もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第308話 「Na Na Na」

「お願いします!僕に武術を教えてください!聖白蓮様、あなたが武術の修行専門の弟子をとった事があると聞きました!どうか、僕に…!」

 

「摩多羅隠岐奈様、どうか僕に力を与えてください。どんなこともします、僕は強くなって…どうしても倒したいヤツがいるんです」

 

─────

 

「…始まったか」

 

幻想郷の地底世界、さらにその旧都の一角にて、黒い服を着た謎の男がそう呟いていた。男は建物の屋根の上に、霊力のこもった札をばら撒き、貼り付ける。すると、その札と札同士が互いに霊力で結ばれ合い、それに囲まれた内側が不思議な磁場に覆われた。

 

「さぁ、絶対に逃がしはしないぞ…ハーレクイン」

 

その男の背後には、背後霊のように佇む青い人影が揺らいでいた…。

 

 

 

 

 

シロナに強烈な一撃を喰らわせられたレイムは大きく怯み、その隙に全身に結界を撒きつけられ、身動きを封じられた。

 

「シュネックさん…この先、西の方角にいったいなにが…!?」

 

シロナがシュネックに尋ねる。シュネックと紫は神妙な面持ちでシロナに目を向ける。そこには覚悟の光が宿っていた。

レイムは紫を含めた妖怪たちが作った強力な結界に捕らわれ、身動きが取れないまま西の方角へ連れていかれようとしている。

そう、”西”へ…

 

「引きずられる…この私が…!お、おのれェェェ…!!このカス共がァァァ!」

 

レイムは怒りのオーラを纏い、顔に青筋を浮かべた怒りの形相で結界を千切ろうと身をよじる。

 

「なんて奴だ…」

 

と妖怪たちが口々に呟く。彼らはレイムを捕らえる結界にパワーを注ぐのに手いっぱいで、レイムの力をいち早く削ぐための攻撃を上手く仕掛けられないでいる。

結界はミチミチと張り詰め、今にも引きちぎられようとしている。しかしその時…

 

ドン ドォン!

 

「何だ…!?」

 

レイムへ向かって巨大な衝撃波や弾幕が次々とぶつけられる。

 

「私ら地底の荒くれモンも、お忘れでないよ!」

 

ここへやって来たのは、星熊勇儀と伊吹萃香が率いる地底世界に住まう妖怪たちだった。彼らは荒っぽい事なら任せろと言わんばかりに力いっぱいの攻撃を繰り出し、レイムへ微量ながらダメージを与えていく。

 

「勇儀!!」

 

それを見たシロナは喜んで勇儀の名前を呼ぶ。勇儀は一瞬だけシロナの顔を見て笑うと、自分も攻撃に参加する。

 

 

 

「今だ!大型結界発生装置『ナゴヤ』、発動!」

 

ウィローは宇宙船の内部から、妖怪の山内部に設置された研究所の中に格納していた大型結界発生装置…その名もナゴヤ。山の斜面に隠されるように並べられていた大きなアンテナのような装置から、ナゴヤが発する長距離磁場結界が発射された。

 

 

 

「む…!?」

 

それらの結界がレイムの動きを再び封じ、レイムはまたしても動けなくなってしまう。レイムがもがこうとしても、ナゴヤの結界は細かい上に数が多く、レイムの手足の動きを末端からガッチリと固めてしまっている。

 

「…!…!!」

 

自分だけの力ではこの状況を打開するのは難しいと考えたレイム。まず自分の僕であるマリサを呼び出し、結界を解除させようと思ったが、既にマリサはやられてしまった事を思い出す。誰かいないか、即座にこの場へやってきてくれる都合のよい者が…

 

(そうか、アイツがいたわ)

 

「ハーレクイン!!ハーレクインよ、来い!!来て、この場の邪魔者たちを殺すのよ!」

 

レイムは大声でそう叫んだ。

 

「ハーレクインだって?」

 

それを聞いたシロナは思わず周囲を見渡す。

 

「どうしたのだシロナ、ハーレクインとは一体?」

 

と、シュネックが聞いてくる。

 

「とても強い人造人間よ…今ここに来られたら、結界を張っている妖怪たちがみんな殺されちゃうわ!」

 

「何じゃと!?」

 

シロナはハーレクインの強さをよく知っている。さっきウィローの宇宙船の中で少し戦った際はすさまじい戦闘力を発揮していた。超サイヤ人となった今の自分なら正面からやり合えば勝てるかもしれないが、周りの妖怪たちを守りながらとなるとその可能性は低い。

 

「まずいわ、今来られたら…ハーレクインに今来られてしまったら…!!」

 

 

 

 

1時間ほど前、地底世界・旧都────

 

「あはははは!アンタ、よくもウチを見つけてここまで追ってきたもんっすねぇ!」

 

旧都の街中、その屋根の上を飛び回りながらハーレクインは自分を追っている者に対してそう言った。少し後ろで同様に屋根の上を渡りながらハーレクインに迫る者とは…

 

「ああ、それが僕の生きる意味だからな!」

 

キヨヒロだった。逞しい体へと成長したキヨヒロが、自身が操る強力な精神の化身であるケミカルロマンスを出すことなく、生身でハーレクインを追いつめている。

 

「そりゃそうっすねぇ、ウチがアンタの父親を殺したせいで…結果的にアンタは悲劇と不幸のどん底に叩きこまれたわけなんスからね!」

 

「そうだとも!そして僕は…この日の為に強さを求め続けた!僕の力になることは何でもしたさ」

 

キヨヒロは全身に紫色のオーラを纏う。髪がやや逆立ち、一瞬でハーレクインの目の前に回り込んで見せ、面食らっているハーレクインに向かって拳を振り下ろす。しかし、ハーレクインはそれを軽くかわし、逃走を続けようとする。

 

「逃がすか!」

 

キヨヒロは手の平に気を込め、それを弾丸に変えて投げ飛ばす。気弾はカーブするように高速で飛び、ハーレクインの足元にぶつかって爆発を起こす。その衝撃で舞い上がる瓦を全てかわしながら、ハーレクインは笑う。

キヨヒロが先ほど使用したのは、聖白蓮が編み出した奥義”滅越拳”である。一時的に身体能力を何倍にも増大させる技だ。キヨヒロは自分で言った通り、強くなるためには手段を択ばなかった。自分に強さを叩き込める者であれば誰だろうと訪ねていき、その力と技を授かった。聖白蓮に始め、豹牙流拳法の修行も受け、さらには摩多羅隠岐奈の潜在能力開放の儀も受けている。

 

「あははははは!面白いっすよアンタ!その調子でどんどん力を使えばいい!永久エネルギー炉を持つ私とどっちが先に疲れ果てるかやってみろよ!」

 

ハーレクインは空へジャンプし、手の平を合わせてその間に緑色のエネルギーを充てんする。そしてそこから稲妻の如き光線を発射し、それをキヨヒロに命中させた。

 

「ぐ…!」

 

キヨヒロの意識が遠のき、火花の散る視界には遠くへ離れていくハーレクインの姿が見える。

 

「ウチはこの地底からは逃げねぇ!せいぜい探し回ってみろよ、もっと遊んでやるっすよ」

 

 

 

──────

 

「…はっ!?」

 

キヨヒロは目を覚ました。ガバッと起き上がり、辺りを見渡す。窓の外の景色から見てここは旧都のどこかにある建物の中…そして自分には布団がかけられ、怪我をした箇所には手当てが施されている。

 

「ここは…」

 

「あっ…め、目が覚めた…?」

 

「君は確か…」

 

部屋にやって来たのは、鬼の靄子であった。

昔、地底へ現れて封印された”黒星の者”という古代の邪悪な魔物が復活した際、その敵を倒すのに貢献を果たした鬼の少女である。しかし、豪快な性格で知られる鬼という種族にしては、引っ込み思案な暗い性格であったが、キヨヒロとの出会いを通じて少しは自分の意志を示せるようになった。

 

「よかった…無事だったんですね!」

 

靄子はキヨヒロの手を握る。

 

「靄子…か」

 

キヨヒロは自分の身に何があったかを思い出し、確認する。

…人里で石病の感染が流行り出した時、僕はケミカルロマンスの力でそれを察知した。近々、家族の…そして僕の仇であるハーレクインが再び現れるという事も分かった。僕は宇宙ポッドから降りてきたハーレクインを襲撃し、何とかこの閉鎖された地底世界へ追い込むことに成功した。ハーレクインは必ず、まだこの旧都のどこかにいるはずだ。

 

(となれば…ここに長居するわけにはいかないな)

 

「悪いが、もう行くよ。ありがとう」

 

「あ…」

 

キヨヒロは立ち上がり、横にたたまれていた黒い上着を手に取る。

 

「あの…怪我は…」

 

靄子は、キヨヒロの背中や腕…上半身全体にわたって残っている傷跡を心配している。古傷もあれば、今回の戦いで先ほど受けた傷もある。

 

「何が…あったんですか」

 

立ち上がったキヨヒロを見上げる靄子は、その風貌と体格に圧倒されている。前に旧都でキヨヒロと出会った時と比べれば、あの時はただの少年であったキヨヒロは今や大人となって背も伸び、まるで鬼か何かと見紛うほどに体は無駄なく強靭に鍛え上げられていた。

 

「まあ、色々な…心配することはない。君こそ、ここにいて大丈夫なのか?旧都の連中もどこかへ逃げたんだろう…上で暴れてるバケモノも、いずれはここへ来るぞ」

 

「わ、私はあなたの事の方が心配だったから…その…」

 

キヨヒロは背を向けたまま、襖を開けて建物の外へ出る。靄子は不思議に思い、キヨヒロを追いかけて外に出る。

 

「君も今すぐにここから逃げろ。大事な客の…相手をしなくちゃならないからな」

 

「え?」

 

「もう遅いっスよ」

 

その時、どこからか声が聞こえた。キヨヒロがその方を見ると、目の前の建物の屋根の上で片膝を立て、先端に口がついている不気味な舌を出しながら、ハーレクインがこちらを見下ろしていた。

ハーレクインはそこから飛び降り、キヨヒロの目の前に着地する。

 

「もっと遊んでたいっすけど、レイム様がウチを呼んでるんでねぇ。これ以上うろちょろ追い回されても困るし、ここでウチが殺してやるよ人間!!」

 

「きゃああああ!」

 

釘のような歯をむき出した悪魔のような形相のハーレクインを見た靄子が、思わず悲鳴を上げる。

 

「ほほーう、なんかよくわからないのがいるじゃねぇっすか。ここにはもう何も目ぼしい生き物はいないと思ってたが…妖怪、とか言ったっけ?その血を飲んでみるのも悪くはないっすかねぇ…」

 

ハーレクインはそう言いながら靄子ににじり寄る。ハーレクインは、生物…主に人間の血を好んで体内に取り込み、潤滑剤代わりとして味わう異常な人造人間。その狙いを靄子へ定めたのだ。

 

ザ…

 

しかし、そんなふたりの間にキヨヒロが割り込んだ。

 

「貴様…こいつを殺すのか。やってみろよ…僕の目の前でもう一度…殺してみろよォ!」

 

「やってやらァ!!」

 

挑発するキヨヒロへ向けて、口から緑色のエネルギー波を撃ち出すハーレクイン。しかし、キヨヒロはそれに向かって両手を掲げ、防御壁のようなものを展開して防ぐ。

が、ハーレクインは腕を振るってキヨヒロを殴りつける。吹っ飛ぶキヨヒロへ向けて、さらに拳を振り下ろす。

 

「オラァ!」

 

キヨヒロもギリギリでそれを避け、背後に回り込んで片手から気の衝撃波を放つ。

 

「惑わされないっすよ、ドアホ!」

 

しかし、それが視線誘導に過ぎないと気付いていたハーレクインはそれを喰らいつつ、懐から迫って蹴りを放とうとしていたキヨヒロの顔面を殴ってぶっ飛ばす。

 

「アホは貴様だ」

 

「なに!?」

 

しかし、ぶっ飛んだキヨヒロの姿は途中で薄らいで消え、それが分身だったと気付いた時には、キヨヒロの気弾の炸裂を真正面から受けていた。と思いきや、それでもその一撃はハーレクインにとってはほとんど効いておらず、余裕の表情でキヨヒロを蹴り返した。キヨヒロは吹っ飛び、塀にぶつかってその瓦礫の中に埋もれてしまった。

 

「ああ~気分いいっすよォ!まったくいい気持ちだ!テメェの無念さがウチを気持ちよくさせるのよ。ウチに殺された父親、その所為でくたばった母親の仇も討てず…おめおめ死んでいくテメェの姿を見るのがたまらねぇんだよ!!けーっけっけっけっけ!」

 

ハーレクインは心底愉快そうに笑いたてる。

だが、キヨヒロも口から血を流しながらもむくりと起き上がる。その背後で青いオーラが揺らめいて形を取り、精神が具現化した化身であるケミカルロマンスが現れる。

 

「奇遇だな、ハーレクイン…僕も気分がいい。なにせ、僕のケミカルロマンスの結晶は…既に地獄に落ちた貴様の姿を映しているんだからな!」

 

 

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