もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第305話 「タッタ」

「ふははは…これで私の役目は果たした。ヴァンパイアの再生能力は心臓が要であり、記憶兵器の肉体修復は血の巡りによって行われる。シロナはこれで再生することなく死に絶える」

 

マリサは潰れて輝きを失った、今までシロナの心臓だったカスをピッと飛ばして捨てると、マントを翻しながら反対側を向いてこの場を去ろうとする。周囲から黒い風が吹いてきて、それはマリサを囲うように集中する。そして姿を消そうとした瞬間…

 

「…!?」

 

マリサは突然何者かの殺気を背後に感じ、その場から飛び跳ねて距離を取る。

 

「お前…」

 

なんと、今までマリサが居た場所にはシロナが立っていた。しかし、足元にはおびただしい量の血が流れ出しており、本来心臓があるはずの場所には穴が空いている。

 

「…はっ、体内に残されていた血が僅かに生命力を与えていたか。だが、それももう尽きるだろう、おやすみだシロナ」

 

「…」

 

───死ぬな、シロナくん

 

───死ぬんじゃないわよ、シロナ

 

うつろな顔でおぼつかない足取りでマリサへ近づいていくシロナの脳内には、その言葉が強く何度も繰り返されていた。

 

───死ぬな、シロナちゃん

 

───死なないでください、シロナ

 

その声が聞こえるたびに、シロナは足を踏み出す。

 

「ただのカカシが」

 

マリサはそう呟きながら手の平を突き出し、そこから無数のエネルギー弾を発射し、シロナへ浴びせる。いくつもの爆発が巻き起こり、爆風と煙が周囲を覆う。

 

「なっ…!!」

 

次の瞬間、それらの中から姿を現すシロナ。ダメージは受けている様子だが、それでも歩みを止めてはいない。

マリサは宙へ浮かび上がると、突き出した手の平にエネルギーを溜めていく。細かい光の粒が集まっていき、その直後に特大の光の束を噴出した。

 

「『マスタースパーク』!焼き払え!!」

 

その時、シロナの心臓が一瞬で再生を終えた。その上を肋骨が覆い、筋肉が、皮膚が被さり、激しく鼓動を始めた心臓はその全身へ満遍なく気力と魔力を送り込む。

 

「ふん!」

 

気合を取り戻したシロナは足の裏からエネルギー波を放って反動で飛び跳ね、上空へ向かう。目の前には視界を覆うほどに巨大なマスタースパークが迫っていたが、頭の上で腕をクロスさせ、弾頭のようにそれに突っ込む。そしてキリモミ状に回転しながらその中を逆流するように進み、マリサの眼前へ飛び出した。

 

「うおっ!」

 

驚くマリサの顔など見ずに、シロナは彼女を素通りしてさらに上へ上へと飛んでいく。

 

「戦場を空へ変えるか?それとも逃げ果せようとでもいうのか?」

 

マリサもシロナを追いかけて空高く昇っていく。やがて、シロナは雲を突き抜けた。目いっぱいに広がる何の曇りもない群青色の空を見上げる。

 

…空だ。真っ青で広い空。

あれはいつだったっけ…何年も昔にフリーザがここへやって来た時、当たり前だと思ってた幸せは私を残して消えてしまった。だけど、それでもまだ見つけられていない幸せってものが、この青い空の下に必ずあると思っていた。でも探しても探しても…見つけても見つけても…幸せは私の前で暗く色を変えて…結晶みたいに砕けてしまう。

 

「逃がすかァ、シロナァ!お前の墓は雲の上ってかァ!?クズが、正義の味方気取りで今さら幻想郷を助けようと舞い上がりやがってよ!!」

 

追いついてきたマリサが下から叫ぶ。

 

「舞い上がっちゃ悪い!?私だって人助けくらいできる!」

 

「できねぇよお前にはな!」

 

マリサは無数の槍のような形状のエネルギー弾をシロナへ向けて発射した。シロナはもうエネルギー波の反動など関係なしに空中を意のままに自在に浮遊し、それを避けようとする。が、マリサの攻撃はどこまでもシロナを追尾して逃がさない。

 

…確かに、嬉しかったよ。「ヴァンパイア王国へ連れ去られたお姉さまたちを助けて」、「一緒に人造人間と戦って」。やっといいことができると思った。でも、その所為でどうなった!?魔理沙、パチュリー、ヒロイシさん、バルバルスさん、ビーデル、アリーズ…

 

「私の大馬鹿野郎!!砕けてしまったのは、私のせいだ!!」

 

シロナの髪が逆立ち、目の色が黄色く変わる。怒り状態と化したシロナはその両腕にダイヤモンドのような煌めく結晶を纏い、それを振りかざして向かい来るエネルギー弾を次から次へとはじき返していく。

 

「肉体の硬質化の魔法か!珍しいが、私にもそれくらいできるんだぜ!」

 

マリサの頭部が結晶でできた鎧に覆われ、額から3本の結晶の角、そして両肩や腕から生える結晶の棘をこちらに向けて串刺しにしようと向かってくる。

 

(でも、もう砕かせない…誰にも、砕かせてやるもんか!!)

 

魔強化形態となったマリサに対抗するかのように、シロナもその顔に結晶の兜を纏い

、魔強化形態で怒り状態のパワーを底上げする。その瞬間、逆立っていた黒髪はこれまでのような金髪ではなく、なんと紫色が半分ほど混じり合った色へと変化していた。

 

「紫混じりの髪に…!貴様も人間外の魔女へ進化しようとしているのか!だが、やはり全てにおいて完全な魔女である私には及ばないぞ!!」

 

そう言いながらこちらへの突撃の勢いを増したマリサに対し、シロナは全身の硬質化を集中させて硬度を格段に底上げした拳を振り下ろし、顔面に命中させることでマリサの角や棘を一撃で粉々にへし折った。その衝撃でマリサの勢いは止まり、今度は下方へ押し戻されてしまう。

 

「やったなァ!だが、お前の死に場所はここなんだよ!」

 

マリサはひび割れた結晶に覆われた顔を押さえ、指の隙間から怒りに満ちた目を覗かせながら周囲に火の玉を出現させた。それは次の瞬間にボッと大きくなって特大の火柱を放った。

が、シロナはそれを避けながらマリサに近づき、組み合うようにしてしがみついた。そのまま今度は下へ向かって落下を始める。

 

「ふん、私ごと落ちるつもりか!しかし、所詮は無駄な事だ…この状態で何ができる?」

 

「さぁね…!」

 

シロナはそう言うと、右腕をカッターナイフに、左腕を鋸に、右足を錐に、そして左足を斧に変形させる。それによって手足のリーチが伸び、各武器の切っ先が魔理沙の首や胸に触れようと迫るが…

 

「惜しいなぁ、届かないようだぞ」

 

シロナは自分の左足の”斧”を、前の持ち主であるバルバルスがどうやって使っていたか思い出す。

ただ振り下ろすだけじゃない。作った斧を体から分離させ、そこに足を置いて思い切り蹴りつける。すると、垂直に落下していたふたりは今度は横方向へ吹き飛んでいく。

 

「何をする気だ?」

 

「うおおおおッ!!」

 

続いて、シロナは背中から一瞬のみ脊椎の霊尾を生やし、振り回してマリサから離れる。

 

「自分から離れたか、だが私にとってはその方が都合がいいぞ」

 

気付かぬ間に周囲に展開していた無数の小さな魔法陣から火炎、岩塊、ガラス片を含んだ突風などがシロナへ向けて放たれる。

シロナは飛びながら右足の錐でそれを串刺しにして破壊しながら躱し、時には喰らいながらもマリサへ接近する。そしてその岩塊のひとつに足をそっと置き、カッターナイフの腕を腰の横に引いて構えた。

次の瞬間、ヒロイシがやっていたように少しの音も立てることなく、シロナはマリサの背後へ移動していた。そのスピードをマリサは目で追う事が出来なかった。感覚を頼りに、硬質化した腕を構えることですれ違いざまに受けた斬撃を防ぐことができたが、それでも帽子のツバと頬が少し斬られていた。

 

「やるなシロナ、そのスピード───!?」

 

マリサは振り向きながらそう言いかけるが、その時には既に全身にオーラを纏って真上から突撃してきたシロナが迫っていた。

マリサはそれを受け止めるような形で、すさまじい勢いでシロナと共に地面へ激突した。

 

ゴゴゴ… ザキン!!

 

その瞬間、鋸の歯が並んだ巨大な塔が地面から出現し、天を突くように伸びた。その鋸の塔の先端部分で打ち上げられたマリサは肉体強化と硬質化を同時に行った腕で塔を殴り、切っ先から根元まで一撃で破壊した。そのまま、先ほど墜落した際にできた大きなクレーターの中心、塔の根元の地中に潜んでいたシロナの腹へ拳を命中させ、深くめり込ませる。

衝撃波が周囲に広がり、それに乗せられた七色の魔力が津波のようにあふれ出す。直後に起こった爆発に吹き飛ばされたシロナは宙を舞い、クレーターの端に落下した。

 

「だから言っただろう、所詮は無駄な事だと」

 

「う…ぐ…」

 

シロナは全身から血を流しながらも、立ち上がろうともがく。

 

「もはや失うものなど何もない私は何の痛みも恐怖も感じないが、色々な物を抱えているお前はそれを相当に感じているんだろ?ならば泣いてみろよ、泣いて助けを乞いてみな…お前がこっちの私にしてたように。そうしたら命だけは助けて、私と同じレイムの僕にしてやってもいいぞ!あははははは!」

 

「泣け…だって…?」

 

掠れた声でつぶやくシロナ。

 

「私はもう、いっぱい泣いたよ…だからもう泣かない。泣いてたら、誰も助けられないから…」

 

「ふ、まだやるのか?泣かないというだけで勝つつもりかよ」

 

「だから…今は泣くべきじゃない。笑うべきなんだ!」

 

そう言いながら立ち上がったシロナは、清々しい笑みを浮かべてマリサを見据えていた。その堂々とした佇まいには、これまでに抱えていた迷いや葛藤すら微塵も感じさせない。

 

「んじゃあ笑いながら死んじまえ、シロナァ~!!」

 

マリサは両掌をシロナへ向け、そこから強力なエネルギー波を撃ち出す。最高威力のマスタースパークが、シロナをいっぺんも残らず焼き払おうと襲い掛かる。

 

…父ちゃん、お母さん…笑うってすごい事だよね。だって、自分にも他の人にも強さとやさしさをあげられるんだから。みんなを助けるために、私は父ちゃんやお母さんみたいになるんだ!

 

ゴッ…

 

マスタースパークはシロナが居た場所を完全に呑み込み、通過すると最後には細い糸のような光の筋を残して消えた。焼き削られた地面の焦げた音と匂い、煙があたりに充満しているが、その中で何か全く別の異音がマリサの耳に届いた。

 

「…ありえん」

 

煙の中に、シュンシュンという空気を裂くような音と共に黄金色に輝く何かが佇んでいる。そこにはシロナがいた。シロナが黄金の焚火のように激しく揺らめくオーラを纏い、そこに立っていた。髪はオーラと同じ黄金に輝いて天を貫くように逆立ち、その目は緑色に変色している。それは怒り状態とも、魔法による変化とも大きく違っていたが…

 

「…あははははは!驚かせやがって、髪がただの金色に戻っているぞ。せっかく紫の面積が増えて魔法の極致への扉が開けていたというのに…大方、攻撃を防ぐのに魔力を使い果たしたか…では今度こそ死ぬといい!」

 

マリサは先ほどと同じ、もしくはそれよりも増した威力のマスタースパークを、二本同時に再び放つ。螺旋状に回転しながら真っすぐにシロナへと迫るが…

 

ガキン!

 

なんと、腕の一振りでそれを弾き飛ばしてしまうシロナ。腕が少し火傷して煙が上がっているが、それもものの数秒で治癒する。

 

「な…何だと…!?」

 

「今、分かった。いつも私の心の中に居て、私に声をかけてくれていたのは…私の為に命を使ってくれていた皆だったんだね」

 

占いババの宮殿でサニーと戦い、我を失って暴走した時。心の中で、誰かはわからないけど懐かしい声が私に助言してくれてた。それだけじゃない…いろいろな場面で私を助けてくれていたのは、魔理沙やパチュリーたちだったんだ。私の血となり、命となっているふたりや記憶兵器のみんなが、いつも私を見守ってくれている。

 

「なんだお前の変化は…魔法使いの変化では無い、博麗の巫女の力でもない…!何なんだお前はァ~~~!?」

 

マリサは困惑や恐怖の入り混じった表情でそう叫ぶ。そして、再びその顔に結晶の鎧を纏い、硬質化させた両腕を振りかぶってシロナへ飛びかかる。

 

───よーしシロナ、次はこの技でいこうか

 

誰かがシロナの背後から耳元で囁いている。そして教えてくれる…その人がずっと使い続けていたひとつの技の出し方を。

シロナは言われるとおりに右手を前に掲げ、それを支えるように左手を添えて構えを取る。

 

「マスタースパアアアアアアアク!!」

 

次の瞬間、青と黄色、そして若干の赤色が混ざり合った特大の気功波が手から一直線に放たれた。それは空中に居たマリサを容易に呑み込み、濁流の如く押し流そうとする。

 

「ごは…がああああああッ…!!」

 

青色はシロナの扱う魔法の色の象徴。黄色は超サイヤ人によるオーラの色。そして赤は、博麗の巫女としての霊力の色。

これまで、シロナの肉体の中で歪な形で独立しあっていた、移植されたゴルゴンの腕によって得た「ヴァンパイアの力」、魔理沙やパチュリーによって与えられた「魔法の力」、カカロットから受け継いだ「サイヤパワー」、霊夢から受け継いだ博麗の巫女の「霊力」、そして「記憶兵器の力」は、この土壇場へ立たされることによって融合して浸透し、一個体の「シロナのパワー」として昇華された。これらすべての力をシロナ自身の持つ力として振るう…超サイヤ人への覚醒を果たしたシロナにとっては、それが可能となっていた。

 

「こんなパワーが…シロナに秘められていたとは…な」

 

マリサはシロナの放つマスタースパークの光の中で、断末魔の叫びと言葉を発する。その身体は崩壊を始めており、末端から崩れていく。

 

「しかし…これほど強いのなら…。頼む、あの子を…レイムを…救ってやってくれ…」

 

マリサの最期の言葉を聞いたシロナは、その中に自分が良く知っている方の魔理沙の面影を感じ取る。しかし、攻撃を撃ち終えたその時には、既にマリサは欠片も残されずに消滅しているのだった。

シロナは少し悲しそうな顔でそれを見届けると、東の方角へ素早く飛び立っていった。

 




シロナが身に着けた魔法が硬質化だったのは、潜在的に願っていた「自分が見つけた幸せを砕かせない」ためだったりします。
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