もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第307話 「イミテイション・ゴールド」

──冥界──、そう呼称されるその場所は、幻想郷にて昇天した善良な魂が、天国へ行くか転生するまでの時を過ごす場所。

そんな場所で、これからの戦いを大きく左右する事となる、大事な儀式が行われようとしていた。

 

「分かっておるな、妖夢」

 

魂魄妖夢にそう声をかけるのは、彼女の祖父にあたる人物の魂魄妖忌である。

 

「分かってます、お爺様。この冥界へあの世の魂たちを呼び、現世へ送り出すための『門』を開くんですよね」

 

と、妖夢が返す。

 

「その通りだ。この幻想郷には『冥界の門』と『地獄の門』が存在する。前者は幻想郷と愛する者の危機に駆け付けてくださる善良な魂をこの世へ送り出し、後者は悪しき魂を地獄へ吸い込んでしまう。しかし…死んだ者はあの世で幸せに暮らしておる。それを生者の都合で呼び戻すなど、不届千万。しかしそれでもなお、どのような苦痛を感じ傷付こうともこの世でやるべきことがある魂だけがここへ来る。彼らのため、そして幻想郷のために門を開くのが、我々魂魄一族の使命であるからな」

 

「ええ…母上も昔、同じことを教えてくれました。私はやります…」

 

妖夢はそう言うと、帯刀する白楼剣を抜き、構える。白楼剣は魂魄家に剣術と共に伝わる家宝で、冥界の門は特定の座標を白楼剣で斬ることによって開く。

 

「ふっ!」

 

妖夢が刀を振り下ろすと、何もないはずの空間に斬り込みが生まれ、その隙間から光が射す。この向こうは幻想郷の空へつながっているのだ。

その瞬間、どこからか無数の白い光の粒が冥界の門目がけて押し寄せてくる。

 

「妖夢、伏せろ!」

 

妖忌と妖夢は身をかがめ、門の下でしゃがみ込む。集まって来た魂たちは猛烈な勢いで門をくぐり、この先の幻想郷へと溢れていく。

 

 

 

「…そろそろ、レイムとシロナがぶつかる頃か」

 

一方その頃、大破した大型宇宙船の中でモニターを眺めるウィロー。脇腹をかすめた傷は応急処置によりひとまずは大丈夫そうだが、流した血の量と傷そのものの大きさからしてウィロー自身も、立っていることすら苦しいだろう。

 

「観客がいるうちにショーは終わらせた…ならば、舞台装置の片づけは役者が行うものだ」

 

モニターにはシロナの戦闘力反応と周りの妖怪たちの反応、そしてレイムの反応が表示されており、ふたつの勢力は接近し合い、もう少しでぶつかろうとしていた。

 

(レイムに隙が出来れば、妖怪の山の研究所に設置してある大型結界発生装置による長距離磁場結界でヤツの動きを封じられる。そうすれば…妖怪共が考えている「切り札」での拘束も容易くなるだろう)

 

 

 

 

「本当に、とんだ申し開きもできないわ…」

 

空を飛びながら、紫がシロナに深々と頭を上げる。

 

「私ともあろう者が敵の策略にまんまと踊らされ、思考を操られてしまうなんて。でもね、シロナ…皆、貴女の帰りを待っていましたのよ。ヴァンパイア王国で死んだと報告されたけど、誰も信じなかった。きっと、貴女は必ず帰ってきてくれると───」

 

「嬉しいなぁ」

 

だが、シロナは紫たちに対して笑顔でそう返すだけだった。

 

「私ね、今まで自分だけが戦わなきゃ…自分が守らなきゃって、ずっとそう想いながら戦ってきたんだ。でも、今は違うじゃん?みんながみんな、守りたいものの為にすごく強い敵と戦おうとしてる。レイムはとんでもなく強いよ、今の私でもひとりじゃ絶対勝てないくらい。でも、今はみんながいるよね…それだったら、どうなるかなんてわからない。相当強いわよ、私たち!」

 

(みな…強い…?我らがみな、もろともに…強い…)

 

妖怪たちはシロナの言葉をよくよく噛み締める。妖怪たちの怯えは拭い去られ、闇に棲む彼らが思いもしなかった事実に気付く。そう、自分たちは強い。だから、みんなで戦える!

 

「紫さん、もう大丈夫。きっと勝てるよ」

 

「シロナ…」

 

紫が知るシロナは、歴代の巫女と比べても心も力も劣るか弱い子供でしかなかった。しかし今ではどうだろう。その成長ぶりに思わず目頭が熱くなる。

 

「シロナ、先に言っておくぞ」

 

シュネックがシロナに話しかける。

 

「我々にはレイムを倒すための『切り札』がある。だがそれを発動するためには、いくつかの段階を経て準備をする必要がある」

 

「準備…?」

 

「うむ。まず一番最初に、お主にはどうにかしてレイムに強烈な一撃を与え、怯ませてほしい。そうしたら、我々賢者や妖怪たちがレイムを結界で拘束する。そうしたら、動けなくなったレイムをひたすらに”西”へ向けて吹っ飛ばす事だけを考えよ。とにかく、まずはヤツを多大なダメージと共に怯ませる事…そのためにはお主の戦闘力だけが頼りなのじゃ」

 

「わかった…やってみるよ。ところでその『切り札』っていうのは一体…」

 

が、シロナは急にだまり、目を細めた。

 

「…来る」

 

「また会ったなァ、シロナ!!」

 

雲を突き抜けるようにその場に出現したレイムは真っ先にシロナの目の前へ飛び出した。レイムも自身に組み込まれているカカロット…つまりサイヤ人の細胞の力で超サイヤ人への変身を可能としており、黄金のオーラに包まれ髪も金色に輝いている。しかしシロナがそれに驚く暇もなく、レイムはその口元に青紫色の炎を溜めこんでいく。この至近距離であれを放たれれば周りの妖怪はもちろんのこと、シロナもただでは済まないだろう。

 

「お前には何もさせないわ、何も!」

 

「くっ…!…あれは」

 

その時、シロナは気付いた。レイムの腰から伸びる9本の霊尾…そのうちの一本の先端に、髪の毛で吊るされる形で何者かの頭部が引っ掛けられていることに。

 

「スカー!?」

 

そう、よく見ればそれはレイムによって倒されたスカーの残骸の一部だった。

しかし、気付いたところで何もならない。レイムの口の中の火炎はみるみる大きくなり、今にも炸裂しそうなほど膨れ上がっている。さらに、霊尾から分離したサクヤやサナエといった傀儡たちは妖怪たちをまとめて薙ぎ払っている。

 

「くははははは!雑魚共が、何度私とやろうと同じ事だ!さぁ、消え失せろ!」

 

(スカー…私が宇宙に行ってる間に、ずっとひとりで戦ってたの…?それで負けちゃったの?スカー…!)

 

そして、いよいよレイムの火炎が放たれ───

 

ビュンッ ドカカカカカカカ…

 

るかと思いきや、どこからか飛んできた数え切れないほどの数の小さな光の玉が次々とレイムの体に命中していく。さながら流星群のような光の群体を喰らったレイムは的外れな方向へ火炎を放ってしまう。

 

「ぐえ…!な、何だァ~~…!!」

 

シロナには分かった。この光の群体はあの世から一時的に帰って来た魂たちだ。幻想郷で天寿を全うした人間や動物、妖怪たちの魂が生ける者を助けるためにレイムへ体当たりを仕掛けているのだ。

 

「魂共が、私の行動を阻むか…小癪な!」

 

反撃へ乗り出そうとするレイムであったが、その額に突然小さな何かが直撃し、レイムは後方へ仰け反ってしまう。額から煙が上がり、レイムの顔に痛みの色が見える。

その少し遠くでは、何者かが猟銃を構えて弾を装填していた。その姿は他の魂と同様に淡く輝いているが、シロナはその恰好に見覚えがあった。

 

「猟師のタカノブさん!?」

 

猟の最中に熊に襲われて亡くなってしまい、天へ昇るはずだった魂を「コンガビト」という妖怪に捕まえられて弄ばれていた。シロナがコンガビトを退治したことで解放され、最期にはシロナ達の幸せを願って成仏していった。

タカノブの魂はさらにもう一発、レイムの腹へ銃弾をお見舞いする。

 

「ありがとう…」

 

シロナが礼を呟くと、役目を終えた魂たちは消えてあの世へ戻っていく。が、その魂たちの活躍でダメージを受けたレイムはふらつき、明らかな隙が生まれていた。

 

「今じゃ、かかれ!!」

 

「ぐあああああ…!」

 

まだ切り札を発動できるほどの隙を作るには至っていない。

だが、シュネックの号令で、周りの妖怪たちが次々とレイムへ攻撃をぶつけていく。レイムは妖力の炸裂と炎と煙に包まれた。その際の衝撃で、レイムが霊尾の先端に引っ掛けていたスカーの頭部が外れて下へ落ちていく。

 

「スカー!」

 

シロナはすかさず落ちていくスカーの頭部を抱き止め、その顔を覗き込む。目を開けたまま、眼孔の中は暗い闇が詰まっており、苦痛に歪んだその表情は固く変わらない。

 

「スカー、大丈夫なの?何とか言ってよスカー!」

 

しかし、スカーは何も言わない。

 

「私が悪かった、いくらウィローに会うためとはいえあんなことを言って…アンタがスカールだって疑ってひどい事もいっぱい言っちゃった…。私ね、スカーが造られて…捨てられるところを見ちゃった…から…。きっと、あの後幻想郷に来て私たちと出会ったんだよね…?」

 

シロナはそう問いかけるが、やはりスカーは言葉を発さない。

しかし、焼き消された首の断面から、微かな電気が漏れ出していることに気付く。シロナはその電気に触れようとすると…その直後に感電し、大量の電気エネルギーがシロナの体へ流れ込んできた!

 

「こ…これは…!」

 

強烈な電気ショックがシロナを襲った。しかし、それはシロナを痛めつけるものではなく、まるで喝を入れられたかのように気合と勇気がみるみるうちに湧き上がって来たのだ!

それと同時に、シロナの頭の中には色々な人たちの顔が浮かんだ。主にスカーの創造に関わっていた者、そして幻想郷で親しかった者たちの顔だ。ウィロー、ゲロ、スカール、コーチン、そして…。

そこで電気は途切れ、シロナの体の周囲にはパリパリと残電が散っている。

 

「…わかったよ」

 

シロナはスカーの頭を抱えたまま地上へ降り立ち、霧の湖の真ん中で水面上へ突き出していた岩の上に、スカーを優しく置いてやる。

 

「スカーは私を殺したがってたよね、本当は殺されてやってもいいんだけど…今はこれで勘弁してちょうだい」

 

シロナはそう言うと、自身の腕を少し切り裂き、そこから滴る血をスカーの口の中へ流し込む。

そして空で行われている戦闘をじっと睨み、スカーに残されていた電気をその身に受けることで漲った気を全身に迸らせ、その場から飛び立つ。

 

「行くよ、レイム」

 

レイムはシロナの接近にいち早く気づき、周りの妖怪たちを尾で跳ね除けながら一目散にシロナへ向かっていく。

 

「シロナ、どうしても私とやりたいか!よろしい、今度こそ潰してやるわ!サクヤ、行け!」

 

レイムが使役するサクヤが霊尾から分離し、シロナへ襲い掛かる。しかし、サクヤはその瞬間にシロナの蹴りを顔面に受けた。シロナの足は”錐”に変化しており、顔のど真ん中にその先端が深く突き刺さっている。

サクヤはこの世の物とは思えない鋭い悲鳴を上げ、その身体が霧のように薄くなっていく。

 

「時間は常に流れるものよ。だから、もう眠りな」

 

サクヤの体は完全に消滅し、僅かな煙が天へ昇っていく。

 

「おのれ、ヨウム!!」

 

続いて、ヨウムの亡霊が刀を構えてシロナへ飛びかかった。しかし、シロナはジェットのようなオーラを噴射しながら高速でヨウムの横を通り過ぎると、ヨウムの刀は粉々に砕けていた。

 

「……!!」

 

それでもヨウムは無言でシロナに戦いを挑む。だがその時には既にヨウムはシロナの”カッター”によってぶつ切りにされており、サクヤと同様にわずかな煙となって天へ消えていった。

 

「ほう、少しはやるようになったようね。しかし、それくらいでこの私をどうにかできるとは思わない事だ!」

 

レイムは使役していた傀儡を倒された影響でボロボロになった2本を含めた9本の霊尾を展開し、シロナへ向かっていく。

 

(さっき、スカーの電気を受けた時、みんなが笑っていたような気がした。霖之助さんや里の人たち、それからコーチン、スカール、ゲロにウィロー)

 

シロナは自身の拳に硬質化の結晶を集中させ、それを大きく振りかぶった。

 

(それにね…気のせいじゃない。ウィローも…ほんの少しだけ、ちょっとだけ恥ずかしそうに、笑ってたんだ)

 

──冴ッッ──

 

振り下ろした拳が、レイムの脳天に直撃する。凄まじい轟音と衝撃が波紋のように幻想郷中に響き渡り、レイムの瞳孔が痛みによって縮み上がる。

 

「…きやあああああああアアアアアアアア!!!」

 

レイムは雄叫びを上げながら後方へ体を逸らす。ついに、ついにシロナの攻撃がレイムに対してまともにダメージを与えた瞬間であった。

 

「今だ!結界で捕縛せよ!!」

 

シュネックの号令を受け、紫を初めとした賢者たちが四角形のリング状の結界をいくつも放ち、それをレイムに巻きつける。他の妖怪たちはその結界に妖力を送り込み、結界を強化する。

 

「げ…が…!!」

 

突如として身動きを取れなくなったレイム。さらにその結界はレイムを西の方角へぐんぐんと引っ張ってゆく。

 

「シュネックさん…この先、西の方角にいったいなにが…!?」

 

シロナがシュネックに尋ねる。シュネックと紫は神妙な面持ちでシロナに目を向ける。そこには覚悟の光が宿っていた。

果たして、シュネックたちの言う『切り札』とは…?

 

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