もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第312話 「暁の鎮魂歌」

レイムと無縁塚との距離は、あと900メートル。あと400メートル、レイムを後退させ無縁塚に根付く霊域に入れてしまえば、幻想郷を構成する二重の結界、「博麗大結界」と「夢と現の境界」を1キロメートル四方にまで圧縮し、その結界に閉じ込めることができる。そうすれば、外側から安全に攻撃を加え、レイムを逃がすことなく封殺できる。

 

(あと400メートル…レイムを下がらせれば、勝機がくる!)

 

それはこの場で戦っている者全員がなんとなく理解していた。

しかし…

 

「残念だったなァ、私を引きずっていた結界は、たった今全て壊したぞ!!」

 

使役する無数のハクレイという妖獣を放ち、結界に力を送る役目の妖怪たちを攻撃することで自分を拘束する結界を全て破壊したレイム。体に纏わりついていた結界が糸屑のようになって消えていく。

今までレイムを縛り、引きずって霊域まで誘導していた結界が破壊されたという事は、レイムをあと400メートル下がらせることは物理的な衝撃を与えてぶっ飛ばすやり方しかなくなり、途端に難しくなったということ。

 

「覚悟はいいか、塵共…!これから──なに?」

 

そう言いながら、目の前に群がる妖怪共に向かって火炎を喰らわせようとするレイムだったが、遠くからふたつの影がすさまじい勢いでこちらに向かってきているのを確認する。

 

「ドジすんじゃないよ、シロナ!」

 

「こっちのセリフよ、スカー!」

 

シロナが、復活を遂げたスカーと共に自分の元へ猛スピードで突撃してくる。

 

「たわけが、一匹一匹が二体になったからといって何ができる!?行け、『ウドンゲ』、『サナエ』!!」

 

レイムは特に驚く様子もなく、霊尾からウドンゲとサナエを分離させ、シロナとスカーに向かわせる。

サナエは緑色の気功波を放ち、スカーを消し去ろうと狙ってくる。だがシロナが拳の一振りでそれを弾いて防ぎ、その隙にスカーは素早く上へ飛んでサナエの真上に移動する。

が、サナエも目ざとくそれに気付くと手に持っていた大幣を巨大化させ、それを柱状に伸ばして下方からスカーを攻撃する。スカーは護衛軍の力の宿る右腕を掲げ、それをいとも簡単に受け止める。さらに腕についている3つの護衛軍の口が大幣を噛み砕いてしまう。

 

「一度死んだ人間の魂を支配して操ってやがんのか。知ってるかよ、魂や霊ってのは一種の電気に近いんだってよ。だったら、もっと強いカミナリで押しつぶしてやりゃあどうなるかな!?」

 

スカーは腕を空に向かって掲げ、特大の落雷を発生させる。それの直撃を受けたサナエは黒焦げになってその身体を散らし、空へ昇って消えていく。

 

「やったねスカー!」

 

そう喜ぶシロナだが、その後ろからはウドンゲが迫る。シロナはそれに気付くも、何故か笑みを浮かべたまま動こうとしない。

 

「前っからトロいよなぁ、オマエは!」

 

それはスカーがやってきてウドンゲを止めてくれると信じていたからだ。スカーはウドンゲを殴り、そのまま足を掴んで振り回し、遠くへブン投げる。

 

「悪かったわね!」

 

シロナはそれをエネルギー弾で狙い撃つ。その炸裂を受けたウドンゲは一瞬で跡形もなく消滅し、残された微かな煙も空へ昇り消えてしまう。

 

「お前たち、前と違うわね!?」

 

レイムが怒りながら叫ぶ。

 

「当り前よ。あのふたりが揃えば、幻想郷では無敵!地球上では最強!」

 

紫がレイムに向かって言い返す。レイムは気に入ら無さそうな顔をするも、従えている無数のハクレイたちと共に口元に炎を滾らせながらシロナ達へ突撃する。

 

「傀儡どもを倒したからといってつけあがるなァ!!」

 

恐ろしい怒号を轟かせるレイムの全身の筋肉が盛り上がり、その金髪はさらに鋭く逆立ち、黄金のオーラはバーナーのように大きく燃え盛っている。明らかにレイムは更なるパワーアップを一瞬で終えたようで、その気も急激に増えていた。

 

「スカー、もっとあっちの方までレイムを下がらせるんだ!」

 

「何だかわからんけど、わかったよ!」

 

シロナとスカーが加わった妖怪連合は活力を取り戻し、一斉にレイムを迎え撃つ。両陣営は激突し合い、熾烈な攻防戦が繰り広げられる。

しかし、その中にこの場に人間でも妖怪でもない、そぐわない者たちがいた。その者らはレイムに接近しその全身へ強力なエネルギー弾を連続して浴びせる。妖怪たちとは比べ物にならない程の威力の攻撃を受けたレイムは驚き、徐々に後退する。

 

「く…何者だ…!!」

 

それはかつてシロナの父であるカカロットと共に戦ったサイヤ人の戦士たちだった。結果的にフリーザを倒すことに成功した栄誉あるサイヤ人であったカカロットの子供を助けるため、強引に地獄から冥界の門を通ってこの場へやって来たのだ。

 

「タ、ターレス…さん…」

 

シロナは微かにターレスの事を覚えていた。かなり幼い時の事だったが、ターレスの顔は父親そっくりであったし、正直苦々しい思い出でもある。

サイヤ人達は各々でレイムへ攻撃を加え終えると、その後は無数の光の粒となって一斉にレイムへ体当たりを仕掛けた。消える時にも敵にひと泡吹かせてやろうという戦闘民族の気概に圧倒されたレイムは、その身体を大きく後ろへ吹っ飛ばされた。

 

「しかし…所詮は死人の足掻き!私を思うままにしようなど片腹痛いわ!」

 

レイムは体勢を立て直し、前へ飛ぼうと全身に黄金のオーラを籠める。しかし、その瞬間に同じく黄金のオーラを激しく噴き出させたシロナが前に飛び出し、レイムの腕を掴んでそれ以上前に行かないように押さえ込む。

 

「どけェェェェェ!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

霊域へ押し込もうとするシロナと、それから脱しようとするレイム両者の鍔迫り合いが繰り広げられた。だが、超サイヤ人を上回る超サイヤ人へ進化したレイムのパワーはシロナひとりでは抑えきれず、徐々に押し返されている。

 

「この私を忘れんじゃねぇよ!」

 

しかし、そこへスカーが加わることによってレイムとのパワーはほとんど互角となり、あと一歩、あと少しだけ、何かのきっかけがあればシロナとスカーは一気にレイムを弾き飛ばす事が出来るだろう。

 

 

 

 

「レイムが霊域に入るまで、のこり200メートルか。大型結界発生装置『ナゴヤ』は既にハクレイ共に破壊された…あとは、アイツらの奮闘次第か」

 

崩壊が止まらず、そのままどんどん地球の重力に引っ張られていく宇宙船の中で、ウィローはモニターを横目で見ながらそう呟いた。モニターには、妖怪の山に設置された「ナゴヤ」がハクレイたちの攻撃によって破壊される様子が映っており、もう結界を発射することはできない。

ウィロー自身も、手で押さえている脇腹の傷からは絶えず血が流れ続けており、もう立っている力も残されていないのか壁に寄りかかるようにして座り込んでいる。

 

「そうですなウィロー…あとは生きている者たちに任せてみようではないですか」

 

その時、どこからか声が聞こえた。

 

「まさか…コーチンか?」

 

「私はこの宇宙船のメインコンピュータに保存されていたコーチンの人格ですじゃ。今となっては…この宇宙船と共に滅ぶしか道はないですがな」

 

宇宙船は激しく揺れ、内部もかなり高温に満たされてきた。

 

「大気圏に入ったか」

 

「そのようですな」

 

崩壊した宇宙船は、大気圏の熱と地球の地表に墜落した際の衝撃に耐えられるほどの機能を失ってしまっていた。

ウィローは汗をぐっしょりとかきながら、床を見つめる。

 

「ひとりぼっちは…寂しいな。俺は…誰も観客のいないステージの上で、今まで何をやって来たのだろう。皆が呆れて舞台を畳もうとするのを何度も何度も引き留めて…誰も見ていない劇を続けてきた。もともと、俺の居場所など…この地球にはなかったのかもな」

 

自虐気味に呟く。

 

「それは違うぞウィロー」

 

しかし、コーチンの声がぴしゃりとウィローを叱咤する。遠い昔に聞き覚えのある大声と、もう自分に逆らえないようにしていたはずのコーチンがそれを発したことに驚いて上を見上げる。

 

「お前には、いつも父さん()がついていただろう」

 

「…ああ、そうだったなぁ、父さん」

 

「スカールが天国で待ってる。一緒に行くぞ」

 

「天国だって…?父さんはともかく、俺はそっちには行けそうもない。今さら…アイツに合わせる顔もないしな…」

 

しかし、ウィローがそう言ったところで、誰かがウィローの手を引っ張った。その相手はくるりと自分に振り返り、屈託のない笑顔を浮かべて言った。

 

「そんなことないよ。私もお父さんも、ウィローと一緒にどこへでも行くのよ」

 

それは、幻想郷に引かれている冥界の門が引き起こした奇跡であったことを、ウィローは知らなかった。ウィローは最愛の双子の妹と、そして父親と一緒に手をつなぎながら遠くへと旅立っていくのだった。

 

──超小型結界発生装置『ダブリュー』、起動

 

宇宙船は、最期にモニターにそう表示したのを最後に、大気圏突入の熱に焼かれながら地表へと墜落していくのだった…。

 

 

 

 

 

キィィィィィン…

 

レイムと激しい押し合いを展開するシロナとスカー。だがそんな刹那、シロナのポケットの中の何かが震えた。次の瞬間、シロナを中心として球状の結界壁が展開され、それはレイムを押しやるように遠ざけていく。

 

「な…何だこれは…誰の結界だ…!」

 

(これは…!)

 

シロナは、突然発生したこの結界がウィローが持たせてくれた結界発生装置によるものだと気付く。シロナは結界を発生させたままレイムへ体当たりし、その勢いでどんどんレイムを後退させていく。

 

「お お お …!!」

 

もはやどうすることできないレイム。紫とシュネックは固唾をのんで見守りながら圧縮結界を張る準備を始める。

霊域まで残り100メートル、50メートル、10メートル…そして

 

 

──檻ッッ──

 

 

霊域に張られた圧縮結界の中に、レイムは囚われた。

 

 

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