もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第306話 「GONG」

「くはははは!におう、におうわ!お前からは私と同じ匂いがする!」

 

幻想郷を覆う分厚い雲の中を、レイムとスカーは並走するように飛行していた。

 

「何のこと抜かしテやがんだオマエ!」

 

レイムの発した言葉に対し、スカーはそう言いながら特大の電撃をレイムに浴びせようと放つ。が、レイムは霊尾の一本でそれを受け止め、別の霊尾を振るってスカーを弾き飛ばす。

 

「グア…!」

 

「お前と私は、同じ男の手によって作られた…いわば姉妹のようなものという事よ!」

 

「馬鹿な事を言うんじゃねぇヨ!!」

 

空中で踏み止まるスカー。

 

(なんだか…いけねぇナ…。確かに、ワタシの電撃も他の攻撃も全部アイツに届いていル…だが、それがひとつも効いた気がしないんダ。それどころか…)

 

再び攻撃に乗り出そうとするスカーだが、その身体がギシリとぎこちない音を立てた。全身は傷だらけで歯車は軋み、レイムによって喰らわせられた火炎による煙が体から上がっている。

 

(アイツの攻撃は確実にワタシに響いテきやがるんダ…)

 

「どうした?もう終わりなのか?もっと私を楽しませてみなさい」

 

「うるせエエエ!!」

 

(ワタシはこんなに弱かったのかヨ!!)

 

全身に雷を纏って突撃を仕掛けるが、レイムが霊尾によって操るウドンゲとサナエの傀儡に行く手を塞がれる。その直後に同じくレイムが使役するヨウムの剣戟を背中に受け、サクヤの飛び蹴りが腹に命中して吹っ飛ばされる。

 

(認めるカ…認めるかヨ…)

 

護衛軍の力を使い、爆破液を飛ばして炸裂させても、マグマの如き炎を放射しても、黒い刀を振るっても、それらの攻撃は使役される傀儡によって受け止められ、ついにはレイム本体にすら攻撃が当たらなくなってしまう。

 

(ワタシはさっきまでとは比べ物にならんくらい強くなったはずダ…!だのに、ワタシがこんなに弱いなんテ…)

 

そんなスカーの頭の中にどうしてもよぎるのは、自分の横で、あるいは後ろで共に戦うシロナ…の幻だった。まるでレンズに焼きついた日の光のように、視界の端にちらちらと映り込む。自分の知るようなシロナはもうどこにもいないというのに。

 

(いや…いや、チガウ!認めるもんカ、そんなコト!!)

 

「スカール様、これ以上は危険です…ここを離脱し機を改めましょう」

 

スカーの右腕となっている護衛軍たちがそう口にする。

 

「うるせェ!私はスカールじゃねェって言ってるだロ!」

 

再びレイムへ向かって突撃するスカーだったが…

 

ドギュ…

 

「ガ…!」

 

レイムが真っすぐに伸ばした霊尾の一本が、スカーの胸を貫いた。スカーはゆっくりとレイムのもとへ引き寄せられ、体から電撃を放って抵抗するも少しも効いている素振りは無い。

 

「効かないなァ、私と同じ主を持つ人造人間よ!しかしもう飽きたわ、消えなさい!!」

 

レイムは口から特大な青紫色の火炎を吐き出し、それをスカーにぶつけた。

 

「…くくく、他愛のないものだったわ。さて、これからさらに幻想郷を蹂躙し、妖怪と人間どもの阿鼻叫喚をこの身に浴びるとしましょう」

 

そう呟くレイムの霊尾の先端には、首から下を焼き尽くされ、頭部のみとなってしまったスカーが引っ掛けられていた。もはやただの機械の残骸のような、あるいは市見せしめとして晒首にされた罪人のように、髪の毛で吊るされるようにして。

 

「…ん?」

 

だがその時、レイムは何らかの異変を感じ取る。しばらくじっと黙り、目を細めて妖怪の山の方角を睨む。

 

「あの方角から…奇妙な波動が流れているな。それに…私への恐怖が薄らいでいる!?」

 

 

 

「永琳見て!石病にかかってる人たちが、次々に目を覚ましていくわ!」

 

後戸の国。幻想郷を破壊しつくそうとするレイムから逃れるために全ての人間をここへ避難させているが、人々を同じ空間内に押し込めているために石病の感染は短時間で大きく拡大してしまっていた。だが、その看護などにあたっていた永琳、輝夜、史奈と永遠亭に従事する者たちは、目の前で石病の患者が次々と回復していく光景を目の当たりにしていた。

 

「お、おい…今のは一体…?」

 

「今の見たか?」

 

だが、永琳たちが驚いたのはそれだけではない。意識を取り戻した患者たちは病気が治った事ではなく、別の事柄に困惑して口々に呟いているのだ。

 

「一体何を見たのですか?」

 

永琳がそう問いかける。

 

「なんか、頭の中に女の子の姿が浮かんだんだよ」

 

「ああ、それも…なんか頭を下げながら『みんなの石病を治してください』って誰かに頼み込んでるんだよ。どっかで見た事ある気がするんだけど、誰だったっけなぁ…」

 

「私知ってるよ、あの人はシロナさんだよ!」

 

どこかで少女がそう叫んだ。その言葉を聞いた他の人々も、夢枕に現れた不思議な女の子が誰だったのかを徐々に思い出していく。

 

「ああ、行方不明になっちまった博麗の巫女さんかい!」

 

「そういえばあんな顔立ちだったなぁ」

 

人々の記憶から薄らいでいたかつての博麗の巫女…シロナの記憶が呼び起こされる。それと同時に、シロナの手によって命を救われたり、困難を解決してもらった人々は思い出すだろう…

 

「うん…きっとシロナさんなら、外で暴れている悪い奴も退治してくれる…」

 

鈴奈庵の小鈴と、その娘の鈴葉。猿の妖怪に狙われていたところをシロナに助けられたことがある。

 

「あの子なら…きっと…」

 

若いころ、猟の師匠が山で死んでしまった事を悔やみ自ら命を断とうとしていたが、シロナと共に妖怪の呪縛を跳ね返した、猟師の和正。

 

「アイツならやってくれるさ」

 

「そうね…」

 

里に大吹雪をもたらしたが、人間になることができた雪女のユキ、そしてその恋人のヒロオという青年。

 

「もしかしたら、あの子だったら…」

 

守矢神社の地下に眠っていた羽黒蜻蛉の一件でシロナと知り合った、東風谷早苗。

 

「あの子なら…」

 

「彼女なら…」

 

その他、シロナの活躍を知る人間たちはシロナへ希望を寄せる。彼女であればきっと、この絶望的な状況をなんとか打開してくれるはずだと。

…ウィローが解析した石病の治療薬は、保有者の強い念を長年にわたって浴びてきたことによって、付喪神のように意志を持ち得ていた。治療薬は、シロナがウィローに病気を治してくれるように懇願する様子を見て記憶していたのだ。それが薬の効能と共にデータとして電波で流れ、人々の頭に届いた。

そしてたった今、レイムが造って蔓延させた石病の病原菌は一匹残らず死滅した。石病の脅威は完全に幻想郷から去ったのだ。

 

 

 

「よし───と」

 

一方その頃、シロナは生家でもある博麗神社へ戻っていた。その一室にあったタンスを広げ、中からある衣服を取り出して着替える。ボロボロの黒い道着を上着として羽織り、赤い巫女服のスカートを腰に巻く。これはかつてカカロットが着ていた道着と霊夢の巫女服を形見としてとっておいたものである。

 

「私が居なくなっても神社は保護してくれててよかったー!捨てられちゃってたらどうしようかと思ったよ」

 

勝負服を身にまとったシロナは、いよいよレイムとの決戦に臨もうと神社の外に出る。

が、シロナは目の前に広がっていた光景を見て思わず言葉を失った。

 

「みんな…」

 

シロナは真剣な眼差しで、神社の周りに空を埋め尽くすほどの妖怪たちの群れを見据えた。するとその中から、八雲紫と摩多羅隠岐奈、そしてシュネックが姿を現す。他にも、賢者らしき者たちの姿もある。シロナは思わず身構えるが、賢者たちはシロナの顔を見ると頭を下げた。

 

「ごめんなさい、シロナ…」

 

と、レイムの策略に踊らされ一時はシロナと敵対した紫が謝罪する。

 

「我々としたことが…」

 

隠岐奈がそう言う。

 

「シロナよ…我々と共に、レイムを倒すために戦ってほしい。お主の力を貸してもらいたい。この通りだ」

 

幻想郷の最高権力者であるシュネックまでもがそう頼み込んだ。それを見たシロナはこっ恥ずかしくなり、鼻の下をこすりながら口を開く。

 

「い、いいっていいって!じゃあ行こうよ、一緒に!」

 

シロナは再び超サイヤ人へと変身し、妖怪たちと共にレイムとの最終決戦へと向かうのだった。

 

 

 

 

「シロナかァァァァァァ…!!」

 

レイムは目を見開いてひび割れたような模様を走らせ、憎々しげにそう言った。

 

「マリサめ、しくじった様だな…!シロナのにおいがする…東の方角からシロナのにおいがするわ!そうか…この地の恐怖や絶望が薄らいでいくのはあいつが生きているからか…それも私の手ぬるさが招いたこと…!ならば…」

 

レイムの纏っていた濃い青色のオーラが徐々に金色に変色していき、レイムの髪と霊尾の毛の色が煌めく黄金に変わっていく。その姿は、さながら超サイヤ人と同様であった。

 

「今度こそ本当に叩き潰すのみ!!」

 

 

…今、幻想郷中の妖怪たちが打倒レイムのために立ちあがった。各地で怯えるのみだった者たちはシロナという名の、博麗の巫女という名の希望のもとへ集おうと向かってゆく。

そして、それを迎え撃とうとシロナへ向かって飛んでいくレイム…。曇天と炎に包まれた幻想郷の上で、運命を左右する決戦のゴングが鳴り響いた。

 

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