もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第304話 「健啖の悪魔」

シロナが宇宙へ発ってから、実に2時間が経過していた。そのころ、レイムは幻想郷各地を破壊しながら北へと進んでいた。

賢者たちとの一戦を繰り広げた後、飛び去っていったレイムは、魔法の森、迷いの竹林、多くの妖怪が棲む主要な土地を中心に…レイムは幻想郷を炎の色へと塗り変えていった。レイムの通ったところは決まって黒く焦げた死の大地となり、そこに住まう妖怪たちも圧倒的なレイムの力を見せつけられ、さらに妖怪の賢者たちが倒された光景を見たせいで士気低く…終始レイムに敵し得なかったのだ。

後戸の国へ匿われている人間たちもまた、幻想郷を見渡せる”窓”から目撃してしまっただろう。妖怪たちを跡形も無く薙ぎ払い、幻想郷を破壊するレイムの姿を。

その時、幻想郷は未知なる破壊者の登場に驚く人間たちと、博麗の巫女に似た姿をした悪魔に怯える妖怪たちの…恐怖という感情に覆い尽くされてしまった!

 

「きやあああああああ…」

 

レイムは空を飛びながらこの世のものとは思えない歓喜の悲鳴をあげ、そこら中に渦巻く恐怖の感情を浴びるように喰らっていた。レイムにとってそれは、そのまま寿命へと、生命力へと、そして気へと吸収されていく。

 

「かかかか、美味!他者の恐怖とはなんと美味なのかしら!人や妖は私を見て恐怖し…私はその恐怖を啖らって我が力と成す…!まさに…まさにこのレイムの思うがまま。今や私に成せぬことは無し!!」

 

これこそが、レイムの強さの秘密。賢者たちを完全には殺さなかったのも、多大な影響力を持つ賢者であれば、有象無象の人間や妖たちにより恐怖を伝染させてくれると思っているからだ。もしも賢者共がもう一度立ち向かってきたならば、今度もまた叩き潰して見せしめとし、さらなる恐怖を植え付けてもいい。現に、レイムはこの方法を並行世界の幻想郷にて何百回と行い、その力を蓄え続けてきた。

 

「最後はあの妖怪の山だ、あそこを吹き飛ばせば地下マントルの噴出により、じわりと確実に幻想郷は完全に滅び去る!」

 

レイムは遠くに聳える巨大な妖怪の山を、最後のターゲットに定めた。あの妖怪の山が強力なエネルギーによって吹っ飛べばその影響は遥か地下にまで及び、引き起こされる天変地異によって幻想郷は消え去るだろう。最後にその地獄のような光景を目撃した生命たちの恐怖を喰らって、レイムの幻想郷へ対する並ならぬ憎悪は解消される。

だがその時、レイムはふと目を細めて自身の背後へ視線を向けた。

 

「何だ…?私を追ってくる…近づいてきている。私を恐怖していないな、まだそのような輩が、この幻想郷にいるのか」

 

レイムの目はその者の正体を掴んだ。

 

「ウオオォオォォオオオオオォォオオォオ!!」

 

それはスカーだった。かつてのスカール直属護衛軍たちの骸が組み合わさって構成された右腕を振りかぶり、その全身には眩いばかりの青いスパークを纏いながら、雷鳴の如く巨大な雄叫びを上げてこちらへ猛スピードで向かってくる。

 

「はははは!そうか、お前かァ!機械ゆえに繊細な感情は持てぬのだな!愚か者め、一瞬で消滅させて…」

 

グンッ ドゴォ!!

 

しかしレイムがそう言いかけた瞬間──スカーの振り下ろす拳がレイムの頬に深くめり込んだ。膨大な電気エネルギーが炸裂すると同時に、護衛軍らの使うエネルギーが爆発を起こし、殴ったレイムの顔面の反対側へ衝撃波が突き抜ける。

レイムは攻撃を受けた箇所から煙を噴き上げながら吹っ飛ばされ、何とか空中で踏みとどまる。

 

「こ…この私に…!」

 

「ぺちゃくちゃと述べ繰りやがっテ…ドタマまで腐らせたカ?このワタシが…オマエをぶっ潰してやんゼ!」

 

「何故だ…何故お前如き我楽多人形が私を傷つけられる…?…待てよ、そうか、お前はあの男の…」

 

「うるせェ!来ないんならこっちから行くヨ!」

 

再び攻撃を仕掛けようとするスカーを、レイムは霊尾を展開して迎え撃つ。

 

「ははは…面白い、面白いわアナタ」

 

「何がだヨ、くそったれ!」

 

 

 

それと同時刻、黒く焦げた大地に一隻の小型宇宙船が着陸した。そのドアが開くと、中からシロナの姿が現れる。鼻につく煙の臭いに顔をしかめながら周囲の様子を見渡し、さらにその顔が険しくなる。

 

「帰ってこれたんだ…幻想郷に」

 

…時間は10分前に遡る。

 

「俺が持っている石病の治療薬。これを装置に解析させ、そのデータを地上にある妖怪の山内部の研究所へ送信する。すると、そのデータは薬の効果となって、電波に乗って幻想郷全土へ行き渡るだろう」

 

ウィローはそう言いながら、昔にゲロから受け取った治療薬を装置に解析させた。そしてデータ送信が完了し、地上の研究所から治療薬が電波と共に放たれた。

 

「これで、幻想郷の石病…その病原体は一匹残らず死滅する。死骸は後から排泄されるだろう」

 

「よ…よかった~」

 

「それと、これを持っていろ」

 

ウィローはシロナに、指先ほどの大きさの機械を手渡した。カプセルのような形のそれは、小ささの割には重く、不思議なものだった。

 

「これは?」

 

「超小型結界発生装置。戯れに作ってみたものだ…持っていれば、レイムとの戦いの最中に力を発揮してくれるだろう」

 

「うん、ありがとう」

 

「さて…俺の舞台はこれにて終わった。さぁ、観客はショーが終わればさっさと家路につくものだ」

 

ウィローはそう言ってシロナを突き飛ばす。

 

「で、でも…じゃあウィローも一緒に帰ろうよ、地球へ」

 

「何…?」

 

「ウィローの頭脳と技術があればきっとこれからも大勢の人を助けられるよ…だから」

 

「やだね。キサマと同じ場所へ行くなんて死んでも御免だ。ひとりで行けよ」

 

ウィローは最後にそれだけ言い残した。シロナは小型宇宙ポッドへと乗せられ、半ば無理やりのような形へ地球へ…幻想郷へと帰還したのだった。

 

…やはり、ウィローはあの宇宙船と共に宇宙で死ぬつもりだったようだ。あと数時間は宇宙船も持ってくれるだろうが、それからはきっと地球の引力に対抗できる力がなくなり、大気圏まで引き寄せられてそのまま燃え尽きるか、その前に宇宙空間で爆発してバラバラになるかのどちらかだろう。

あれでもウィローは、最期には自分に協力してくれた。己の無力さを痛感したことによって狂気の道へと走った科学者の人生を体験したシロナは思わず涙をこぼしそうになるが、ぎゅっと目をつぶってそれを堪える。

 

「さぁ、行こう」

 

そう言いながらレイムの気を探ろうとするシロナであったが、突然自分の周囲にノイズのように不気味な気が出現し、それによって遮られてしまった。

 

「なに!?」

 

黒い風のようなものが周囲に巻き起こり、それはつむじ風のように一か所へ集中してゆく。

 

「今までどこに行ってたんだよ、シロナ。探しただろ?」

 

渦の中から聞こえる声と共に、その気の持ち主が姿を現す。

漆黒のローブと三角帽を身にまとい、闇のような紫色の長髪を靡かせる女。その女がこちらに振り向いた瞬間、シロナは硬直した。

 

「ま…魔理沙…」

 

「そうだよシロナ、私がマリサだよ」

 

マリサは、まるで夜の帳が降りるかのようにマントを翻すとふわりと跳躍し、一瞬でシロナの目の前まで移動するとその腕で鋭い突きを繰り出し、胸に命中させた。

 

「かはッ…!」

 

だが、シロナは後ろへ素早く飛んで距離を取ると、今度は地面を蹴って飛び出しマリサへ反撃を仕掛ける。拳を振り上げ、パンチの連打を放った。

 

「私は魔法を極めし、最強の魔女となった」

 

マリサはそう言いながら手の平から星型のエネルギー弾を飛ばし、シロナの攻撃を彼女ごと弾き飛ばす。が、シロナはすかさずに煙の中から飛び出すと右腕をカッターナイフに変え、左腕を鋸にして振り下ろす。

 

「星の魔法、七曜の魔法、肉体を鋼の如く鍛え上げる剛力の魔法すら我が技。よって…」

 

マリサは一瞬にして筋肉を膨張させた腕から拳を繰り出し、向かい来るシロナのカッターナイフの鋸の腕を殴って砕き、破壊してしまう。驚いたシロナの顔面をそのままの勢いで殴り飛ばし、シロナは地面を盛大に転がってゆく。

 

「鋼鉄の人造人間を容易く切り刻む記憶兵器を粉砕できるほど腕を鍛えることも、簡単!」

 

「な、何者よ…アンタ…」

 

シロナはゆっくりと顔を上げながら、マリサと名乗るその人物に問いかける。先刻に初めてレイムと会った時のように、かつての親しい者と顔が似ているがゆえに精神的な後れを取るようなことはもう無い。しかし、何故ここへ来て魔理沙にそっくりな新たな敵が現れたのか、ただ疑問に思った。

 

「私は正真正銘の霧雨魔理沙だよ。レイムに頼まれてな…お前を完ぺきに殺しに来たんだ」

 

マリサはさらに続ける。

 

「私はレイムみたいな紛いものじゃない…お前が知ってる霧雨魔理沙と100%同一人物だ。ま、住んでた世界が違ったんだがな…」

 

時は何百年も昔のこと。幻想郷の賢者・ガーリックがドラゴンボールを使い、現世への復活を企んでいた時。

かつてガーリックは現世…つまり外の世界の神となるべく修行をしていたがその邪悪な野望を見透かされ封印されてしまう。石に変えられ身動きの取れないガーリックは幻想郷へ流れ着き、そこで自由を取り戻すが、まだ封印の力が働いており外の世界へ戻ることはできなかった。そこで幻想郷のドラゴンボールで封印を解くべく、賢者の仲間入りを果たす。

そして、約20年ほど前。ガーリックは幻想郷中の賢者からボールを奪い、より強い願いを叶えるための力を集め始める。それに博麗の巫女を初めとした者らが異変解決に乗り出すが、強大な力を持つガーリックに及ばず、次々と命を落としていった。

 

「こっちの幻想郷にはカカロットがいた…だから博麗霊夢は強くなることができた。だからガーリックを倒すことに成功し、幻想郷は滅ばなかった…」

 

だが、マリサがいた世界にカカロットはおらず、霊夢も修行に身を入れていなかったためそれほど強くなかった。幻想郷最強の賢者・シュネックが命と引き換えにガーリックを倒すことで幻想郷は崩壊を免れたが、多くの賢者に加え博麗霊夢を失った幻想郷は朽ちた生物の骸のような、空っぽの荒廃した世界へと変わってしまった。

 

「私はただひとり生き残ってしまい、途方に暮れていたよ。だがそんな時、レイムがやって来た」

 

レイムは、かつてマリサが一緒に戦っていた仲間たちを引き連れていた。が、このレイムも仲間たちも、マリサの知る仲間とは全く違うと感じていた。だが、何もかもを失った私は、レイムについていくしかなかった。

 

「だから私はレイムの望むことは何でも叶えてやる。あの蠢く拠城に潜伏しろと言われたらそうするし、あの場でお前を助けて将来的にレイムと会わせるようにも仕向けた。そして今度はお前を殺せと言われればお前を殺すだけさ」

 

「能書きは…そこまでだ…」

 

シロナは震える足で立ち上がろうとする。

 

「おおっとシロナ、お前はもう立ち上がる必要はない。何故なら、お前の最初の私の一撃で死んでいるんだからな」

 

そう言いながらマリサが差し出したの手の中には、煌々と輝きながら脈打つシロナの心臓が握られていた。ヴァンパイアの血と記憶兵器の力を肉体へ注ぎ込むための心臓が──

 

「あ…」

 

短く小さな声を挙げると、シロナはそのまま白目をむきながら地面に倒れ込んだ。

そして、マリサは不気味に笑いながらその心臓をグチャリと握りつぶすのだった───

 

 

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