もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第313話 「英雄の証」

レイムが無縁塚に存在する霊域内まで押しやられたとたん、紫とシュネックはその意識を幻想郷中の隅から隅まで行き渡らせる。そして一気に「博麗大結界」と「夢と現の境界」を霊域へ引き寄せて圧縮し、広大な幻想郷を覆っていた結界を僅か1キロメートル四方の正方形に整える。

結果、レイムは高密度高硬度の結界壁の中に閉じ込められた。レイムの放つ邪悪な気が結界のエネルギーとぶつかり合い、内部はすさまじい低温に覆われて大気が凍り付き、地面も分厚く凍り付いてゆく。

 

「見よ、もうあ奴はこの結界壁から逃れることはできない。地面を潜っても高く飛んでも、逃げる事能わず」

 

シュネックがそう言った。

 

「皆の者!!我らが故郷、愛しき幻想郷と別れる時が来たわ!怠惰の道を進ませた甘い幻想に、幕を引いてあげましょう!!」

 

紫の激励が響き渡り、戦いに参加している妖怪たちは最大の勝機に声を挙げる。

 

「紫…シュネックさん、本当によかったの…?」

 

シロナが恐る恐る紫たちにそう尋ねる。確かに、紫もシュネックもこの素晴らしい幻想郷に惚れ、愛し、今まで豊かな自然と古き良き景観を守り抜いてきた。

 

「何度も言わせるな、シロナ。我々は覚悟を決めておるのじゃ、その覚悟とは少しばかりの後悔や不安で砕け散るような安い物ではない」

 

「そうよ、どちらにせよ奴が存在すれば、いずれ地球すら滅んでしまう…そうなったら幻想郷どころじゃないでしょ?あなた達は、レイムを倒しきることにだけ集中しなさい」

 

「…うん、分かった!いくよ、スカー!」

 

「おう!」

 

 

 

一方、レイムは結界壁を破ろうと手あたり次第に攻撃を仕掛けていた。しかし、結界の壁はレイムの炎を打ち消し、接触するとバチバチと音を立てながら反発し、全く攻撃を受け付けない。

 

「チィィ、私を閉じ込めたか…!面白く無し、面白くないわ幻想郷の粕共…!力の強い者ほどこの結界から抜けるのは難しくなっているのね」

 

レイムは憎々しげにつぶやいた。

レイムの霊尾の一本からは、尚も分身である妖獣のハクレイたちが生まれ続けている。

 

「だがそれも意味のない事だ!私の僕たちは結界の隙間を抜け、すぐにお前たちを皆殺しにするのだからな」

 

結界壁の隙間から次々と飛び出していくハクレイたちはすぐに今までのように妖怪たちと戦闘を開始する。しかし、レイムは自分を攻撃しようとする妖怪たちの手をハクレイで煩わせようと考えていたが、妖怪たちは自分からハクレイと闘おうとしていることに気付く。まるで、”何か”の邪魔をさせないように…

 

「いくわよ!!」

 

そう、彼らはレイムのもとへ向かうシロナとスカーの邪魔をさせないためにハクレイの注意を引こうとしていたのだ。

 

「くくく…消えよ!!」

 

それに乗り、シロナたちと決着をつけるために全身の気を漲らせるレイム。

が、次の瞬間、その正面から飛んできた無数の光が直撃した。レイムは目をギョロリと動かしてそちらの方を見やる。シロナたちも何だと思い目を向けると、そこには懐かしい顔ぶれが並んでいた。

 

「ヴァンパイア王国より、一個連隊の軍勢が到着した!」

 

その中心で大声を上げるのは、ヴァンパイア王国の国王としてそこに残ったサンドラ・スカーレットであった。新たな王として、彼女は王国の吸血鬼たちを率いてこの戦いの場にやって来てくれた。

 

「久しぶりだなァ、お前ら!」

 

サンドラはシロナ達に一言だけそう言うと、妖力で作った緑色の巨大な斧を手にしてハクレイたちをなぎ倒しながらレイムへ向かっていく。吸血鬼たちも一斉に光線や衝撃波を放ち、レイムを集中的に狙っていく。

 

「ナメるなァ!!」

 

しかし、レイムは怒りの形相で特大の火炎を吐き出す。レイムの気によって極低温の環境が作られていたからこそ、この場へやって来れた吸血鬼たちが、突然の膨大な熱量を吐きつけられて身動きが取れなくなっている。

 

「く…!」

 

サンドラも苦しげな声を漏らす。だが、突然熱が和らいだ。

代わりに感じるのは、レイムの炎とはまったくちがう、包み込んでくれるような温かさだった。

 

「ウオオオオオオオ!」

 

そこに現れていたのは、全身が黄金の鱗に覆われたドラゴンだった。翼をはためかせて空を飛びながら、レイムの火炎にぶつけるようにして自分も黄金の炎を吐きつけている。

シロナは、それが魔法の森のさらに奥に存在した”竜の巣”という場所の主であったドラゴンだと思い出す。黄金のドラゴンは一通りレイムの炎を打ち消すと、シロナの方を一瞥して次はハクレイの集団へ襲い掛かっていく。

それだけでは終わらない。突然、頭上から巨大な黒い影が舞い降り、もう一度火炎を吐こうとしていたレイムに激突した。

 

「ぐ…!なんだ…!?」

 

レイムは下方へ突き飛ばされ、凍り付いた大地にぶつかって受け身をとる。

 

「おぎゃああああ!」

 

シロナはこの巨大な黒い姿に見覚えがあった。昔、守矢神社で出現し、宇宙へ消えていった羽黒蜻蛉という怪物だ。羽黒蜻蛉は4枚の翼を振動させるように羽ばたき、雄叫びを響かせると、再び空に舞い上がり、どこかへと飛び去っていった。

 

「シロナ、スカーよ」

 

とその時、また別の方からシロナ達の名前を呼ぶ声が。

 

「畜生界の『勁牙組』に…」

 

「『剛欲同盟』と…」

 

「そして『鬼傑組』も黙ってはいられませんのでね」

 

さらには、地底世界にて黒星の者にまつわる一件で知り合った驪駒早鬼と饕餮尤魔、そして事の発端となっていた吉弔八千慧と彼女たちが率いる動物霊たちがはるばるやってきてくれた。彼女らはレイムに向けて突撃し、次々と攻撃を放つ。

 

「おいおいオマエら、私の獲物を横取りすんじゃねぇよ!」

 

スカーが笑みを浮かべながら悪態をつく。

 

「でも、みんなが来てくれたんだ…」

 

戦闘が不得意でありながら秘蔵する強力な武器を持って参戦した森近霖之助。シロナの修行を見ていてくれた八雲藍。紅魔館に住むみんな。グリーンオパールから助けてあげた氷の妖精たち。彼岸花畑に囲まれた人形屋敷で暮らす日本人形たち。守矢神社の東風谷早苗。一緒にキヨヒロを追った二ッ岩マミゾウや姫海棠はたて。

シロナと縁のある者たちが、この場へ駆けつけて一緒に戦ってくれている!

 

「シロナ」

 

そんな最中、紫がシロナとスカーの元へ来て声をかけた。

 

「ここに来てようやくわかったの。シロナ、貴女がなぜ幻想郷を長らく離れなければならなかったか。スカー、貴女が何故この幻想郷に落ち、シロナと共に戦わねばいけなかったか。本物の霊夢がいなくなってから気付いた…時代とは、世代とは常に移り変わるもの。シロナは外の世界を巡っていろいろな物を見、スカーはこの幻想郷で様々なことを知った。あのレイムは前世代の忌まわしき象徴…それを倒すという事は、すなわち世代交代。()()が信じたシロナたち新しい世代はどこまでも行ける」

 

紫は以前、博麗の巫女となるべく修行をしていたころのシロナを見て、「霊夢がまだ生きていたら…」と常に考えていた。しかし、それは間違いだったと気付いた。

 

「つまりね、シロナ。貴女の旅は…無駄ではなかったということよ」

 

その紫の言葉を聞いたシロナは、思わず目頭が熱くなるのを感じた。

外の世界で人造人間を倒すための旅をしていた時、シロナは占いババの宮殿である疑問を抱えた事があった。「果たして自分のしていることは正しいのか」、と。その時は、今やるべきことを最後までやり遂げ、全てが終わった時に考えることにすると自分の中で決定付けた。

だが、紫に言われた一言で答えが導き出された。そう、自分のしてきたことは無駄ではなかった。今この瞬間、全てが実を結んだのだ。

 

 

 

 

──後戸の国にて。

 

「シロナちゃん…」

 

史奈は重ねたトレーを抱えながら、後戸の国の”窓”を通じて戦いの様子を見ていた。嬉しさを噛み締めたような表情のシロナを見て、やっとシロナは重責から解放されたのだと安心した。

 

「史奈、喜んでないで炊き出しのおにぎりよ!」

 

永琳や輝夜を初めとした永遠亭のメンバーは、後戸の国に残された人々の為に炊き出しを行っていた。永琳に呼ばれた史奈は返事をしてそこへ向かう。

 

「でも永琳、一緒に戦わなくていいの?」

 

炊いたご飯でおにぎりを作りながら、輝夜が永琳にそう言った。

 

「何言ってるの輝夜、ここには石病にかかってる間何も食べてなくて弱ってる人もたくさんいるのよ。そんな時に、医者が人助けしないでどうするの!」

 

「うふふふ、それもそうね。あの時、私たちを必死に守ろうとしてくれた霊夢やカカロットも…こんな気持ちだったのかしら」

 

輝夜は、かつて自分と永琳を月の都に攫おうとした月の客から、霊夢とカカロット達に守ってもらった時の事を思い出す。

その様子を見た史奈も、出来上がったおにぎりを人々に配って回る。

 

(シロナちゃん、みんな頑張ってるよ…私も頑張るからね)

 

 

 

 

…何故だ、この地に渦巻いていた恐怖が薄らいでいく!どこだ、どこで形勢がおかしくなった?絶対無敵の力ですべてを蹂躙し、支配するはずの私が、そこで戦いを読み間違えた!?

 

レイムは力の源としていた人間や妖怪たちの恐怖の感情を吸収できなくなり、その生命力は窮地に立たされていた。どんなに暴れてどんな強力な波動を吐き出そうとも、自分を雨霰のように襲う攻撃の手は止まない。そもそも、強大な戦闘力を誇るはずのレイムが、ドラゴンや羽黒蜻蛉、果てには駆け付けた妖怪たち程度にあしらわれている時点でおかしかったのだ。レイムの吐く火炎も、繰り出す霊尾の一撃もその威力は全盛に比べて消えかけた蝋燭のような弱々しいものしか出せず、その体には薄くヒビが走り、傷ついていた。

その時、レイムの目はある一点を捕らえる。

 

「アイツらか…!」

 

…私を作った男が一番最初に作った人造人間…私のオリジナルとなった博麗霊夢の娘。それらの発する波動が周囲を結び付け、私が有利の状況を覆した。

 

レイムにとっては、ここまで追い詰められるのは初めての経験だった。これまで、数多もの並行世界の幻想郷を滅ぼしながら力を付けてきたが、ここまでの勢いで抵抗され反撃を受けることは一度もなかった。どの世界の幻想郷も、自分の力で容易く蹂躙でき、思うがままにできた。だが、この幻想郷にはシロナとスカーがいたため、そう容易くはいかなかった。

 

「アイツらを完全に砕いてしまわなかったのが私の誤り…ならば…」

 

レイムは誰にも聞こえない小さな声でそう呟くと、下を向いてガクリとうなだれる。全身に走っていたヒビがさらに深くなり、ボロボロと崩れ始める。

 

「おお、見ろ!レイムが砕けるぞ!」

 

それを見た妖怪たちは勝利を確信する。

しかし、紫とシュネックたちだけは違和感をぬぐえなかった。

 

「これは…紫よ」

 

「ええ、なにかおかしいですわ…」

 

ボゴッ!!

 

…次の瞬間、レイムの体は内側から破裂し、大爆発を起こした。

 

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