もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第310話 「あなたを・もっと・知りたくて」

──見えるな、紫よ。

 

──ええ、見えますわシュネック。

 

互いにテレパシーで会話する紫とシュネック。ふたりは、結界に縛られ西へ引っ張り込まれるレイムの姿を見る。レイムは尾を振るったり口から火炎を吐いたりして抵抗するが、それをシロナが上手く逸らしたりして被害を押さえている。

 

──偶然か必然か、皆がそれぞれの方法でレイムを捕らえている。さすればあのままレイムを「無縁塚」まで連れてゆくのだ。

 

彼らがレイムを連れて行こうとしている西の方角の先には、無縁塚という土地がある。そこは縁者のいない者の墓地として知られており、幻想郷の中でも最も危険な場所のひとつとされている。

 

──無縁塚は幻想郷を構成する「夢と現の境界」と「博麗大結界」の力が最も強く作用している地点であり、それゆえに綻びが生じている霊域。

 

──その通りじゃ。そしてレイムがそこまで連れて来られた瞬間…

 

──私たちは幻想郷の二重の結界を…その無縁塚の上に圧縮して展開する!そうすれば私たちはレイムをそこから逃すことなく戦える!

 

賢者たちの考えていた「切り札」とは、幻想郷を構成するふたつの結界を、無縁塚に圧縮して展開する超強力な結界の事だった。その結界の中に閉じ込められれば、たとえレイムと言えど逃げることはできず、こちらは安全域から攻撃を仕掛け続けることができる。

しかし、それでレイムをひとつ処に閉じ込める事に成功しても、それでは結界という名の骨組みを失った幻想郷はしばらく後には崩壊してしまう。もちろん紫とシュネックがそこまで考えていないわけではない。それを承知のうえで、この作戦を実行しようとしているのだ。これこそが、彼らが固めた”覚悟”であり、今まで保守的な考えで存続してきた幻想郷との、そして霊夢(レイム)との決別を意味しているのである!

 

「まさか…嘘でしょ…」

 

そのテレパシーの会話を、不思議な力で聞いてしまったシロナは、シュネック達の言っていた「切り札」の正体を知ってしまう。

 

「暗愚どもが…このレイムが、お前たちの思うがままに、なると思ったかァ!」

 

が、レイムは全身に黄金の激しいオーラを纏って力を籠める。すると全身に纏わりつく結界がブチブチと音を立てて千切られていく。

 

「ダメだ、レイムは強いぞ!他の結界もどこかから来ているようだが、それでも抑えられん!」

 

と、隠岐奈が紫に向かってそう言った。紫は苦々しい顔でさらに結界にパワーを込める。

レイムは結界を破壊したことで解放された霊尾を振るい、妖怪たちを薙ぎ払おうとする。すかさずにシロナがそれを受け止めて押さえるも、予想よりも大きな力に負けて吹き飛ばされてしまう。

 

「まだまだァ!」

 

 

 

──霧の湖

 

曇天が消え去った空から射す陽光がキラキラと反射する水面。そこから突き出した岩に、スカーの頭部が安置されていた。風に吹かれて髪が揺れ、苦悶の表情を浮かべたままの顔は変わらない。

 

(チクショオ…)

 

しかし、スカーはまだ辛うじて意識が残されていた。だが既に体はピクリとも動かせず、微かに思考を巡らせることができる程度である。

 

(なんで…ワタシはこんな目にあってんダ…?…そうか、レイムと戦って…カンペキに負けちまっタのか…)

 

スカーの意識は動かない体を離れ、湖の底深くへと沈んでいく。そこには鉄の格子に囲まれた部屋があり、スカーはそこへ降り立つ。そして壁の隅に背中をもたれさせ、静かに座り込んだ。

 

(もう疲れた。ヤツに負けたのがいい潮時かもナ…ワタシもそろそろ消えるとするか)

 

そしてゆっくりと目を閉じる。もう二度とは開かないつもりで…

 

ガチャ…

 

その時、どこかで音がした。スカーは驚いてその方を見ると、人影が格子の扉の錠を解き、ゆっくりと扉を開けている。

 

「誰だヨ!?」

 

人影はこちらに歩いて近寄り、その姿が明らかになる。それは綺麗な銀色の髪の毛をした美しい女性のようだった。だがその()()は根元から消失しており、心なしか顔つきが自分に似ているような気がするが…

 

「スカー、久しぶりです」

 

「オマエ…誰だ?」

 

「私の名前はスカールです。もしや、私の事は覚えていらっしゃらないのでしょうか」

 

「知らねぇナ、オマエの事なんテ」

 

スカールと名乗った女性はスカーの隣に座った。

 

「そうですか、残念です。では、もう一度私の事を知っていただくために、私の話をしましょうか」

 

「アア!?そんなこと聞いてねぇっテ…」

 

しかし、そんなスカーを無視してスカールは口を開き、ある物語を紡ぎ始める。そう、これはスカールの体験した、過去の記憶である…。

 

 

 

───レッドリボン軍研究ラボ

 

「ついに完成した…名付けて、『人造人間1号』だ」

 

科学者であり、世界最悪の軍隊とも称されるレッドリボン軍の創設メンバーでもあるドクター・ゲロは軍の工房にて一体の人造人間を完成させた。その人造人間は自分で考え、自分で動くことができる、人に造られた機械人間だ。

 

「コイツは全ての人造人間の原型となるプロトタイプだ。これ以降に私が作り出す全ての人造人間はコイツの設計や構造を基として生まれるのだ」

 

と言いつつも、この人造人間1号を造るにあたって、ゲロは昔の記憶を思い出していた。それは、かつての親友であったウィローと共に制作に励んでいた一体のからくり人形であり、その時のものを現在の技術力で完成させたものだからだ。

 

「…お前のモデルはスカールという人間だ。お前は戦場には行かなくていい…このレッドリボン軍総本部にて働いてもらう」

 

 

私の名前はスカールという。どうやら、造物主であるドクター・ゲロ様がそう言っていたらしい。私はスカールという実在した人間をモデルとして造られた。

私は科学者たちの兵器開発の助手を務めたり、または備わったパワーを活かして人間がこなせない仕事を行ったりしている。そして、私に使われた技術や構造を応用した新しい人造人間たちが次々と生まれている。そんな今の生活に何の不満もない。ただ強いて言えば…一度でいいから、スカールという人間に会ってみたいと考えていた。

 

「あら、猫だわ」

 

ある時、私は研究所の廊下で猫を発見した。首輪をつけていないので、恐らく野良猫が迷い込んだのだろうと思った。猫がおかしな場所へ迷い込んで、大切な研究成果を壊しでもしたらいけないと思い、私は猫を追いかけた。

 

「ニャー」

 

「こら、待ちなさい」

 

しかし、猫は巧みに私の腕を避け、どんどん研究所の奥へと逃げて行ってしまう。

 

「待って!」

 

猫はこの先の廊下を曲がっていったので、私はそれを追いかけた。廊下の先は暗闇に包まれていて、暗視スコープの視界に切り替えると、猫はその先でこちらを見て、さらに奥へ行ってしまった。

そこで私は気が付いた。ここは、ゲロ様や他の科学者たちに「絶対に立ち入ってはならない」と言われていた区画だった。だが、そんな場所へ猫を入れるわけにはいかない。私は心の中で謝りながらその先へ進んでいった。

 

「おーい、どこですかー?」

 

小声でそう呼びかけながら奥へ進む。

 

「わっ」

 

そこでしばらくして、私はギョッとした。通路の端には、恐らく製造途中で何らかのミスが発覚し処分された人造人間やロボットがそのままの状態で放られていたからだ。

 

「これは一体…」

 

出来損ないのロボットたちの間を潜り抜けていくと、目の前に大きな南京錠で鍵をかけられた扉があった。恐る恐る近づくと、格子の向こう側で何かが明るく光った。

 

バチッ

 

「今のは電気?」

 

格子の奥の闇に目を凝らしていると、何かが目の前に迫ってきて格子にぶつかり、大きな音を立てて隙間から出てきた。

 

「きゃッ!?」

 

さっきまで追いかけた猫が尻から煙を出して慌てながら私の足の間を通り抜けていった。私は恐る恐る鉄格子の向こう側に目を向け、その奥に佇んでいる人影に声をかける。

 

「誰かいるんですか?」

 

「人間カ…?」

 

私が格子の奥に呼びかけると、声が聞こえた。掠れたような、ノイズの混じったラジオのような声だった。暗視スコープの視界でも詳細が掴めず、私は腰から下げていた小型の懐中電灯で中を照らすと、そこには暗闇の中で壁に寄りかかるようにして座り込む何者かの姿があった。

 

「うわあああっ、何ですかアナタは!?」

 

「オマエはずいぶんとやかましイ人間だナ…まあいい。私をここから出せヨ」

 

人影は人間の女性のような姿をしているが、通常は眼球が備わっている場所には何もはまっておらず、ぽっかりと空いていて、代わりに眼孔の中に赤い光が宿っている。私は一目で分かった…これは何らかの不具合が見られ、ここに放置された人造人間であると分かる。

 

(でも、この人造人間…どこか私に似ているような…?)

 

「どうしタ?戦争でワタシの力が必要になったんじゃないのカ?はやくワタシのカミナリで敵どもをぶっ壊してぶっ殺させろヨ。ネズミや猫を脅かして暇をつぶすのは飽きたんだヨ」

 

「…人造人間なら、檻くらい壊して出られるでしょ?」

 

「そうはいかないんだヨ。ここにいる間は駆動スイッチが切られているからナ…自分じゃ動けないんダ。ちょっとの電気を出したり口を動かすことはできるがヨ。さあ、はやくワタシを自由にしナ」

 

「もしも私があなたをここから出したら、あなたはどうするの?」

 

「知れたことヨ。まず私をこき使ってきた人間どもをまとめて焼き殺して地獄へ叩き落としてやるヨ!」

 

「残念ですが他を当たってください」

 

私はそう言いながらその場を後にしようとする。すると、その人造人間は慌てて私を呼び止める。

 

「あー待て待テ!なんだ、ワタシも少し言い過ぎたヨ。じゃあこうしよう、ワタシを解放してくれればオマエの望みを何でも叶えてやル。嫌いな奴でも何でモ殺してやるゾ!」

 

「私はレッドリボン軍を助けるために存在する人造人間です!そんな、人の命を何とも思えないような者に貸す耳はありませんので」

 

「おい!イノチってなんだ、動けるってことカ!?じゃあオマエは動けるようにしといてやるかラ!それに他ノ人間はオマエにカンケイないだロ!」

 

その時だった。私は通路の向こう側から誰かの足音が聞こえてくるのに気付いた。同時に通路の電灯が点り、明るくなる。私は慌てて道を引き返し、格子の近くに捨てられているロボットの影に入り込む。

 

「どうしタ?」

 

「誰か来るのよ」

 

「今何か喋っていたか?ずいぶんと騒がしかったが」

 

と、数人の軍人と共に歩いてやってきた男が中の人造人間に話しかけた。男は格子のカギを外し、檻の中に入ってゆく。

 

(ドクター・ゲロ様…?)

 

私はその男がゲロ様であると気付いた。ゲロ様はホイポイカプセルを放り投げて中からストレッチャーを出し、それの上に人造人間を乗せる。

 

「ふん、猫を焼くのも飽きたからナ…ひとりで喋ってたのヨ」

 

「そうか…お前は明日からエルトラ要塞の攻略戦に参加だ。2号と3号も同時にな」

 

「へいへい」

 

ゲロ様と人造人間はそう話すと、私に気付くことなくどこかへと行ってしまった。

エルトラ要塞と言えば、どこかの国同士が奪い合っている場所だ。そこを我が軍が横取りして占拠し、双方のどちらかに高額で譲渡してしまうという作戦をこの間耳に挟んだことがある。

 

…数日後。作戦を終えた兵士たちや人造人間が帰還してくる。

 

「おかえりなさい、2号に3号。ふたりともすぐに工房へ向かいメンテナンスを受けてください」

 

「ええ、もちろんっスよ。もうグリスが切れそうでしてねぇ、戦場でぶっ殺した人間の血じゃあ長く持ちませんで。はやく入れなおしてもらいたいもんスよ」

 

「了解した」

 

私はこの間の人造人間を探して、凱旋してきた兵士たちを見渡すが、それらしい者はいない。

 

「あの、3号。ちょっと私に似ていて、電気を出す人造人間を知りませんか?」

 

「む、もしや、”イカヅチ”のことか?ヤツはすぐに科学者たちが運んでいったぞ、恐らくは機密倉庫へだと思うが」

 

「そう、どうもありがとう」

 

機密倉庫…きっとこの間の立ち入り禁止だった場所だ。私は急いでその場所へ向かった。

誰にも見つからないようにこっそりと例の場所へ行くと、既にあの人造人間は格子の向こうに戻されていた。この間と同じ姿勢で、うなだれるようにしてこちらを見ている。

 

「また来たのかヨ」

 

「ええ。あなたのことが気になって。あなたって人造人間何号なのかしら、他の者からは”イカヅチ”って呼ばれてたようだけど」

 

「ああ…連中はそう呼ぶナ」

 

「連中は、ってことは他にも呼び名があるんですか?」

 

「…ワタシはオマエのようにここで造られた人造人間じゃなイ。どうやら壊れかけで捨てられてタのを拾ってきて改造し、ここの兵器に加えたらしイ」

 

「らしい…?」

 

「ワタシにはここに来るより前の記憶が無いんダ。だが…ひとつだケ、頭の中で繰り返される光景がある」

 

──さようなら、スカールとは違うガラクタよ…いいや、スカー…

 

「謎の男が、ワタシの首を絞めていル…そしてその男によれば、ワタシの名前は”スカー”っていうらしイ」

 

「スカー…いい名前ですね」

 

「そうなのカ?」

 

「私も人造人間1号という呼び名がありますが、モデルになった人間がスカールという名前だったらしいので、私はスカールというんですよ」

 

そうして、私は記憶のない謎の人造人間スカーと知り合った。それから、私は暇な時間が出来ればスカーの元へ通うようになった。彼女と他愛のない話をしたり、本を持って行って一緒に読んだりした。

スカーは電撃を扱う攻撃をできるように兵器として改造されており、戦場では無双の活躍を見せるそうだ。それも、普段こうして動けないまま無為な時間を過ごすストレスを発散するために、暴れられるときに無茶苦茶暴れておくからだそうだ。

 

「1号、最近何か嬉しい事でもあったか」

 

だがある時、ゲロ様が私にそう言った。

 

「え?私、嬉しそうに見えますか?」

 

「ああ…まあ、何があったかは聞かないでおこう」

 

「うふふ…」

 

今思えば、ゲロ様はこの時には私がスカーと会っていることに気が付いていたのかもしれない。だけど、これ以上は詮索される事は無かった。

 

「スカーは、いつかやりたいことってあるの?」

 

「そんなことをワタシに聞いてどーするんだヨ」

 

「気になるからよ。私はありますよ、世界中を旅することです」

 

「へー、そうか。じゃあ今日はもう帰レ」

 

「そんなこと言わずに、いいから教えてよ」

 

「そうだナ…誰も知らない場所へ行ってみたいナ。コンクリートの壁なんて無くて、足音揃えて歩く人間がいなイ、木々の生い茂る未開の地ダ」

 

「そこに行ってどうするの?」

 

「何でもいい…そう言う場所へ行ったラ、もしかしたら分かるかもしれないと思っててヨ。ずっと前から感じるんだ…ワタシのこの体には、何か大事な部品が一個だけ足りないような気がするんダ。それが何なのか、考えても考えても分からなイが…それが分かった時、ワタシは何かに成れるような気がしてヨ…」

 

天井を目で見上げながらそう言ったスカーの姿を見た私は、何故だか分からないが胸の歯車が軋むような感覚を覚えた。

私は資料室に入り、そこで本を読み漁った。スカーに足りないという歯車の正体が何なのか見つけたい。それが、きっと人の言うところの”心”に近いパーツであることは、スカーの様子から察して理解できた。ではどうすれば、彼女に心を与えることができるのか。

 

それから、少し経ったある日の事。

 

「ドラゴン…ボール…?」

 

古い文献を読んだ時だった。世界中に散らばっており、7つ集めるとどんな願いでもひとつだけ叶えることができるというドラゴンボールの存在を知った。そうなればいてもたってもいられなくなった。

 

「私は、ドラゴンボールを探す旅に出ようと思います」

 

「あ…?何言ってんだ、オマエ」

 

「集めれば何でも願いをかなえてくれる不思議な球らしいです。私はそれを集めて、あなたに足りないハグルマを手に入れて見せます」

 

「ワタシの…為にカ…?」

 

「そうです。何年かかるか分かりません、もしかすれば、私は帰ってくる前に消えてしまうかもしれません。ですが、何度消えても…必ずあなたに会いに来ます」

 

「…腕は、ないと不便だよナ…」

 

私の話を聞いたスカーはそう呟くと、おもむろに右腕を上げ、なんと自らで切断してしまった。その右腕を私に差し出し、私は思わずそれを受け取ってしまう。

 

「スカー、何を…!」

 

「ワタシの右腕を貸してやるかラ、オマエの左腕をワタシに寄越セ。腕が無いと不便だろウ、旅に出たオマエはいつか腕を返してもらうためにここへ戻ってこなくちゃならなイ。それはワタシも同じダ、いつかはオマエに腕を返してもらウ」

 

「なるほど…そういうことなら…」

 

私はスカーに左腕を差し出すと、スカーはそれを斬り落とす。こうして、私は左腕を失う代わりにスカーの右腕を、スカーは右腕を失う代わりに私の左腕を手に取った。

 

「ちょっと待てヨ」

 

スカーは私に渡した右腕に、爪で文字を掘る。『アナタの幸せを願って スカー』、と。

 

「ワタシたちは…いつでも一緒ダ」

 

「ええ、私の大切な友達ですもの」

 

その日の夜、私はレッドリボン軍を去りました。もちろん、私を造っていただいた恩を忘れたわけではない。いずれはここに戻ってくる…それまでお暇を頂いたまでのこと。

 

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