念ですがね、ウチはもうアンタの僕じゃない…レイムっちの僕になっちまったもんでねぇ」

 

「何だと?」

 

「だからアンタの命令になんて従う道理はないんすよ。ウチはレイムっちに従う事にしたんす…だから、もうアンタもこのビッグゲテスターもいらないだろうと思いましてね!!」

 

ハーレクインはぴゅんと飛び跳ねながら上へ掲げた両手の上に緑色のエネルギー弾を作り出す。すると次の瞬間、そのエネルギー弾は無数の矢尻のような形状となって分裂し全方位へ飛び散った。

 

「ヒャッハアァ!『アサルトアロー』!!」

 

無差別な攻撃を前に、シロナは咄嗟にかわそうと身構える。しかし、横目でウィローの方を見ると、彼は避けようともせず、両腕を広げてむしろ攻撃を受けようとしていた。

 

「ウィローッ!!」

 

が、シロナの後ろに居たコーチンが咄嗟に飛び出し、ウィローの前に割って入った。ハーレクインの攻撃が次々とコーチンの機械の体を貫き、おさまったころにはコーチンは全身に穴を空けて煙を吹きながらその場へ倒れ込んでいた。

 

「コーチン…何故だ」

 

ウィローは困惑の意を示す。

 

「あらら。んじゃもう一回!」

 

ハーレクインは再びエネルギー弾を作り、それを炸裂させてアサルトアローを発動する。

 

「くっ…!」

 

次はシロナが反射的に前へ飛び出した。ウィローには石病を治してレイムを止めてもらわなければならない。よって、ここで死なせるわけにはいかない!

 

「ウラウラウラウラ…!」

 

シロナは襲い来る矢尻たちを殴ってはじき返す。間髪入れずに拳の連打を繰り出すことで壁を作り出し、それで防いでいるのだ。しかし、その間にシロナが気付かぬうちに接近していたハーレクイン本体の繰り出す蹴りがその顔面に命中する。

 

「遅い!」

 

「うぐ…!」

 

シロナはよろめき、攻撃の手が狂った。その瞬間、変な方向へ弾き飛ばしてしまった矢尻が、後ろに居たウィローの脇腹をかすめるようにして斬り裂いていった。

すると、どこかからカチッという音が鳴り渡り、次の瞬間に巨大な爆発音と揺れが辺りを覆った。

 

「な、何が起こってるの!?」

 

「ほほー、やっぱりっすねぇ。ウィロー様はこの辺り中にセンサーを張り巡らせ、自分が攻撃を受けた瞬間に作動する爆弾をビッグゲテスターの至る所に仕掛けていたみたいっすね」

 

ドン… ドン…

 

ビッグゲテスターは、ビッグゲテスター自身の科学力で作られた爆弾を至る箇所に喰らい、見る見るうちに焼け崩れていく。やがて、内部に取り込んでいたウィローの巨大宇宙船だけがその場に残る。しかし、その宇宙船も爆発の影響を受けてこれ以上宇宙に留まることはできないようだ。

 

「おっと、このままじゃウチまで巻き込まれちまうから先にバイバイしちゃうっすよ。地獄への旅、仲良く楽しみな」

 

ハーレクインはそう言い残すと、ジャンプして飛び跳ねさっき通って来た穴の中に入り、消えていった。

周囲はなお揺れているが、ウィローはそれよりも自分の腹を切り裂かれたことよりも、自分を守るかのように割って間に入ったコーチンの事を見ていた。既にその身体は破壊され、横たわっているきりだ。

 

「ねぇウィロー…自分が攻撃されると発動する爆弾を仕掛けてたから、わざと私と闘おうとしたの?そんなことしたら自分も死んじゃうじゃない…」

 

「…さっき言っただろ、俺はもう生きることに飽きたのさ…この宇宙船で一生を過ごすつもりだった。今死のうが後で老衰しようが一緒だろ?」

 

「ウィロー、まだ間に合う…石病を治してレイムを止めてちょうだいよ」

 

「まだ言ってるのか、そんな事を。それよりも、俺と話でもしないか?コーチンもビッグゲテスターもいなくなって退屈なんだよ」

 

「駄目だ…お願いだから…」

 

シロナはそう言いながら頭を下げる。その様子を見たウィローは何だか馬鹿らしくなってきて目を逸らした。

 

「ふん…キサマのようなバカとする話は何もなかったな…ぐっ」

 

ウィローは苦しむ素振りを見せ、脇腹を押さえてよろめいた。傷口から流れる血で白衣は真っ赤に染まり、床の上にも大きな血だまりが出来ていた。

 

「あなた、怪我が…」

 

「この程度で死ぬか。いくら人間だったころと同じ体とはいえ頑丈さが売り文句だぞ。だが…いくら強かろうとも、家族のひとりすら救えなかったがな」

 

「でも今なら、もっと大勢を救えるんだよ!分かってるでしょ…レイムは幻想郷を滅ぼす事が目的だけど、きっとそれだけじゃ止まらない。地球を破壊しつくすまで止まりはしないはず…でもあなただったら幻想郷も地球も救えるの!頼むよウィロー!」

 

「またかよ、なんとかをやって、かんとかを知らない?敵だろ、俺は。プライドも想像力もないのかキサマは」

 

だが、シロナは必死に頭を下げるだけで何も言い返してこない。

 

「まあ…どうせ死ぬまで退屈でもあるしな、レイムについてだけなら教えてやってもいい」

 

「本当!?あ、ありがとう…!」

 

「と言っても、あのレイム…奴ばかりはもはや俺にはどうしようもできん。さっきのハーレクインを見て分かった…奴が俺に従っていたのはただの気まぐれの演技に過ぎなかった。奴はいつでも俺に反逆することができたんだ。結局、奴を止めるには息の根を止めるほかない」

 

「そ、そうだったんだ…じゃあ早速地上へ戻ろう!」

 

「馬鹿者、この大型宇宙船は爆発に巻き込まれてもう衛星軌道上から地球へ向けて接近中だ。キサマがここへ乗って来た宇宙ポッドも…ハーレクインに破壊されてしまっただろうな」

 

「ああ…そっか…!じゃあどうしよう…」

 

「予備のポッドくらいあるに決まってるだろ。まったく…本当に馬鹿なんだな」

 

「馬鹿でもいいよ…みんなが助かるんだもん」

 

「分かったらはやくいけ」

 

シロナは予備のポッドが着けてある発着場へとやってきた。ここも爆発を受けてしまったようで、ポッドそのものは目立ったダメージは無さそうだが、ポッド発射用のカタパルトのレールが変形してしまっていた。

 

「あれを直せばいいんだね…」

 

とはいうものの、シロナにはどうやってあれを直せばいいかわからない。その場で考え込んでいると、後ろから不意にウィローが姿を現した。

 

「本来なら、あの発着場には空気がある…しかし、見ろ。宇宙空間へ通じる発射孔が破損して蓋が外れている。今の発着場は宇宙と同じ、真空空間になっている」

 

「あ…ウィロー」

 

「宇宙服の着用には3時間以上を要する上に訓練のしていない者を宇宙空間で作業させるわけにはいかない。よって、船外修理用のロボットアームを使ってカタパルトのレールを交換する。早速始めるぞ」

 

「う、うん」

 

ふたりはロボットアームの操縦穴に腕を入れる。

 

「でも、なんで急に私を手伝ってくれるようになったの?」

 

「ふ、何の事もないただの気まぐれさ。それより、キサマはレールを押さえていろ…まず俺が切断する」

 

「うん」

 

シロナがアームを動かそうとした瞬間、そのアームは予想外の方向へ急に移動し、ウィローが操ろうとしていた腕と衝突した。ピーッという警戒音が鳴り、シロナは慌ててアームを動かして距離を取る。

 

「気を付けろ。慣れないうちは慎重すぎるくらいの気持ちでやれ」

 

「ああ…注意するわよ、ごめん…」

 

シロナは今の曲がったレールを押さえ、ウィローは金属用のカッターを装着したアームで切断していく。

ウィローは巧みにアームを動かしながらも、チラリとシロナを見た。

 

「な、何よ?」

 

「別に…出来の悪い妹を持った兄の気持ちというのは、こんな感じかと思っただけだ」

 

「ちぇ、悪かったわね」

 

「妹はそういう態度をするものだ」

 

切断を終えたウィローは新しいレールを添え、溶接用のアームに切り替える。

 

「溶接するぞ、目を閉じてろ」

 

「うん」

 

その時、ウィローは何かに気付く。

 

(あれ…なんか、前にもこんな事やったな)

 

 

 

『これをここに取り付ければ、肩の可動域を人間と同じにできるんじゃないかな』

 

『そうだな…しかしそうなると、ゴム繊維の筋肉が張り過ぎる。もっと長くしないとな』

 

『こらーッ!お昼ごはんだよって何回呼んだらわかるの!?』

 

『おわっ、びっくりしたなぁスカール!』

 

『…ははは、ごめんごめん今行くよ』

 

 

 

昔、ゲロと一緒に限りなく人間に近いからくり人形を作ろうとした。だがとうじの技術ではうまくいかず、時間も飯食うのも忘れてふたりで熱中したっけ。そのたびに呼びに来たスカールに叱られた。

 

(ああそうだ…あんなことがあったっけなぁ)

 

ウィローは少しだけ微笑んだ。

 

「しかし、結局は俺もキサマも無駄な人生だったというわけだ。はっきり言って、今のキサマじゃレイムには到底敵わないし、俺は石病の治し方は教えない。何も救えない己の無力さを嘆き…キサマはわしと同じになるんだよ」

 

「そうかも…しれないね…」

 

「…よし、溶接は終わった。これであのポッドも地球への片道だけは何とか持つだろう」

 

「じゃあウィロー、貴方も一緒に地上へ戻ろうよ」

 

「やだよ。あれは一人用のポッドだ、キサマとくっついて乗るなんてゴメンだ。それに、言っただろう…俺はここで死ぬつもりだったと…」

 

「私だって言ったはずだよ、貴方は大勢の人たちを救える。それってすごい事だよね…私にはできないよ。だから、もう…ひとりだけで悪い事をしないで」

 

ウィローは、真っすぐに自分を見つめてくるシロナの黒い瞳を見つめ返した。そして、ゆっくりと口を開いて言った。

 

「…ひとりじゃないさ」

 

「え…?」

 

「今の俺には、シロナという観客がいる。キサマの目を見ていると、自分が舞台の役者にでもなったような気分になる。それならせいぜい…いい演技をしないとな。観客がいるうちに、舞台は終わらせよう」

 

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